山田祥平のRe:config.sys
バッテリ事情の微妙で気になる将来
2024年8月17日 06:17
電子デバイスには充電が欠かせない。それが現代の新しい当たり前だ。少なくとも、モビリティを確保するためにはコードレスでなくてはならないし、稼働に電力が必要なデバイスでコードレスを実現するにはデバイスにバッテリを内蔵しなくてはならない。
そして、多くの場合、そのバッテリは二次電池で充電によってリフレッシュして利用を繰り返す。バッテリは消耗品だから、その寿命がデバイスそのものの寿命となることがほとんどだ。
酷使してきたお気に入りイヤフォン
個人的にかなりヘビーな使い方をしている完全ワイヤレスイヤフォンがある。GNオーディオのJabra Elite 7 Activeがそうだ。同シリーズの最新製品ではなく、2021年秋、つまり現時点で3年前に発売されたものだ。最新モデルはElite 8 Activeとなっている。
同社はコンシューマ向けの完全ワイヤレスイヤフォンとしてのEliteシリーズのラインナップを縮小するという発表があり、ちょっと残念に感じてもいる。もしかしたら最後のEliteシリーズになるかもしれないElite 8 Active Gen 2 と Elite 10 Gen 2が発表されてもいる。
Jabraのワイヤレスイヤフォンは、左右両耳にイヤフォンを付けたままで両イヤフォンのボタンを押しっぱなしにするとペアリングモードに入るようになっている。他社製品の多くはイヤフォンをいったんケースに収め、ケースのボタンを長押することでペアリングモードに入るが、Jabraのイヤフォンはその必要がない。単純なことだが、これだけで、ことあるたびに再生デバイスをとっかえひっかえして楽しむ場合などには便利だ。
ともあれ、このJabra Elite 7 Activeは、Activeという呼称からも想像できるように、IP57の防塵、防水、耐汗性能を備えたタフさを売りにする製品だ。IP57の5は完全な防塵ではないがデバイスの稼働には問題なく、7は一時的に水中に沈めてもデバイスが影響を受けないことを示す。
どんなものかいろいろ試してみようと、頻繁に通うスポーツジムでの利用に使ってみることにした。ジムエリアで装着したままでトレーニングして汗びっしょりになり、そのままプールエリアで塩素たっぷりの水に浸かり、プールで泳ぐとイヤフォンが耳から外れて回収できない可能性があるので泳ぐときははずすが、シャワーも普通に浴びる。
そして、トレーニングが終わったら、そのまま風呂に入り、サウナにも入る。温泉旅行などに出かけるときにも持参する。ほとんどの場合、脱衣場に置いたままのスマホが再生する音楽をBluetooth受信させても問題なく楽しめる。
有酸素マシンなどの稼働で意外に騒音にあふれるジムエリアではアクティブノイズキャンセリングが重宝する。プールエリアの水流マッサージプールでは約30秒おきに次のポジションに移動する必要があるのでヒアスルーモードでそのチャイムがちゃんと聞こえるようにする。
こんな具合にこの3年ほど、週に数回、毎回1時間程度の時間を、ジムに行く度にこのイヤフォンといっしょに過ごしてきた。音も好きだし、とても満足できるお気に入りの製品だ。
突然の異変にとまどう
ところがある日異変に気がついた。ジムでの入浴後、そのままプライベートロッカーに置きっぱなしにしているのだが、使おうと思って耳に装着すると右側のイヤフォンがバッテリがほとんどないとアナウンスすることに気がついた。その状態でも1時間程度なら平気で使えるのだが、どうにも気になる。ジムでの利用が終わったらケースに入れて消費した電力を補充し次回の利用に備えているのだから問題はないはずなのに……。
完全ワイヤレスイヤフォンは、右耳ピースがスマホとの通信を担い、受信した信号を左耳ピースに送る仕組みになっているものが多いが、この製品もたぶんそうだ。だから右耳ピースのバッテリが先に空になってしまう。
だが、1時間や2時間の利用でそのことが影響するはずもない。次回の利用までには左右両ピースのバッテリは満充電になっているのが普通だ。少なくとも、ずっとそうだった。
最初に疑ったのはバッテリの劣化だ。だがそうヘビーな使い方をしているわけでもないし、利用時間はたかがしれている。週に一度、ジムの休館日には自宅に持ち帰り、それなりのクリーニングをしてからケースを充電したりといった簡単なメインテナンスはしていたつもりだ。
だが、バッテリにとって、ちょっと使っては充電を繰り返すのは、ジムやスタジオ、プールに浴室、温泉以上に過酷な環境だ。いつかは左右ピース、特に右側のバッテリがだめになってしまうだろう。約3年間の使用はそれに十分なのかもしれないとも考えた。
だが、ケースに入れたときに、右ピースのインジケータが赤く点滅しないことがあるのに気がついた。使ったあとのイヤフォンをケースに収納すると、充電がスタートしたことを示す合図としてインジケータが短い時間赤く点滅するようになっているのだ。
ケースにイヤフォンを入れると、イヤフォン側の接点とケース側の接点が接触して導電する。ケース側は内部的にバネが実装されていて、とがった端子がイヤフォンの装着で沈み込むようになっている。おそらく沈み込んだ端子が元に戻ろうとする力で接点同士を密着させる仕組みになっているのだろう。
この仕組みを疑った。可動するものは最初に疑うのが基本だ。この端子を綿棒を使って100回くらい押し戻しを繰り返した結果、以前のように100%充電ができるように復活したのだ。
接触不良による瞬停電が繰り返し起こって充電がおかしなことになっていたのかもしれない。イヤフォンそのものがどんなにタフであっても、ケースも同等のタフさを備えているとは限らないことを思い知った。
ちなみに技術仕様を確認すると本体のIP等級はIP57となっていたが、充電ケースについては何も記載されていない。だが、後継機種のElite 8 Activeは本体のIP等級がIP68、充電ケースはIP54と記載されている。ケースの防水等級4はあらゆる方向からの水の飛沫によっても機器が有害な影響を受けないとされている。
早くこいこい新しい当たり前
今回は、現象面から不具合の原因を突き止めることができたが、このまま使い続けていると、宿命としてバッテリが本体寿命より先に寿命を迎えることになるのだろう。そのことを思うとちょっと悲しくなってしまう。
かつて、イヤフォンは有線が普通だった。消耗品としてのバッテリが必要なかったので、本当にイヤフォンそのものが機能しなくなるまで使い続けることができた。もちろんケーブルの断線などで使えなくなることはあるかもしれないが、その場合は、もっと優しく扱えばよかったなどと自分で納得もできた。
スマホについては今となってはとても高価な製品になってしまったので、たとえ1万円を超えるような修理価格でも、バッテリがへたってきたら交換するユーザーも増えてきた。以前なら、バッテリのへたるころには新機種が気になってそちらに乗り換えということも多かっただろうが、今は修理して使うようになり、使用期間も長くなってきてる。
でも、イヤフォンのバッテリ交換とか、イヤフォンに着脱可能なバッテリといったものは考えにくい。でも、そろそろ、ユーザー体験として、バッテリが消耗品であることの当たり前が、当たり前でなくなるような技術革新が起こらないと、まだ十分な実力を持つデバイスがバッテリの寿命に依存して捨てられることになる。2030年頃には、そんなデバイスが大量に出てきそうな気がしてならない。