山田祥平のRe:config.sys

ポメラが世に問うポメラのミライ

 「テキスト入力専用メモ機」として知られるキングジムのポメラがパワーアップし、最新モデル「DM250」が発表された。従来機のDM200をアップデートしたもので、4年ぶりの新モデルとなるということだ。

愛されるポメラ

 ポメラがないと文章が書けないといった方もいるらしい。このPC Watchの執筆陣にも大河原克行氏のようにポメラのヘビーなユーザーのライターがいる。

 彼らはきっとハラハラしながらポメラを使ってきたのだろう。もしかしたら、流通在庫を探して予備を確保するようなこともあったかもしれない。何しろ、代わりがない。2016年10月に発売された前機種DM200は、この春に販売が終了している。それどころか、初代のDM100を大事に使っているヘビーユーザーもいるらしい。

 日本は、ワープロ専用機というカテゴリのデバイスが一世を風靡した時代があったが、初代ポメラの登場は2008年で、ワープロ専用機の事実上の絶滅のずっとあとだ。そして、ワープロ専用機とは違って、印刷も想定しない、純粋なテキスト入力機としての立ち位置を頑固に守ってきた。

 コンピュータ的な言い方をすると、ジャストシステムの日本語入力システムATOKで日本語を入力できる7型モノクロ液晶搭載のキーボード付きテキストエディタ専用機だ。パソコンのように自由にアプリをインストールして使えるわけでもない、ブラウザもない。とにかく使えるのはテキストエディタだけで、できることは文字を入力して編集して保存、それを開いてまた編集することだけだ。

 今回のDM250は前機種より6時間長い24時間のバッテリ駆動を実現した。また、1つのファイルに保存できる文字数は前機種の2倍に相当する20万文字になった。ありがちな言い方をすれば400字詰め原稿用紙500枚分だ。A4書類にびっしりと文字を詰めれば原稿用紙3枚分程度なので170枚分程度か。データ量としては400KBといったところだ。これだけの長文を書くのは大変だ。

閉じた世界で集中する

 いつでもどこでも持ち運べて、いつでもどこでも文章が書けるデバイス、しかも24時間も電源の心配をしなくていいという機器はなかなかない。

 DM250の重量は約620gだ。あと14gで634gの世界最軽量13.3型ノートPCであるFCCLの「LIFEBOOK UH-X/G2」が手に入る。冷静に考えたら634gという機動性はすごいことだが、そのWindows PCよりも、ポメラがいいというユーザー層が確実に存在するのだ。

 ポメラで作成したテキストファイルを、ポメラの外に出すにはいくつかの方法が用意されている。

1.USBケーブルで接続してマスストレージとしてPCから読み取る。
2.SDメモリーカードにファイルを保存し、それを別の機器で読み取る。
3.ポメラ側で文字データをQRコード表示させ、それをスマホアプリで読み取る。
4.ポメラをWi-Fiアクセスポイントにし、そこにスマホを接続してアプリでファイルを読み取る
5.SMTPでメール送信

 どの方法も、それなりに手間がかかる。クラウドサービスの利用に慣れきっていて、油断をしていると、そこにしかない唯一のテキストデータを作ってしまう。Wi-Fi、USB、Bluetoothと通信のための物理的な手段は用意されているし、メモリカードの読み書きもできる。だが、常時それらを使うようには考えられていない崖っぷちの環境だ。

 本末転倒かもしれないが、ポメラをスマートデバイスのBluetoothキーボードとして使うこともできるので、それがもっとも今風かもしれない。

カメラとワープロ専用機

 ポメラはたまたまテキストデータ、しかも「だけ」を扱うデバイスだが、似たような機器がほかにもあることに気がついた。デジカメだ。デジカメ専用機というのもおかしな言い方だが、シャッターを押すと、レンズがとらえた光景が、内蔵メモリやメモリカードに記録される。つまり、ポメラと同じ入力専用機だ。そして、スマホのカメラと違って、撮影した写真は、なんらかの方法で他のデバイスに持ち運ぶ必要がある。そのための方法は、ポメラと似たようなものとなる。ちがうのは扱うデータが画像かテキストかだ。

 スマホがカメラ専用機の役割をすっかり奪ってしまったように、ポメラのようなテキスト入力専用機の役割を奪うことはあるのだろうか。世の中の多くの人は、とっくにそうなっていると考えるかもしれないが、しっかりとしたキーボードを使って頭の中のひらめきを文字というかたちで記録するという行為は、スマホやタブレットとモバイルキーボードの組み合わせでは難しいと考える人がいて、そういう人たちは、汎用機であるパソコンでさえ、機動性の問題でそれができないと考えている。

 自分が好きな日本語入力システムを使い、自分が使いやすいエディタアプリで編集、他のアプリも同時に動かし、互いにデータをやりとりしつつ、入力したデータはサービスと連携してクラウドにあがる。そういう世界とは無縁の閉ざされた環境、いわば密室の心地よさだ。

 個人的にはポメラのテキストエディタが、もう少し柔軟にショートカットキーの割り当てができるようになっていればどんなにいいかと思う。特に、上下左右の方向キーの代わりに使えるショートカットや行頭、行末、ファイル先頭、ファイル末へのカーソル移動、改行程度のキーアサインを任意のキーコンビネーションに設定できれば、パソコンでの愛用エディタと併用するハードルは低くなる。

 また、昨今ではオンライン会議ツールにパソコンの画面を占領されて会議のメモを書くのも大変だと感じられることが多いようだ。リアル授業でも教科書に画面を占有されて、ノートを開いて書き込むのが難しいということもある。そんな時にポメラが活躍できないものかなとも思う。でも、そういう視点で作られているわけではないし、ポメラを作っている人たちにはきっとそのつもりもないだろう。

 DM200から6年目でも本体のルック&フィールはほとんど変わらず、追加された新機能も限定されている。でも中身は別物だそうだ。半導体等の入手難で発表も遅れて発売にこぎつけた。大変な難産だったようだ。

 キングジムは、この製品に求められているものを誰よりも分かっているのだろう。そして、世の中に出してしまった以上、変えられないことも分かっているにちがいない。本当は、交換が難しい内蔵バッテリではなく、乾電池か、せめて交換可能な充電式バッテリを使えるようにしておけばよかったのにと思う。そうすれば単にバッテリが劣化しただけでデバイスそのものが陳腐化する時期を先送りにすることができたはずだ。

 DM250の初年度出荷目標数量は8,000台だそうだ。古い製品をそのまま生産し続けるのではなく、変わらないで欲しいと願うヘビーユーザーを裏切ることなく、何かしらの進化をさせて製品をリフレッシュし続けるというのは大変なことだ。でも、それをやることに同社のメーカーとしての良心を感じる。キングジムが、この先もポメラの開発を続け、数年おきに新機種をお披露目するのかどうかは誰にも分からないが、2008年デビューのポメラシリーズが、15周年を迎える来年には、ちょっとした驚きも期待したいところだ。