山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

PFU「ScanSnap SV600」(前編)

~本を見開きのまま読み取れるオーバーヘッド方式のスキャナ

PFU「ScanSnap SV600」
7月12日 発売

価格:オープンプライス(PFUダイレクト価格:59,800円)

 PFUの「ScanSnap SV600」(以下SV600)は、本を開いた状態で読み取れる、非破壊タイプのスキャナだ。本を読み取るために裁断が必須となるドキュメントスキャナと異なり、見開きの状態で本のスキャンを実行し、ソフトウェアでゆがみを補正するという仕組みを採用している。

 非接触タイプのオーバーヘッド方式であることから、本はもちろんのこと、汚れやすい原稿、例えばクレヨンや鉛筆、パステルなどの画材で書かれた絵などのスキャンにも向く。ドキュメントスキャナには通せない厚みのある原稿(最大約30mm)にも対応するほか、多くのスキャナでは対応できないA3サイズのスキャンに対応するのも利点だ。そのほかにも、名刺を複数枚まとめて取り込める機能を搭載するなど、非接触・非破壊という特性を活かし、さまざまな用途に対応した製品となっている。

 今回、本製品についてメーカーより製品版と同等の量産品サンプルを借用できたので、前後編にわたってレビューをお届けする。今回はまず前編として、本を見開きでスキャンする場合の基本的な使い方と、製品ページなどでは伝わりにくい特徴やクセなどを中心にチェックしていこう。

同梱品一覧。本体のほか、背景マット、USBケーブル、ACアダプタおよび電源ケーブル、ソフトウェア一式が付属する。また製品版では本体を両サイドから押さえるストッパーも付属する
「ScanSnap iX500」との比較。背こそ高いものの、フットプリントは本製品の方が小さい
「ScanSnap S1300i」との比較。色使いはS1500/1300i/1300などのSシリーズに近い。ちなみに本製品の型番「SV」の「V」は後述のVIテクノロジを指しているとのこと

オーバーヘッド型で独特の外観。マットを敷いてスキャンを行なう

 本製品は、スキャナ本体に相当する台座付きのヘッド部と、添付の背景マットから構成される。本体はヘッド部が支柱によって支えられている構造だが、とくに支柱部を折りたたんだり、ヘッド部を取り外したりといったことはできず、未使用時は直立させたまま保管する。ただしフットプリントが小さいこともあり、それほど邪魔にならない。

正面。高さは383mmとそこそこ大きい。タワー型PCと同程度はある
側面。見た目は頭でっかちだが安定感はそこそこ高い
背面。支柱部はとくに可動するギミックはない。台座部分には端子と盗難防止ホールがある
ヘッド部。高被写界深度レンズとライン型のCCDセンサー、および原稿を照らす高指向性のLED光源が内蔵されている。この3つを合わせて同社ではVIテクノロジ(Versatile Imaging Technology)と呼称している

 台座部分には電源ボタンを兼ねた「Scan」ボタンと「Stop」ボタンを備える。従来製品であるiX500はトレイの開閉と連動して電源のオンオフを行なう仕組みだったが、オーバーヘッド方式の本製品はこうした開閉ギミックがないため、Scanボタンが電源ボタンを兼ねる仕組みになっている。写真では分かりにくいが、中央にStopボタンとLEDがあり、その周囲のプレートがまるごとScanボタンとなっている。ボタンの幅が左右に広いのは、本のページを押さえた状態で指を伸ばしてボタンを押せるようにとの配慮であろう。

 原稿を載せるための背景マットは、表面はフェルトに似た薄い起毛で、裏面は滑り止めの加工が施されている。使わない時は丸めて収納しておけるが、巻き付けるための紙の筒しか付属していないので、きちんと保管したい人は製図用のケースなどを併用するといいかもしれない。本製品用のキャリングバッグがバード電子から近日中に発売されるそうなので、本体ともども、出したり片づけたりが多い人は、そちらを使うのも手だろう。

台座。中央にStopボタンがあり、その手前にLED、周囲のプレートがScanボタンとなっている。左右にある白いエリア(白シート)は起動時のキャリブレーションに使われるので覆い隠してはいけない
台座の背面。電源コネクタとUSBコネクタがある。ちなみにUSBは2.0で、iX500で採用されたUSB 3.0ではない。毎分25枚読み取れるiX500に比べると単位時間あたりのデータ転送量ははるかに少ないので、USB 2.0で十分ということなのだろう
背景マット。中央上のくぼみにSV600の台座がはまるようにセットする。裏面は滑り止め加工が施されている
背景マットには原稿のサイズの目安となるガイドが印刷されている。最大でA3サイズまで対応とされる(原稿の厚みによっても変動する)

 ACアダプタはコンパクトなサイズで、型番を見る限りiX500と同一である。添付のAcrobatは、iX500に添付されていた「Acrobat X」ではなく、最新版の「Acrobat XI」(いずれもStandard版)に差し替えられているのが嬉しい。

 なお、本製品の対応OSは今のところWindowsのみ。Mac用のソフトウェアは秋ごろに無償ダウンロード提供予定とされているので、Macユーザーは気長に待つことにしたい。

セットアップは簡単。ユーティリティは新規項目が追加に

 セットアップの手順について見ていこう。流れとしては、PC側にソフトをインストールしたのち本製品をUSBケーブルで接続。電源ケーブルを繋いで電源をオンするというもので、従来製品と同じで非常にシンプルだ。唯一、インストールの順序はソフトウェアが先で、そのあとにハードを接続する点だけは間違えないように気をつけたい。

ソフトウェアは添付のDVD-ROMからインストールする。ScanSnapユーザーにとってはおなじみの画面
先にソフトウェアのインストールを終えたのち、スキャナ本体をUSBケーブルでPCに接続する。なおiX500のように無線で接続したり、あるいはスマートフォン/タブレットから直接読み取る機能はない
電源を投入したのち、本体のLEDが青く点灯すれば接続完了。PCのタスクトレイの「ScanSnap Manager」が青色になれば利用できる

 スキャンの各種設定はおなじみのユーティリティ「ScanSnap Manager」で行なう。従来製品で使われていたバージョンに比べて設定項目はいくつか増えているが、画面デザインも含めて大きな変化はなく、既存ユーザーには馴染みやすいだろう。他社製品ではスキャン周りの機能が複数のユーティリティに分散していて戸惑うこともあるが、本製品ではそうしたこともないので、初心者にも扱いやすいはずだ。

ScanSnap Managerの「アプリ選択」タブ。読み取ったあとに使うアプリもしくは挙動を指定するが、本を読み取る場合は、デフォルトで選択されている「ScanSnap Organizer」そのままにしておいた方がよい。理由は後述する
「保存先」タブ。従来の画面と変わらない。ファイル名の命名ルールもここで設定できる
「読み取りモード」タブ。ここも従来とほぼ同じで、エクセレント(カラー/グレー600dpi/白黒1,200dpi相当)までの画質が指定できる。カラーモードはカラー/グレー/白黒のほか、カラー高圧縮が用意される。読み取り面は片面のみ
今回新たに追加された読み取りモードのオプション。Scanボタン押下から実行までの待ち時間のほか、自動読み取りの方法を2つの選択肢から選べる。詳しくは後述
こちらも読み取りモードのオプションで、新たに蛍光灯のちらつきを軽減する項目が追加されている
「ファイル形式」タブ。利用可能なフォーマットは従来製品と同じくPDFとJPGの2種類
「原稿」タブ。読み取る原稿のタイプは、スキャン終了のたびに選ぶのではなく、ここであらかじめ指定しておくこともできる
「ファイルサイズ」タブ。とくに従来との違いは見られない

ページめくりを検出し自動スキャン。所要時間は1枚につき約3秒

 本製品はその形状こそ従来のScanSnapと大きく異なるものの、使い方はScanSnapシリーズを踏襲しており、まったく難しくない。まず読み取りたい本をセンターマークに合わせて背景マットの上に広げたのち、PC側のユーティリティ「ScanSnap Manager」で適切な読み取り設定を選択。次いでスキャナ本体のScanボタン(もしくはScanSnap Managerの開始ボタン)を押すと読み取りが開始される。とくに奇をてらったところはない。

まずは本をセット。センターラインはなるべく合わせた方がよいとされるが、試した限りでは、それほど神経質になる必要はないようだ
PC側の読み取り設定を確認したのち、Scanボタンを押してスキャン開始。LEDのあるプレート全体がScanボタンになっている
スキャン中の画面。このあたりは従来製品と同様だ。継続読み取りがオンになっていれば次々とページをめくってスキャンしていける
【動画】ページをめくりながら本をスキャンしている様子。ここでは後述の「ページめくり検出」をオンにし、ページがめくられるたびにスキャンが自動実行されるよう設定している

 スキャンについては、ヘッド部のLED光源から照射される光が、ほぼA3サイズに相当する全面積を奥→手前に向かってなぞり、元の位置に戻るという動きを、原稿1枚ごとに繰り返す。この際、両サイドのLED光源の間にあるCCDセンサーが、原稿を読み取るという仕組みになっている。つまり横一列をまとめて読み取る仕組みだ。

 1回のスキャンにかかる時間は実測で約3秒弱で、レンズ部が元の位置に戻る動作と合わせて往復で5秒ほどかかる。ドキュメントスキャナとはさすがに比べ物にならないが、フラットベッドスキャナやコピー機などの感覚からすると極めて速く、待たされているという感覚はない。間で原稿を交換するプロセスがあるのも一因だろう。

読み取りモードのオプション。指定時間経過後に次のスキャンを実行するタイマーモードと、ページめくりを検出するとスキャンを実行するモードをそれぞれ備える

 ところで両指でページの両端を押さえているにもかかわらず、さらにScanボタンを押すというのは、いくらボタンの幅が広いにせよ、やや無理がある話ではある。そのため本製品では、Scanボタンをその都度押さなくとも自動的にスキャンを実行できる2つのモードを備えている。1つは一定秒数ごとにスキャンする「タイマー機能」、もう1つはページがめくられたことを検知してスキャンを実行する「ページめくり検出機能」だ。

 とくに本の見開きスキャンで多用することになると思われるのが、後者の「ページめくり検出機能」だ。小さな動きには反応せず、ページをめくるダイナミックな動きにだけ反応するという、よく考えられた仕組みになっている。もしうまく反応しなかった場合は、ヘッド部の下方に手をかざして引っ込めれば、きちんとスキャンを実行してくれる。例えがあまりよくないが、公衆トイレで水を流す際にセンサーを反応させるのと同じ要領といえば、お分かりいただけるだろう。もちろん、センサーによる検出にこだわらずに、直接Scanボタンを押してもよい。

 このほか、Scanボタンを押してから読み取りを開始するまでの待ち時間を指定することもできるので、原稿の種類や自分のやり方に合わせて設定を変更し、複数の見開きを次々とスキャンできる。一通り読み取りが終われば本体台座のStopボタンを押し、スキャンを終了させるとよい。なお、電源オフはStopボタンの長押しに割り当てられている。

ゆがみ補正とページ分割、指削除を行なう「ブック補正」機能を搭載

 さて、従来のScanSnapであれば、ここまでの操作でスキャンデータが保存されて作業を完了できていたわけだが、本製品を用いて本を見開きで読み取った場合、このあとに補正を行なうための工程がある。ページが湾曲した状態で、かつ斜め上方から読み取った画像を、ゆがみのないフラットな形状に補正し、あわせてページ分割や指先の消去を行なう作業だ。これについて詳しく見ていこう。

 本を補正する機能は「ブック補正」という名前で、従来の「向き補正」、「傾き補正」とともに補正機能の1つとして提供される。自動的に適用される「向き補正」、「傾き補正」と異なり、「ブック補正」についてはイメージの確認/修正を行なう「補正ビューア」というウィンドウが表示され、ここで読み取ったデータをチェックしていくことになる。

スキャンが完了すると保存方法を選択する画面が表示される。本を見開きで読み取った場合は補正を行なう必要があるので、「本や雑誌などの見開き原稿を、ゆがみの補正をして保存します」を選択したのち、画面下部の「イメージを確認/修正する」をクリックする
「補正ビューア」が表示された。右側にページの一覧が、中央にはそのページの補正画面が表示される。これはゆがみの自動検出がうまくいったページの例。細かいズレは手動で修正することも可能

 この「ブック補正」がもつ機能は、以下の3つに分けることができる。

(1)ゆがみ補正
(2)見開き分割
(3)写り込んだ指先の補正(ポイントレタッチ)

 まず(1)のゆがみ補正は、ゆがんだページをフラットに変形させる機能だ。変形させるためには、まず本の輪郭を検出する必要があるわけだが、多くの場合は自動的に検出される。うまく自動検出できなかった場合のみ、手動で輪郭をなぞってやる必要がある。

 自動検出は、文庫や新書のように上下左右に一定の余白があればたいてい成功するが、雑誌のカラーページのように色使いが複雑で、黒かそれに近い色の写真が裁ち切りで載っていたりすると自動検出を失敗しがちで、見開きごとに手動で直す必要が出てくる。アンドゥも可能(Ctrl+Zによるやり直しにも対応)であるなど操作性は悪くないのだが、手間自体はかなりのものだ。

これは自動検出がうまく行なわれなかったために手動で輪郭設定を行なっているところ。輪郭線をなぞる操作はPhotoshopで言うところのマグネット選択ツールの挙動に近く、色の変わり目を検出して吸着してくれるので、カーブも複雑な操作をすることなく半自動で選択できる。いわゆるアンカーポイントは四隅+中央上下の計6カ所
ズームアップして細部の位置合わせを行なう。ここでは輪郭線をドラッグして調節しているが、各コーナーをダブルクリックすることで最寄りのアンカーポイントを吸着させる機能もある。範囲選択が完了したら右上の「補正実行」をクリック
ゆがみ補正が実行され、ページがゆがみのない状態になった。この際、見開きの順序を指定しておくことで(2)の見開き分割も同時に実行される。ページ左下に写っている指先の消去はこのあとのステップで行なう

 (2)の見開き分割は、「見開きのまま保存」、「左綴じとして左右分割保存」、「右綴じとして左右分割保存」の3つの選択肢から選んで実行する。作業としては(1)の工程と一括処理できること、また全ページまとめて行なうことも可能なので、それほど手間ではない。

 もっとも手間がかかるのが、画面上に写っている指先をクリックして塗りつぶす(3)の機能だ。挙動としてはスタンプツールに近く、選択した範囲が周囲の色で塗りつぶされる。背景が単色もしくはパターンであれば、そこに指があったことすら分からないほどきれいに塗りつぶせるが、写真などの上では不自然になる。スキャン時はなるべく無地の部分を選び、極力1本の指で真横からページを押さえるのがコツということになる。

写り込んだ指先(左下)の補正。画面左上の赤点線ボタンをクリックして選択したのち、画面上の指先をクリック
指先が自動選択されるので右上の「補正実行」ボタンを押す。うまく自動選択できなかった場合は輪郭をドラッグして調節する。なお指先は最大5つ(つまり5本指)まで同時に選択できる
補正を実行すると指先が周囲の色で塗りつぶされた。なお、この指先補正は(1)(2)の作業を終えたあとでないと行なえない
【動画】ページの輪郭が自動的に検出されている場合は、見開きの分割を実行したのち、写り込んだ指先を補正(ポイントレタッチ)するだけで済む。また、あらかじめ分割の向きなどを指定して操作を省力化することもできる
【動画】ページの輪郭がうまく自動検出できなかった場合は、輪郭線を手動で設定してやる必要がある。各コーナーの点をドラッグするか、あるいは各コーナーをダブルクリックしてもよい。輪郭線を設定したあとは、見開き分割、指先補正の順に作業を行なう

ブック補正を、いかに手動ではなく自動で済ませられるかがカギ

この例のように、本の厚みがあればあるほど、本来のページの端ではなく、紙が重なった段差の端までをページの一部として輪郭検出しがちなので、そのぶん手動補正の手間が増える(もちろんこれらを無視して補正せずに仕上げる方法もなくはない)

 以上がブック補正についてだが、実際に試用した限りでは、本製品による本の見開きスキャンでもっとも手間がかかるのは「本1冊分のページを手でめくること」ではなく、このブック補正のプロセスである。試しにカラー120ページのムック本で試したところ、スキャンそのものにかかった時間が12分程度であるのに対し、補正処理には1時間以上を要した。全ページカラーで夜空などの暗い写真が裁ち切りで掲載されており、ほとんどのページで手動補正を強いられたことが原因だが、1冊やり遂げるだけでぐったりするほどの作業量である。

 ちなみにほかの本を試した限りでは、巻頭を除きモノクロのコミック(212ページ)では、スキャン時間30分に対してブック補正時間50分。全ページモノクロでテキストのみの新書(204ページ)では、スキャン時間25分に対して補正時間40分。後者は自動補正がほぼ完全に成功しており、手動で行なったのは指先補正のみなのだが、それでもスキャン時間と合わせて1時間を超えてしまっており、やはり少々負担が大きい。一方、フルカラーの映画パンフレット(28ページ)は、スキャン時間4分+補正時間12分で、この程度であれば何とかなるという印象だ。

 まとめると、50ページ程度に収まる冊子ならできなくはないが、それ以上は手動補正に非常に手間がかかるので、へこたれない強い意志が必要、という結論になる。中でも、黒の背景に溶けこんで境目が分かりにくいページだと、ほぼ確実に自動補正が効かないので、手動での補正作業に莫大な時間がかかる。それでも50ページくらいまではなんとか頑張ろうという気になるが、それ以上になると覚悟が必要である。

 また、ページ数が増えてくると本の厚みが増すことから、紙の段差までページの一部として輪郭検出してしまう確率が高まり、結果としてその修正の手間が増えがちという問題もある。本製品の仕様上、厚み30mmまでの本は読み取りが可能とされているが、厚みがあればあるほど手動補正が必要になる点は注意しておいた方がよさそうだ。

 ところで、ここまで見てきた補正ビューアの機能について、追加で欲しいと感じる機能が2つある。

 1つは縦横比を調節する機能。本製品で本を読み取って補正すると、そのほとんどが横にいくらか引き伸ばされた状態になる。しかし現状では比率を変更する機能がないため、ページによってはスクエア比率をワイドに引き伸ばしたかのような状態のまま保存しなくてはいけない。手動で構わないので、縦横比を調節する機能はなんらかの形で欲しいところだ。

 もう1つは、輪郭線の自動選択において、上下だけではなく左右の辺をぴったりと沿わせる機能。ページの輪郭を選択する際、上下の辺はマグネット選択ツールを使ったかのように輪郭にぴったり吸着するのだが、左右の辺はそうではなく、基本的に上から下へと直線が引かれるだけで、ドラッグしても微調整ができないのだ。その結果、左右の辺が内側に向かってくびれていたりすると、背景の黒い部分が残りがちになってしまう。左右の辺も自動的に輪郭に沿って吸着できるようになってほしいところだ。

うめ氏「大東京トイボックス」1巻より。左は裁断してドキュメントスキャナ(ScanSnap S1500)で取り込んだもの、右は裁断せずに本製品で取り込んで補正したもの。本製品で取り込んだページが横方向に引き伸ばされていることが分かる
同じくうめ氏「大東京トイボックス」1巻より。輪郭の検出(赤の破線)において、上下の辺はページの輪郭を自動検出してぴったり合っているが、左の辺、および右の辺(青矢印)は、上から下に向けてほぼ一直線に引かれているだけで微調整ができず、本来の輪郭との間にずれが生じてしまっている
左の画像を手動補正したのち出力したもの。ページの左端(青矢印)に背景の黒い部分が残ってしまっている

 なお、これらブック補正は必ずしもスキャン終了後に行なう必要はなく、ひとまず先に保存して作業を終わらせ、あとで時間のある時に開いて補正することも可能だ。ただしこの中間ファイル(作業データ)を開けるソフトは「ScanSnap Organizer」だけなので、うっかりほかのソフトでPDFを開けてしまい、作業ファイルが失われることがないように注意したい(もちろんアラートは表示される)。

補正前の中間ファイル(作業データ)を保存しておき、あとから補正作業を行なうこともできる。スキャンと同時に補正を行なう余裕がない場合、先にいったん保存してしまうとよいだろう
上のブック補正ではその都度ページの分割方向を指定しているが、ScanSnap Manager側であらかじめ指定しておくこともできる

背面マットなしのスキャンも場合によっては有効

 以上が基本的な使い方ということになるが、一口に本と言ってもさまざまな種類がある。そこで今回は、造りが異なるさまざまな本を集め、それぞれをスキャンして本製品の得手不得手を検証してみた。ここまで触れていない個々の疑問点に対し、それぞれの検証結果を述べる形で見て行こう。

今回試した本の一部。図鑑、画集、写真集、辞典、映画パンフレット、週刊マンガ雑誌、中綴じの週刊誌、単行本、コミック、新書、文庫、ハードカバーなどさまざまな本を試した

背景マットなしでスキャンするとどうなるか

 ページが黒く、そのままでは背景マットに溶けこんでしまうような本は、背景マットなしでスキャンした方が輪郭を検出しやすく、自動処理も成功しやすい。図鑑や写真集など、背景色が白でなく背景に溶け込みやすいものは、背景マットを使わず、かわりに白いボードやテーブルなどの上で試してみることをお勧めする。

本が傾いた状態でスキャンするとどうなるか

 本を傾いた状態でセットしても、傾き補正機能が適用されるので、意外なほどきちんとスキャンできる。ただし見開きのまま傾くと、ページのノドにできる影が左右非対称になってしまうので、最終的な仕上がりが汚くなる。表紙のようにノドがない単ページの面でなければ、極力傾かないようにした方がよい。

週刊マンガ雑誌のように色がついたページはスキャンできるのか

 本製品の説明書によると、地色が白でない紙はうまくスキャンできない場合があるとされているが、今回試した限りでは問題なく読み取れ、輪郭検出の自動処理もほぼミスなく行なえた。もともと週刊マンガ雑誌は紙質の関係で黒がかすれがちなので、むしろ背景シートの黒とは区別がつきやすく、輪郭検出もしやすいようだ。ただしマンガ誌によっても紙の種類は違うはずなので、その点は差し引いていただきたい。

部屋の明るさは仕上がりにどの程度影響するか

 試しに部屋の明かりを消し、PCの画面から発する光のみという状態でスキャンを実行してみたが、部屋が明るい場合とほとんど変わらない品質でスキャンできた。むしろ光源が減ることでノドの部分に影が出にくく、こちらの方が美しく感じられるほどで、明るさよりも光源の数の方が影響があるようだ。ただしページめくり検知機能がうまく働かなかったので、必要に応じてタイマースキャンか、もしくは全ページ手動でスキャンすることになるだろう。

規定外のサイズをスキャンするとどうなるか

 見開きだとA3サイズを超える画集(片面365×255mm)をスキャンしてみたところ、規定サイズである300×432mmよりも一回り大きいサイズだけが残り、周囲の部分はカットされた。エラーが出てスキャンそのものが停止するといったわけではなく、可能なエリアだけをスキャンするという設計のようだ。

30mm以上の厚みがある本をスキャンするとどうなるか

 多少超える分には問題ないようだが、あまりに厚みがありすぎると、光源に近くなるせいかページの一部が白く飛んでしまい、書かれた内容が判別できなくなる。また前述のように紙が重なった部分までページの輪郭として検出してしまう問題もあるので、ほどほどにしておいた方がよさそうだ。

光沢のある紙はスキャンの際に影響はないか

 今回試した限りでは、光沢のある紙であっても、スキャナの光源によって文字が飛んでしまって読めないといったことはなかったが、スキャナではなく室内の照明が直接映り込むケースが何度かあった。これは原稿を(主に)下向きに読み取るドキュメントスキャナやフラットベッドスキャナでは起こりえなかった問題だ。前述のように室内の照明を落としても十分な品質でスキャンできるので、室内の照明が光沢ページに映り込む場合は、照明をオフにすることも検討するとよいだろう。

あくまで特定条件下における本のスキャンに適した製品

 以上、本の見開きスキャンを中心に試用したが、「本を裁断するのはNG」、「原稿に厚みがある」、「サイズがA4オーバー」など、これまでのドキュメントスキャナが苦手としていた条件下において、本製品はまたとない選択肢である。価格もメーカー直販サイトで59,800円と、ドキュメントスキャナの普及モデルの価格帯とそう大きく変わらない。本製品ほどの性能を持った製品がこの価格帯で入手可能になったこと自体、率直に驚きである。

 しかしながら、こうした条件が存在しない場合、労力と成果物のバランス、またクオリティの面からも、こと本のスキャンについては、裁断による自炊の方が(トータルで揃える場合の予算はさておき)現実的である。本を見開きのまま読み取る機器としての構造は非常によくできており、また補正機能もよく考えられたインターフェイスだと感じるが、それはあくまで特定条件下で使うことが前提であり、裁断してドキュメントスキャナで読み取った場合と、品質面や手間を比較するのはやや酷である。

 もっとも、このことはメーカー側も重々承知しているはずで、本製品とほかのドキュメントスキャナを1台のPCに同時に接続して併用できたりと、それぞれの強みを活かすことを前提とした設計になっている。なにより本製品は、本の見開きスキャン以外にもさまざまな機能を備えており、そちらも本の見開きスキャンと同じかそれ以上のウェイトを占めていることは、同社の製品ページなどを見ても明らかだ。

 次回の後編では、これら本の見開きスキャン以外の用途についてチェックするほか、スキャンした書類の品質などについても見ていくことにしたい。

(山口 真弘)