アップグレード後の性能が知りたい!

古いKindleは買い換えたほうが幸せ?10年余で進化した新旧Kindleの画質とパフォーマンスを比べてみた

「アップグレード後の性能が知りたい!」では、さまざまなデバイスをアップグレードし、使い勝手やパフォーマンスの改善度を検証していきます。
本稿ではKindleのスタンダードモデル「Kindle Paperwhite」(写真)のほか、エントリーモデルの「Kindle」で、画質やパフォーマンスの違いを比較する

 E Ink電子ペーパーと言えば、紙のような外観で目に優しいほか、省電力といった特徴がよく知られている。その一方で、液晶のように画面が瞬間的に切り替わらず、画面が反転しながら切り替わる挙動は独特で、これにいまいち馴染めないせいで利用を止めてしまったという声も、初期の製品ではよく耳にしたものだ。

 もっとも最新世代のE Ink電子ペーパーは、かつてのモデルと比べて書き換えの速度が大幅に向上している。また、これらを採用したAmazonの「Kindle」など電子ペーパー端末は、スペックの向上やアルゴリズムの改良によって、世代を重ねるごとにパフォーマンスが向上し、快適な利用が可能になりつつある。

 では実際のところ、これら電子ペーパー端末を古いモデルから最新のモデルへと買い替えた時に、どれほどの違いがあるのだろうか。今回は、Amazonの電子ペーパー端末「Kindle」のスタンダードモデル「Kindle Paperwhite」と、エントリーモデルの「Kindle」の2製品において、初期および現行モデルでどの程度の違いがあるかを、実機を使ってチェックしてみた。

 なお電子ペーパー端末は、PCと違って部品の交換などによるアップグレードに非対応であるため、本連載の過去記事と異なり、本体ごとの買い替えを伴う比較となる。また以下の電子書籍のサンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を使用している。

スタンダードモデルの「Kindle Paperwhite」を比較する

 まずは「Kindle Paperwhite」について見ていく。2012年にAmazonのKindleストアが日本への上陸を果たした時に、唯一の電子ペーパー端末として投入されたのがこのKindle Paperwhiteだ。フロントライトを搭載することで、E Ink電子ペーパーにつきもののグレー味が強い画面と比べて、紙のように白い画面で読書が行なえるのが特徴だ。

【旧】Kindle Paperwhite(第5世代)
初代のKindle Paperwhite(Amazonサイト上での表記は第5世代)。画面サイズは6型、重量は213g

 今回比較するのは、その初代にあたる第5世代モデルだ。現在「Kindle」と言えば後述のエントリーモデルなど複数のラインナップがあるが、発売当初はこのKindle Paperwhiteの1機種しかなかったため、初めて手にしたのがこの第5世代だったというユーザーは多いはずだ。ちなみに画面サイズは6型である。

 比較対象となる現行の第11世代モデルは、2021年に発売されたモデルで、画面サイズが6.8型へと大型化しているほか、フロントライトは寒色と暖色の両方に対応、防水機能も搭載するほか、USB Type-C端子を採用するなど、最新のフォームファクタを備えている。上位機種には、ワイヤレス給電を搭載したモデルもラインナップされているほどだ。

【新】Kindle Paperwhite(第11世代)
現行のKindle Paperwhite(第11世代)。画面サイズは6.8型へと大型化している。重量は205g

 ではこの2台を並べて、動作をチェックしてみよう。

左が第5世代、右が第11世代。第11世代はフロントライトは寒色だけでなく暖色にも対応。なお第5世代はすでにアップデートが終了しており、上部メニューバーなどの意匠は古いままだ

反応速度の違い

 電子ペーパー端末の動きのスムーズさは、大きく分けて「タップしてから反応するまでにどれだけかかるか」と「ページの切り替わりが始まってから終わるまでどれだけかかるか」という2つの要因で決まってくる。

 第5世代の場合、スローで再生すると前者は30コマ、後者も30コマかかっているのに対して、第11世代は前者が9コマ、後者が17コマと、所要時間が劇的に短縮されている。

 中でも前者、タップしてから反応するまでの時間は、タップが受け付けられたのか判断できない時間が長いぶん、ユーザーにとっては直接的なストレスにつながりやすい。第11世代はそれが3分の1以下に短縮されていることから、相対的にストレスがたまらないというわけだ。詳細は以下の動画で確認してほしい。

【ページめくり時の差を比較】
タップおよびスワイプによるページめくり時のレスポンス、および所要時間の比較。左が第5世代、右が第11世代。同時に操作するとその差は明らかだ。また画質面でも、解像度の低い第5世代は線が太く見え、本来のディティールが損なわれていることが分かる

 またこれに加えて第5世代は、ページを連続してめくる指の動きに画面が追いつかず、しばらく待たされる症状が発生する。待てばきちんと追いつくのならまだしも、10ページめくったはずが実際には9ページしかめくられないという処理落ちも発生する。これは電子ペーパー端末のCPUの性能の低さによるもので、ローエンドな電子ペーパー端末ではよく発生する現象だ。

 こうしたページを連続してめくる機会は、数ページ前に戻って前回読み終えた箇所をおさらいしたり、各章の最後にまとめられた注釈ページを読み飛ばしたりと、実際には意識せずに頻繁に行なっていることが多く、これらがスムーズに行なえない第5世代は、今となってはかなり致命的だ。

 そもそも電子書籍は、ページをめくる以外に、設定画面を開いてフォントサイズなどを調節したり、オプションメニューから単語の意味を調べたり、あるいは本自体を閉じてライブラリに戻ったあと別の本を開くといった操作がつきものだ。

 こうした操作はページめくりに比べて処理が重く、ページめくりの段階で引っかかるようだと、これら操作を快適に行なうこと自体が夢のまた夢だ。そうした意味でもやはり、この両者の差は大きいと言える。

画質の違い

 もうひとつ、画質についても言及しておこう。両者の解像度は、第5世代が212ppi、第11世代が300ppiと、そもそものスペック自体に差があるのだが、この第5世代はのちのモデルと比べてシャープネスがかなりきつく、線が異常に太く見える特徴がある。

 特にコミックでは、インクがにじんだようになってしまい、もとの絵を忠実に再現できていないと感じることも多い。精細なディティールを表現できる現行モデルとの差は大きい。

第5世代は解像度が低く、シャープネスもきつい
左が第5世代、右が第11世代。解像度が異なるだけでなく、第5世代は線が異常に太く表示される特性がある
左が第5世代、右が第11世代。こちらもやはり線の太さのせいで、インクがにじんだようになってしまっている
左が第5世代、右が第11世代。テキスト表示では解像度の低さが露骨に出る

 最後に余談だが、第5世代はそれ以降のモデルと異なり、背面に施された滑り止めのコーティングが劣化でべたつく症状が見られる。手に持った時の不快感はもちろんのこと、ほこりや汚れが付着しやすく、さらに擦り傷が簡単についてしまうので、見た目も非常によくない。そうした点からも、新しい機種への買い替えは望ましいと言える。

第5世代は背面コーティングが劣化しやすい
第5世代の背面コーティングは劣化しやすく、のちのモデルでは廃止されている(当時はKindle Fireも同じコーティングが施されていた)。ちなみに背面ロゴが「Amazon」ではなく「Kindle」なのはこの第5世代モデルだけ

エントリーモデルの「Kindle」を比較する

 続いてエントリーモデルの「Kindle」を比較してみよう。対象となるのは、2017年に発売された第7世代モデルで、それまでKindle Paperwhiteしかなかった日本のKindleストアで初めて登場したエントリー向け「Kindle」である。解像度は167ppiと低く、フロントライトは非搭載、また防水にも対応しないなど、機能的には必要最小限にとどまっている。筐体もかなり大柄でずんぐりしている。

【旧】Kindle(第7世代)
Kindle(第7世代)。画面サイズは6型、解像度は重量は191g

 比較対象となる第11世代モデルは、2022年に発売された現行モデルで、画面サイズは同じ6型ながら、解像度は300ppiへとアップ。またフロントライトも追加されるなど、画面サイズが6.8型になる前のKindle Paperwhiteに匹敵するスペックを誇っている。またボディも薄型でサイズも小さく、158gという圧倒的な軽さも魅力だ。

【新】Kindle(第11世代)
Kindle(第11世代)。画面サイズは6型のままだが解像度が300ppiに向上している。重量は158g
左が第7世代、右が第11世代。同じ6型ながらボディサイズは大きく異なっている。エントリーモデルには非搭載だったフロントライトも、この第11世代から搭載された

反応速度の違い

 さて両者のレスポンスだが、ページめくり時においてはそれほど大きな差はない。

 先に紹介した「タップしてから反応するまでにどれだけかかるか」と「ページの切り替わりが始まってから終わるまでどれだけかかるか」の2つの要因で言うと、第7世代モデルは前者が9コマ、後者が26コマ。第10世代モデルは前者が9コマ、後者が21コマ。書き替えに要する時間は多少短くなっているが、意外に差がない。

【ページめくり時の差を比較】
タップおよびスワイプによるページめくり時のレスポンス、および所要時間の比較。左が第7世代、右が第11世代。前述のKindle Paperwhiteほどの差はない。第7世代は画質が低いぶんページめくりのたびに処理すべきデータ量が少なく、結果的にきびきびとした動作につながっていると考えられる

 これは、第7世代モデルは解像度が低いぶんCPUへの負荷が低く、きびきびと動作するからだ。ページあたりのデータ量が少なければ、ページの書き替えにあたっての負荷が低くなるのは当然で、結果的にスペックの低さを補っているというわけだ。

画質の違い

 ただしそのぶん画質にはかなりの差があり、比較するとその違いは明らかだ。

第7世代は明らかに見た目の解像度が低い
左が第7世代、右が第11世代。解像度はそれぞれ167ppiと300ppiということで、ディティールには明らかな差がある
左が第7世代、右が第11世代。こちらもやはり解像度の差により、細い線が表現できている場合とできていない場合がある
左が第7世代、右が第11世代。テキストについても違いは明白。左は漢字に付けられたルビがかすれてしまっている

 と、これだけならば「画質が違うだけ」という結論になりがちなのだが、この両製品で本を長時間読んでいると、第7世代モデルは画面が切り替わる際の挙動がかなり目障りに感じるのに対して、第11世代モデルはそれらがかなり軽減されていることに気づく。これはどこから来ているのだろうか。

 この理由は、ページが切り替わる様子をコマ送りで見るとよく分かる。第7世代モデルは、前後のページがともに白黒反転した状態で重なって表示され、そこから元に戻る過程で前ページが消えていくという動きで、ページ全体に何が表示されているのか分からない状態がしばらく続く。目障りさを感じる要因はこれだ。

 これに対して第11世代モデルは、前後のページで白黒が入れ替わる部分だけが白黒反転しつつ切り替わるので、白い部分は最初から最後まで白いままで、やみくもにページ全体が真っ黒になることがない。白黒反転の面積が狭くなっているぶん、目障りさを感じにくいというわけだ。代表的なカットを以下に抜粋したので確認してほしい。

第7世代はページめくり時の挙動が目障り
ページめくりを開始する前の状態。左が第7世代、右が第11世代
ページめくりが始まって約3分の1が経過したところの比較。第7世代(左)は前後のページが白黒反転した状態で重なり合うので、全体的にごちゃごちゃしている。第11世代(右)はまず前ページが消失し、そのあと次ページが浮き上がってくるという動きで、黒い部分の面積は比較的少ない
ページめくりが始まって約3分の2が経過したところの比較。第7世代(左)は前ページが消え、次ページが白黒反転しながら浮かび上がってくる。第11世代(右)は前ページが比較的あとまで残っているが、その時点で次ページの白黒反転はほぼ終わっている
ページめくり完了。このように、同じページめくりであっても、第5世代と第11世代では、途中のプロセスが大きく異なっている

 実はこれは前述のKindle Paperwhiteも同様で、E Ink電子ペーパーの世代が新しくなったことで、アルゴリズムが改善されたのだと考えられる。

 E Ink電子ペーパーは白と黒の粒子が入ったマイクロカプセルが反転することで書き替えが行なわれるが、その数が少なければそのぶん負荷は減り、また時間も短くて済む。新しいアルゴリズムではそれがより追求され、少ない面積だけ書き換えを行なうことで、応答を高速にしつつ、目障りさを減らしていると思われる。

 これらは2台を横に並べて見比べた時、確かに違いがあることは分かっても、どう違うのか言葉で説明しづらいのだが、コマ送りで見ればナルホドと納得がいく。世代を重ねたからこそできる進化と言えるだろう。

買い替えを考える前にまずはファームウェアアップデートを

 以上のように、Kindleは新しい世代のモデルほど、E Ink電子ペーパーの世代交代やアルゴリズムの改善、またデバイス自体のハードウェアスペックの向上によって、快適に扱えるようになる。「E Inkはあの独特の白黒反転がどうも苦手で……」という人も、そこから数年以上が経過しているようであれば、最新の端末を試してみる価値はあるだろう。

 なお、手元にあるKindleを買い替えるか否かを迷っているなら、ひとまずファームウェアの更新は先に試したい。Kindleは過去のアップデートで25%や33%といった高速化を遂げたケースがあり(今回紹介しているKindle Paperwhite第5世代もそうだ)、もし長期に渡って電源を入れていないようならば、通信可能な状態にすることでファームウェアが最新版になり、パフォーマンスが向上する可能性がある。まずはこれを試すべきだろう。

 その一方で、今回紹介したKindle Paperwhiteの第5世代モデルや、Kindleの第7世代モデルは、すでにファームウェアの更新が終了していることから、将来的な新機能追加やパフォーマンス向上は見込めない。

 ファームウェアのアップデートが終了したタイミングを買い替えの目安とするのであれば、これら両製品は紛れもなく旬を過ぎている。新製品が出るたびに買い替えるのは難しくとも、こうした基準で買い替えを判断するのは、1つの正解と言えるだろう。

Kindle Paperwhiteの第5世代(左)はすでにファームウェアの更新が終了しており、第11世代(右)と違ってホーム画面のデザインも古いまま。使われている用語が異なるため、スマホやタブレットでもKindleを使っている場合、戸惑うこともありそうだ