大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Windows 7の本命を目指すNECの新たなPC事業の行方
~NECパーソナルプロダクツ高塚常務に聞く



 「Windows 7の本命パソコン登場!」

 NECが、Windows 7搭載PCを発売して以降、店頭で配布している新たな同社PC総合カタログには、このメッセージが使われている。その言葉を裏づけるように、10月22日以降に発売されたWindows 7搭載PCにおいては、デスクトップ部門で29.5%(BCN調べ)と、NECが首位を走っている。

「Windows 7の本命パソコン登場!」を訴求するNECのPC総合カタログNECパーソナルプロダクツ 高塚栄氏

 NECパーソナルプロダクツ取締役執行役員常務兼PC事業本部長 高塚栄氏は、「なかでもVALUESTAR Nシリーズが人気を博し、当社におけるデスクトップPCの比重が増加。一体型モデルの構成比そのものが高まっている」とする。NECの2009年度の出荷計画は250万台。上期の前年割れの実績から逆算すると、下期は前年同期比15%増となる145万台の出荷が必要となる。それでも「年間出荷計画の旗は降ろさない」と高塚氏は強気の姿勢を見せる。Windows 7時代におけるNECのPC事業を聞いた。

●デスクトップPCで好調な出足をみせる

--Windows 7発売以降の手応えはどうですか。

高塚 順調な立ち上がりを見せています。Windows 7発売直前は一時期的には落ち込みましたが、それでも買い控えといえるような状況は見られませんでしたし、発売以降も前年同期比10~15%増と市場全体とほぼ同じ成長率で推移しています。また、平均単価も上昇していますから、高機能モデルに注目が集まっていることがわかるでしょう。

 当社の場合、デスクトップPCのVALUESTAR Nシリーズが予想を上回る人気となっています。これまでデスクトップPCの構成比は約3割でしたが、これがWindows 7の発売以降、35%程度にまで上昇している。とくにVALUESTAR Nシリーズの構成比が上昇したことで、デスクトップPC全体に占める一体型モデルの比重は65%ぐらいにまで高まっています。もともとVALUESTAR Nシリーズは、デスクトップPC部門において20週間以上もナンバーワンシェア(GfKジャパン調べ)を獲得しています。この勢いがWindows 7になっても続いている。21.1型ワイドあるいは19型ワイドを搭載したデスクトップならではの操作性、視認性の高さとともに、デスクトップながらも15.4型液晶を搭載したノートPCよりも設置スペースが少なくて済むという点が評価されています。

連続首位記録を維持しているVALUESTAR NシリーズVALUESTAR Wでは、ヤマハとの協業でYAMAHAサウンドシステムを搭載した

--高塚取締役執行役員常務が指摘するWindows 7の発売前に買い控えが起こらなかった理由はなんでしょうか。

高塚 Windows 7の軽快性など、事前の評価が高いということは、本来ならば買い控えが起こっても良さそうなものですが、やはり既存のスペックのPCでも動作するという点が買い控えを抑えたようです。例年ならば9月には年末商戦向けの新製品が登場するのですが、それが今年の場合は10月22日まで新製品投入がずれ込んだため、夏モデルの商品寿命が例年より1カ月も長くなった。言い換えれば購入しやすい価格でWindows Vista搭載PCが売られていたともいえます。

 また、それらのPCを購入しても、Windows 7への優待アップグレードが用意されていますから、安心してVista搭載PCを購入できる。量販店で購入した人を含めて、NECダイレクトを通じて3,000円でアップグレードできるように、さらに121wareに登録すれば2,000円でアップグレードできるようにした。当初は来年1月31日までの期間中に3万人程度の申し込みと思っていましたが、この感じでは6万人程度にまで申し込みが拡大しそうです。

--一方で、企業向けのPC需要についてはどうですか。

高塚 日銀短観などの指標とは別に、実際のところ、経済環境の回復が実感できないのが現状です。企業のIT投資抑制は依然として続いていますし、大手、中堅企業では、新たなOSの検証には、少なくとも半年はかかりますから、Windows 7が発売されたからといってすぐに導入するものでもない。企業需要が本格化するにはまだ時間がかかります。

 ただ、だからといって何もしないのではなく、いまメーカーとしてやらなくてはならないことがある。例えば、「Windows 7になりましたから入れ替えてください」という提案ではなく、Windows 7によってどんなことが解決できるのかという、具体的なメリットを提案することが必要。ローコスト、ハイパフォーマンス、TCO、エコ、セキュリティという観点からもっと具体的なメリットを提案しなくてならない。セキュリティ1つをとっても、Windows XPでは実現できないが、Windows 7だからこそできるというソリューションもある。

 景気の回復を実感できるのは来年の後半からもしれませんが、企業は、新たなものを導入したいが我慢し続けているという状況でもあります。いまから積極的なアプローチを行なうことで、導入機運が回復した時点で一気に加速できる体制を作っていきたい考えています。

●NECが打ち出す本命PCの意味とは

--NECは、PCの総合カタログで「Windows 7の本命パソコン登場!」というキャッチフレーズを使っていますね。こう言い切れる理由はどこにありますか。

購入者にプレゼントする「地デジ&ビデオカメラ活用キット」、「ビデオカメラ活用キット」、「Windows 7操作説明DVD」などのツール

高塚 1つには、あらゆるユーザーの要求に対して応えられるPCをラインアップしているという点です。

 家庭内に1台目として設置するPCから、ネットブックに代表される2台目として利用するPC、外出先で利用するPCまで、Windows 7搭載製品をきちっと取り揃えることができたと自負しています。Windows 7時代は、一家に1台や、1人1台の環境から、1人複数台へと広がりを見せます。それに向けた製品を用意できた。

 また、既存のPCからWindows 7に移行する場合にも引っ越しツールを提供し、複数のPC所有しているユーザーがそれぞれのPCのデータを同期させるための仕掛けも用意している。さらに、PCで録画した映像をmicroSDやUSB接続によって、携帯電話に保存し、これを外出先で見られるといった提案も行なっている。

 加えて、今年4月に投入した夏モデルでは、数多くの製品にBlu-ray Discドライブを採用したように、「BD+地デジ+フルHD」という提案では、ノートPCでも、デスクトップPCでも他社に先行していると考えています。音質についてもこだわっています。VALUESTAR Wでは、ヤマハとの協業でYAMAHAサウンドシステムを搭載しました。これはとにかく聞き比べてもらうのがいい。その差は量販店の店頭でもわかるはずです。

 また、今回の新製品では、購入者がWindows 7を使いやすくするための支援ツールとして、「地デジ&ビデオカメラ活用キット」、「ビデオカメラ活用キット」、さらに「Windows 7操作説明DVD」を用意しました。これはNECのWindows 7搭載PCをご購入いただいた方にプレゼントするもので、ビデオやデジカメを利用するための冊子や、DVDの説明を見ながらPCを簡単に操作できるようにしています。

--タッチ機能への訴求が他社に比べて遅れている感じがしますが。

高塚 NECは、タッチ機能を搭載したモデルもラインアップしていますし、誰もが使える、簡単で、便利なユーザーインターフェースとして今後の広がりには大いに期待しています。しかし、まだタッチ機能を生かしたアプリケーションが少ない。例えば、ビデオ編集で編集点をタッチで指定できるようなものが数多く出てくれば、タッチのメリットが伝わりやすい。機能だけを先行させるのではなく、こうした具体的な用途を創出しながら、訴求していく努力が必要だと感じています。

●通期250万台の出荷計画の旗は降ろさない

--NECは、上期(2009年4月~9月)のPC出荷台数で前年割れの実績となっています。第1四半期は15%減の108万台、第2四半期は10%減の58万台。通期計画である前年並みの250万台を達成するには、下期に前年同期比15%増の145万台を出荷しなくてはなりません。極めて意欲的な計画値になりますが、これは達成可能なのですか。

高塚 コンシューマPC市場を見ると、先にもお話ししたように、Windows 7の発売以降、前年同期比10~15%増で推移していますから、下期計画のラインに乗っているといえます。問題は企業向けPCです。ここは残念ながら前年割れで推移していますから、当初の計画を下回ることになるでしょう。トータルすれば、計画には届かないという計算になります。しかし、年初の計画策定時にはなかったスクール・ニューディール構想による教育向けPC市場の拡大という追い風がありますから、これで企業市場の落ち込み分をカバーできると考えています。

--具体的にはどの程度の数値が見込まれると。

高塚 スクール・ニューディール構想では、70万台のPC需要が創出されると考えています。教育分野におけるNECのシェアは約3割ですから、そこから逆算すれば、年間20万台前後の出荷を上乗せできます。

--年間250万台の目標には変更はないと。

高塚 目標の旗は降ろしません。

●品質ナンバーワン、CSナンバーワンに挑む

--PC事業の構造改革にも継続的に取り組んでいますが、この観点から、下期に向けての新たな取り組みはありますか。

高塚 PC事業を健全なものとするためには、さらなる固定費の削減、原価低減、開発の効率化に取り組まなくてはならないと考えています。下期も黒字を維持し、通期黒字を達成します。NECのPCは、コンシューマ向けデスクトップの「VALUESTAR」、コンシューマ向けノートPCの「LaVie」、企業向けデスクトップの「Mate」、企業向けノートPCの「VersaPro」と4つのブランドがありますが、モノづくりにおいては、中身の共通化をさらに進めていきたい。また、具体的なプランではありませんが、コンシューマ領域で展開している一体型デスクトップも、提案次第では企業向けにも展開できるのではないかといったことも視野に入れたい。共通化やコスト削減に向けては、さまざまな可能性を探っていくつもりです。それと、「品質ナンバーワン」、「CS(カスタマ・サティスファクション:顧客満足)ナンバーワン」という取り組みは、最優先課題として、この下期も徹底していくつもりです。

--具体的にはどんな取り組みを行ないますか。

高塚 品質ナンバーワンでは、「パーセンテージの議論をしないで欲しい」と現場に言っています。確かに不良率のパーセンテージは改善されていますが、その不良が1,000台のうちの1台であっても、購入したユーザーにとっては自分が買ってきた1台です。その気持ちを持ってほしい。

 また、これまではマザーボードの修理の必要があるといった場合には、ODMへ戻して修理するという仕組みでしたが、これを当社の群馬事業場に戻して、そこで修理をすることにしました。これにより、生産、設計現場にも迅速にフィードバックできるようになり、品質の向上にもつなげることができる。一方、CSナンバーワンに関しては、CS事業部がやればいいというのはでなく全社一丸で取り組んでいくものだということを共通の認識として持ちたい。例えば、NECのPCを購入したいが、店頭に行ったら品切れだったということも、CSを落とすことにつながる。これは、生産現場や部品調達といった部門にも責任がある。10月22日のWindows 7の発売日に、NECのフルラインアップを市場に供給できたということは、生産現場や調達部門を含めて、サプライチェーン全体に関わる人たちが一丸となって取り組んだから実現できたことです。サポート部門だけがCSを担うのではなく、あらゆる場面でCSへの取り組みがあるということを全社の共通認識にしたいと考えています。

--今後、Windows 7という共通プラットフォームの上で、NECのPCはどう差別化していきますか。

高塚 情報をハンドリングするという点で、PCは最も能力が高いツールです。また、コンシューマ領域においても、デジタルライフの中核的存在を担うデバイスであると考えています。当社の米沢事業場においては、「元気な米沢活動」と称して、小型化技術、省電力化技術など、次世代の技術について研究、開発を続けています。すでに、傷ついた塗装面を自動修復する「スクラッチリペア」塗装をはじめ、いくつかの新たな技術を開発し、PCに採用しています。こうしたNEC独自の技術を、PCのなかに取り込んでいきたい。

 一方で、パーソナルソリューションBUのなかに、PC事業部門と携帯電話事業部門を融合した組織として、パーソナルソリューション事業開発本部を設置しました。約50人の人員で、そのうち、約20人がAndroid技術センターという組織に所属する開発者が占めています。PCと携帯電話の融合という観点から具体的な製品を投入するのにはもう少し時間がかかりますが、PCのノウハウを活用した情報を持ち歩くための新たなツールの創出にも期待してください。