大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

“3Dパソコン”を本気で投入するNEC



VALUESTAR N VN790/BS

 NECが、6月下旬から3Dパソコン「VALUESTAR N VN790/BS」を発売する。

 「3Dを活用してパソコンでどんなことができるか。それを最初に具現化した製品」と、NECパーソナルプロダクツのPC事業本部商品企画開発本部長代理の渡邉敏博氏は語る。NECはどんな狙いから3Dパソコンを投入したのか、そして、この製品をどう位置づけているのか。「販売店からは、すでに計画の2倍以上の受注がある」と好調な出足をみせるNECの3Dパソコンへの取り組みを聞いた。


--なぜNECは、3Dパソコンを商品化したのですか。

NECパーソナルプロダクツ PC事業本部商品企画開発本部長代理 渡邉敏博氏

渡邉氏 それは、「3D元年」という言葉に集約されるでしょう。3Dで先行しているテレビメーカーは、「3Dテレビ元年」という言い方をしていますが、NECは、これを「3D元年」と言い換えています。もはや、3Dは、映画やテレビだけのものではなく、携帯電話やデジタルカメラ、ゲーム機、そして近い将来にはカーナビゲーションなどにも応用されるようになるでしょう。PCもその中の1つです。ですから、我々からのメッセージは、まさに「3D元年」。テレビの3D化に遅れることなく、PCでも3Dの提案をしたかった。その中で、PCとして3Dによって、何ができるのかという回答が、今回の製品ということになります。PCも、3Dになるとこんなに楽しいということを提案できるものに仕上がったと考えています。

--NECの立場であれば、「3Dパソコン元年」という言い方もできますね。

渡邉氏 あえてそれを言わなかったのは、PCによる3Dの楽しみ方には、まだまだ広がりがあると考えているからです。3Dテレビは、テレビ放送を見たり、Blu-ray Discで提供されるコンテンツを楽しむといったことが中心になりますが、PCでは、デジカメの3D画像や、YouTubeで提供される3D映像をはじめとしたインターネットの世界での利用が想定される。これからは多くの人が、3Dで映像を公開しはじめるでしょうから、それを楽しむことができる。このように、PCでの利用環境を考えると、3Dパソコン元年というよりも、3D元年という捉え方をして、広く3Dを楽しんでもらえるツールにはPCが最適だという提案にもつなげていきたいと考えているのです。

 今、テレビメーカーが発売、あるいは発売を計画している3Dテレビは、画面サイズが大きくリビング向けのものです。それに対して、当社の3Dパソコンは、画面サイズが20型ワイドであり、個室におけるものになる。個人が楽しむには最適な3D環境を実現する唯一の製品ともいえます。また、Blu-ray Discドライブが付属しており、オールインワンで3D環境を提供できるという強みもある。3Dテレビの場合には、別途、Blu-ray Discレコーダを購入してなくてはならないですから、その点でも3Dパソコンは、手軽に3D環境が整えられるといえます。PCは、個室の3D化を促進するものとなるでしょう。

--3Dテレビで主流となっているフレームシーケンシャル方式を採用せず、偏光板方式を採用したのはなぜですか。

渡邉氏 コスト面を考えると、3Dグラスにアクティブシャッターを用いるフレームシーケンシャル方式はどうしても高価にならざるを得ない。3Dを手軽に楽しんでもらいたいという点で、偏光板方式が最適であると考えました。また、企画段階において、YouTubeの3D映像がフレームシーケンシャル方式に対応していないということも、偏光板方式とした理由の1つです。PCとしてなにができるのか、PCで楽しむコンテンツはなにか、ということを前提にしたときには、今の段階では偏光板方式が最適と判断したのです。

--結果として、今回の製品では、3Dテレビ放送への対応ができていないということになりますが。

渡邉氏 もちろん3Dテレビ放送の視聴は、3Dパソコンにとって重要な要素の1つだと捉えています。ですが、すべての放送波が3Dではなく、一部の有料放送での放映に限られていることや、方式が決まり切ってないことといった理由などから、今回は見送ることになりました。ただし、これは将来に渡って、フレームシーケンシャル方式を採用しないというのではなく、動向をみながら検討していくことになります。

--一方でカメラ機能を利用して、撮影するといった機能を搭載することは考えませんでしたか。

渡邉氏 NECは日本のユーザーの使い方を前提に商品企画を行ないます。これまでの経験からも日本のユーザーは、PCに付属したカメラはあまり利用しないという傾向があります。そのため、今回の製品でも、3D撮影用のカメラを搭載するということは考えませんでした。カメラの部分は、すでに富士フイルムさんが、3Dデジカメ「FinePix REAL 3D」を発売していますから、そうしたサードパーティとの連携によって展開していくつもりです。

--改めて聞きますが、NECのPC事業においては、3Dパソコンをどう位置づけていますか。

渡邉氏 NECの本気ぶりは、VALUESTAR Nシリーズという主力製品に、3D機能を最初に搭載したということで判断していただけると思います。VALUESTAR Nが持つ使い勝手の良さ、オールインワンの手軽さ、デスクトップならではの大画面を実現するという、基本コンセプトの良さを感じていただきなから、3Dという新たな世界を体験していただきたい。また、価格設定にもこだわりました。一般的に、付加価値機能がついて上位モデルに1つあがると、だいたい15,000円から20,000円程度価格が高くなる。今回の3D機能も、そうした観点から、3D機能がプラスされても2万円程度の差で提供できるというようなところを目指しました。市場想定価格は22万円前後を予定しており、そこに3Dグラスを1個添付しています。

 一方で、3D映像を再生するサイバーリンクさんのPowerDVDや、富士フィルムさんのFinePix REAL 3Dで撮影した画像を楽しむために、アイ・オー・データ機器さんが開発したDigiCame 3D Viewer LEや、DigitalVideo 3D Player LEといったソフトを搭載していますが、これらのソフトは、ソフトメーカーと密接な関係を構築して、VALUESTAR Nに最適化する形でチューニングしています。

--製品化において、最も苦労したのはどの点ですか。

渡邉氏 パネルへの偏光板の張り付け技術の部分です。最適な形で3D映像を再現するには、ピクセルにあわせて偏光板を張り付けていく高い精度の技術が必要です。この技術を持つ企業との協力関係ができたことが大きな成果につながっています。またクロストークによる残像や、ノイズを減らすといった点では、ソフトウェアのチューニングを行なっている。ここでもかなり苦労しました。また、もともと当初の計画では、2010年後半ぐらいの商品化を目指していたのですが、3D市場の立ち上がりが前倒しで進みはじめ、2010年夏モデルで投入にしなくてはならないというのが見え始めた。今年(2010年)に入ってから夏モデルで3Dパソコンをやると決めましたから、そこからはとにかく急ピッチで商品化に取り組んだ。3Dパソコンは、他社に先駆けて、いち早く市場投入したいと考えていましたからね。パネル、偏光板の技術が見えたことが、早期の商品化につながったといえます。

--6月下旬からの出荷にあわせたプロモーションはどんなことを想定していますか。

渡邉氏 まず、5月27日から、全国の主要店舗においてカタログを用意します。さらに、6月下旬の出荷開始と同時に、主要店舗には必ず製品が展示されているという状況にしたい。全国の方々が近くの主要店舗に行けば、見られるという環境を作りたいですね。今、その方向で準備しています。店頭では、独自に製作した3Dムービーのほか、静止画による2D/3Dの変換デモなどを予定しています。できるだけ複数の3Dメガネを用意して、多くの人に体験していただきたい。やはり、3Dは体験してもらうのが一番わかりやすいですからね。

5月27日より主要店舗にカタログを用意する

--現時点での手応えはどうですか?

渡邉氏 非常にいい手応えを感じています。当初見込んだ数量に対して、2倍以上の受注となっています。これだけの引き合いがあるとは予想外でした。販売店からも「しっかりと売りたいので、しっかりと供給してほしい」と言われていますし、「3Dテレビとは補完できる領域の製品として、個室向けに販売していきたい」という声も出てます。課題があるとすれば、パネルの調達ということになるでしょうが、しっかりと供給できる体制を構築したいと考えています。

--今後、NECは3Dパソコンにどう取り組んでいきますか。

渡邉氏 3Dパソコンに対する需要動向を見ながら、ラインアップを拡充していきたい。ノートPCへの展開や、画面サイズのラインアップ、フレームシーケンシャル方式への対応などといったことも検討していくことになるでしょう。正直、いまのところ、3Dパソコンが市場全体のどれぐらいの構成比になるかは見当がつきません。数年後には、PCにおいても3D機能の搭載は標準となってくるということも考えられます。また、急速な技術進化やコストダウンといったことも視野に入れなくてはならない。それに標準化の動きも捉えなくてはならないでしょう。こうした市場の動きに柔軟に対応していくことが大切だと考えています。NECは、いち早く、3Dパソコンを発表したわけですから、この実績を生かして、「3Dパソコン=NEC」というイメージを作り上げ、さらに3DによってNECのブランド力を高めたいと考えています。