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WordやExcelをAIで自動処理可能に。「Copilot Pro」はこうやって使えばいい!

Wordに実装されたCopilotボタン

 2024年1月16日、Microsoftから「Copilot Pro」がリリースされた。無料版の「Copilot」の上位版となる生成AIのサービスで、月額3,200円で優先的にGPT-4/GPT-4 Turboにアクセスできたり、画像生成の制限が緩和されたりする。

 さらに、Microsoft 365 Personal/Familyの契約があれば、Outlook、Word、PowerPoint、Excel(現状英語のみ)、OneNoteに生成AIの機能が統合される。実際に何ができるのか?どう便利になるのか?その実力を試してみた。

 なお、手っ取り早くCopilot Proの使用例とその結果を知りたい場合は、目次から(4)のセクションを読み進めてほしい。以下の動画ではさらに分かりやすく解説している。

個人でも使えるようになったOffice向けのCopilot

 Copilot for Microsoft 365の利用範囲が一気に拡大した。

 Copilot for Microsoft 365は、法人向けのMicrosoft 365サービスに生成AIであるCopilotの機能を統合したサービスだ。法人向けに商用データ保護機能などを強化したチャットサービスとなるCopilot(旧Bing Chat Enterpriseや)、WordやOutlookなどのOfficeアプリに統合されたCopilot in Word、Copilot in Outlookなどの機能を利用できる。

 サービス内容や機能の違いなどについては、以下の記事が詳しいので参照してほしい。

 ポイントは、これまで法人向けプラン(組織のテナントでIDを管理している環境)かつ、300人以上のユーザーがいる環境でしか利用できなかったが、これらの制限が撤廃され、組織向けMicrosoft 365 Business Standard/Business Premium/E3/E5でも1アカウントから契約可能になったこと。

 そして、「Copilot Pro」として、個人向けのMicrosoft 365 Personal/Family(Microsoftアカウントを使用する環境)でも、Officeアプリ向けのCopilotが利用できるようになったことだ。

Copilot ProはOfficeアプリからも利用できる
月額3,200円のCopilot Pro。GPT-4 Turboを利用可能で、特定用途のCopilot GPTを使えたり、混雑時でも優先的にアクセスしたりできる
Microsoft 365 Personal/Familyの契約があればOfficeアプリでもCopilotを利用できる

 Copilot ProとCopilot for Microsoft 365の違いは、前述したアカウントの違いに加え、簡単に言えば2つある。1つは使えるアプリが違うこと(Copilot ProはCopilot in Teamsがない)、もう1つは使えるデータが違うことだ(Copilot ProはMicrosoft Graphを使えない)。

 現代の生成AIは、RAG(Retrieval Augmented Generation)と呼ばれる手法を使うのが一般的だ。検索した外部知識をLLMにコンテキストとして入力して、文章を生成することで、最新の情報や内部情報など、特定の知識に基づいて回答させることができる。

 Microsoftは、こうした手法を「グラウンディング」と呼ぶことがあるが、テナント内の情報(ID、文書、チャット、メールなどなど)が詰め込まれたMicrosoft Graphのデータを検索して回答する機能が、Copilot Proでは利用できない。

 どちらかというと、Copilotで「めちゃくちゃ便利じゃん」と感動するのは、Teamsの会議の要約など、Graphのデータをベースにした回答なのだが、これらを利用するには、法人向けのCopilot for Microsoft 365が必要になる。

 なお、Copilot Proを契約しても、OfficeアプリにCopilotアイコンが表示されない場合は、「アカウント」画面から「今すぐ更新」で最新版に更新したり(最新版でも更新することでアイコンが表示される場合あり)、「ライセンス更新」からMicrosoftアカウントの紐づけを更新したりすることでアイコンが表示される場合がある。

Copilotアイコンが出ない場合はここを確認
Copilotアイコンが表示されない場合は、アプリの更新やライセンスの更新が有効

Copilot Proで何ができるのか?

 では、個人向けのCopilot Proを使うと、何がどう便利になるのだろうか? まずはそれぞれのサービスでできることを紹介する。

Copilot in Word

  • 雑多に入力したアイデアから文章の下書きを作ってもらう
  • 書きかけの文書の内容に基づいて文章を作ってもらう
  • 開いている文書を要約してもらう
  • 開いている文書の内容について質問する
  • チャットしながら文章を作成する
  • 文章を書き換えてもらう(長さ、トーン調整可能)
  • テキストを表に変換してもらう

Copilot in Outlook

  • メールの下書きを依頼する(長さ、トーン調整可能)
  • メールの内容についてアドバイスしてもらう

Copilot in PowerPoint

  • 話したい内容から下書きを作成
  • 指定した内容のスライドを追加してもらう
  • 開いているプレゼンテーションを要約してもらう
  • プレゼンテーションをセクションで整理する

Copilot in Excel

※テーブルとして書式設定しておく必要がある。

  • データをグラフにしてもらう
  • データからピボットテーブルを作成してもらう
  • 特定のデータを強調表示してもらう
  • データの並べ替えやフィルターを適用してもらう
  • 「合計コストの列を作って」のように新しい列を生成してもらう

Copilot in OneNote

  • ノートを要約してもらう
  • メモからTo Doやタスクリストを作成してもらう
  • プロジェクトなどの下書きを作成してもらう
  • 選択した範囲のテキストを書き換えてもらう

Copilot

  • GPT-4 Turboを使ったチャット
  • 自分のCopilot GPT(Designer、Vacation planner、Cooking assistant、Fitness trainer)
  • 商用データ保護(チャットデータを保存せず、学習に使用しない)
  • Copilot GPTビルダー(将来提供予定)

 なお、GPT-4 Turboは、学習データが2023年4月に更新され、プロンプトにより忠実に回答する(回答を常にJSON形式にするモードなども利用可能)、入力できるコンテキストが128,000トークンに拡張されたモデルとなる。

 ただし、CopilotではWeb版のインターフェイスに入力できるトークン数が従来の4,000トークンのままとなっているので、1回の会話に使えるトークン数は変わらないようだ。

 また、「Copilot Lab」(サブスクリプション契約がないとアクセスできない)も使える。このサイトは地味に有効だ。Officeアプリのプロンプトガイドに表示されるプロンプト例も、ここが元になっている。この資産があるからこそ、アプリと生成AIのシームレスな連携が実現できている。

便利なCopilot Lab
よく使うプロンプトが掲載されているCopilot Lab

革新的なのは「プロンプト」を選ぶだけで使えること

 Copilot Proが、一般的な生成AIと異なるのは、AIの機能がアプリに高度に統合されている点だ。

 Copilotアイコンから画面右側にチャットウィンドウ呼び出すこともできるが、Wordなどは新規ラインの行頭にCopilotアイコンが表示され、そこからインラインで呼び出したり、[刺激的なアイデアが見たい(インスピレーション)]から、自動的に文章を生成したりすることができる。

Wordからインラインで利用
WordではインラインでCopilotの機能を利用可能。[刺激的なアイデアが見たい]をクリックすることでAIによるアイデアを引き出せる

 また、チャット欄にある本のアイコンからプロンプトガイドを呼び出して、カテゴリからプロンプトのサンプルを呼び出すことができる。

 生成AIというと、プロンプトエンジニアリングのような高度なプロンプトを駆使しなければならないイメージがあるかもしれないが、Copilotでは必ずしもそうした作法が必要になるわけではない。

 日常的な作業、よくある使い方であれば、「クリックする」「選ぶ」といった簡単な方法で活用することができる。

プロンプトガイドで簡単に使える
プロンプトガイドから、よく使うプロンプトを参照できる

  Copilot ProとChatGPTは何が違うの?と聞かれたら、この点が大きい。Microsoftが収集してきた豊富なプリセットのプロンプトが、アプリと密接に連携していることで、生成AIに関する知識がなくても、作業の流れの中でスムーズに活用することができる。

プロンプトが集約されたCopilot Lab
さらに前述したCopilot Labを呼び出してさまざまなプロンプトをクリックするだけで入力できる

データからプレゼン資料を作って送る流れを体験してみよう

 それでは、実際に試してみよう。今回はExcelのデータを分析し、そこからWordの提案書を作り、さらにPowerPointのプレゼンを作って、Outlookで送信するという作業を再現してみた。

【STEP1】よく分からないExcelの生データを分析する

 今回は、架空のおにぎり屋のPOSデータを用意した。時系列に売り上げが記録された情報で、これだけではデータから知見を得るのは難しい。

Excelでデータを分析。ExcelのCopilotは英語プロンプトのみ対応

 そこで、Copilotを活用する。現状、ExcelのCopilotは英語のみの対応となるため、プロンプトは英語で入力する必要があるが、データそのものは日本語でも問題ない。

 たとえば、今回は、アイテムごとの販売数を年齢層別に把握したいので、次のようなプロンプトを入力する。

Analyze amount by item and age

 すると、アイテムごとの販売数を年齢層別に表示するピボットテーブルが自動的に作成される。

 このように、ピボットテーブルの作り方を知らなくても、知りたい情報を入力すれば、それに合わせてデータを分析できるようになる。

ピボットテーブルとグラフが自動的に作成される

【STEP2】Wordでざっくり企画案を作る

 続いて、得られた情報から企画案を作ってみよう。Excelの表から若者の販売数を伸ばしたいと考え、20代前半をターゲットとした人気商品を開発することにする。

 WordのCopilotを起動し、次のように伝えたいことを雑多に書き込む。

企画案。おにぎりの新商品。中高年に次いで多い若者層(20台前後)をターゲット。現在の人気商品はツナマヨ。ツナマヨとセットで購入してもらえる製品を開発することで、若者の購入単価を上げる。ツマナヨと相性のいい具材の提案。

書きたいことを雑多に書き込むだけでいい

 すると、指定した内容に沿って、見出しなどが整えられた文書が自動的にできあがる。もちろん、内容が気に入らなければ再生成することもできるし、トーンなどを指定して書き直してもらうこともできる。

下書きが自動的にできあがる

提案内容を表として視覚化する

 さらに、作成され文章にさらに手を加えてみよう。本文には、AIが考案した新メニューにアイデアがリストアップされているので、これを選択して「表として視覚化」を選択する。すると、箇条書きが自動的に表示に変更される。

箇条書きの内容を表にできる
作成された表

データ分析の節を追加する

 また「データ分析の節を追加」と入力して、STEP1で生成されたExcelのピボットテーブルをテキストとして貼り付ける。この方法は、思い通りに出力されないケースも多いが、何度か再生成を試すと、与えた表を元に分析情報が文章化される。

文章を追加することもできる
テキストの表を与えることもできるが、必ずしも正確とは限らない。こういったケースでは根気よく再生成するのが吉

インスピレーションでまとめを追記

 最後に、途中からの書き継ぎを依頼してみよう。

まとめ ツナマヨとのセット販売によって、

と途中まで入力してから、次の行で

刺激的なアイデアが見たい

を選択すると、続きを書いてくれる。

途中まで書いた状態で「刺激的なアイデアが見たい」を選択
続きを書いてくれるので、修正するだけで済む

 現状Copilot Proでは、Copilot in Wordが最も完成度が高い印象があるが、このように仕事の第一歩を踏み出す手助けをしたり、必要な情報を追加したり、途中から文章を補完してくれたりと、いろいろなシーンで役立つ印象だ。

【STEP3】PowerPointで要約からプレゼンを作る

 続いて、PowerPointでプレゼン資料を作ってみよう。

 法人向けのCopilot for Microsoft 365では、STEP2で作成したWordのファイルを元に自動的にプレゼン資料を作ってくれるのだが、Copilot Proではこの機能が使えないので、簡単な概要からプレゼン資料を作成する。

法人向けのCopilot for Microsoft 365ではWordからプレゼンを作成してくれる。Copilot Proではできない

 右側のチャット欄から本のアイコンをクリックして、「作成する」→「に関するプレゼンテーションを作成します」を選択し、以下のような内容を入力する。

6枚のプレゼンテーション資料。企画案。おにぎりの新商品。中高年に次いで多い若者層(20台前後)をターゲット。現在の人気商品はツナマヨ。ツナマヨとセットで購入してもらえる製品を開発することで、若者の購入単価を上げる。ツマナヨと相性のいい具材の提案

 すると、自動的に画像なども選択された状態でプレゼン資料ができあがる。

プロンプトガイドから選択することで資料を簡単に作成できる
自動的に6枚のスライドを作成してもらった

イメージを変更する

 ただし、作成されたスライドの中には、内容とイメージがミスマッチのものもあるため、これを変更する。既存のイメージを削除後、プロンプトガイドの「編集」→「次のイメージを追加」から「ししとう」などと、使いたいイメージを指定することでイメージを変更できる。

イメージを指定して追加できる

スライドを追加する

 最後に、スライドを追加してみよう。最終スライドを選択した状態で、プロンプトガイドの「作成する」→「次の事項に関するスライドを追加する」を選び、「今後の課題」と入力すると、課題のスライドが追加される。

今後の課題のスライドが追加される

 正直、Wordに比べると完成度が物足りない印象はあるが(特にイメージは思い通りのものが出てくることの方が珍しい)、マウスを数クリックし、ベースとなる情報を適当に入力するだけで、ここまでできるのはすばらしい。

【STEP4】Outlookで資料について同僚にアドバイスをもらうためのメールを送る

 最後に、ここまでに作成した資料をメールで送る場合を想定して、Copilot in Outlookにメールの本文を作成してもらう。

 Outlookでは「新規メールの作成画面」からCopilot in Outlookを利用できる。「Copilotを使って下書き」を選択し、次のように入力。

提案書のレビュー。若者向けの新しいおにぎりメニューについていくつか案をまとめた。足りない部分があったらフォローしてほしい

 さらに、左下の設定ボタンからトーンと長さを設定する。今回は、同僚に送るという想定でトーンは「カジュアル」、長さは「中」を選択した。これで、自動的にメールの本文を生成してくれる。

トーンや長さを指定してメールを生成してくれる

 さらに、Copilot in Outlookでは、メールのコーチングも可能で、作成したメールの下書きに対して、「トーン」「感情」「明瞭さ」を分析してもらうことができる。メールを受け取った相手が、どのような感情で読むか、メールの内容にあいまいさがなく相手に正確に伝わるかといったことまでアドバイスしてくれる。

 日々の仕事の中で「結局、どういうこと?」というメールを受け取ることも珍しくないが、自分も含め、客観的にメールの内容を判断してくれるのは有難い限りだ。

コーチングによって感情や明瞭さなどを判断できる。たとえば、例では期日などの明記が必要なことがアドバイスされている

 ちなみに、メールのスレッドの要約は現状はWeb版Outlookのみの機能となっており、アプリ版では利用できない。また、法人向けのCopilot for Microsoft 365ではメール本文欄の「/」コマンドからCopilotを呼び出せるが、Copilot Proではそれも利用できない。

Web版Copilot in Outlookのメールのスレッド要約。期日の変更などがきちんと反映されている。すばらしい!

メールとWordでの作業が多い人は価値あり

  以上、個人向けのCopilot Proを実際に試してみたが、個人的にはWordは◎、PowerPointは△、Excelも△(便利だが英語のみ)、Outlookは〇という印象だった。

 PowerPointは、場合によっては、「これはちょっと……」という内容やイメージが使われるケースもあるのが難点だ。ただし、概ね50~60点くらいの内容を提案してくれるので、あとは人間がアイデアを補完したり、修正したりすることで、すぐに70~80点くらいの完成度にまで引き上げることができる。

 一方で、WordとOutlookは、基本的に生成AIが得意な文字中心の作業となるので、やはり完成度が高い。

 もちろん、間違いや適当な情報も含まれるが、少なくとも、真っ白の画面を見つめたまま「さて、どうしよう……」と悩む必要がなくなることは、大きなメリットと言える。Copilotにアイデアを雑多に入力すれば、とりあえず情報を整理し、仮のコンテンツで紙面を埋めてくれる。

 将来的にはもっと便利になると予想されるが、現状であれば、WordとOutlookの作業が1日のうちの数時間を占めるような仕事の場合は、3,200円は高くないと言える。

 ただ、そこまでWordやOutlookに依存度が高いなら、もう少しがんばって法人向けを契約した方が絶対に便利だ。なかなか悩ましいところではある。

 とは言え、Copilotは、確実にPCの時代を変える存在と言える。継続的に使うかどうかは後から判断するとして、とりあえず、AIによって変わるPCの世界の今を、肌で感じておくことをおすすめする。