大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

厳しい業績だった国内PCメーカーが掲げる2010年の目標



 国内PCメーカー各社から、2009年度業績が発表された。

 世界的にPC市場の回復が指摘されるものの、日本の大手PCメーカー各社は、収益確保に苦心する内容になったといえよう。

●東芝

 こうした中、グローバル戦略を強力に推進する東芝の動きが目を引く。

 東芝の2009年度のPC事業の実績は、売上高が前年比7%減の8,890億円、営業損益は前年の145億円の黒字から、233億円悪化して、マイナス88億円の赤字となった。

 「販売台数は前年比20%増の1,500万台と伸張したものの、欧州を中心とした売価ダウン、低価格化などの影響を受けて減収。さらに価格下落、原材料価格の上昇などの影響により赤字になった」(東芝・村岡富美雄副社長)という。

 PC事業は、第3四半期までの累計では6億円の黒字だったが、第4四半期に94億円の赤字を計上。その理由に原材料価格の上昇などを挙げている。

2010年度は2,500万台の目標を掲げる。2010年5月11日経営方針説明会資料より

 2009年度実績は、このように厳しい結果となったが、2010年度は一気に巻き返しを図る姿勢を見せる。

 同社・佐々木則夫社長は、「2010年度のPCの販売台数は2,500万台を見込む」と強気の計画を発表。2010年度だけで、約40モデルの新製品を市場投入するという。

 光学ドライブを搭載した12.1型ワイド液晶ノートPCとしては世界最軽量となる858gを達成したノートPCの投入に続き、3Dモデルの投入、399ドル以下の低価格モデルの投入などで市場での存在感を高めていくという。

 「PC事業に関しては、欧米の販売体制、開発体制を見直して固定費の削減につなげる。7月1日付けで米国の販売会社を統合してシナジー効果を追求するほか、中国における東芝のPC製品を扱う店舗を約2,000店舗から3,000店舗に拡大する」という。

 PC事業の2010年度の売上高は前年比12%増の1兆円。営業利益はブレイクイーブンを予定。これを達成すれば、PC事業における売上高1兆円は、2007年度の1兆404億円以来、3年ぶりとなる。

●ソニー
2009年度に注目を集めた超薄型モバイル「VAIO X」シリーズ

 海外事業の拡大を目論むソニーは、2009年度は前年比17.2%増の680万台のPCを出荷した。

 第1四半期は110万台、第2四半期は140万台と前年割れで推移していたが、第3四半期には前年比35.3%増となる230万台、第4四半期には53.9%増となる200万台を出荷。Windows 7が発売となった下期に大幅な成長を見せた。

 ソニーでは、「AV/IT・通信の融合、ネットワークサービスとの連携強化による商品力の向上、さらには継続的なオペレーション改革が成果につながっている」とする。

 ただし、ソニー・大根田伸行副社長は、「単価下落があったものの、販売台数の増加により、若干の収益改善が見られている」とするに留まり、黒字化に関しては言及しなかったのは気になるところだ。

 PC事業を含むネットワークプロダクツ&サービス部門の売上高は前年比10.2%減の1兆5758億円、営業損失は831億円の赤字となった。

 一方で、2010年度におけるPCの出荷計画は29.4%増となる880万台とさらに事業拡大を見込む。2010年度は、PC事業における増収とともに、PC事業の損益改善を見込んでいるという。

●富士通
2009年度は500gを切るモバイル「LOOX U」を投入

 富士通は、2009年度のPCの出荷台数が前年比23.5%減の563万台。PCおよび携帯電話の売上高は前年比20.5%の8,231億円。「国内におけるPCの出荷台数は、当初計画を上回る実績。PC事業は黒字化している」(加藤執行役員専務)とする。

 新OSであるWindows 7対応モデルの投入や教育用PCの需要拡大により、販売台数は増加したものの、低価格化の影響を受けて減収。海外におけるコンシューマ向けのPC事業を絞り込むなどの海外PC事業再編の影響もあり、市場全体の伸びを下回る実績となったという。

 同社では、2010年度の出荷計画として、前年比3.2%増の580万台を見込んでいる。PC事業を含むユビキタスプロダクトソリューションは、売上高が前年比9.7%減の8,300億円、営業利益が前年度の12.9%減の200億円。PCは国内が横ばい、海外は2桁増の販売台数を見込むが、採算重視を継続し、出荷台数を絞り込む方針を示した。

●NEC

 NECは、PCおよび携帯電話を含むパーソナルソリューション事業における売上高が13.0%減の7,379億円。営業損益は325億円回復の193億円。PCは、上期の減収の影響が大きかったものの、下期はWindows 7の発売の影響もあり、法人向けPC、および個人向けPCともに回復基調に入り、増収になったという。

 パーソナルソリューション事業のうち、PCその他の事業の売上高は前年比9.0%減の4,554億円となった。

 国内のPCの四半期ごとの販売台数は期を追うごとに増加しており、第1四半期(4~6月)は50万台だったものが、7~9月は58万台、10~12月は69万台、1~3月は96万台となった。

 第4四半期(1~3月)の大幅な増加は、スクールニューディール政策の影響により、教育分野向けのPCの出荷が増加したことが影響している。

2010年度は260万台の出荷を見込む。2009年度決算資料より

 年間出荷台数は、前年比9.2%増の273万台となっており、当初計画を上回る実績となっている。

 2010年度におけるパーソナルソリューション事業の売上高は前年比12.5%増の8,300億円、営業利益は33億円減少となる160億円。オープンOSを搭載した新端末を下期に発売する予定であり、それに伴い発生する開発費用の負担が減益予想につながっている。

 年間出荷台数は260万台と前年割れの計画を掲げている。NECでは、「2010年も国内PC市場は引き続き堅調に推移すると見ており、学校ICTを除けば前年実績を上回ることになる」とした。

 2010年度のPCその他事業における売上高は前年比1.6%減の4,480億円と減収となっており、減収減益の見通しだ。

●パナソニック
16時間駆動、通常電圧版CPUで登場したLet'snote S8

 パナソニックは、2009年度におけるPCの出荷実績が、前年比16%減の57万台となった。

 企業の投資抑制の影響など市場環境の悪化が響いた模様だ。これに対して、2010年度は、19%増の68万台を計画。同社のモバイルPCとしての特徴を生かして、2桁成長を目指す。


 こうしてみると、海外PCメーカーの業績回復に比べて、日本のPCメーカーの業績は厳しい状況にあるといわざるを得ない。2010年度は、日本のPCメーカーが得意とする付加価値型製品による差別化戦略に加えて、普及型製品による展開強化、グローバル競争に耐えうる体質転換が求められることになりそうだ。

 2009年度下期にかけて出荷台数が増加しているメーカーが相次いでおり、第4四半期に大幅な赤字を計上した東芝も、2010年度は強気の見通しとなっている。

 これらの勢いが、米国勢、台湾勢の勢いをキャッチアップするところまで引き上げられるかどうかが注目される。