山田祥平のRe:config.sys
開く、閉じる、どっちがデフォルト?
2024年8月10日 06:10
Samsungのスマホ、Galaxyシリーズのニューモデルが発売された。AIのためのスマホであり、スマホのためのAIが実装され、さまざまなニーズに応えるべくリフレッシュされている。Galaxy Z Fold6をしばらく使わせてもらうことができた。AIと人々の暮らしをどう結び付けるかが練りに練られて実装された新端末。そこにはAIが寄り添う暮らしの未来が垣間見える。
30年前のPCと現代のAI
古い話になるが、20年前に書いたのこの連載で、さらにその10年前、1994年当時の女子大生のアンケートについて紹介したことがある。
30年前に18歳くらいだった彼女たちは、2024年現在48歳だ。そのアンケートで「パソコンを使えば何でもできると仮定して、何をやってみたいか」を聞いた。
ちょっと長くなるが、ここに引用しておきたい。
- 画像を自分でつくって、動かしたりさせてみたい。またパソコン通信も。
- 自由になるべく自然に絵が描けたらいいと思います。音楽を作りたいと思います。
- パソコン通信してみたいです。
- 今は思いつきません。
- 宇宙人と交信する。自分のすきなように、デザインをつくりたい。
- 手紙を書いてみたり、授業内容をまとめてみたい。
- でんわの代わり。
- しゃべってたらそれが文章になる。毎日の洋服をうまくコーディネイトしてくれる。
- 口で言った言葉をキーで打たなくても画面にかけ、文字にできたらいいと思う。
- 画面を指でさわると、そのとおり、画面にその映像が写るようになれば、使い方はもっと簡単になると思います。
- 就職活動において、企業のあらゆる情報をキャッチできるならいいと思う。
- 自分で絵を書くことが苦手なので、パソコンの力を貸りて CGなどできるくらいうまくなりたい。
- 将来自分が住みたいと思う家の設計や、完成した時の部屋の様子など自分で考えてパソコンを使って実際に見てみたいと思います。
- 要点だけ入れておけばそれをパソコンが理解してレポートをつくってくれたらうれしい。
- パソコンを使って、データ処理や、自分でゲームを作ってみたい。
- 家で大学の講義を受けたい。
- ファミコンのようなゲームができる。TVがみれる。
- とりあえず、マックをやってみたい。
- 情報の整理や遠くにいる友達と通信する。
- パソコンを通して世界各国の人と交流してみたいと思います。
- パソコン通信をやってみたいです。
- 宿題とか勉強でわからないことがあったらパソコンがすべて教えてくれる。
- TV電話みたいな感じ。画面に相手が出る(ちゃんと動く)。キーボードでうった言葉を、パソコンでしゃべってくれる。ついでに、いろいろな予約(やど、コンサート、美容室など)ボタン1つで自宅でOKのような。
- キーボードをみないで文字や図形を入力したい。
- 住所も何も、知らない人との手紙のやりとり。
- いろいろな人と通信をしてみたい。
- 自分の過去の失敗を修ふくする。こわしちゃったものをもとに戻すとか。
- お金をつくる。服をつくる。靴をつくる。
- 設計図をかいてみたい。
- 自分の今までの人生を私が主人公で小説にする。
- パソコン通信をしたい。5年くらい前にみたドラマで、それをやっていて、すごく楽しそうだったし、その時、実は、パソコンが欲しいとまで思いました。
- 高校の時楽しかったのは、マウスを使って絵を描くことでした。だから又、ぬりえのようなものをしたいと思います。
- 世界中の人や動物と話をしてみたい。
- ワープロが見た文字がワープロで活字になればいいと思います。授業などで、黒板の字をそのまま活字にしてくれたらうれしいです。
- 家中の電源と接続して、ボタン1つでドアが開いたり、そうじ機がそうじしてくれたり、何もしなくてもいいようになってほしい。それから、絵やグラフが書けるようになりたい。
原文のままだ。PCを使えば何でもできると仮定しているにも関わらず、突拍子もない発想があまりない。1994年当時、現役女子大生にとってのパソコンは、この程度にしか期待されていなかったということだ。
とは言うものの、これらのコメントにある「できたらいいな」は、そのほとんどがリアルな2024年の暮らしに浸透している。そういう意味では彼女たちは30年後の暮らしを的確に予言していたことにもなる。
Galaxy AIが提案する手のひらの上のAI
このことは今のAI活用にそのまま置き換えてもいいかもしれない。当時としてはPCはなんでもできる(はずの)電子頭脳で、それは今で言うところのAIと認識的にはそう違わなかった。少なくともPCは計算機というイメージはすでになかったはずだ。
「AIを使えば何でもできると仮定して、何をやってみたいか」という問いを、ひとつひとつ丹念に現実のものにするための一式を用意し、それが手のひらの上で運用できるようにした。Galaxy AIをひとことで言うとそういう感じだと思う。
Galaxy AIを実装したハードウェアとしてのGalaxy Z Fold6は、折りたたみ×大画面をコンセプトにした239gのスマホだ。前モデルよりも14g軽量化し、重量的にはかなりがんばっていると思う。閉じているときには6.3インチHD+(968×2,376)で一般的なスマホのスクリーンだが、二つ折りを開くと7.6インチQXGA(2,160×1,856)の大画面が出現する。開いた大画面は少し縦長だがほぼ正方形に近く感じる。
そのAIができることとして、以下のような多岐に渡る機能が用意されている。
- かこって検索
画面上の文字やグラフィックスなどをなぞったり囲んだりすることでそれを元にしたインターネット検索ができる。 - ノートアシスト
録音した内容を文字起こししてメモにし、それを要約したり、箇条書きをきちんとした文章にリライトするなど。 - チャットアシスト
最低限のキーワードを入れるだけで、シチュエーションに応じたメールやSNSに書き込める文章を下書き生成。 - ウェブアシスト
長い文章で表現されたWebサイトを瞬時に要約。さらには翻訳も。 - フォトアシスト
被写体の移動、消去、拡大、角度の調整も思いのまま。撮った写真をもう一度撮り直せるデジタル時代のネガ。 - ポートレートスタジオ
写真から好みのアバターを生成。 - インスタントスローモーション
撮影ビデオから決定的瞬間をスローでリプレイ。 - AIスケッチ
自分で描いたイラストや写真に描き込んだ小道具などからスケッチ画像を生成 - 通訳
会話モードとリスニングモードが用意され、外国語話者とのコミュニケーションをサポート。
ただ、それぞれの機能はGalaxy独自のキーボードアプリに実装されていたり、通訳機能はアプリではなく、クイック起動から呼び出す仕様だったり、通常のAndroidアプリとは異なる種類のアプリであったりと、入り口がさまざまで、把握するのが大変だ。その説明もない。このあたりは、もう少し整理する必要がありそうだ。
また、AIと言えばチャットというイメージを持たれていることが多いと思う。Samsungとしては、GoogleとのパートナーシップによってGoogle GeminiアプリでAIチャット機能を提供する。
AIがスマホを拡張し、ハードウェアの展開機構が画面を拡張する
目新しいものはないが、ひとつひとつの機能は洗練されている。特に通訳機能のリスニングモードはすばらしい。外国語話者の前に置けば、まさに会話の空間に日本語字幕が付く。しかもローカルAI処理されるのでインターネットアクセスも不要だ。
その結果は保存できないし、音声レコーダーアプリ等との同時実行もできないのは残念だが、それこそスマホの2台持ちで強引に解決することもできる。中学生時代の自分がこれを見たら、間違いなく外国語を学習する意欲が崩壊していただろう。機械翻訳サービスに加えてこれはもうトドメに近い。
こうして少しずつ、AIが市井の暮らしに浸透しつつある。Galaxyが提案しているのは等身大のAIだ。びっくりするようなことでもなんでもない。そう、30年前の女子大生がPCに求めていたようなことをスマホだけでできるようにするあの感じ。
二つ折りケータイとしてのGalaxy Z Fold6のフォームファクタは、日常的には普通のスマホで、いざというときに大画面を生成する。各種のAI機能は使えば使うほど、大きな画面で操作したいと思うだろう。
GalaxyにはSamsung DeXという、スマホを大画面ディスプレイに接続して、PCのように使えるようにする機能が実装されている。DeXで各種のAI機能を使えればどんなに便利かと思うが、提供されているAI機能の多くはDeXから利用することはできないようだ。さすがになんとかならないものかと思う。というか、すでにGalaxyはDeXに積極的ではないようにも感じるがどうなのだろう。
Windows 11には「スマートフォン連携」という機能がある。Galaxyはその機能に幅広く対応している数少ないブランドだ。それを使えばPCでGalaxy AIを使えるかと思ったが、使えても単なるミラーリングでちょっと物足りない。なんだかちょっともやもやする。
そもそもそれ以前の問題として、各種のAI機能を発見し使えるようになるまでのプロセスが煩雑すぎる。そして使い方を知るためにWeb検索が必要というのはどうにかするべきだろう。
開くと大画面が現れるフォームファクタは、大画面へのあこがれでもある。そして、その大画面をいつでもどこでも持ち歩けるようにして、必要なときだけ大画面が得られるようにした欲張りなシカケが二つ折りだ。6世代目となり、AI機能の充実などでハードウェアの成長も著しいのだが、さらに著しいAIシーンの進化に押しつぶされないようにがんばってほしい。