山田祥平のRe:config.sys

MVNOのなんちゃってMNO化現象

 使う側から見たときの理想的なMVNOとは一体何だろう。直近ではGoogleが北米においてMNOを束ねるMVNO事業としてProject Fiをスタートさせるといったニュースも流れてきた。こうしてヒエラルキーは崩壊しつつもある。まさにOver the Topだ。今回は、SIMロックフリー端末が続々と世に出てくる中で、モバイルネットワーク利用に際する重要な選択肢であるMVNOについて考えてみよう。

繋がった後が使い勝手を決める

 「繋がりやすさはドコモと同じ」。

 格安SIMやSIMフリー携帯ですっかり市民権を得たMVNO(Mobile Virtual Network Operator)。その事業者の謳い文句でよく見かける表現だ。MVNOはバーチャルなMNOだ。つまり、自前では設備を持たず、既存のバーチャルでないMNOからそれを借りて一般消費者に提供する事業者だ。日本通信のb-mobileブランドがDDIポケットのPHS網を使ったサービスを提供したのが日本初のMVNO事業で、そのサービスインは2001年10月だったから、このビジネスも、かれこれ15年近くが経過したことになる。

 日本国内における現時点でのMNOは、ドコモ、au、ソフトバンクがそうだし、データ通信専業のものも入れればUQコミュニケーションズもMNOだ。MVNOはMNO各社と契約し、まとめて購入した帯域を、一般消費者にばら売りする。単に無線基地局を持たないで無線通信サービスを提供する事業者はすべてMVNOだと考えていい。

 移動体通信事業に限った話ではないが、これはもう途方もない設備産業であり、半端な資金ではとても実現できるものではない。全国津々浦々に基地局を配置し、それを維持するには莫大な投資が必要になるからだ。でも、それを他に委ねることができれば、多少はそのビジネスへの参入のハードルは低くなる。そして、MNOがやりたくてもできないこと、やろうとしないことができる可能性もある。

 現行でのMVNOビジネスは、そのほとんどがドコモからネットワークを調達している。過去においてシェア25%を超えた第二種指定通信設備の事業者は、その設備を複数の競合他社が平等に使えるよう規制されていた。そして、それだけの高いシェアを持っていたのはドコモとauだけだった。現在ではシェア制限が10%に改定されソフトバンクもそこに含まれるようになっている。

 一般消費者向けのMVNOビジネスを展開する際に、ドコモとauのどちらを選ぶかで、ドコモを選ぶMVNOがほとんどだったということだ。その理由はいくつも考えられるが、いずれにしても、ドコモをMNOに選んだMVNOにとって、繋がりやすさはドコモと同じになる。

隣のMVNOより何が優れているかをアピールしてほしい

 問題はその先だ。繋がりやすさはドコモと同じなのは、少なくとも無線区間についてはドコモと同じだからだ。なのに、同じ時間、同じ場所で使っているにも関わらず、MVNOによって使いものにならないほどデータ通信が遅かったり、逆にドコモより速かったりすることが起こる。これはドコモの設備とMVNOの設備を結ぶ帯域、さらに、MVNOからインターネットに出て行く帯域の違いによるものだ。それがユーザー数やその利用量に応じたものであるかどうかで違いが出てくる。

 ドコモには第二種指定通信設備の事業者として、提供を求めるどのMVNOにも同じ価格で通信設備を卸さなければならないという縛りがある。単位帯域あたりの仕入れ価格が同じだから、適切な利益を確保しつつ同じようなサービスを提供すれば自然と料金も同じになる。

 なのにMVNOによってサービス料金に違いがあるのは、帯域を購入するために、どれだけの投資をしているかによる。さらに、確保した帯域を流れるデータを、どのように制御しているかで使用感が変わってくる。帯域をけちり、ネットワーク制御に何の工夫もしていないMVNOは、どんなに安かったとしても使いにくいものとなるわけだ。技術やノウハウで帯域の活用度を上げることもできるが、それはそれでやっぱりコストがかかる。

 ところが、MVNOの多くは「繋がりやすさはドコモと同じ」というだけで、MVNOとして何が優れていて競合他社に対してどのような優位性を持つのかという点をアピールしてくれない。実際に加入して使ってみなければわからないのだ。

 かろうじてIIJmioは、ユーザーミーティングなどで時間帯ごとのパケットの過密度データを公開し、平日の正午から1時間程度はパケットを捨てる結果になっているが、そのほかの時間帯についてはおおむね余裕があることなどを明らかにしているし、そのネットワーク制御技術によって効率の良い帯域利用をアピールしているのは高く評価したいと思う。

土管屋になれるのはMVNOだけ?

 一方、昨今のMNOは、一体どこが通信事業なんだろうと首をかしげるようなビジネスへの参入が目に付く。「土管屋」とは良く言ったもので、設備産業の立ち位置で、選ばれた事業者として使いやすく性能に優れた通信経路を良心的な価格で提供してくれればそれでいいのに、実際にはそれ以外の付加価値で、より高い利益を得ようとしているようにも見える。

 その典型が端末ビジネスではないか。そのビジネスが、どれほどうまい商売なのかは知る由もないが、端末ベンダーと共同開発した端末をタマにして、それを全国津々浦々のキャリアショップで販売し、半端ではない数の端末を売りさばく。端末ベンダーは首の根っこを押さえられたも同然だ。さらにその端末の割り引き料金は、いわば「実質ゼロ円」などで知られる通り、消費者の解約を抑止することに貢献している。

 MVNOはMNOにはやろうとしてもできないことをサービスとして提供することを求めたいのだが、ここのところのMVNOシーンを見ていると、彼らは実はMNOになりたいだけなんじゃないかとさえ感じられる。各社ともに「魅力的なSIMロックフリー端末」をラインアップし、端末ベンダーと協業し、独自の仕様を盛り込んだ製品を提供したりもする。そこまでいかなくても「豊富な端末ラインアップ」をアピールする事業者は少なくない。「端末込みで月額×円」が今のメインストリームだといってもいい。

 別事業との合わせ技も目立ってきた。利用料金に応じてポイントを獲得、買い物などに利用できたりする。また、最近ではNTT本体の光卸しがスタートし、固定回線とモバイル回線との同時利用で割り引きサービスが提供されるようにもなってきている。

 サポート体制も充実する一方で、キャリアショップには数の点で遥かに及ばないにしても、リアルショップを展開してユーザーサポートを提供するところもある。

 もちろん、それを望む消費者も少なくないのだろう。MVNOは通信設備がバーチャルなだけで、その他の部分はMNOと同じことができるのだから、消費者から見たときに、MNOであろうがMVNOであろうが、その区別が付かないくらいになることの方が理想的なのだという見方もあっていい。MNOより面倒見のいいMVNOがあったっていいのだ。

 本当に土管屋に徹して優れた通信設備だけを最優先で提供して欲しいMNOが、なかなかそうなってくれないことへの不満を解消できるのはMVNOしかないとも言える。不要なコストを一切カットして、そのすべてを良質な通信サービスのみに使う事業者が、1つくらいあってもいいんじゃないだろうか。すでにそんなビジネスはMNOの眼中にはないに違いない。皮肉にもそれができるのはMVNOだけだとも言える。ややこしい時代になったもんだ。

(山田 祥平)