大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
日本マイクロソフトの平野社長に聞くゲーミング事業戦略
2018年9月5日 06:00
日本マイクロソフトが、「ゲーミング」を重要な事業ドメインの1つに掲げた。
日本マイクロソフトは、2019年度(2018年7月~2019年6月)の事業戦略のなかで、「モダンワークプレイス」、「ビジネスアプリケーション」、「アプリケーション&インフラスチラクチャー」、「データ&AI」、「モダンライフ」に加えて、「ゲーミング」ドメインに対しても、ソリューションを提供し、デジタルトランスフォーメーションを支援することを明確に打ち出したからだ。
これは、日本マイクロソフトの平野拓也社長が、2018年8月6日に行なった2019年度事業方針のなかで明らかにしたもので、同社が打ち出す「インテリジェントクラウド&インテリジェントエッジ」の世界観において、それを実現する重要な取り組みの1つに位置づけている。
だが、この日は、「ゲーミング」については、平野社長の口からなんら説明されなかった。そして、2018年8月31日に開催されたパートナー向け年次総会「Japan Partner Conference 2018」においても、「インテリジェントクラウド&インテリジェントエッジ」にふれたスライドのなかに、6つのドメインを表示。そのなかでも、最上位に、「ゲーミング」という言葉を示していたものの、ここでも「ゲーミング」については、なにも語らないままだった。
そこで、日本マイクロソフトの平野拓也社長に、「ゲーミング」について、直撃してみた。
平野社長は、「まだ話せる段階にあるものが少ない」としながらも、「ゲームをサービスとして提供するGaaS(Gaming as a Services)が、今後の潮流になると考えている。日本でもそうした方向性を捉えていく必要があると考えている」とする。そこに、日本マイクロソフトの「ゲーミング」の狙いがありそうだ。
じつは、日本マイクロソフトが、「インテリジェントクラウド&インテリジェントエッジ」の世界観において、2018年度に掲げていたドメインは、「モダンワークプレイス」、「ビジネスアプリケーション」、「アプリケーション&インフラスチラクチャー」、「データ&AI」の4つだけだった。2019年度から、新たに「モダンライフ」と「ゲーミング」を追加。より幅広い領域に展開していくことを示したのだ。
だが、新たに追加されたこの2つのドメインは、重複したり、連携したりする領域が多いものの、そこにいたる経緯が異なる。
「モダンライフ」は、米国本社でも今年度から追加された新たなドメインだが、「ゲーミング」は、米国本社では、2018年度の段階から、すでに盛り込まれていたドメインであり、日本マイクロソフトでは、2018年度時点では、あえてこれを盛り込まなかった経緯がある。
つまり、日本マイクロソフトは、2019年度から、グローバルに足並みにあわせるかたちで、「ゲーミング」を重点ドメインの1つとして、事業に取り組む姿勢を明確にしたといえる。
では、昨年度は重要ドメインに位置づけなかった日本マイクロソフトが、今年度は、なぜ「ゲーミング」を重要ドメインのなかに加えたのだろうか。それを探ってみたい。
Xboxだけではないゲーミング戦略
Microsoftのゲーミングというと、コンソールゲーム機のXboxが挙げられるが、日本マイクロソフトにとっての「ゲーミング」というドメインは、Xboxだけを指すものではない。
ここでは、日本マイクロソフトにとっては、Xbox以外にいくつかの「ゲーミング」が存在することを理解しておく必要がある。
1つは、PCで利用するゲーミングだ。
日本においても、eスポーツへの関心が高まるなど、ゲーミングPCの需要は拡大傾向にある。
こうした動きを日本マイクロソフト自らも捉えていこうというわけだ。
現時点では、日本マイクロソフト自らがゲーミングPCを投入するというわけではないが、国内PCメーカーや外資系PCメーカーを含めて、日本にはゲーミングPCを開発および販売するメーカーが多数存在し、Windows搭載PCを開発、販売するOEMパートナーとの協力関係のなかにおいても、日本マイクロソフトにとって、ゲーミングは重要なカテゴリになっている。
また、ここではゲーミングPCや周辺機器といったハードウェアだけでなく、当然、ソフトウェアやXbox Liveなどのオンラインサービスも含まれる。
このように、Windowsを搭載した高性能PC と、サービスとして提供されるゲームを使ってもらうための仕掛けが、今後増えることになりそうだ。
そして、もう1つは、ゲーム開発者に対するMicrosoft Azureの活用促進だ。
Azureの特徴は、全世界54のデータセンターリージョンに、100以上のデータセンターを持ち、数百万台のサーバーが稼働。世界最大となる強力なサービス基盤と、さまざまな言語を活用できる開発プラットフォームとして、世界中のエンジニアから高い評価を得ている。さらに、オープンソースとの親和性も高く、さまざまな開発言語も利用できるという特徴も持つ。
全世界のゲームソフトウェア市場を俯瞰すると、日本で開発され、日本から世界に向けて発売される製品も少なくない。こうした日本にいる数多くのゲーム開発者に、Azureを使ってもらおうというのが、日本マイクロソフトの「ゲーミング」ドメインにおける、もう1つの重要な柱になるというわけだ。
日本マイクロソフトの平野拓也社長は、「日本は、米国、韓国、中国とともに、ゲーム開発の重要国の1つに位置づけられており、グローバルでの開発者支援への投資は、前年比2桁増となっている。さまざまなコンソールやデバイスで利用してもらえるゲームを、Azure上で開発できる環境を用意し、開発したタイトルをサービスとして提供する支援も行ないたい」とする。
Xboxはパブリッシャーとの提携を拡大へ
もちろん、Xboxは、ゲーミング分野における重要な製品であることは間違いない。だが、ここ数年、日本では積極的な拡販策を打ち出すよりも、Xboxのコアユーザーに対して、しっかりとしたメッセージを届け、手厚く支援する体制を重視している。
じつは、米Microsoftが発表した2018年度(2017年7月~2018年6月)の連結業績でも、Xboxは大きく成長している。日本にいるとその感覚は薄いが、具体的には、ゲーム部門の売上高は、同社として初めて年間で100億ドルを突破し、前年比14%増の103億5,000万ドルに達した。第4四半期だけを見れば、前年同期比39%増という高い成長を記録。Xboxだけでも、前年同期比36%増という伸びをみせ、Xbox Liveのアクティブユーザーは5,700万人に達している。
2018年6月に、米ロサンゼルスで、E3の開幕直前に開催された「Xbox E3 2018 Briefing」では、会場のMicrosoft Theaterに、1,000人を超えるファンをはじめ、6,000人以上の関係者が参加。Microsoft史上最大規模のE3ブリーフィングとなり、大きな盛り上がりをみせたのは記憶に新しい。
だが、日本では、グローバルで推進している成長戦略を踏襲していない。海外と日本とでは、このあたりに大きな差がある。
これは、2014年にサティア・ナデラCEO体制になって以降のMicrosoftの新たな戦略だと捉えることができる。
日本は、ファミリーコンピュータ以来、コンソールゲーム機で長い歴史を持つ任天堂、プレイステーションを展開するソニー・インタラクティブエンタテインメントのホームグランドであり、その市場において、Xboxは、国内市場シェアでは苦戦しているのは周知のとおりだ。また、日本の市場は、スマホゲームの利用でも先駆的であり、それも、日本におけるXboxのビジネスに影響を与えているといえるだろう。
だが、その一方で、コアなXboxユーザーが一定数いるのも、日本におけるXboxの特徴。日本マイクロソフトは、そうしたユーザーに対して、手厚いサポートを行なう姿勢は崩していない。
米Microsoftは、こうした主要なビジネスにおいても、グローバルはグローバル、日本は日本といったように、地域の状況を捉え、メリハリをつけたマーケティングを行なっているわけだ。
じつは、先にふれた「Xbox E3 2018 Briefing」は、日本のゲーム業界に対して、大きな意味を持つ出来事があった。
Xbox E3 2018 Briefingでは、Xbox One向けに52のゲームタイトルが発表されたが、そのうち9タイトルに日本のパブリッシャーが関わっており、Xboxにおいても、Microsoftと日本のパブリッシャーとの良好な関係を証明するものになったからだ。
ここでは、米本社ゲーミング部門直結で、日本のパブリッシャーとの協業拡大を推進する専門部隊が日本に設置されており、ゲーミング分野でのさらなる連携の拡大を目指していることも見逃せない。
サービスとしての展開
そして、今後の動きとして注目しておきたいのが、「サービス」としてのゲーミングの展開だ。
Microsoftは、2017年春から、100タイトル以上にのぼるXbox OneおよびXbox 360のゲームを、無制限でプレイできるサブスクリプションサービス「Xbox Game Pass」を提供している。これは日本では提供していないサービスだが、今後、日本での展開が期待されるサービスの1つだといえる。
さらに、2018年8月27日には、Xbox Game Passに加えて、Xbox One本体まで含めたサブスクリプションサービス「Xbox All Access」を、米国で開始すると発表している。
Xbox All Accessは、携帯電話に似た契約形態で、2年契約を前提に、Xbox One X本体付属のプランだと月額34.99ドル、Xbox One S本体がついたプランでは月額21.99ドルを支払えば、期間中には、100を超えるゲームタイトルをプレイし放題で、さらに期間が終了する2年後には本体も手に入る。
日本マイクロソフトの平野拓也社長は、「Microsoft全体として、Xbox All Accessに代表されるような『GaaS(Gaming as a Services)』に力を入れることになる。これは、ゲーミング市場においてモメンタムを持った動きになる」とする。
また、2018年3月には、米国本社ゲーミング部門のなかに、「クラウドゲーミング」の専門組織を設立。E3の開催にあわせて、ゲーム自体をストリーミングで配信するクラウドゲーミングサービスを準備していることも明らかにしている。
XboxやWindows ベースのゲーミングPCのみならず、マルチプラットフォームでの展開も視野に入れており、今後 日本でもこうしたサブスクリプションやクラウドゲーミングサービスが利用できるようになることにも注目が集まる。
日本マイクロソフトの平野社長は、日本での取り組みについて、詳細はふれなかったが、「米Microsoftと同じ方向性は持っている」とコメントする。
日本マイクロソフトが、「ゲーミング」というドメインを新たに追加したのは、Xboxユーザーへのゲームタイトルやサポートの充実に加えて、ゲーミングPCやクラウドゲーム市場の拡大、そして、日本のゲーム開発者にAzureを活用してもらうという狙いが大きいといえる。
日本マイクロソフトが、ゲーミングで存在感を発揮する余地は、じつはかなり大きい。ゲーミングを重要ドメインの1つに掲げた日本マイクロソフトが、今後のゲーミング分野で、どんな手を打つのか。注目しておきたい。