山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Snapdragon 8 Gen 3で8万円台の小型タブレット「Lenovo Legion Tab Gen 3」

「Lenovo Legion Tab Gen 3 (8.8", 3)」。本体色はエクリプスブラック。実売価格は7万9,860円

 「Lenovo Legion Tab Gen 3 (8.8", 3)」は、8.8型のAndroidタブレットだ。SoCにSnapdragon 8 Gen 3を採用するほか、メモリは12GB、さらにWi-Fi 7など新しい規格にも対応したハイエンドな製品だ。

 8型クラスのタブレットは、Appleの「iPad mini」が圧倒的なシェアを持っており、それ以外の選択肢は、Amazonの「Fire HD 8」など、性能よりも価格の安さを重視した製品がほとんどだ。これらは電子書籍など高スペックが不要な用途ならば問題なく使えるが、パワーを必要とする用途では期待できず、選択肢にも乏しい状態だった。

 本製品はレノボのゲーミングブランドを冠した製品で、ハイエンドと呼んで差し支えないスペックを備えている。一方で実売価格は7万9,860円と、10万円の大台を大きく割っており、電子書籍だけでなくオールラウンドで使いたい小型タブレットを探しているユーザーに最適だ。

 大々的な発表なしで登場したにも関わらず、海外では発売直後から品切れが相次いでいるこの製品、国内でも2025年1月に入ってひっそり発売され、一部で好評を博している。今回は筆者が購入した実機をもとに、電子書籍ユースを中心とした使い勝手をチェックする。

iPad miniと張り合える貴重な小型タブレット

 本製品は「Gen 3」という製品名からも分かるようにLenovo Legion Tabとしては3代目に当たる製品だが、国内で発売されるのは初めてだ。まずは競合となるiPad mini(A17 Pro)と大まかな特徴を比較しよう。

Lenovo Legion Tab Gen 3 (8.8", 3)(ZAEF0052JP)iPad mini(A17 Pro)
発売2025年1月2024年10月
サイズ208.5×129.5×7.8mm195.4×134.8×6.3mm
重量350g293g
OSAndroid 14iPadOS 18
CPUQualcomm Snapdragon 8 Gen 3A17 Proチップ
2つの高性能コアと4つの高効率コアを搭載した6コアCPU
5コアGPU
16コアNeural Engine
メモリ12GB8GB
ストレージ256GB128/256/512GB
画面サイズ/解像度8.8型/2,560×1,600ドット(343ppi)8.3型/2,266×1,488ドット(326ppi)
通信方式Wi-Fi 7Wi-Fi 6(802.11ax)
生体認証顔認証Touch ID(トップボタン)
バッテリ持続時間(メーカー公称値)6,550mAh5,078mAh
Wi‑Fiでのインターネット利用、ビデオ再生:最大10時間
コネクタUSB Type-CUSB Type-C
価格(発売時)7万9,860円(256GB)7万8,800円(128GB)
9万4,800円(256GB)
13万800円(512GB)

 画面サイズは8.8型ということで、8.3型のiPad miniよりも大きいが、アスペクト比が異なることから、より縦に長い印象を受ける。解像度は本製品が343ppi、iPad miniが326ppiと、ほぼ同等。このほか画面周りではリフレッシュレートが最大165Hzと高いのも特徴だ。

 CPUはSnapdragon 8 Gen 3。2023年に発表されたハイエンドスマホ向けのSoCだ。8型タブレットはエントリー向けのSoCを採用する製品が多いので、最新の世代でないとはいえ、ハイエンド向けに開発されたSoCを採用するのは注目ポイントと言える。このほかWi-Fi 7やBluetooth 5.4に対応するのも目玉だ。

 一方でストレージは国内向けモデルでは256GB一択となっており、メモリカードにも非対応だ。ライバルのiPad miniは128/256/512GBという3つの容量を揃えているので、この点においてはやや分が悪い。また顔認証のみで指紋認証には非対応なのもマイナスだ。

 このほか重量は公称350gということで、300gを切っているiPad miniと比べるとずしりと重い。比較対象が10型クラスのタブレットであれば気にならないだろうが、8型クラスのタブレット同士での重量比較であれば、本製品の弱点と言える。

 興味深いポイントとしては、USB Type-Cポートを底面と側面にそれぞれ1基ずつ、計2基を搭載することが挙げられる。これは充電しながらディスプレイを外部出力するなど、ゲーミング用途を考慮した仕様だ。充電周りの仕様については後述する。

本体外観。前面カメラは短辺側(この写真では左側)にある
縦での利用も特に支障はない。画面がワイド比率ゆえ筐体は細長い印象
左側面。スピーカーが配置されている
右側面。スピーカーとUSB Type-Cポートが配置されている
上面。音量ボタンと電源ボタン、マイクが配置されている
底面。こちらにもUSB Type-Cポートがある
背面。ブランド名「LEGION」が刻印されている
背面カメラは1300万画素+マクロ200万画素という構成。やや出っ張りがある
生体認証として顔認証に対応。指紋認証には対応しない
重量は実測351gとやや重め

USB Type-Cポートを2基搭載。ベンチマークはiPad miniに匹敵

 では実機を見ていこう。アプリについてはGoogle製以外に、おすすめと称したサードパーティ製アプリも多く、シンプルなタブレットに比べるとアプリドロアーはかなり騒々しい。不要なアプリは早めに見切りをつけてアンインストールするとよいだろう。

ホーム画面。Android 14を搭載する
プリインストールアプリ。ゲーミング用の製品ゆえ、オフィス系ツールは少なめ。Playブックスアプリがインストールされているのは珍しい

 外観は直線的なデザイン。短辺はかなりスリムなので、iPad miniと違って片手で握ることも十分可能だ。筐体はずっしりとしており、密度の高さを感じる。個人的には背面が手の脂が目立ちやすい加工なのが少々気になった。

 実機をiPad miniと並べた時に真っ先に目立つのは厚みの差だ。最薄部7.8mmということで、決して薄くはない。iPad miniは6.3mmなので、1.5mmもの差があることになり、並べるとかなり目立つ。

左が本製品、右がiPad mini。本製品はワイドサイズということもあり天地に長く、一方で横幅は短い
背面の比較。カメラまわりの違いが目立つ
厚みの比較。差は1.5mmとかなりの違いがある

 さて本製品は前述のようにUSB Type-Cポートを2基搭載するのが特徴だ。仕様は共通ではなく、底面ポートがUSB 3.2対応、かつDisplayPort出力にも対応するのに対して、側面ポートはUSB 2.0対応ということで、メインはあくまでも底面ポートのようだ。

 これら2ポートの充電周りのスペックは公開されていないが、手持ちの65W充電器+5A対応ケーブルでテストしたところ、底面ポートは9V/5A前後で安定して充電が行なえる一方、側面ポートは充電が不安定で、およそ1分おきにUSB PDのリセットがかかり、低出力からのやり直しになる。チェッカーをつないで監視していると、どうやら電流が3Aを超えたタイミングで、この現象が発生するようだ。

 そこでケーブルを3A対応の品に交換したところ、出力は9V/3A、つまり27W前後で安定して充電できるようになった。これが仕様なのか不具合なのかは不明だが、充電が安定しないようならば、優先的に底面のポートを使うか、あるいは今回筆者が試したように5A対応のケーブルは使わないようにすることをおすすめする。

USB Type-Cポートは底面と右側面の2個所に搭載する
本体に付属する充電器は最大68Wと、かなりパワフルな仕様だ。ちなみに製品ページには68Wの急速充電に対応とされているが、市販充電器では45Wまでしか計測できなかった

 ベンチマークはどの製品と比較するか難しいところだが、まず同じAndroid 14を採用した、Googleのスマホ「Pixel」のフラグシップモデル「Pixel 9 Pro XL」と比較してみよう。どのベンチマークアプリでも本製品のスコアが勝っており、特にGPUまわりでは圧倒している。

「Octane 2.0」でのベンチマーク結果。左が本製品で「76170」、右がPixel 9 Pro XLで「61996」
「Wild Life Extreme」でのベンチマーク結果。左が本製品で「4634」、右がPixel 9 Pro XLで「2571」
「GeekBench 6(CPU)」でのベンチマーク結果。左が本製品で「2206/6742」、右がPixel 9 Pro XLで「1962/4799」
「GeekBench 6(GPU)」でのベンチマーク結果。左が本製品で「14638」、右がPixel 9 Pro XLで「7733」

 続いてiPad miniとの比較。こちらは本製品が勝っている場合もあれば、iPad miniが上の場合もあり、おおむね互角か、もしくはわずかにiPad miniに分があるといったところ。OSが異なるのであくまで参考記録ということになるが、こうした結果からして、性能的にも競合する製品なのは間違いない。少なくとも「なんちゃってハイエンド」でないのは明白だ。

「Octane 2.0」でのベンチマーク結果。左が本製品で「76170」、右がiPad miniで「85000」
「Wild Life Extreme」でのベンチマーク結果。左が本製品で「4634」、右がiPad miniで「2907」
「GeekBench 6(CPU)」でのベンチマーク結果。左が本製品で「2206/6742」、右がiPad miniで「2942/7315」
「GeekBench 6(GPU)」でのベンチマーク結果。左が本製品で「14638」、右がiPad miniで「25506」

表示のクオリティは十分、バイパス充電にも対応

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を使用している。ちなみに本製品はGoogle Playブックスアプリがプリインストールされているが、今回はKindleアプリで試用を行なっている。

 解像度は343ppiということで、表示性能は十分。これだけの解像度があれば、8.8型というコンパクトな画面でも、コミックの見開き表示でディテールが不足することもない。さすがに雑誌サイズは厳しいにせよ、コミックやテキスト本を読むに当たり、基本は単ページで、必要に応じて見開きで、と切り替えて使えるのは、iPad miniとよく似ている。

テキストを表示したところ。単行本と同等サイズで、フォントサイズ変更の自由度も高い
iPad mini(右)との比較。余白が少なめなのはデバイスの違いではなく、KindleアプリのAndroid版とiPadOS版の違いによるところが大きい
ディティールの比較。左が本製品、右がiPad mini。どちらも十分なクオリティだ
コミックを表示したところ。縦向きだと単行本とほぼ同じサイズ
iPad mini(右)との比較。アスペクト比の関係でページサイズはほぼ同じだ
8.8型、かつ解像度も高いことから見開き表示も問題なく対応する
iPad mini(下)との比較。こちらもやはりアスペクト比の関係で、ページサイズはほぼ同等となる
ディテールの比較。左が本製品、右がiPad mini。テキスト同様、こちらも十分なクオリティだ

 挙動はどうだろうか。エントリークラスの製品であっても、電子書籍でページをめくるなどの基本操作は問題なく行なえるが、電子書籍を閉じて別の電子書籍を開いたり、またブラウザに切り替えてコンテンツを購入したり、ダウンロードを行なうなどの操作においては、遅さを実感することもしばしばだ。

 その点、本製品はあらゆるシーンできびきびとしており、使っていてもストレスはない。今回は筆者環境の関係で試せていないが、Wi-Fi 7での通信環境が整っていれば、より高速なダウンロードも期待できるだろう。

 なお本製品のユニークな機能の1つに、バイパス充電が挙げられる。これはバッテリを介さず、充電器からタブレット本体に直接給電する機能だ。もともとはゲーミング用途の機能で、長時間の利用時でもバッテリの発熱を防ぐ効果がある。

 これらは通常の読書時には出番はなさそうだが、たとえば音楽を聴きながらの読書や、ストリーミング型の読書アプリでダウンロードしながら読む場合に、本体の発熱が気になることがあれば、試してみてもよいかもしれない。なお初期設定ではオフになっているので利用にあたっては気をつけたい。

バイパス充電機能をサポート。本製品のポテンシャルの高さを象徴する機能だ
このほか画面分割やウィンドウのフローティング表示などにも対応する。8.8型の画面サイズでどれだけ出番があるかは不明だが、機能があって困ることはない

貴重なハイエンド小型タブレット

 以上ざっと見てきたが、日頃からiPad miniを活用している筆者から見ても、そのきびきびした動きは目を引く。iPad mini以外で競合と呼べるハイエンドな小型タブレットは市場ではほとんど存在しないことからも、注目に値する存在なのは間違いない。

 また競合であるiPad miniはこの1~2年の値上げとモデルチェンジにより、現行モデルは本製品と同じ256GBモデルで9万4,800円からと、数万円で購入できたかつてのリーズナブルさは影を潜めている。その点本製品は、容量やカラーの選択肢こそないものの、8万円の予算があれば手に入るので、予算重視のユーザーにもぴったりだ。

有線での出力に加えて、Miracastにも対応している
別売のスタイラスペンも利用できる

 本製品が売れてくれればハイエンドな小型タブレットの市場も息を吹き返すかもしれない……といった事情はさておき、こうした製品が10万円を切った価格で買えるのは今だけの可能性もある(ちなみに海外では499ドル)。新たな小型タブレットが発表になるたびにスペックを見てため息をついていたユーザーにとっては、要注目の製品と言えそうだ。