大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
【新春恒例企画】2020年は「令和」がIT産業のキーワードに!?
2020年1月6日 06:00
2019年は、IT/エレクトロニクス産業にとって、好調な1年だったと言えるだろう。
2019年5月に元号が「令和」に変わり、日本が大きな転機を迎えるなか、PC市場では、Windows 7のサポート終了と消費増税を前にした特需もあり、PCの出荷台数は前年実績を大きく上回るかたちで推移。出足が懸念されていた4K TVも、ラグビーワールドカップをはじめとするスポーツ関連のコンテンツの増加が追い風となって、後半から巻き返しをみせ、2018年12月1日の放送開始から1年を経過した2019年11月末までに、270万台のTVで視聴可能な状況が整った。
さらに、働き方改革や「2025年の崖」を視野に入れたデジタルトランスフォーメーションの動きが活性化。東京オリンピック/パラリンピックの開催を前にした旺盛なIT投資も見られ、これまで以上にクラウド活用が促進された1年でもあった。
だが、米中貿易摩擦の影響や中国の景気減速、円高による為替影響などにより、電機大手の業績は厳しい状況に置かれている。2020年には、この状況がどう改善するのかが注目される。
では、2020年はどんな1年になるのか。
毎年恒例の言葉遊びで、この1年のIT/エレクトロニクス産業の方向性を探ってみる。
今年の言葉は、ずばり「令和」である。このなかに、2020年のIT/エレクトロニクス産業のキーワードが隠れている。
「REIWA」に見る2020年の動向とは?
「令和」を、まずは「REIWA」と英語表記してみる。
最初の「R」の頭文字から読み取れるのは、「量子コンピュータ」である。
量子コンピュータは、0と1のビットによる論理演算を行なうこれまでのコンピュータとは異なり、量子力学的な振る舞いを使って計算を行なう仕組みを採用したものだ。量子ビットは、量子力学の法則に則って、1か、0かではなく、重なり合うような0-1、0+1という状態がありうるため、それによって、複数通りの可能性を並列に調べることができる。
計算能力は論理量子ビットの数に応じて指数関数的に向上。50キュービットに達した時点で、現存するスーパーコンピュータを上回る計算が可能になると言われている。
すでに、カナダのD-Wave Systemsの量子コンピュータが商用化されているほか、Googleがこの分野への投資を加速、Amazonもサービスを開始する計画を発表している。
この分野のリーダーの一翼を担う米IBMは、東京大学と連携し、IBMの量子コンピュータ「IBM Q System One」を、2020年に日本に設置、運用することを発表。このことからも明らかなように、2020年は、日本においても、量子コンピュータの活用が加速することになる。
量子コンピュータが実用化すれば、飢饉や気象変動への対策といった世界の課題解決にも利用できるようになるだろう。その一方で、どんなに強固な暗号化技術も、量子コンピュータを使えば、瞬時に解読されてしまうといった課題が生まれるとの指摘もある。
もちろん企業競争においても、この技術は活用されることになる。
ある関係者は、「誰が、量子コンピュータを持つのかが重要になる」とし、「持つ者と、持たざる者との差が大きく、持つ者が巨大な優位性を発揮することになる。企業競争においても、これまでのバランスを完全に崩す可能性がある」と危機感を募らせる。
むしろ新たな技術の導入期にこそ、その差が生まれやすい。2020年は量子コンピュータの商用化によって、企業競争のバランスが崩れるタイミングに入るのかもしれない。
2つめの「E」には、複数のキーワードが隠れている。
1つは、「エッジコンピュータ」である。コンピュータの歴史は、集中と分散の繰り返しの歴史とも言われるが、集中化をもたらしたクラウドの次の世代として、分散処理をするエッジコンピュータが注目を集めている。
数々のデバイスから発信されたデータを、すべてクラウドにあげて処理するのではなく、発生源に近いところで処理し、それを利用したり、処理後に必要なデータだけをクラウドにあげたりすることで、より効率的で、リアルタイム性を持ったコンピューティング活用が可能になるのがエッジコンピュータだ。
たとえば、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)では、エッジコンピュータの考え方を用いた新コンセプト「Inter-Connected Computing Platform(ICCP)」を発表。それに基づいた製品として「MIB(Men in Box)」と「Infini-Brain」の2つの製品を開発していることを明らかにしている。
Infini-Brainは、エッジAIコンピュータと位置づけられるもので、6つのGPUを搭載し、FCCLの独自アーキテクチャーであるブリッジコントローラにより、CPUとGPUの双方向通信や、GPU間の双方向通信をシームレスに行なえるようになるのが特徴だ。
ドラッグストアの実証実験では、来店した人を撮影し、その動きをInfini-BrainでAIを使って分析し、万引きしそうな動きをしている人に指向性スピーカーから「いらっしゃいませ」といった声がけを行ない、万引き防止につなげているという。この実証実験では、化粧品売り場の被害額が、前年には25,320円だったものが、3,700円と85%も下がった成果があがっている。
このように、大量データ処理や画像データ処理、リアルタイム性を持った処理が求められ場面で広がっていきそうだ。そして、今後、拡大が見込まれる無人店舗でもエッジコンピュータの役割は重要になってくる。
2020年は、高性能化や小型化などの特徴を持ったエッジコンピュータの登場に期待したい1年だ。
2つめの「E」は、エデュケーション。つまり、教育分野向けPCだ。
新小学校学習指導要領により、2020年度から小学校におけるプログラミング教育が必須化することで、子供のPC利用の促進が見込まれるのに加えて、2019年11月には、安倍晋三首相が、児童および生徒に対して、PCを1人1台の体制で整備することを、「国家意思として明確に示すことが重要」と発言したことで、PC業界では、今後の教育分野向けPCの整備に大きな期待が集まっている。
また、2024年度からは、大学入試でもPCが使われるようになることで、子供のときからPCに触れさせておきたいという親が増加することも見込まれている。
これにあわせて、学校だけでなく、家庭内でも子供向けのPCを購入したいといった動きが顕在化することを想定。「子供向けPC」といった新たなカテゴリの創出にも注目が集まる。
政府は、2019年12月に閣議決定した総額26兆円規模の総合経済対策において、2023年度までに、全学年の児童生徒一人一人が端末を持ち、十分に活用できる環境の実現を目指すことを盛り込んだ。
なかなか浸透しなかった日本の教育分野におけるPC活用は、いよいよ本物になるのか。
もう1つの「E」ということで、「EV(Electric Vehicle)」もあげておきたい。
クルマの電動化は、コネクテッド、自動運転、シェアリングとともに、自動車業界を変える「CASE(Connected、Autonomous、Shared&Service、Electric)」を構成する要素の1つであり、これらが100年に1度と言われる自動車業界の変革を促している。
IT産業の視点でみれば、「MaaS(Mobility as a Service)」によって、クルマによる移動を含めたモビリティ全体を、サービスとして捉えることで、ビジネスチャンスが生まれる領域でもある。
2019年10月のCEATEC 2019でも、自動運転車による公道走行の実証実験が行なわれるなど、日本各地で、EVによる自動運転の実験が始まっている。実際、ソフトバンクグループのSBドライブだけでも、これまでに全国30カ所以上で自動走行の実証実験を行なってきたという。2020年は、自動運転の実用化に向けた具体的な動きが出ることになりそうだ。
REIWAの「I」では、「IoT」がキーワードになる。
すべてのモノがインターネットにつながるIoTは、もはや一般用語としても広く知られるようになっているが、その成長の勢いは、業界の予測を上回るものになっている。
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)によると、CPS/IoTの世界市場規模は、2017年時点の予測では、2030年には404兆4,000億円になるとしていたが、2019年の調査では、2018年で、すでに241兆1,000億円の規模に到達。これをベースに予測すると、2030年には、532兆1,000億円になるとの新たな見通しを発表した。わずか2年前の調査から、127兆7,000億円も市場規模が大きくなるとの上方修正だ。これは、見通しが甘かったというよりも、現実的な成長力が力強かったと分析した方がいいだろう。
IoTは、さまざまなモノへと広がる一方で、先に触れたエッジコンピュータとの連携も重要な要素の1つといえる。
そして、BtoB領域だけでなく、生活に身近な日用品のなかにも広がって行くだろう。歯ブラシのIoT化はその1つで、使用データをもとに最適な歯磨きの回数や歯ブラシの使い方を支援。歯科医との連動によって、虫歯予防に利用するといったことも行なわれる。
また、IoTの広がりは新たなサービスの創出にもつながり、ビジネスチャンスの拡大とともに、生活を豊かにすることにもつながる。IoTの活用範囲と社会貢献の範囲は、ますます拡大することになりそうだ。
「W」は、「Windows 7」である。
2020年1月14日にサポート終了を控えたWindows 7は、2019年には、PCの特需を生む主役となったが、2020年は、残念ながら、特需の反動をもたらす主役になる。
Windows XPのサポート終了後には、PC市場は6掛け程度にまで市場が縮小したが、これと同じ状況が生まれるのか、それともそこまでの落ち込みがないのかといったことが、業界関係者の間では話題になっている。
ただ、Windows XPのときと比べて、反動を緩和する、いくつかのプラス要素があることは明るい材料だ。
先に触れた教育分野向けPCの需要や、エッジコンピュータの広がりのほか、世界に比べて市場拡大が遅れているゲーミングPCへの注目度の向上、働き方改革によるモバイルPCへの関心が高まっていることも追い風となる。こうした動きを需要の顕在化につなげることができるかがPC業界全体に課せられた鍵となる。
日本マイクロソフトでは、業界全体を巻き込んで、「モダンPC」への移行を訴求。これも、反動期を迎える2020年におけるPC需要の拡大策の1つに位置づける。
モダンPCは、起動が速く、顔認証などでのサインインができ、セキュリティにも優れているPCで、タブレットとして利用できたり、ペンで入力できたりするモデルも含まれる。現在100機種以上がPCメーカーからラインアップされているという。
「モダンPCは、2019年に認知度が大きく向上しており、地方都市や郊外では、2倍以上の販売台数になっている」(日本マイクロソフト)という。
日本マイクロソフトによると、2020年1月時点では、1,391万台のWindows 7搭載PCが稼働していると推測。そのうち、法人向けPCでは753万台、家庭向けPCでは638万台が稼働していると分析している。
2019年7月~12月までの6カ月間で、500万台以上のPCが、新たな環境に移行しているが、それでもまだ1割以上のWindows 7搭載PCが稼働している計算だ。
なお、2020年10月13日にはOffice 2010のサポートも終了する。まだ、Windows 7やOffice2010を利用している人は、早めに移行することをお勧めする。
最後の「A」は、AIを指す。
AIは、さまざまな領域で注目を集めており、企業内での利用や、個人向けサービスなどにも広く活用されている。エンターテイメント分野でも活用されており、年末のNHK紅白歌合戦では、「AI美空ひばり」が話題となった。
調査会社のITRが2019年12月に発表した、画像認識、音声認識、音声合成、言語解析、検索・探索、翻訳のAI主要6市場の売上金額は、2018年度には前年比53.5%増の199億5000万円と大幅な伸びをみせた。
なかでも最も高い成長をみせたのが画像認識。工場での製品外観検査や作業員の安全管理業務のほか、道路や橋などの社会インフラ、各種建造物の保全業務での利用、顔認証や車両の自動運転などでも活用されている。また、言語解析も、コールセンターでの活用を中心に導入が進んでおり、今後、幅広い範囲に利用が拡大すると予想している。
同社によると、AI主要6市場の2023年までの年平均成長率は26.5%と予測。2023年度には640億円の市場規模に達すると予測している。
その一方で、2020年に、より関心が高まるとみられているのが「AIの倫理」である。
すでに、IBMやAmazon.com、Facebook、マイクロソフトなどが業界団体として「Partnership on AI」を設立してAIの倫理について議論。欧州委員会ではAI倫理ガイドラインを策定している。国内でも、富士通やNECがAIの倫理に関するガイドラインを独自に策定している。
これらでは、「AIは、人間の知性を拡張するためのものであり、人間の役割を置き換えるものではない」と定義されており、現実的に意識を持ったり、独立した存在となることはないことや、すべては人間がコントロールし続けることが盛り込まれている一方、人間が扱いきれない大量のデータを理解し、データに基づいた根拠のある洞察を行なうことができる特徴や、人間とは違って、意思決定において感情や先入観によるバイアスがかからない点をうまく活用すべきであるということも示唆されている。
ただ、それを実現するためには、AIが「より深く」人間の自然言語を理解したり、AIに「一定の常識」を持たせたり、「人間の感情への理解が必要になる」という専門家の指摘もある。
実用段階に入ってきたAIだからこそ、AIの倫理を取り巻く議論が、2020年には増えていくことになるだろう。
「れいわ」から紐解く2020年のキーワード
次に、「令和」を、ひらがなで「れいわ」と表示してみる。ここにもいくつかのキーワードが隠れている。
「れ」は、レコグニション。日本語では、認識という意味だが、ここでは、「顔認証(フェイスレコグニション)」などの実用化について触れたい。
東京オリンピック/パラリンピックの開催を前に、監視カメラソリューションや顔認証ソリューションが続々導入されている。とくに、日本では、顔認証技術で世界トップを競いあっているNECとパナソニックがそれぞれに顔認証ソリューションを製品化。空港施設やアミューズメント施設、オフィスでの実用化を進めているほか、無人店舗などでの実証実験にも積極的に取り組んでいる。
とくにNECの顔認証技術は、東京オリンピック/パラリンピックの大会関係者や報道関係者の会場入場時の本人確認に採用されることが決定。会期中、約30万人を対象に利用されることになる。
また、パナソニックでは、ファミリーマートとの連携により、神奈川県内に24時間営業の実証型店舗をオープン。顔認証決済および物体認知を活用した自動決済システムによって、手ぶらで訪れても、「顔パス」で商品を購入できるという仕組みを構築した。
2020年はキャッシュレス化が進む1年になるだろうが、顔認証との組み合わせによって、まさに「顔パス」で商品が購入できる場があちこちに誕生しそうだ。
「い」では、「eスポーツ」をあげておきたい。
2019年9月に開催されたTOKYO GAME SHOW 2019では、PCメーカー各社から、ゲーミングPCが相次いで展示され、eスポーツへの関心の高さを示したが、その動きは、2020年にはさらに活発になりそうだ。
約20年間に渡り、eスポーツを支援しているインテルは、TOKYO GAME SHOW 2019にも出展し、eスポーツの魅力を発信したほか、この場で、2020年には、東京オリンピックの開催に合わせて、eスポーツ大会「Intel World Open」を開催すると発表。世界規模で実施されるこの大会には、2020年第1四半期に、オンライン予選が開催され、決勝イベントは7月に東京で開催されることになる。賞金総額は50万ドルというビッグイベントだ。
インテルの鈴木国正社長も、「PCゲームの体験の向上と、eスポーツへの投資により、eスポーツエコシステムの成長を支援したい」と語る。
インテルは、世界最大規模のeスポーツネットワークである「Electronic Sports League(ESL) 」のグローバルテクノロジーパートナーとして活動を支援してきた経緯があり、今後3年間に1億ドルの投資を行なうことも発表している。
インテルをはじめとしたPC業界が、eスポーツの拡大に積極的なのは、大きな意味でPC人口の拡大に貢献すると期待しているからだ。
というのも、eスポーツも、実際のスポーツと同じように、プロフェッショナルプレイヤーだけの世界ではなく、プレイする人の枠を広げたり、それを見て、選手を応援する人までも含めて市場を形成することで、ビジネスの幅を広げることができるとみているからだ。
野球には、プロ野球を目指す人たちだけでなく、草野球を楽しむ人たちや、プロ野球を見たり、チームや選手を応援したりして楽しむ人たちがいる。それと同じ市場形成を目指しているのだ。
こうした市場をいかに形成していくのか。PC業界にとってははじめてのビジネスモデルの構築となりそうだ。
「わ」は、「ワークスタイルイノベーション」。つまり、「働き方改革」である。
ここ数年、働き方改革は、日本における重要なキーワードとなり、2019年4月に施行された「働き方改革関連法」によって、それが一気に促進。テレワークの導入や長時間労働の是正、多様な働き方の実現などに向けた取り組みが各企業で行なわれている。
それらを実現するなかで、ITの活用は不可欠であり、IT産業においても、働き方改革を切り口とした提案が増加している状況にある。
じつは、こうした働き方改革への取り組みは、2020年に成果をあげることを目標に進められてきたともいえる。
ロンドンオリンピックでは、企業の約8割がテレワークや休暇取得などの対応を行ない、市内の混雑を解消した成果があがっており、東京オリンピック/パラリンピックでも、交通混雑回避の切り札として、テレワークの導入が検討されてきた。その地盤づくりを目的に、総務省や厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府は、東京都および関係団体と連携して、2017年から、2020年の東京オリンピックの開会式にあたる7月24日を「テレワーク・デイ」と命名し、国民運動として働き方改革を展開。2019年は、7月22日から9月6日までの約1カ月間を、大会前の本番テストに位置づけ、テレワークの一斉実施を呼びかけ、2,887団体、約68万人が参加している。
これにより、東京23区全体の通勤者が1日あたり約26万8000人減少。減少率は9.2%と、1割削減とする政府目標に近い成果をあげている。
政府では、引き続き、東京オリンピック/パラリンピック開催前の早い段階からテレワークなどの準備を進めることを、大手企業や中小企業に訴求していく考えだ。
日本の働き方改革の成果が問われるのが2020年ということになる。
「令和」から見るIT産業のキーワード
さて、最後に「令和」という漢字から、IT/エレクトロニクス産業のキーワードを探ってみる。
ここでは、「令」という漢字と、「和」という漢字の画数に着目してみた。
「令」は5画、「和」は8画である。
令の「5」画では、これまでの話に続いて「五輪」というテーマもいいが、IT/エレクトロニクス産業にとっては、やはり「5G」ということになるだろう。
超高速、大容量、超低遅延、多数同時接続といった特徴を持つ5Gは、すでに2019年からプレサービスが開始されているが、2020年には国内で商用サービスがはじまり、スマホの利用を高度化するだけでなく、4Kや8Kの高精細映像の活用、ARやVRなどの臨場感を持つ映像の活用、高精細画像による遠隔医療の実現、自動運転のサポートなどでも活用が期待されている。
だが、当初はスマホ端末の価格がかなり高価になると予測されており、一般に広がるにはもうしばらく時間がかかりそうだ。
そのなかで、個人的に注目しているのが「ローカル5G」である。ローカル5Gは、5Gが持つメリットを生かしながら、ローカルならではの専用閉域ネットワークによるセキュリティ確保を実現。安全性を確保できるほか、干渉の少ない無線ネットワークによる安定性、柔軟に通信リソースの割り当てが可能な柔軟性を持つことができる。
建設現場や工事現場、空港や駅、港湾、物流倉庫、病院、スタジアム、工場といった場所での利用が想定されており、必要な時に、必要な場所に5Gネットワークを柔軟に構築し、産業の高度化を推進できるのが特徴だ。
IoTの進化やエッジコンピュータの広がりにおいて、ローカル5Gとの組み合わせは大きな可能性を生むことになる。2020年はこのあたりの動きが顕在化しそうだ。
なお、今回の「5」で触れなかった「五輪」という切り口では、気になるのがサイバー攻撃の増加である。
オリンピック開催国へのサイバー攻撃が増加するのは、これまでの例を見ても明らか。日本が、オリンピックを通じて、セキュリティ先進国として役割を担うことができるかどうかにも注目したい。
最後の「和」の「8」画では、「8K」および4Kに触れておきたい。
2018年12月に、新4K8K衛星放送が開始されて1年を経過したが、2019年11月時点での視聴可能機器台数は270万7,000台となった。一般社団法人放送サービス高度化推進協会(A-PAB)では、「東京オリンピック/パラリンピックまでに、視聴可能機器を500万台に増やしたい」とする。
もともと総務省では、東京オリンピック開催時には「多くの視聴者が市販のテレビで、4K8K番組を楽しんでいる」状況を目指し、目安として全国の約50%の世帯で視聴できることを示していたが、残念ながら、これを大きく下回ることになる。
だが、2011年の地デジが、放送波の完全な切り替えであったのに対して、新4K8K衛星放送は、既存のデジタル放送を視聴できる状態で、新たな放送が加わったものである。その点で、目標自体に無理があったといっても過言ではない。
振り返れば、2003年に地デジがスタートしたときには、同様に既存のアナログ放送と並行して放送されていた。そのときに比べても、視聴可能機器の普及台数は上回っている点を評価したい。
ここで注目しておきたいのは、8Kの動向だ。
8K TVとしては、国内ではシャープが製品化しているに過ぎず、放送もNHKが提供しているだけであり、視聴しているのは極めて限られたユーザーである。
シャープでは、エイトマンを起用した液晶テレビ「AQUOS 8K」のTV CMを行ない、認知度を高めたり、NHKでは、東京オリンピック/パラリンピックで8K放送を予定し、パブリックビューイングの展開などにより、多くの人に視聴機会を提供する計画だが、本当の意味での普及戦略はまだ先だといえるだろう。
だが、コンシューマ利用以外の領域で、8Kの導入が進もうとしている点は見逃せない。2020年はそこに注目しておきたい。
シャープの戴正呉会長兼社長は、「シャープが8Kで狙っているのは、コンシューマビジネスではなく、BtoB。たとえば、セキュリティやスポーツ、アート、エンターテインメイント、教育、医療といった領域で8Kが活用されることになる。シャープは、8Kのリーディングカンパニーとして、8K映像の撮影から、編集、伝送、表示までのバリューチェーンを、世界ではじめて構築している。そこに5Gを組み合わせたソリューション提案をしていく」と語る。ちなみに、ここで示す「編集」領域では、「8K dynabook PC」が役割を担うことになる。
8Kは、むしろBtoBが普及のきっかけになるという点で、これまでの放送方式とは異なるといえる。2020年は、その息吹が見られはじめそうだ。
美しい調和が求められるIT産業
今回のコラムでは、2020年のIT/エレクトロニクス産業を示す言葉を「令和」とした。
政府の発表によると、「令和」は、英語では「Beautiful Harmony(美しい調和)」と表現するという。
いまのIT産業は、クラウドの活用提案が前提となっている。2019年には金融機関の勘定系システムにもクラウド活用されはじめているのを見てもそれが証明される。そして、クラウドの活用によって、ユーザー企業のデジタルトランスフォーメーションを支援する役割を担いはじめており、そのためには、企業やバートナーとのより緊密な連携が求められているのも確かだ。
これまでのITは、ビジネスを支えるという役割を果たし、メーカー、パートナー、ユーザー企業という商流をベースにした関係が中心だった。だが、いまはテクノロジーでビジネスそのものを作る時代になっており、デジタルトランスフォーメーションを推進する上では、メーカー、パートナー、ユーザー企業が同じ立場で課題を解決していく仕組みが求められている。
これがクラウド時代のビジネスの仕方だともいえる。
メーカー、パートナー、ユーザー企業の三位一体による「美しい調和」が、令和のIT/エレクトロニクス産業の成長を支えることになる。