Hothotレビュー

16mmの薄さと性能を両立したモバイルワークステーション「デル Precision 5530 2-in-1」

デル「Precision 5530 2-in-1」

 モバイルワークステーションと言うと、少し前まではハイエンドゲーミングノート並の分厚く思いものが主流だった。現在でもフラグシップにいるのは、そうしたモバイルワークステーションたちだ。しかし、今回紹介するデル「Precision 5530 2-in-1」のように、ワークステーションでありながらUltrabookや2-in-1といった、モビリティの高い製品も登場しはじめている。

スリムでスタイリッシュなデザインがワークステーションのイメージを変える

 まず、Precision 5530 2-in-1はとても業務用ワークステーションに見えないスタイリッシュな製品だ。スリムになったからというだけでなく、細部までこだわりが感じられる。天板と底面は梨地処理のシルバーで、内側のキーボード面と液晶パネル面がブラックといった配色になる。

 サイド部分は外装のシルバーがラインを作り、ブラックの内部をサンドイッチするかたちだ。シルバーが鋭角のラインを描くため、シャープな印象を深めている。キーボード面はカーボン調だ。このように全体的にデザイン性が高く、ワークステーションにありがちな質実剛健、質素な外観ではなく、モバイルで見せつけるデザインという印象を受けた。

 本体サイズは本体サイズは354×235×9~16mm(幅×奥行き×高さ)。15.6型という液晶パネルのイメージからすると、ひとまわり小さな筐体だが、後述する狭額縁パネルを採用しているため、こうした小型化が可能になっている。

 重量は2kg。従来型のモバイルワークステーションでは3kg超も当たり前だったが、そこから比べるとかなり軽量だ。厳密に言えば、15.6型Ultrabookにはより軽量のモデルもあるが、差は200~300gほどだろうか。

天板・底面側のシルバーとパネル・キーボード側のブラックを使い分け、シャープなイメージの外観
キーボード面はカーボン調なほか、液晶パネル側も立体的な造形をしている
梨地のシルバーで華がありつつ落ち着いた印象。中央のDELLロゴは光沢のあるシルバーメッキ
中央ややヒンジ寄りに1列にスリットを設け、その上下のゴム脚でエアフローを確保している。下側のゴム脚の左右にはステレオスピーカー
本体重量は実測2kg弱

 筐体は液晶ディスプレイの15.6型に合わせたサイズだ。ただし、狭額縁を採用しているため、一般的な15.6型ノートPCと比べるといくぶんコンパクト。ディスプレイの解像度は1,920×1,080ドットのほか、3,840×2,160ドットパネルも用意されている。2in1ということでどちらも広視野角対応かつタッチ機能を備えている。

 2in1の変形機構はフリップタイプ。ヒンジ部で最大360度まで液晶パネルを回転させることができ、クラムシェルからテント、テントからタブレットへと変形する。

 Windows 10側が「タブレットモード」へと切り替わるタイミングは、液晶パネルを180度からもう少し開いたところだった。完全にフラットな状態ではまだキーボード操作を受けつける。また、テントおよびタブレット形状のキーボードにはロック機構がない。そのため、ホールドしたさいにキーボードにふれると多少の押下感がある。

 ただし、本製品のキーボードはストロークが浅く、そこまで大きな違和感はない。それよりも、15.6型タブレットという大きさは新鮮だ。8型Windowsタブレットのようにアイコンやボタンのサイズを調整しなくても、ある程度の操作ができてしまう。

 15.6型では、テンキー付きキーボードを採用するものも多いが、本製品は狭額縁パネルを採用していることもあってか、テンキーレスの日本語107キーボードを搭載している。キーピッチは19mmで、このクラスのノートPCとしては一般的なピッチを確保している。

 薄型のため、通常のキーボードよりも24%の薄型化を実現していると言い、ストロークも浅く感じた。底付き感や反発力はあるため、見た目の印象以上に感触はよいのだが、各個人の好みもあるため合う合わないが分かれそうだ。しっかりとした打鍵感を求める方には少し物足りないだろう。

液晶ディスプレイは、15.6型で解像度は1,920×1,080ドットまたは3,840×2,160ドット。評価機は1,920×1,080ドットだった。Windowsでサポートされるマルチタッチに加え、オプションのアクティブペンにも対応している
タブレットでは必須と言える広視野角パネル。IGZO4を採用しているとのこと
液晶パネルの下のスペースに2眼のカメラがある。赤外線カメラも搭載しており、Windows Hello対応だ
クラムシェルのほか、テント、タブレットへと変形する。とくに15.6型の大画面タブレットは、Windows 10の画面タッチがより小型のタブレットよりも格段に操作しやすい
キーボードはテンキーレスの107日本語配列。レイアウトはそこまでクセがない印象で、右寄りのキーが多少詰まっているくらいだ
キーピッチは19mm
キーストロークはかなり浅め

 インターフェイスは、左側面にThunderbolt 3×2(DC-IN、DisplayPort出力対応)、microSDカードリーダ、右側面にUSB 3.1 Type-C×2(DC-IN、DisplayPort出力対応)、オーディオ入出力。

 お気づきのとおりThunderbolt 3にせよUSB 3.1にせよType-Cしかないため、そのままではType-AのUSB機器をつなげない。そのため、USB Type-C→Type-A変換アダプタ1個付属している。そして業務用途では重要な有線LANについても、USB Type-C→Gigabit Ethernet変換アダプタが1個付属する。

 ACアダプタは130Wタイプ。いわゆるハイエンドゲーミングノートPCと同じくらいの定格出力だ。ただ、サイズそれほど大きくなく、iPhone 8 Plusよりひとまわり小さいくらいだ。電源端子はUSB Type-C。本体にはThunderbolt 3およびUSB 3.1 Type-Cが合わせて4ポートあるが、いずれのポートでも充電できていた。この点で、机の上のレイアウトに悩まずに済む。

左側面にはThunderbolt 3×2、microSDカードリーダ
右側面にはUSB 3.1 Type-C×2、オーディオ入出力
USB Type-C→USB Type-A、USB Type-C→Gigabit Ethernetの各変換アダプタとアクティブペン
USB Type-C対応の130W ACアダプタを用いる
サイズはiPhone 8 Plusより少し小さいくらい
ACアダプタの重量は444gだった
バッテリ容量は75Wh

Kaby Lake-Gを採用し、ワークステーション・グラフィックスを実現

 Precision 5530 2-in-1は、まずCPUに注目したい。搭載するのはRadeonを積んだCore iプロセッサのコードネーム「Kaby Lake-G」。CPU部分はKaby Lake世代の4コア8スレッド(Core i7時)、GPU部分はRadeon Pro WX Vega M GLで、CPUパッケージ内に収めるためにアレンジされたVegaベースのGPUだ。

 ディスクリートGPUを搭載するワークステーションと比べると、性能はその下のセグメントであることは確かだ。しかし、一般的なCPUの内蔵GPUでワークステーション用途が務まるかと言うとそれは難しい。Kaby Lake-Gなら、ディスクリートGPUよりも消費電力が少なくスリム化が可能になり、CPUの内蔵GPUと比べると1つ上の性能を実現できる。

 評価機はCore i5-8305G Processor with Radeon RX Vega M GL graphicsを採用しており、おおむね「Precision 5530 2-in-1 ベーシックモデル」に相当する。Core i5-8305Gは、4コア8スレッド対応のCPUで、定格クロックは2.8GHz、Turbo Boost時の最大クロックは3.8GHzである。

 製品名のとおりグラフィックス機能はRadeon RX Vega M GL graphics。1,280コアを搭載し、4GBのHBM2メモリを搭載している。これらを合わせてTDPを65Wに収めている。

 メモリはDDR4-2400で8GB。CPU-Z上ではデュアルチャネルと表示された。パフォーマンス向けの製品だけあり、シングルチャネルで性能を制限するようなことはしていないようだ。容量に関しては、カスタマイズで16GBまで増設できる。必要ならば注文時にカスタマイズしておくのがよいだろう。

 ストレージは256GBのNVMe SSD(評価機では東芝XG5 Series KXG5AZNV256G)が採用されていた。こちらの容量もカスタマイズが可能で、ベーシックモデルでは最大1TB、上位のプレミアムモデルでは2TBの選択肢が用意されている。

 評価機で転送速度を計測すると、シーケンシャルリードが2.827GB/s、同ライトが1.077GB/sと、ややリード重視だが比較的高速なモデルと言える。4KiB Q8T8は630~720MB/s、同Q32T1は270~300MB/s、同Q1T1はリードが42.6GB/s、ライトが98.59GB/sだった。この4KiBでの性能は、NVMeとしては平均的かもしれない。

4コア8スレッド対応で、定格2.8GHz、Turbo Boost時最大3.8GHzのCore i5-8305Gを搭載
GPU-Zから見たRadeon Pro WX Vega M GL。4GB HBM2のビデオメモリなどスペックが確認できる。なお、CPUコア側に統合されたIntel HD Graphics 630とのスイッチングも可能だ
ユーティリティも一般向けのRadeon SettingsではなくRadeon Pro and FirePro Settingsになっていた
評価機に搭載されていたのは東芝XG5 Series KXG5AZNV256G
CrystalDiskMarkの結果。シーケンシャルリードは3GB/sに迫る転送速度。全体的に見てややリード重視の印象だが、ライトに関してもレスポンス的には十分だ

 このほか、ワークステーションらしい点としてOSや業務向けオプションが挙げられる。OSがWindows 10なのはもちろんだが、搭載しているのはWindows 10 Pro 64bit版で、標準は日本語版、カスタマイズでは英語版も選択できる。

 業務向けオプションでは、まず「Dell データ プロテクション | 暗号化 セキュリティ SW」。暗号化を含めたデータを守るためのオプションで、情報漏えいリスク等に備えたものだ。

 また、サポート面では最長5年のオンサイト保守サービス、盗難にも対応する最長3年のアクシデンタル ダメージ サービス、バッテリ保証延長サービス、データ復旧サービスなどさまざまなオプションを組み合わせて選ぶことができる。

 いくつかの項目については、標準構成で含まれている。あとは必要に応じて追加、ライセンス期間やサポート期間などを延長していくかたちになる。

OSもWindows 10 Proが標準で選択されている

いわゆるCPU内蔵GPU機能は軽く凌駕するグラフィックス性能

 それではベンチマークテストの結果を紹介していこう。

 今回用いたベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark 10 vv1.1.1739」、「3DMark Professional Edition v2.7.6296」、Maxonの「CINEBENCH R15」。比較用として、Ryzen 7 PRO Mobile 2700U(内蔵GPUはRadeon Vega 10 Graphics)を搭載するレノボ Thinkpad A485と、Core i7-8565U(内蔵GPUはIntel UHD Graphics 620)を搭載するLG gram 17Z990-VA76Jのデータを添えている。

【表1】検証環境
デル Precision 5530 2-in-1 ベーシックモデルレノボ Thinkpad A485LG gram 17Z990-VA76J
CPUCore i5-8305G(4コア/8スレッド、2.8~3.8GHz)Ryzen 7 PRO Mobile 2700U(4コア/8スレッド、2.2~3.8GHz)Core i7-8565U(4コア8スレッド、1.8~4.6GHz)
チップセット
GPURadeon Pro WX Vega M GLRadeon Vega 10 GraphicsIntel UHD Graphics 620
メモリDDR4-2400 8GB(4GB×2)DDR4-2400 8GB(以下の結果はデュアルチャネル時のもの)DDR4-2400 SDRAM 8GB
ストレージ256GB NVMe SSD256GB NVMe SSD512GB SSD(SATA)
OSWindows 10 Pro 64bitWindows 10 Home 64bit

 CINEBENCH R15を見ると、ややシングルCPU時のスコアがCPUとしては低めだが、これはTurbo Boost時の最大クロックがやや低いためだ。マルチCPU時は4コア8スレッドのモバイルCPUとして見ればまずまずよい。TDPが大きめで、定格側がやや高めに設定されていることもあるのだろう。ワークステーション用途であれば、マルチスレッド対応アプリケーションの比率も高いと想定されるので、そこにマッチする。

 PCMark 10はかなりよい数値と言えるだろう。CINEBENCH R15で指摘しているように、マルチスレッド性能がまずまずよい点に加え、CPU内蔵GPUのなかではGPU性能が優れており「Digital Content Creation Scenario」や「Gaming Scenario」のスコアがとくに高めに出ていた。そしてNVMe対応SSDを採用している点で「Essentials Scenario」での「App Start-up Test」のスコアも高い。

 3DMarkのスコアは、これまでのどのモバイルCPU内蔵GPU機能よりも高いと言える。Intel CPU標準のGPU機能とは比べるまでもない。比較に用いたRyzen 7 PRO Mobile 2700Uに対しても、Cluoud Gate以上の負荷の高いテストで2倍以上のスコアを示している。いわゆるエントリーグレードの外部GPU並みの性能を示していると言えるだろう。

【表2】ベンチマーク結果その1
デル Precision 5530 2-in-1 ベーシックモデルレノボ Thinkpad A485LG gram 17Z990-VA76J
PCMark 10v1.1.1739
Extended Score4,7942,639
Essentials Scenario8,4505,9787,549
App Start-up Test11,2945,3789,208
Video Conferencing Test7,9846,8086,571
Web Browsing Tset6,6925,8507,111
Productivity Scenario7,3433,8056,348
Spreadsheets Test9,2075,0407,795
Writing Test5,8572,8745,171
Digital Content Creation Scenario4,5152,927
Photo Editing Test6,4754,0893,982
Rendering and Visualization Test5,4312,891
Video Editing Test2,6192,1233,522
Gaming Scenario5,0991,989
Fire Strike Graphics Test7,1462,636
Fire Strike Physics Test10,5548,737
Fire Strike Combined Test2,255852
3DMarkv2.7.6296v2.6.6174v2.8.6427
TimeSpy Extreme1,000413
TimeSpy Performance2,243907
NightRaid Performance19,2624,104
FireStrike Ultra1,640584
FireStrike Extreme3,0771,170
FireStrike Performance6,2532,367
SkyDiver Performance17,8187,8053,816
CloudGate Performance21,2149,8387,466
IceStorm Unlimited137,98270,415
IceStorm Extreme82,30556,852
IceStorm Performance83,60866,716
CINEBENCH R15
Rendering (Multiple CPU)676.62cb583.31cb557.00cb
Rendering (Single CPU)159.64cb117.36cb174.00cb

さて、モバイルワークステーションの本製品だが、実践的な3D性能については通常どおりゲームベンチマークで計測した。使用したのはカプコンの「MHFベンチマーク【大討伐】」、スクウェア・エニックスの「ドラゴンクエストX ベンチマークソフト」、「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」、Wargaming.netの「World of Tanks enCore」だ。

【表3】ベンチマーク結果その2
デル Precision 5530 2-in-1 ベーシックモデルレノボ Thinkpad A485LG gram 17Z990-VA76J
ドラゴンクエストX ベンチマークソフト
1,920×1,080ドット、最高品質17,109(すごく快適)7,339(とても快適)
1,920×1,080ドット、標準品質17,106(すごく快適)8,496(とても快適)
MHFベンチマーク【大討伐】
1,920×1,080ドット12,3554,536
1,280×720ドット22,0568,201
ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク
1,920×1,080ドット、最高品質5,723(とても快適)
1,920×1,080ドット、高品質(ノートPC)8,272(非常に快適)
1,920×1,080ドット、標準品質(ノートPC)10,543(非常に快適)4,110(快適)1,293(設定変更が必要)
World of Tanks enCore
超高品質(1,920×1,080ドット、TSSAA HQ)7,647
中品質(1,920×1,080ドット、AAなし)22,222
最低品質(1,366×768ドット、AAなし)53,231

 MHFベンチマーク【大討伐】はこれらのテスト中でも軽量なため、多少スコアがインフレ傾向にある。性能を見るにはあまり参考にならないが、フレームレートは十分すぎる印象だ。

 また、ドラゴンクエストX ベンチマークソフトも同様で、こちらは画質設定を変更してもほぼ同じスコアだった。World of Tanks enCoreはしっかりスコア差が出ており、超高品質で「良好な結果」、より軽い画質設定では「素晴らしい結果」という評価が得られた。

 若干負荷の高いファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマークでは、1,920×1,080ドット、標準品質(ノートPC)では「非常に快適」評価が得られ73.525fpsを記録した。60fps以上という点では、1つ画質が上の高品質(ノートPC)も同様。

 さらに、本来ビデオカードを搭載したデスクトップPC用の最高品質で計測しても5,723ポイントで「とても快適」評価、38.676fpsだった。グラフには示さないが、FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークについても、1,280×720ドット、軽量品質であれば6,438ポイントで「快適」評価を得ている。外部ビデオカードを搭載しないでこれらのゲームが楽しめるというのはなかなかのものだ。

個人で手を出せるものではないが、ビジネスでは大きな可能性を秘める1台

 Precision 5530 2-in-1 ベーシックモデルは、Radeon Pro WX Vega M GLを内蔵したCore i5-8305Gを搭載することで、高いグラフィックス性能を得て、同時にスリムさを手にして真のモバイルワークステーションを実現している。

 もちろん、ワークステーションとなると、超強力なGPUを搭載し生産性を高める方向にあるため、本製品がカバーできるのは開発がメインと言うよりは、客先におけるCADデータのプレゼンテーションといった用途であると思われる。

 それでも、従来のモバイルワークステーションのような巨大で重い大型ラップトップから開放されることで、電車による移動も現実的となり、その機動性が新たな契約を生むことにつながるだろう。2in1としてスタイルの切り換えができ、カフェテーブルのようなせまいスペースでのプレゼンテーションもスムーズに行なえる。

 サポートが充実している点はワークステーションならではだ。ただし、その分は価格にも含まれる。標準構成であってもかなり高価なので、個人が手を出すのは難しいだろう。ベーシックモデルで668,200円、Core i7-8706Gや4Kパネルを搭載するプレミアムモデルでは830,500円。カスタマイズしていけば軽く100万円を超える製品だ。

 執筆時の3月下旬はちょうどキャンペーンが開催されており、ベーシックモデルで308,980円という破格の割り引きが行なわれていたが、それでも一般的なビジネスモバイルノートと比べて高価だ。ビジネス向けであり、やはりワークステーションなのである。

 ビジネスワークステーションと捉えれば、1台導入することで業務スタイルまで変わる可能性を秘めた製品として、この価格も十分に検討に値するだろう。