西川和久の不定期コラム
Snapdragonを搭載した14型Windowsモバイル!「レノボIdeaPad 4G」
2021年5月12日 06:55
Lenovoは4月6日、Snapdragon 8cを搭載し、Arm版Windows 10 Homeを採用した14型モバイルノート「IdeaPad 4G」を発表した。編集部から実機が送られて来たので試用レポートをお届けしたい。
最大21時間駆動で14型フルHD、Snapdragon 8c、8GB、SSD 256GBのWindows 10ノート
Arm版Windows搭載機は、初代「Surface」、「Surface 2」などが記憶に新しい(どちらも所有していたが、Windows 8)。Windows 10になってからHPやレノボなどから若干出ているものの、代表的な機種だとMicrosoftの「Surface Pro X」程度となるだろうか。
余談になるが、この辺りを調べようと「Windows 10 arm」と言ったキーワードで検索すると、出てくるのはM1 Mac上でParallels Desktopを使い、Arm版Windows 10 Insider Previewを動かす話ばかり(笑)。筆者も試したが、アクティベートできないInsider Preview版なので、実際は仕事などに使うことはできない。
ただ現時点でx64を試せるのはこのバージョンのみ。そう言った意味では(どの程度動くのか)使ってみる価値はある。問題はArm版Windows 10を一般売りするのかだろう。事実上、対象はM1 Mac with Parallels Desktopだけなので(VMware FusionやVirtualBoxも出るかも知れないが)、マーケットサイズ的に(もしくは戦略的に)厳しいのではと思われる。
話を戻すと、レノボはこれまで「YOGA C630」という機種を出していて、13.3フルHD/Snapdragon 850/4GB/128GB/SIMロックフリーといったスペックだったが、今回ご紹介するIdeaPad 4Gは、シリーズこそ違うものの後継機的な存在となる。「Arm版Windows 10はどうなの!?」的な話は後述するとして、主な仕様は以下の通り。
Lenovo「IdeaPad 4G」の仕様 | |
---|---|
プロセッサ | Qualcomm Snapdragon 8c(8コア/最大2.45GHz) |
メモリ | 8GB/LPDDR4X 1866 |
ストレージ | NVMe SSD 256GB |
OS | Windows 10 Home(64bit/Arm版) |
ディスプレイ | 14型IPS式フルHD(1,920×1,080ドット)、非光沢、sRGB比100% |
グラフィックス | SoC内蔵Adreno 675、Type-C |
ネットワーク | IEEE 802.11ac対応、Bluetooth 5.1 |
インターフェイス | USB 3.0 Type-C(USB PD、DisplayPort対応)×2、USB 3.0、HD720p/IRカメラ、音声入出力、nanoSIMスロット |
対応バンド | 3G WCDMA:1,2,4,5,8 4G FDD-LTE:1,2,3,4,5,7,8,11,12,13,14,18,19,20,21,25,26,28,29,30,32,66,71 4G TDD-LTE:34,38,39,40,41,42,46,48 |
バッテリ/駆動時間 | 4セル/約21.0時間 |
サイズ/重量 | 約321.7×207×14.9mm(幅×奥行き×高さ)/約1.2kg |
価格 | 10万9,780円 |
SoCはQualcomm Snapdragon 8c。8コアで最大2.45GHz。2019年12月「Snapdragon Tech Summit 2019」で発表された(Snapdragon 865/765/765Gも発表)。従来、1,000ドル超えるArm版Windows 10搭載機ではプレミアムとしてSnapdragon 8cx、メインストリームにはSnapdragon 850を採用してきたが、後者と入れ替わる形となる。
詳細は「Qualcomm、Arm版Windows 10向けの廉価版Snapdragon 8c/7cを発表」をご覧いただきたいが、CPU:Kryo 490(Kryo 495)、GPU:Adreno 675(Adreno 680)、メモリバス幅: 4×16bit(8×16bit)といった特徴を持つ。カッコ内は8cxなのだが、結構差があるのがわかる。
メモリはLPDDR4X 1866 8GB。ストレージはNVMe SSD 256GB。OSは64bit/Arm版Windows 10 Home。Buildは2004。20H2が来ていたもののUpgradeせず、2004の範囲でWindows Updateを適用し評価した。
ディスプレイは14型IPS式のフルHD(1,920×1,080ドット)。非光沢でsRGB比100%。タッチには非対応。外部出力用にType-C(DisplayPort対応)を備えている。
ネットワークはIEEE 802.11ac、Bluetooth 5.1、nanoSIMスロット。対応バンドは表をご覧いただきたい。そのほかのインターフェイスは、USB 3.0 Type-C(USB PD、DisplayPort対応)×2、USB 3.0、HD720p/IRカメラ(Windows Hello対応)、音声入出力。
サイズ約321.7×207×14.9mm(幅×奥行き×高さ)、重量約1.2kg。4セルのバッテリを内蔵し、駆動時間は驚きの最大約21時間。Core i第11世代でも仕様上は長時間だったり(実際はそうでもない)、Arm版はバッテリ駆動時間が長いと言われているが、後半のベンチマークテストで検証してみたい。
価格は10万9,780円。価格comで調べると10万円を切るショップもあるようだ(税込で10万円を切ると、経理上消耗品扱いできる)。これまでSurface Pro Xなど結構高価なマシンは(若干)あったが、10万円程度で買えるArm版Windows 10搭載機は国内初。興味を持った方も多いのではないだろうか。
筐体はオールシルバーで質感も良く、なかなかカッコいい。重量は実測で1,245g。14型としては平均的なところだろうか。この程度ならカバンに入れて持ち歩いても苦にはならない。
前面は、パネル中央上にWebカメラ。フチは上下左右狭いが、その分、16:9(細長い)が目立つ格好となっている。パネルは180度傾けることが可能だ。左側面に電源LED、USB Type-C×2、音声入出力。右側面にUSB Type-A、電源ボタン、nanoSIMスロットを配置。裏は手前左右と後ろに一本バーのゴム足。気持ちキーボードが手前に傾くようになっている。
付属のACアダプタは、サイズ約94×40×30mm(幅×奥行き×高さ)、重量198g、出力5V/2A、9V/2A、15V/3A、20V/2.25A(45W)手持ちのPD/65Wのアダプタでも問題なく充電できた。
14型のディスプレイは非光沢で見やすく、発色、明るさ、コントラスト、視野角全て十分。パッと見で色域が広いのがわかる。sRGB 100%なので、色を気にする作業もとりあえず問題ない。とりあえずと書いたのは、キャリブレーション用のi1 Profilerが動かないからだ(正確にはi1 Display Pro用のドライバが動かず測定できない)。ドライバが絡むのでArm対応を待つしかないものの、流石にこれは望み薄だろう(おそらく類似品も同じ状態になる)。
キーボードはOFF+2段階のバックライトを搭載した日本語配列。キーピッチは実測で約19mm。右側[Enter]キー周辺が少し狭くなっているが、目くじらを立てるほどでもない。打鍵感はストレークが深めでクリック感もあり、個人的には好みのタイプだ。タッチパッドは物理的ボタンのない1枚プレート式。パームレストも含め十分面積が確保され扱いやすい。
ノイズや振動は試用した範囲で特に気にならなかった。発熱はベンチマークテストなど負荷をかけると、キーボード上のスペースが若干暖かくなる程度。まったく問題ない。
サウンドは、キーボード左右にスピーカーがあり、音が直接耳に届く。音質はこのクラスとしてはなかなか良い。パワーも十分。音楽や動画を見ても特に不満になることはないだろう。
Webカメラは720pなので荒めだ。十分明るい場所であれば発色も含めそれなりに映るが、暗めの場所だとかなりノイジーとなる(ブロックノイズが目立つ)。
nanoSIMは手持ちのOCN モバイル ONEで試したが、SIM挿入後、再起動など必要なく、APNを設定するだけで作動した。Wi-Fiがある時はWi-Fi側が優先されるため、接続しっぱなしでもパケットを消費することもなく、外出時、そのまま接続を維持しているため、かなり便利だ。スリープからの復帰も速い。加えて後述するがバッテリ駆動時間も長く、非常に快適なモバイルライフを実現する。
総じて14型ノートPCとしてはうまくまとまっており、特に欠点らしい欠点はない。加えてLTE搭載、長時間バッテリ駆動となれば、この価格帯でWindows 10のモバイル用途では無敵(言い過ぎか!?)な1台ではないだろうか。ただ最近パネルは16:10(もしくはこれ以上)が流行りつつあり、個人的には縦が少なくとも1,200ドットだったら購入していたかもしれないだけに、惜しい部分だ。
64bit(x64)エミュレーションの正式リリースに期待!
スタート画面は1画面。Lenovoグループが追加されている。デスクトップは壁紙の変更のみとシンプル。システムのパネルにはSnapdragon 8cと記載されているのがIntel/AMD系との違いだ。
使用感は、このパネルさえ見なければ、普通のWindows 10となんら変わらず。速度もCeleronやPentiumレベルではなく、Core i並の体感だ。爆速ではないものの特に遅いとは思わない。
ストレージはNVMe SSD 256GBの「SAMSUNG MZVLB256HBHQ」。仕様によるとシーケンシャルリード3,500MB/s、シーケンシャルライト2,200MB/s。32bit(x86)エミュレーションで動かしたCrystalDiskMarkは、特にリードが約3分の1になってしまい、オーバーヘッドがあるようだ。C:ドライブのみの1パーティションで約237GBが割り当てられ空き206GB。BitLockerで暗号化されている。
Wi-Fi、Bluetooth、LTEはすべてQualcomm製。ディスプレイアダプターがQualcomm Adreno 680 GPUになっているのがわかる。
主なプリインストールのソフトウェアは、「Lenovo Vantage」、「Lenovoユーザー・ガイド」、「Dolby Audio」などとあっさりしている。Lenovo Vantageは同社お馴染みのシステムツールなのだが、Intel/AMDとは違い、システムアップデート系の項目がなく、HomeとSmart Performanceとなる。
現在、Arm版のWindows 10は、64bit(x64)アプリは動かない。冒頭で触れたが、Insider Preview版のWindows 10では対応しているので、正式リリース待ちの状態だ。従って作動するアプリは、UWPも含むArm対応アプリ、32bit(x86)Win32アプリとなる。またUWPも全部がArmに対応しているわけでなくアプリ依存。バッテリベンチで使ったVLCは運良くArm対応だった。
大物でArm対応済みは、Microsoft 365のOutlook、Word、Excel、PowerPoint。Accessは未対応。永続バージョンに関しては32bit(x86)での使用となる。AdobeはLightroomが対応済み、Photoshopはベータ版だ。どちらもアカウントがある上で、実機へインストールする必要があり、またインストール台数制限もあるため、今回は試していない。
昨今試そうにもこの手のものが多く、評価しづらい状況にある。単にダウンロード、期間が切れたら終わり……的な評価版が欲しいろころだ。
秀丸などツール系の多くは32bit版があるので、おそらくそれほど困らないと思うが、Windowsの多くの資産を生かすには64bit(x64)正式リリースが待ち遠しい。32bitの秀丸やWinSCPを触った範囲では(速度も含め)普通に操作可能だった。開発系はDockerはダメだがWSLは作動するため何とかなるだろう。Visual Studio CodeはArm版もリリース済みだ。
ただしドライバが必要なものについてはx86/x64は動かない。例えばいつもパネル評価で使っているi1 Profilerがこれに相当する。アプリの表示自体は問題ないのだが、i1 Display Proのドライバが動かず結果測定できない。プリンタドライバもないとどうにもならないが、昨今、とりあえずPDFにして逃げる手もあるだろう。
さらに作動保証外として、他社製のIME、ウイルス対策、クラウドストレージなどがあげられる。つまり、純正のMS-IME、Defender、OneDriveの一択となる。これは結構痛いだろう。
いずれにしてもこれらの互換性が若干なのか多大なのかは用途によるだろう。筆者の場合はi1 Profilerが使えないので色系だけ困るが、ほかは特に問題ない。十分仕事に活用できる。
Wi-Fi経由フルHD動画再生で15時間駆動!
ベンチマークテストは、いつも使っているPCMark 10、PCMark 8、3DMarkはx86でも動くがArm本来の速度ではないため参考程度……と、インストール/起動はできたものの、PCMark 10と3DMarkは、Armには対応してないと[Run]ボタンが押せない状態(PCMark 10は普段とは違うテストのApplicationsを使うと動きそうだが、対応しているOfficeアプリが未インストールなので試用機ではテストできない)。PCMark 8は古いのが幸いしてArmを認識せず、x86で測定できた。
CINEBENCH R23はArm版なし。CrystalDiskMarkは32bit版があるので使用した。ただスコアがデバイスの仕様とは随分違うため(特にリード)、結構オーバーヘッドがあるのだろう。PCMark 8は先日ご紹介したドンキ7型よりは高いスコアだが、最新のCore iには程遠い。
Armネイティブに関しては簡易式になるが、Geekbench 5(DownloadではWindows/Intel Pentium 4 or laterとなっているが、セットアップ/実行するとAArch64となる)と、EdgeでGoogle Octane 2.0を実行した。
Geekbench 5はSingle-Core 633、Multi-Core 2,588。Google Octane 2.0は24,964。後者は対象がJavaScriptなのでシングルスレッドとなるが目安にはなるだろう。Xperia 1 II@Snapdragon 865 5Gのスコアを見るとほぼ同等と思われる。
M1 Mac miniとの比較は、Geekbench 5とGoogle Octane 2.0のスコアを見る限り、ザックリだが、3分の1程度となるだろうか。ここはSoCを発表した年が1年違うので仕方ないところ。
バッテリベンチマークは、PCMark 10が使えないため、スマホ同様、明るさ/音量50%、Wi-Fi経由でフルHD動画を全画面連続再生した。12時間半経過で残20%、15時間経過したところで電源が落ちた。テスト内容的に仕様上最大の21時間は無理だと思っていたが、それでも15時間はなかなか凄い。Arm版の強みと言ったところか。
Geekbench 5(AArch64) | |||
---|---|---|---|
IdeaPad 4G | Xperia 1 II@Snapdragon 865 5G | Mac mini@M1 | |
Single-Core | 633 | 723 | 1,755 |
Multi-Core | 2,588 | 1,876 | 7,676 |
Google Octane 2.0(Edge/Arm Native。他はChrome) | ||
---|---|---|
IdeaPad 4G | Xperia 1 II@Snapdragon 865 5G | Mac mini@M1 |
24,964 | 25,279 | 64,673 |
PCMark 8 v2.8.704(x86) | |
---|---|
Home Accelarated 3.0 | 1,854 |
Creative Accelarated 3.0 | 1,676 |
Work Accelarated 2.0 | 1,580 |
Storage | 4,536 |
CrystalDiskMark 6.0.0(x86) | |
Q32T1 シーケンシャルリード | 939.677 MB/s |
Q32T1 シーケンシャルライト | 1,984.864 MB/s |
4K Q8T8 ランダムリード | 409.111 MB/s |
4K Q8T8 ランダムライト | 198.512 MB/s |
4K Q32T1 ランダムリード | 34.224 MB/s |
4K Q32T1 ランダムライト | 67.026 MB/s |
4K Q1T1 ランダムリード | 15.923 MB/s |
4K Q1T1 ランダムライト | 20.420 MB/s |
以上のようにLenovo「IdeaPad 4G」は、14型フルHD、Snapdragon 8c、メモリ8GB、SSD 256GB、そしてArm版Windows 10を搭載したノートPCだ。LTE対応なのでどこでもサクッとネットに接続でき、バッテリ駆動時間も前評判通りなかなかのスタミナぶり。一般的な使い方なら、業務時間全て外で操作しても問題なさそうだ。
反面、動くアプリがUWPも含めArm版と、現時点では32bit/x86のみ。64bit/x64に関してはおそらく今年中に正式対応するだろう。OfficeやAodbeは有名どころは(足らないとは言え)Arm版が存在する。IME/ウイルス対策/クラウドストレージが純正縛りと言うのは痛いところだが、ここは使い方にもよると思われる。
価格が10万円前後と、LTE搭載でArm版Windows 10搭載機としては購入しやすいレンジなので、興味のある人に是非使って欲しい1台だ。