大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

ソニーユーザーを丁重に「おもてなし」!?
~5月から開始するMy Sony Clubの狙いとは



5月25日から開始する「My Sony Club」

 ソニーが、同社初のオーナーズクラブ制度ともいえる「My Sony Club」を、5月25日からスタートする。

 PCのVAIOや、液晶TVのBRAVIAなど、同社のエレクトロニクス製品の購入者を対象に、サービスおよびサポートを行なう会員制度だ。ここまでは他社も行なっている内容だが、独自のソニーポイント制度を導入するなど、さらに一歩踏み込んだ制度となっている点が特徴だ。

 ソニーマーケティングピジネスプラットフォーム部門カスタマーリレーション部・石渡裕江統括部長は、「ソニー製品に関するサービスを提供するだけでなく、ソニー製品を通じてどんな楽しみ方ができるかといった情報提供などにも力を注ぐ。サポートに加えて、ソニー製品を使っていただいているユーザーに『おもてなし』を提供できる仕組みを新たに加えたのが特徴」と語る。

 ソニーが、My Sony Clubで目指すものはなにか。

●これまでの取り組み

 ソニーは、これまでにも数多くのサービス/サポート体制を構築してきた。

 数多くのユーザーが利用する電話による問い合わせ窓口では、新たなコールセンターを開設するとともに、同サービスを担うソニーカスタマーサービスを設立。同時にコールセンター向け新応対システムを導入して、より迅速に対応できる体制を整えたところだ。

 また、東京・銀座、大阪・梅田、名古屋・栄のソニーストアをはじめ、全国7カ所で実施される使いこなしセミナーでの利用提案、対面で行なうパーソナルレッスン、出張を含む修理サービスの実施のほか、ウェブによる故障診断やセットアップ動画ガイドの提供といった各種サービス/サポートを展開してきた。

 3月にオープンしたばかりのソニーストア名古屋では、名古屋地区限定ながらも、バックステージと呼ばれる新たなサービスメニューを用意し、より手軽にサービス/サポートが利用できる環境も整え、これを東京、大阪にも広げる方向で検討を開始している。

 だが、これだけの制度を用意しながらも、それぞれを有機的に融合した使われ方がされていなかったという課題がソニーにはあった。

ソニーマーケティングピジネスプラットフォーム部門カスタマーリレーション部・石渡裕江統括部長これまでの取り組み

 石渡統括部長は、「それぞれのサービスは機能していた。だが、お客様の立場から見れば、1つのサービスを知っていても、ほかのサービスを知らなかったり、より最適なサービスを利用していないという課題があった。お客様が欲しい情報は、自らが所有している製品の情報であり、そこに最短で辿りつく仕組みが必要。My Sony Clubは、お客様1人1人に適した情報やサービスを提供するものであり、顧客視点で捉えたサービスになる」と語る。

 確かに、ソニーのサービス体制は多岐に渡っており、それをうまく使えば、課題解決はできるはずだ。だが、必要な情報に辿り着いたり、適切な制度を利用するには、「うまく使う」というノウハウが必要であったともいえる。

 残念ながら、「これだけ揃えましたから使ってください」というメーカー視点での提案がこれまでのソニーのサービス/サポートであったといえよう。

 それに対して、今回のMy Sony Clubは、従来のサービスの仕組みを活用しながら、顧客が必要とする情報やサービスを厳選して提供できる仕組みに進化させたものだといえる。そして、そこにオンラインというインフラをうまく組み合わせたのだ。

My Sony Clubのサービス概要

 My Sony Clubでは、ユーザーが所有する製品を登録すれば、その製品に適したサポート情報や、活用に関する情報などが入手できる。例えば、所有する製品に不具合が生じた場合の重要なお知らせ情報や、頻繁に行なわれるPCのOSやアプリケーションに関するアップグレード情報、さらには所有する製品に関するイベントやセミナー、ウェブを通じたeラーニングのような動画情報なども提供されることになる。

 顧客の視点に立ち、製品ごとに必要な情報をプッシュ型で提供することが可能で、ソニーが持つ既存のセミナーやイベント、メールマガジン、各種サポート制度などにも、より紐づけすることができるため、これらを効率的に活用してもらいやすくなる。

 仕組みを用意したから使ってくださいではなく、具体的にこれを利用して、購入後も安心して製品を利用してもらい、さらに活用シーンを豊かにしてくださいというように、ユーザーサイドに一歩踏み込んだのが、My Sony Clubの基本的な考え方となる。

●「おもてなし」とは

 もう1つの観点が、石渡統括部長が、「おもてなし」と表現するMy Sony Club会員へのサポートだ。

 「歴代のVAIOをずっと使い続けているといったように、長年に渡って、ソニー製品をご愛用いただいているユーザーに対して、また、多くのソニー製品を利用していただいているユーザーに対して、おもてなしをするという仕組みがこれまでにはなかった。ソニー製品をいつもお使いいただいていることに対する感謝の気持ちが、My Sony Clubのもう1つの重要な柱になる」とする。

 それを象徴するのが、ソニーポイントプログラム制度の実施だ。

 これは、製品のユーザー登録や、メールマガジンの購読などで、ポイントを蓄積。そのポイントを使用して、ソニーストアで買い物をしたり、ソニーが提供する各種サービスに利用したりといったことが可能だ。ANAマイレージクラブとのポイント相互交換や電子マネーEdyへの転換、非売品となるソニーブランドの名刺入れやボールペンなどのソニーオリジナルグッズとの交換、修理の費用に充てるといった使い方も可能になる。

 まさに、My Sony Club会員だけの特典だ。

 実は、ソニーでは、ネット直販のソニースタイルや、直営店のソニーストアでの購入者を対象にポイント制度を実施してきた経緯がある。だが、今回のMy Sony Clubではこれらのポイントを統合するとともに、どの店舗でソニー製品を購入した人でも、別途、ソニーポイントを蓄積できるようにした。

 カメラ量販店などで購入した際には、それらの店舗でポイントが蓄積されるが、購入した製品に関して、My Sony Clubでユーザー登録をすると、別途、ソニーポイントが付与される。ソニー製品を購入すれば、ソニーポイント分がさらにお得というわけだ。

 「量販店などと対抗するものではない。ソニー製品を購入していただいたユーザーに対するおもてなしの1つ」と石渡統括部長は位置づける。

 もう1つ、「おもてなし」をより適切に行なうために、3つの会員ステータスを用意した。

 メールアドレスだけを登録する「メールメンバー」は、最も手軽に会員になれるが、ここでは基本的なサービスだけを提供する。これに対して、製品登録を行ない、メールアドレスや氏名、住所などの情報を登録した会員を「メンバー」とし、ソニーポイントが蓄積できるようになる。そして、登録したソニー製品の価格に応じて蓄積される「STAR」が、1万ポイント(100万円分)に到達すると「プレミアムメンバー」となる。

 「VAIOの登録ユーザーなどを中心にオンラインでユーザー登録をしていただいてMy Sony IDの会員は、そのままMy Sony Clubに移動するために、自動的にメンバーとなる。当初は、全体の9割はメンバーとなる。今後、広がりをみせる上ではメールメンバーの構成比も増えていくだろう。プレミアムメンバーは全体の1%にも満たない」と予測する。

 プレミアムメンバーやメンバーには、限定イベントへの招待や会員限定セミナーへの参加、ソニーならではのキャンペーンへの参加が可能になる。


My Sony Clubのメンバーシップメンバー限定のセミナーなどを開催Sonyポイントの使い方

 実は、ソニーストア名古屋のオープン前日に、同社では、My Sony IDをもとに、コアユーザー限定で店舗の内覧会に招待するという試験的な取り組みを行なった。オープン前の店舗に入店でき、しかも、名古屋では初の展示となる3D TVも事前に見ることができるというプレミアム感に、招待されたユーザーからは高い評価が集まった。

 My Sony Clubでは、こうした会員ならではの「おもてなし」にも取り組んでいくことになるという。

 「My Sony IDというのは、あくまでもサービスを利用するための鍵。しかし、My Sony Clubという名前は、そこから一歩踏み込んだもの。最終的に、12種類程度の名称を検討した。My Sony Clubに決めたのは、『Club』という言葉に、ソニーユーザーの集まりという意味だけに留まらず、『おもてなしする』という意味を込めたから」とする。

●さらにもう1つの「おもてなし」

 今回、もう1つ「おもてなし」という観点で見逃せない取り組みがある。

 それは、ソニーが提供する各種サービスが、My Sony Clubによって、統合されるということだ。

 具体例として、こんな事例を示すとわかりやすいだろう。

My Sony Clubのサイクル

 これまでの仕組みでは、ソニースタイルで数多くのソニー製品を購入していても、修理サービスの窓口に訪れた場合には、窓口のスタッフの対応は「初めまして」という対応に近いものだった。情報が共有されていないために、こうしたことが起こっていたのだ。

 だが、My Sony Clubでは、すべての情報を共有化。これにより、ソニー製品のユーザーを、すべての窓口で、同じ情報をもとに対応できるようになったのだ。ソニー製品を数多く利用しているユーザーにとっては、まさに安心して利用でき、場合によっては手厚いサービスを受けられることにもつながる。

 これもMy Sony Clubならではの特徴だ。

 ソニーマーケティングが、4月21日に開催した記者会見には、ソニーマーケティングの栗田伸樹社長自らが出席した。栗田社長が自ら、このサービスの重要性を捉えて、自ら出席を決めたという。社長出席は、会見の立案時にはなかったものだ。それだけ、このサービスがソニーにとって重要にものと位置づけていることがわかる。

 「ソニー製品を購入していただいているすべてのお客様に対して、継続的な付加価値の提供を目指す」と栗田社長は語る。

 My Sony Clubの制度は、日本だけで展開されるものであり、海外でも例がない。

 そして、今後、1年間での会員獲得目標は、1,000万人。ソニーが国内で出荷するエレクトロニクス製品すべての年間ユニット数が約1,000万台といわれるだけに、それと同等規模という、まさに意欲的な数字だ。

 「My Sony Clubの会員になり、マイページを利用すると便利だという声が集まり、メリットを感じていただけることが大切。そのメリットを多くの人に知っていただき、ソニー製品を購入したら、まずはここに登録しようという意識が高まることを目指したい。また、店頭でソニー製品と他社製品を比べて迷っていたら、ソニーには、My Sony Clubがあって、サポートが安心だからソニー製品を買おうといっていただけるようなサービスにしたい」と石渡統括部長は語る。

 ソニーファンづくりがMy Sony Clubの狙いだ。ソニーファンが増加したかどうかが、My Sony Clubの成果を推し量るパラメータとなる。

新たなサービス開始を前に、石渡裕江統括部長をはじめとする関係者がソニーマーケティング本社の高山稲荷神社で成功の祈願をした


新たなサービス開始を前に、石渡裕江統括部長をはじめとする関係者がソニーマーケティング本社の高山稲荷神社で成功の祈願をした