大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

【新春恒例企画】2017年のトレンドは「12345」という5つの数字に集約!?

2016年は予測を覆す出来事の連続だった

 2016年における日本のIT/エレクトロニクス産業は、激動の1年であった。

 その激動ぶりは、IT/エレクトロニクス産業の再編1つをとっても明らかだ。シャープは、8月に鴻海精密産業の傘下に入り、東芝は、6月末に中国マイディアグループに家電事業を譲渡。さらに、富士通が、PC事業をLenovoグループに統合する方向で検討を開始していることも明らかになった。いずれも年初には異なる方向性が打ち出されていたものが、終わってみれば予想外の結果に終わっていたものばかりだ。

 シャープは、年初には官民ファンドである産業革新機構案を選択することが有力と言われていたものが、一転して鴻海案に覆った。東芝の家電事業も産業革新機構案をもとに、シャープの家電事業と統合することが有力視されていたが、それもご破算になった。そして、PC事業に関しても、富士通、東芝、VAIOによる3社連合が誕生するはずだったのが、結果として、VAIOは独立した道を歩むことを決定。東芝は自主再生の道を選択し、富士通は、Lenovoグループ入りという新たな選択肢に踏み出した。

 想定された出来事が覆されるのは、英国のEUからの独立、米次期大統領にドナルド・トランプ氏が選ばれたこととも重なる。まさに何が起こるか分からない時代が訪れていることを証明したのが2016年であったと言えよう。

 では、2017年はどんな1年になるのだろうか。やはり激動の時代が続くのは間違いないようだ。

 新春恒例の言葉遊びをしながら、行方を占ってみよう。

 2017年は、ずばり、「12345」という数字にトレンドが隠れている。

国内PC市場における独占が強まる

 2017年のトレンドを示す最初の数字が「1」である。

 ここでは、PC市場における「1」社独占の傾向が高まることを示している。

 先にも触れたように、富士通のPC事業は、Lenovoグループと統合する方向で検討が進められている。これが実現すれば、国内における市場シェアは、3社合計で45%に達する。かつてNECがPC-9800シリーズを投入していた時には、シェアが50%を突破。「ガリバー」とさえ称された時期があったが、それに匹敵する規模にまでシェアが高まることになる。

富士通はLenovo傘下でどう再生するのだろうか

 だが、既にLenovoグループ入りしているNECパーソナルコンピュータと、富士通のPC事業は重複する部分も多い。大規模な事業再編は避けては通れない点が気になるところだ。2017年は、PC-9800シリーズが1982年10月に登場してから、35年目を迎える年でもある。かつてPC-9800が成しえた、1社独占とも言える状況が、Lenovoグループによって再び成しえるのか。発売35年という節目の年も加わり、PC業界全体にとって、最も気になる動きだと言える。

 「2」は、「2in1 PC」の新たな進化が期待できるという点だ。

 国内においては、既に「2割以上」が2in1 PCとなっており、ノートPCとして利用したり、タブレットで利用したりといったように、さまざまな用途や使用環境に応じた使い方ができる点が評価されている。この比率がさらに高まると予想されているのに加えて、さらに、2in1を超える新たな領域のPCが登場する期待感も高まる。その1つが、2016年12月8日に中国深セン市で開催された「WinHEC Shenzhen 2016」において言及された「Cellular PC」の存在だ。このイベントでは、Qualcommとのパートナーシップを通じて、Windows 10をARMアーキテクチャに対応させることを発表した。これによって、Windows 10 Mobile の戦略にも大きな変化が生まれるとともに、PCにも、スマートフォンにも分類できないようなWindows 10デバイスが登場する可能性が指摘されている。

 既に、日本HPが発売した「Elite x3」では、スマートフォンやタブレットとしての利用だけでなく、デスクドックやノートドックを活用することで、デスクトップやノートブックPCとしても利用が可能な環境を提案してみせた。このように4つのデバイスを1台に統合した提案は、Cellular PCの1つの方向性を感じさせるものだと言えるだろう。

日本HPのHP Elite x3は新たなカテゴリを創出できるのか

 また、人気を博しているLenovoのYOGA BOOKのように新たな技術を活用することで、これまでには考えられなかった新たなインターフェイス体験と、剛性を持ちながら最薄を実現した2in1が登場してきたことも、2017年の新たなデバイスの進化に期待を持たせるものになったと言える。

YOGA BOOKは新たな技術で進化を遂げたデバイスとして注目されている

第3次AIブームが本格化する1年に

 「3」は、「第3次ブーム」を迎えたAI(人工知能)を指す。今回のAIブームは、2017年には、いよいよ本格的な活用フェーズへと進化していくことになるだろう。

 AIは、1950~1960年代の第1次ブーム、1980年代には第2次ブームを迎えたが、実用化には至らなかった。だが、第3次ブームの今、AIは、クラウドやネットワーク、ビッグデータ、機械学習などの進化により、本当の意味で活用できるものになってきた。いや、これからの社会や生活においては欠かせないものになっていくだろう。機械学習や深層学習といった技術の進展によって、AIは大きく進化しており、自動翻訳サービスや、より高度な購入体験に利用されたり、経営判断や効率的な営業活動などにも利用されている。そして、自動運転にも欠かせないものになってくる。自動運転は、レベル「3」と言われる領域に入り始めており、その動きが世界各国で見られることになりそうだ。ここでも「3」の数字が絡んでくる。

自動運転はレベル3の領域に入っていく

 そして、ロボットの進化にもAIは大きく影響を与える。2017年も数々のロボットが登場することになるだろうが、AIが、ロボットの利活用シーンをいかに広げるかといったことに大きく影響を及ぼすことになる。

AIを活用して人間の心理や行動を予測することもできるようになる
AIとロボットの関係はより緊密になってくる

 AIは、あらゆる産業においても活用されているものであり、そうした動きがあらゆるシーンで見られることになるのが2017年ということになろう。

 また、3という意味では、「3Dプリンタ」の普及も2017年は注目しておきたい潮流の1つだ。重要特許の期限切れとともに、多くの企業が参入をはじめたこの分野での争いは、これから激しくなるのは必至。材料開発を含む技術進化と、普及価格帯への広がりによって、これまで以上に市場拡大が加速するのは明らかだろう。今後、数年間のトレンドとして捉えておきたい領域だ。

 「4」は、「4割減」。PC市場が縮小したまま、今年も成長がない1年となりそうだ。

 MM総研によると、2012年には1,521万2,000台だった国内のPC市場は、2016年には933万台になると予測されており、「約4割減」へと市場が縮小している。実は、世界のPC市場もほぼ同じような状況が続いている。2012年に比べて、市場規模は3分の2程度にまで縮小しているのだ。これだけの市場縮小は業界関係者も予測できなかったのではないだろうか。残念ながら、PC市場は、2017年も大幅な成長を見込めず、市場規模はこのままで推移しそうだ。数年で市場が大きく縮小したPC市場では、世界規模で再編が進んでおり、富士通のPC事業の統合の動きもそうした流れの中で出てきたものと捉えていい。PC業界全体が大きな転換点にあるのは間違いない。

PC市場はわずか数年で4割減になっている

IoTは日本の企業に成長のチャンスを生む

 一方で、4については、「4K TV」にも触れておきたい。国内における普及がさらに加速するのが2017年になりそうだ。

 BCNの調べによると、2016年に発売されたTVの約5割が4Kであったほか、既に販売台数では3割を占め、40型以上に限定すれば、既に6割を4K TVが占めている状況だ。2017年は、2011年の地デジ完全移行を前にした特需で購入された数多くのTVが、買い替えサイクルに入ってくるほか、有機EL TVの製品化も期待される。2017年は4K TVの販売に弾みがつくことになるだろう。

4K TVの構成比はこれからも上昇していくことになりそうだ

 もう1つ、4については、「Industry4.0」が挙げられよう。Industry4.0は、ドイツにおける製造業の高度化に取り組む政府プロジェクトであり、主要国でも同様の施策を打ち出し始めている。そして、Industry4.0は、同時に、IoT活用の先進的事例の1つとして捉えられることも多くなってきた。

 IoTという言葉はいまや一般化し、さまざまな領域で使われている。IoTから発信されるデータはビッグデータとなり、それをアナリティクスツールによって、分析し、AIを使って有効な回答を導き出すことで、社会的課題を解決したり、サービスの向上などにより、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めることに繋げることができたりする。いわば、今業界で話題になっているキーワードは、全てがIoTに繋がっているとも言える。ここではセンサー技術に長けた日本のIT/エレクトロニクス産業の企業に、新たな成長機会をもたらす可能性が指摘されている。IoTの広がりとともに、日本の企業がどんな成長曲線を描くかがこれからの注目点だ。

各種センサーを活用したIoTはさまざまな領域で活用されることになる

 最後の「5」だが、ここでは「5G」を挙げておきたい。

 2020年の実用化を目標に、NTTドコモなど各社が取り組んでいる5G(第5世代移動通信システム)は、10Gbpsを超える通信速度、LTEの約1,000倍の大容量化を実現することで、一度により多くの人が、高速環境で通信ができ、即時の応答が要求される機械同士の通信にも対応。今まで経験したことのない新しい世界を創出し、人々の暮らしを、もっと便利に、快適にできるという。

 NTTドコモでは、5Gを活用した新しいサービスを創出することを目的に、一般ユーザーが体験できるトライアルサイトを、2017年5月以降に構築する計画を明らかにしており、お台場などの東京臨海副都心地区や東京スカイツリータウン周辺において、高品質なVRコンテンツ配信に向けたデモンストレーションが体験できるようになる。2017年は、5Gの世界がより身近に感じられるような1年になると言えるだろう。

ドローンやVRなどの新技術にも注目

 これまで、1から5までの数字にまつわるトレンドを取り上げてきたが、今年はこれだけでは終わらない。

 実は、数字の並びにも、2017年のトレンドが隠されている。そこで、「12」、「23」、「34」、「45」という数字からもトレンドを見てみたい。

 「12」では、最新データとなる2015年のデータで、「1.2兆円」の市場規模に拡大してきたドローンを挙げておきたい。

 矢野経済研究所によると、ドローンの世界市場は、2015年に1兆2,410億円だったものが、2020年には2兆2,814億円まで拡大すると予測している。しかも、民間での利用が促進され、市場の半分ずつを軍事用と民間用で分けることになるという。

 既に、国内ではNTTドコモやKDDI、ソフトバンクが、携帯電話ネットワークを活用したドローンの実証実験を開始しており、遠隔地からの操作のほか、荷物輸送や災害救助、農業支援、設備検査、測量などの用途にも利用できるドローンプラットフォームの確立を進めている。一部サービスは2017年にも実用化される予定であり、ドローンの本格的なBtoB利用に向けた一歩が進む1年になるだろう。

 「23」では、2016年において、「23億ドル」にまで拡大していたVR(仮想現実)を挙げておきたい。PlayStation VRの品薄が発売以来続くなど、VRは、2016年に一気に注目を集めるデバイスになった。さらに、AR(拡張現実)についても、昨年(2016年)、世界的なブームとなった「ポケモンGO」によって、一気に身近なものになってきたと言えよう。そして、MicrosoftのHoloLensのようなミックスドリアリティという領域でも具体的な成果があがってきている。ハードウェアの進化と、ソフトウェアの進化という2つの進化が著しいのがこの分野であり、2017年も注目トレンドの1つになることは間違いない。

VRおよびARはハードとソフトの進化が鍵になる

2017年もなにが起こってもおかしくない1年に?

 「34」では、2015年度の市場規模が「34億円」となったFinTechを挙げておきたい。

 現時点では、金融機関における顧客サービス向上などにITを活用するといった動きが中心だが、Amazonが米シアトルで実証実験を行なっている無人店舗「Amazon Go」のほか、NECと三井住友フィナンシャルグループが顔認証で社員食堂の代金を決済する実証実験を始めるなど、金融サービスをリアルの店舗を結び付けた動きが出ている。このように、2017年には、小売店をはじめとする他の業界を連動したFinTechの動きが活発化するだろう。実際、「Amazon Go」は、2017年には正式オープンする予定であり、FinTechの動きを加速する取り組みの1つとも言える。

 矢野経済研究所では、2020 年度までには、568億円にまで市場規模が拡大すると予測しており、今後はさまざまな領域でFinTechの広がりがみられることになりそうだ。

FinTechの広がりは業界を超えることになりそうだ

 そして、最後の「45」だが、ここでは、2017年も予想外の出来事が続くということで、2017年1月20日に「第45代」アメリカ合衆国大統領に就任するドナルド・トランプ氏を挙げておきたい。

 その政策がどうなるのか、株価や為替への影響はどうなるのか、国際社会における米国の立ち位置はどうなるのか、などといったことを含め、日本のIT/エレクトロニクス産業への影響は必至だろう。

 しかし、2016年には、なにが起こってもおかしくないという経験をしてきたIT/エレクトロニクス産業である。2017年もなにが起こってもおかしくないという姿勢でいることが大切だ。