山田祥平のRe:config.sys

SIMロックが解除されても誰も幸せになれない

 総務省のSIMロック解除のガイドライン改正に伴い、ドコモとauがそのサービス内容を発表した。発表内容を見て、どうにもむなしい気分になった。なぜ、両社ともにほぼ同じ内容なのか。なぜドコモはサービスを“改悪”する必要があったのか。

サービス改悪のドコモ

 今回発表されたドコモauのSIMロック解除サービスは、2015年5月1日以降に発売される機種について、その端末の購入後6カ月が経過すればインターネットや電話、キャリアショップ店頭でSIMロックを解除してもらえるというものだ。いずれもWebサイトで申し込み、オンラインで行なう場合、手数料は無料だ。

 auは、初めてSIMロック解除サービスを開始することになるが、5月以降としながら、4月23日に発売された「Galaxy S6 edge SCV31」についてはその対象となる。最初のサービス対象機種というわけだ。半年ということは、10月23日にようやくSIMロックを解除してもらえるということになる。

 一方、ドコモの「Galaxy S6」については今月(4月)の発売なので、有料でSIMロック解除可能であるという。以前から3,000円の手数料でSIMロック解除を受け付けてきたドコモだが、今回の改定は改悪だ。というのも、従来は端末を購入したその日であっても解除が可能だったからだ。

 両社における半年の解除制限期間は、端末の購入代金支払い形態を問わない。つまり、代金を一括で支払っても、分割で支払っても期間は同じだ。まず、ここが納得できない。一括で代金を支払って完全に自分のものになった端末になぜ解除制限期間を設定されるのか。仮に半年未満で別の事業者にMNPしたとしても、契約期間に満たない場合は解約金ペナルティを支払う必要があるし、当然、月々サポートも打ち切られる。だから、代金支払い済みの端末にまで解除制限期間を設けられることに納得がいかない。

 ドコモの端末はSIMロックを解除することによって、日本国内においては、ソフトバンク(およびY!moible)のサービスの一部が使えるようになるが、auの端末はこれまで3G通話でCDMA2000方式を採用していたため、仮にSIMロック解除してもらえたとしても、ドコモやソフトバンクのSIMは理論的に利用することができないはずだった。だが、最新のau端末は、VoLTEの採用により、通話に3Gを使わない。検証がまだ終わっていないが、auの端末をSIMロック解除すれば、ドコモやドコモ系MVNOのSIMを装着して使えるようになる可能性もある。だが、それが判明するのは半年先の10月だ。逆に、ドコモの端末にauのSIMを装着しても使えるかもしれない。

 一方、国内のMVNOのほとんどはドコモ系だ。ドコモの端末の所有者はわざわざSIMロックを解除しなくても、これらのMVNOを自由に使える。半年先を待たなくても、また、ある程度古い機種であっても自分が好きなMVNOを使えるのだ。

 こうしたことから、数年単位の短期的な視点で見れば、少なくとも国内利用においてSIMロック解除の恩恵を目に見える形で受けられるのは2年後のauユーザーくらいだと考えていい。

海外SIMの入手にはエネルギーが必要

 その一方で、海外に渡航した際に、いつものスマートフォンをいつものように使いたいというニーズがわずかではあるが存在する。渡航先の現地事業者からSIMを調達し、それが使えれば、高額なローミング料金を支払うことなくいつものスマートフォンの使い方ができる。

 地域にもよるが、現地でSIMを調達するのは大変だ。台湾のように到着ロビーに出たとこにSIMの販売カウンターがあったり、イギリスのようにSIMの自販機があってパスポートの提示さえ不要ですぐに購入できるようなところばかりではない。キャリアショップに行って、パスポートを提示してといった手続きをしなければ入手できないケースは少なくない。時間が限られるビジネス出張や、遊びであっても時間が自由にならない団体旅行では、SIMの入手そのものが大変だ。ものすごい労力が必要で、そんなことをするくらいなら多少のコストがかかってもローミングするか、ホテルやレストランなど、そのへんの無料Wi-Fiが使える場所だけで我慢しようと判断する。

 そもそも、SIMロックを解除し、他事業者のSIMを認識したとしても、日本国内はもちろん、海外でも正常な通信ができるとは限らない。携帯電話やスマートフォンは無線機であることを忘れてはならない。

 WCDMAにしてもLTEにしても、3GPPによって明確にバンドが規定されている。自分の端末がどのバンドを使って通信ができるかどうかを考えたことがあるだろうか。

 例えば、ドコモの場合、日本国内では、WCDMAではB1、B6、B19を使い、LTEではB1、B3、B6、B19、B21、B28を利用してサービスを提供している。ところがSIMロックを解除したドコモ端末を持ってアメリカに行き、現地のSIMを入れて正常な通信ができるとは限らない。比較的容易に入手できるAT&TやT-Mobileでは、まさかこんなところで圏外かという場所に結構な確率で出くわすだろう。

 日本国内だって、auやソフトバンクモバイルのプラチナバンド(LTEのB11とB18)について、ドコモ端末はサポートしていない。キャリアはこれまで国内における自社ネットワークが確実に使えることだけを考えていれば良かったから当たり前だ。

 auの端末は、ローミング先の各国でさすがにWCDMAが使えないとローミングできる国が少なくなりすぎるので、かなり古くから海外ローミング用にWCDMAをサポートしてきた。さらに今回のGalaxy S6 edge SCV31などの最新端末では、CDMA2000をサポートしないという英断を下した。

 はっきり言って、国内キャリアから発売される端末の対応周波数は少なすぎる。しかも分かりにくい。購入する端末がどのバンドに対応しているかが明記されていないのは無線機のスペック表として失格だ。

 例えばドコモのGalaxy S6 edge SC-04Gの場合、その基本スペックにおける対応周波数らしき項目は、次のように記載されている。

PREMIUM 4G 対応(受信225Mbps/送信50Mbps)  Xi(クロッシィ)受信/送信対応(受信150Mbps/送信50Mbps)  VoLTE対応 ○  クアッドバンドLTE 対応 ○  	2GHz 対応 ○  	1.7GHz 対応 ○  	1.5GHz 対応 ○  	800MHz 対応 ○  FOMAハイスピード ○

となっている。この記載で何が分かるというのだろうか。キャリアアグリゲーションに相当するPREMIUM 4Gだって、どのバンドを組み合わせるのか分からない。国際ローミングサービスのページでも、各国の通信事業者と対応機種が並ぶだけで、どのバンドを使ってどの方式で通信するのかが分からない。

 一方、iPhone 6はどうだろう?

CDMA EV-DO Rev. AおよびRev. B(いわゆるCDMA2000)(800、1,700/2,100、1,900、2,100MHz)  UMTS/HSPA+/DC-HSDPA(いわゆるWCDMA)(850、900、1,700/2,100、1,900、2,100MHz)  GSM/EDGE(850、900、1,800、1,900MHz)  4G LTE(バンド1、2、3、4、5、7、8、13、17、18、19、20、25、26、28、29)

となっている。ちょっとややこしいがすぐに分かるのだ。これだけ揃っていれば、たいていの国で安心して使えるのは一目瞭然だ。

 対応周波数を明記すればそれを保証するためにコストがかかる。だから対応バンドを増やして列挙したとしてもキャリアの得にはならない。でも、SIMロック解除サービスを本格的にスタートするなら、基本事項として、各端末ごとに

  • 対応バンド
  • 対応CA
  • 各国ごとのローミング事業者とその使用バンド

をきちんと明示するべきではないか。

 キャリアが自社の名の下に端末を売っているだけの時代であれば、自社ネットワークが正常に使えればそれで良かった。でも、SIMロックを解除する以上、解除すると何ができるようになり、何ができなくなるかは明示すべきだろう。海外なら国ごとにどこのキャリアを推奨するかくらいのヒントはあってもいい。特に、基本的な通信対応についてはそうあって欲しい。テレビで言えば、地上デジタルが映るというだけではすまず、現時点でどの放送局が映るかを明示しなければならない。それが通信機というものではないか。

 そして何よりも、高すぎるローミング料金を下げること。まずは、そこからだ。SIMロックの解除なんて、ローミングがリーズナブルな料金でできればいらないユーザーも多いのだから。

(山田 祥平)