大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

大田社長に聞く、今のVAIOと未来のVAIO

~噂される東芝や富士通とのPC事業再編の動きにも言及

VAIO Phone Bizを手に持つ、VAIO株式会社 代表取締役社長の大田義実氏

 VAIOが、Windows 10 Mobile搭載の「VAIO Phone Biz」を発表した。同社では、スマートフォンという製品カテゴリであることは否定しないが、むしろPCの延長線上の製品であるとの位置付けを強調してみせる。一方、VAIO Zもこのほど進化を遂げ、新たなクラムシェル型の製品を投入。無刻印キーボードは早くも品切れになるという人気ぶりだ。VAIOが、自らの道を着実に切り開きつつあるのが分かる。

 社長就任から既に半年以上を経過した大田義実社長の手腕もこれから注目されることになろう。だが、そうした中で、噂されるPC事業の再編の動きも気になるところだ。VAIOの大田社長に、VAIOの今と未来を聞いた。

――大田社長がVAIOの社長就任したのが2015年6月。既に半年間以上を経過したわけですが、この間、VAIOのどこが変わりましたか。

大田氏(以下、敬称略) 私はこれまでに2社の経営再建に社長として携わり、VAIOが3社目になります。これまでの私の経験を元に、企業を再生させる経営の基本を語るとすれば、それは非常にシンプルなものになります。良いところを見つけ、そこに投資を行ない、それを伸ばす。そして、悪いところを探して、それを変えていく。これらの作業を、スピード感をもって迅速に遂行することです。

 VAIOの場合、まずは社員の不安を払拭する必要がありました。VAIOが中軸に据えているPC事業は、これから成長する領域ではありません。PCだけで成長戦略を描くのには無理があります。では、今後の成長戦略は何か。それは、ロボティクスを始めとする新規事業ということになります。私は、社長に就任してから、これを明確に打ち出しました。成長が描けないと社員に元気が出ない。既存PC事業は現状を維持する一方で、成長エンジンを新規事業に置き、全社として成長する姿を描いたわけです。

東京都品川区にあるVAIO株式会社の東京オフィス

――では、この半年間で浮き彫りになった、VAIOの悪いところはどこですか。

大田 VAIOの悪いところは何か。それは、250人の社員数であるにも関わらず、大企業という意識が強く残っていたという点です。誰1人として、数値責任を持たない企業体質であり、誰にも損益管理の意識がなかった。それは自ら営業体制を持っていない企業でしたから当然のことです。金型の製造にどれぐらいの費用がかかるのか、物流コストはどれぐらいかかるのか、販売促進費用にいくらかかるのか、不具合が発生した際に、修理をするためのコストにどれぐらいかかるのかといったことがまったく分からない。モノづくりを、事業として捉える意識が低かったのです。1つの製品を投入するのに、最低でも、トータルで数億円規模の費用がかかるが、利益としてちゃんと回収できているのか。私は、そこまで見せるようにしました。

 今、1カ月に2回、朝礼をしていますが、その中で全てを透明にして、損益がどうなっているのか、日々の販売台数はどうなっているのか、というところまで開示しています。儲かっていない製品は色分けしていますから明白です(笑)。ただ、こうした活動を続けてきた結果、社員の意識は明確に変わりましたね。数値責任を意識するようになってきた。朝礼でも数多くの質問が出るようになりましたし、儲かっていない製品があれば、技術者が直接営業活動を始めるといったこともあります。

 そして、技術者が営業現場に出ることで、自分たちが作った製品が独善的なものではなかったのか、あるいは本当にユーザーの声を汲み取って作った製品になっているのか、ということも積極的に検証し始めています。独善的な製品ではなかったかということをもう一度検証することは大切です。しかし、VAIOらしいといわれるモノづくりは守りたい。これは絶対に守る。ここがVAIOの経営の難しいところで(笑)、VAIOらしさと、事業性をしっかりと両立させなくてはいけません。

 VAIOは、資本金10億円の会社です。その規模では、量販店全店舗にPCを取り扱ってもらうことはできませんし、海外に積極的に出て行くこともできない。10億円の規模で舵取りをし、リスク管理も行なっていく必要があります。つまり、数字を追うビジネスはできないということなんです。ソニー時代の反省は、数を追ってしまったところにあります。数は追わず、効率性を追求し、品質の高い製品を投入するのが、VAIOの基本姿勢です。

――良いところを伸ばすという点では何がありますか。

大田 VAIOが持っている技術ですね。放熱設計や高密度設計、実装技術などのPC事業で培ってきた数々の技術を持っていることは強みです。これらは、業界トップの技術であると自負しています。そして、かつてのAIBOの生産で培ってきたロボティクス技術も、VAIOが持つ強みの1つです。二足歩行するロボットの量産技術を持っている日本の企業はVAIOしかありません。ここを伸ばしたい。PCにしても、ロボティクスにしても、VAIOには、非常に優秀な社員がいます。そして、ソニーから譲り受けた素晴らしい生産設備もある。例えば、実装工程ラインの設備や電波暗室は、資本金10億円の会社が持てるようなものではありません。電波暗室は他社が借りにくるほどですよ(笑)。

 何が課題なのか、何を伸ばすのかというのは、この半年間で明確になり、既に9割のものに対しては、何かしらの手を打っています。ただ、私の感覚では、もう少し速く手を打ちたかったと思う部分もありますよ。相手との交渉によって話を進めなくてはならないといった、外部も影響もありますからね。しかし、攻めていく体制をつくるという部分では、かなりの進捗があったと考えています。

――この半年間の変化の原動力になったものはなんですか。

大田 最大の要因は、社員自らが、変化を待っていたことではないでしょうか。社長に就任した時には、「あんまり急激な変化を課すと、社員が辞めちゃいますよ」と脅かされていましたが(笑)、社員といろいろと話をしながら実行をしていくと、むしろ社員が変化を待っていたことを実感できました。そして、変化に対する実行力が高い。例えば、固定費を下げるための努力をしているわけですが、社員の実行力には目を見張るものがあります。ソニーの社員は優秀だということを私自身、強く実感しています。

――この半年間の改革に対する自己評価は合格点と言えますか。

大田 いや合格点というのはないですね。経営者には、合格点はないんじゃないですか。ただ、最低限のところまではやったという感じはあります。

――PC事業に対する基本姿勢を改めて聞かせてください。

大田 VAIOらしさを追求することはこれまでと同じですが、やはり事業性ということを意識した事業展開はこれからさらに重視したいと考えています。では、数を追わないという中で、どうやって事業性を追求するのか。ここでは、高い付加価値に絞り込んだモノづくり、あるいは、市場ターゲットを絞ったモノづくりが重要であると考えています。法人ユーザーの中でも、ヘビーユーザーと言われる人たちや、VAIOファンを対象にしたモノづくりをしていきたいですね。これによって、事業性(=収益性)を高めたいと考えています。シェアを追うことは考えていません。

――VAIOが事業を開始した直後に、一度、年間30万台の出荷規模を目指すことを示した時期がありました。これが損益分岐の目安ですか。

大田 かつてはそうだったかもしれません。しかし、その後、VAIOの効率化はかなり進んでいます。モノづくりのやり方もかなり変わりました。今は、そこから遙かに低い出荷台数でも利益が出せるようになっています。ただ、その事業規模や、出荷目標といったものは対外的に発表する予定はありません。

――VAIOのPC事業の成長を、外から推し量ることができる指標はありますか。

大田 シェアは成長を示す指標にはならないと考えています。ただ、今回投入した新たなVAIO Zや、LTEを搭載したVAIO S11など、プラスαの要素に対して、「おっ」と感じていただけるものを出し続けることができれば、それが、VAIOのPC事業が成長し、進化していることの証になるのではないでしょうか。逆に、VAIOファンの方々に、「これでは、ほかのPCと変わらないじゃないか」と言われるようであれば、VAIOの成長が止まっているということになると思います。VAIO Z Canvasも、一番上の仕様が人気となっており、もっともスペックが低いものが一番売れません。これもVAIOが提案する価値が受け入れられていることの証だと言えるかもしれませんね。

VAIO S11

――今回、VAIO Zに、クラムシェル型の製品を追加しました。この手応えはどうですか。

大田 実は、ユーザーの間から、ぜひクラムシェル型を出して欲しいという要望もあり、今回の製品化に至っています。我々自身も、出荷台数の6割がクラムシェル型になるのではと予想していたのですが、実際に、初速の動きを見てみると、逆に、6割を既存のフリップ型が占めています。ただ、これは時間を経過するごとに変化する可能性もあります。裏を返せば、2in1のPCに対する人気が定着しているとも言えるのではないでしょうか。

クラムシェル型のVAIO Z

――今回のVAIO Zでは、無刻印キーボードも用意しましたね。

大田 これもVAIOらしい、こだわりの1つと言えるかもしれませんね(笑)。実は、2月16日から受注を開始したのですが、18日時点で売り切れとなりました。無刻印なので、刻印をしていないキーボードをそのまま埋め込めば、追加生産が可能ではないかとも言われますが、実はキーボード表面にフッ素加工を施すなど、特別な仕上げが必要であり、その加工を行なった後に、文字を刻印するということはできません。数を追わないことが前提ですから(笑)、あまり量を作ってしまうと在庫ができてしまい、経営に対して、マイナスに働きかねません。最初ということもあり、その辺りの数量設定はかなり慎重に行ないました。今回の製品については、無刻印キーボードは完売として、追加販売を行なわない予定です。次のモデルで対応していくことになりますね。

VAIO Zでは無刻印キーボードモデルを用意したが、すぐに完売した

――今後のPC事業の方向性について教えてください。

大田 やはり、VAIOらしさと事業性の両立が最大の課題です。そして、何かプラスαがあるPCを投入し続けていきたいですね。PCの製品ラインナップについても、ハイエンドのZシリーズと、法人向けスタンダード製品のSシリーズが基本となりますが、もう1つ新たにエントリー領域の製品投入も予定しています。ただ、これも「エントリー」とは言いながも、決して量を追う製品ではないこと、VAIOらしいスパイスが利いた製品であることには間違いありません。ぜひ、ご期待していてください。

――PC事業については、南米および北米市場向けに海外展開も開始していますね。今後、海外事業はどう考えていますか。

大田 企業規模の問題もありますから、積極的に海外展開をしていくというのは難しいのですが、北米で展開しているように、自分でビジネスをしながらも、在庫はディストリビュータの責任の元で販売するビジネススタイルと、ブラジルで展開しているように、地元PCメーカーが、VAIOが企画、開発した製品を、自社ブランドで展開していく方法とがあります。北米では、昨年(2015年)11月から、VAIO Zに限定して、Microsoft StoreやECサイトを通じた販売を行なっていますが、今後、取り扱いラインナップを増やす予定です。

 ただ、ここでも在庫コントロールに注視しながら、ゆっくりと拡大をさせていくつもりです。量販店に展示を広げるといったようなことはしません。ブラジルに関しては、地元PCメーカーであるポジティーボ・インフォマティカとの連携によって展開していますが、ブラジル市場の景気低迷の影響もあって、それほど伸びてはいません。こちらも、焦らずにじっくりと取り組んでいくつもりですが、今後は、アルゼンチンにも展開していくことになりそうです。

米ニューヨークのマイクロソフトストアで展示されていたVAIO Z Canvas

――欧州、アジア、中国への展開はどう考えていますか。

大田 欧州、アジア、中近東への展開は視野に入れており、既に作業を開始しています。2016年度には、具体的な動きに繋げることができると考えています。2015年度は、米国、ブラジルでの実績が出てきますから、この成果を元に、今後、どう展開していくのかを考えていきたいですね。中国市場については、今のところ進出する予定はありません。5、6年先を見据えた長期的視点で捉えれば、海外ビジネス比率を50%にしていきたいですね。そのためには、日本におけるPC、スマートフォン、そして新規ビジネスが順調に成長し、体力が付き、それによって海外事業を加速できる体制を整えることが先決です。慌てて事業を拡大する予定はありません。

――スマートフォンは海外展開する予定はありますか。

大田 それは今のところは考えていません。

――いよいよVAIO Phone Bizが発表されました。これはVAIOにとって、どんな意味を持った製品ですか。

大田 昨年、投入したVAIO Phoneとは異なり、PCの技術を活用し、20年間蓄積してきたWindowsのノウハウを活用。全ての設計、開発を、VAIOが行なったスマートフォンです。VAIOがゼロから作った最初のスマートフォンということになります。

VAIO Phone Biz

 ただ、スマートフォンではあるのですが、これは、PCの延長線上の製品だと捉えています。これまで、VAIOが発売してきたPCは、椅子に座って、操作することが基本でしたが、VAIO Phone Bizは、Windows 10 Mobileを搭載し、Continuumの機能を前面に打ち出し、持ち歩くPCという世界を確立するものになります。事業としては、PC事業の1つだという捉え方をしています。VAIO Phone Bizは、新たなPCのカタチを提案するものになると考えているからです。

――スマートフォンとは言って欲しくないと。

大田 いや、皆さんにはスマートフォンと言ってもらっていいんです(笑)。スマートフォンであることには変わりはありませんから。ただ、社内に対しては、新たなPCの姿を作って欲しいという要望を出し、それがVAIO Phone Bizというカタチに集約したということなんです。市場全体では、既存のPC領域の成長は難しいと言われる中で、こうした新たなカタチのPCが成長製品として加わることで、PC事業全体が成長していくという姿を描いています。

 ここでは、PCと言っても、「パーソナルコンピュータ」ではなく、「パーソナルコンピューティング」という言い方が合っているかもしれませんね。ただ、当社の場合、既存PCだけでも前年比2倍の成長を遂げていますよ。

――VAIO Phoneでの失敗がありましたから、社内には危機感が強かったのではないですか。

大田 社員は、VAIO PhoneとVAIO Phone Bizはまったく別の違うものだという認識をもって開発に取り組んでいましたから、変な危機感のようなものはなかったと言えます。繰り返しになりますが、VAIOがゼロから作った最初のスマートフォンがVAIO Phone Biz。VAIOがゼロからスマートフォンを作ると、こういうものができ上がるということを示せたと思っています。

――残念ながら、VAIO Phoneに対するイメージは決して良いとは言えません。ブランドを踏襲しない方がよかったのではないですか。マイナスのイメージが先行する気がするのですが。

大田 それはあまり感じていませんね。やはり、VAIOが作ったスマートフォンですから、VAIO Phoneという名称が一番分かりやすい。たぶん、違うブランドを付けたとしても、通称でVAIO Phoneと呼ばれてしまう可能性も高いですよね。それならば、自らが、VAIO Phoneと名乗り、過去のものを上書きしていくことで、ユーザーが「VAIO Phone」と検索した時にも、上位には、過去のものではなく、最新のVAIO Phoneの情報が表示されることが大切だと感じました。むしろ、ほかの名前を考えたことはありませんでした。VAIOが作るPhoneですから、「VAIO Phone」というのは当然の製品名です。

――VAIO Phone Bizが市場に与える影響はどう考えていますか。

大田 多くの企業では、Windows搭載PCを活用しており、Windowsならではの親和性に注目が集まっているのも事実です。ここはAndroidやiOSとは違う市場であり、これまでとは異なる新たな市場を創出できると考えています。Windowsを搭載したスマートフォン市場の規模はまだ小さいですから、短期的には量的な拡大を促すものにはならないと考えています。しかし、中長期的には成長が期待できる市場です。

――現在、国内ではWindows 10 Mobileを搭載したスマートフォンが9社から発表されています。その中で、VAIO Phone Bizは、どんな位置付けの製品になりますか。

大田 VAIOという会社は、Windows搭載PCを20年以上やってきた経験があります。しかも、品質面でも高い信頼性を持つVAIOというブランドがある。しっかりとしたものを出す企業が、Windows 10 Mobileの機能を最大限に活用した製品をゼロからつくり上げ、市場に投入したのが今回のVAIO Phone Bizです。

 加えて、今回の製品化に当たっては、NTTドコモとがっちりと手を組んで開発を進めてきましたし、だからこそ、キャリアアグリゲーションを含めて、ここまでの機能を搭載できたとも言えます。今後も、NTTドコモの法人営業部門との連携を進めていきます。

 製品発表以降、非常に良い手応えを得ています。いや、想定以上の相当な引き合いになっていますね。こんなに評判が良いとは思っていなかったのが正直なところです。特に大手企業からの引き合いが予想以上に多いことに驚いています。金融系ユーザーからの引き合いも出ていますね。当社のPC営業部門には、VAIO Phone Bizを持たせているのですが、PCの商談だったはずが、VAIO Phone Bizの話に終始してしまうこともありますよ(笑)。

VAIO Phone Bizはアルミを徹底して削りだして高い質感を実現している。10分の1以下の重量になるまで削り出す

 やはり、多くの企業がWindows搭載スマートフォンの投入を待っていたのではないでしょうか。そして、NTTドコモが信用補完をしていただいている点は、当社の法人向けビジネスにとっては大きなプラス要素になっています。3月末から徐々に出荷を開始しますが、5月ぐらいまでは品薄が続きそうな感じです。

 基本は法人市場を対象にしていきますが、VAIOファンである個人ユーザーの方々には、ぜひ使っていただきたいですから、3月末からは予約も開始する予定です。ソーシャルメディアなどでは個人向けに展開して欲しいという声も数多くいただいています。今回の製品が成功すれば、その次、そしてさらにその次という形で展開していくことになります。

――VAIO Phone Bizの成功はどこで判断しますか。

大田 VAIO Phone Bizも数を追わないという姿勢は変わりません。ただ、社内的には当然目標値がありますから、それを達成することにはこだわっていきます。一番うれしいのは「これも良かったけど、次も期待しているよ」と言われることですね。経営としては、継続していくことが大切です。このビジネスを継続することを重視します。

――大田社長も3月からは、VAIO Phone Bizを携行することになりますか。

大田 今、VAIOの役員は全員、iPhoneを使っていますが、3月以降は、私を含めて、全員がVAIO Phone Bizを持つ予定です。

――ロボットを中心とした新規事業の成長戦略はどう描いていますか。

大田 ロボティクスは、基板実装技術を始めとするVAIOが持つ技術の集大成とも言えるものであり、他社にはないものです。二足歩行ロボットの量産技術を持つ国内唯一の企業であるということも、他社から注目を集めている理由も1つです。

 また、ベンチャー企業やスタートアップ企業からの問い合わせも多いですね。アイデアはあるのだが、どう設計したらいいのか、どう製造したらいいのかかが分からないという企業が多い。ロボットを量産するための設計手法ノウハウは、ほとんどの企業が持っていません。VAIOでは、設計前のコンサルティングを含め、量産に至るまで、企業のロボティクス事業をサポートできる体制を整えており、それをビジネス化していくことになります。

――新規事業の組織体制はどうなっていますか。

大田 VAIOの組織体制は、PC事業と新規事業に二分され、PC事業には技術営業部門があります。これに対して、新規事業の営業をやっているのは私ともう1人だけです。ただ、現時点では、営業をしなくても数多くのご提案をいただいていますので、大変ありがたく思っています。NDAベースの商談が多いので詳細をお話することはできませんが、中には大型案件もあり、予想以上に早く事業が成長する可能性があります。VAIOでは、既存PC事業でベースを作り、成長と利益貢献は新規事業が担うという事業計画を打ち出していますが、既に、この仕組みが確立し始めています。

 この約半年間で、さまざまなことをやってきましたが、そのうちのいくつかが確実に成果に繋がってきたと言えるのではないでしょうか。

――ところで、PC業界が再編の中にあります。VAIOもその再編対象の1社として取り上げられていますが。

大田 私が社員に言っていることは、「勝負に勝て」ということなんです。統合があろうが、なかろうが、自分たちが勝てなくては生きていけないという状況は変わらない。社員は、それを分かってくれている。再編の動きが取りざたされる中でも、モノづくりに真摯に取り組んでくれています。また、PCの技術者の場合は、1つの得意分野があるのですが、2つの得意分野をつくり、それらの視点から見て欲しいと言っています。技術者は、そうしたことにも取り組んでくれています。

――仮に東芝、富士通、VAIOが統合した時に、VAIOにとってどんなメリットがありますか。

大田 これはあくまでも仮定の話ですが、VAIOにとってのメリットは、部材調達面にあると考えられます。ボリュームメリットを背景にした調達コストの削減が期待できそうです。

 また、3社の統合によって、事業規模が大きくなりますから、VAIOにとっては、これまで以上に事業拡大のスピードを速めることができる可能性もあるでしょう。もちろん、現在のように、小さい企業だからこそ、意思決定が速く、小回りが利くというメリットもありますが、今の事業規模では、なかなか大きなことができないというジレンマもあります。米国市場に1万台の在庫を持つことなんて、とてもできません。

 しかし、東芝や富士通の販路を活用すれば、米国での販売拡大がしやすくなるという可能性も出てくるでしょう。繰り返しになりますが、これは、何も決まったものはなく、VAIOというよりも、VAIOの最大株主である日本産業パートナーズの話だということもできます。再編の憶測については、社内に対して、「どちらにしても、VAIOは、自律したビジネスをやっていく必要がある」ということを徹底しています。

(大河原 克行)