山田祥平のRe:config.sys

スマートデバイスの使い勝手は画面の広さに比例する

 WindowsでもmacOSでも、そしてAndroidでもiOSでも、その画面が広ければ広いほど使い勝手は高まる。大画面スマートフォンやタブレット、折りたたみスマートフォンで複数アプリを並べて使うタイル表示や、単一アプリでの複数ペイン表示は、やりたいことの効率を高める。

小さなノートを大きく使えなくなった

 この1年、モバイルノートPCを外に持ち出して使う機会が激減してしまった。そして、大きなディスプレイで広々と作業するのが日常的な環境になり、ノートPCを使うのがとてもヘタになったような気がする。小さなノートPCを大きく使うスキルが落ちたのだ。

 きっと逆の人もいるだろう。モバイルノートPCだけで、あらゆることを同時にこなさなければならないために、そのスキルが一気に高まった結果だ。

 イマーシブ(没入的)とは言うけれど、結局、何かに没頭する姿勢は今も昔も装備は変わらない。教室の机の上に教科書とノート、そして向こうに先生という構図は小学校のときからずっと同じで、大人になっても、オンランミーティングアプリで人の顔を見ながら話を聞き、プレゼン資料を参照しながら、重要なことについてはメモをとる。

 今は、その途中にもメールは届くわ、LINEなどのメッセンジャーで声をかけられるわ、Twitterのタイムラインも気にしなくてはならないし、そのあとのスケジュールについても注目が必要だ。もちろんその間に、リアルな電話は着信するし、玄関ベルがピンポンと鳴ったりもする。それが在宅勤務というものだ。

 これらのことをA4用紙の面積に満たない13.3型のノートPCでこなす。それはもう大変だ。

 大きな画面は、その大変さの多くを解消してくれる。なにしろ、あらゆるものが見えているのだから、切り替えなどを考える必要がない。そのぬるま湯のような環境は何物にも代えがたい。結果として、怠惰がノートPCの使い方をヘタにした。それがこの1年だ。

大画面と小画面のハイブリッド

 24型のディスプレイを「モバイルディスプレイ」と称してスーツケースに収納し、世界各地に持ち運んで使ったのは、ひとえにこの怠惰をいつでもどこでも堪能するためだ。

 まさかの破損もあったが修理して使い続け、今は、USB Type-Cでつながる2代目のUSB PD対応ディスプレイとしてデルの「P2419HC」が出張のお供なのだが、1年以上、スーツケースに入れっぱなしで押し入れの中で待機している。

 小さなノートを大きく使うには、大きなディスプレイが1台あればそれでいい。出張に大きなディスプレイを携行するのは、宿泊先をできるだけ自宅の仕事場の環境に近づけるためだ。でも、取材時はノートPCを駆使しているからスキルが落ちることはなかった。

 今はもう、なんだかリハビリが必要なくらいに感じる。コロナ禍が明けることを想定して、そろそろ自宅でもノートPCを長時間使うようにして感覚を元に戻すことを考えるべき時期かもしれない。

 もっとも、複数枚の大画面4K環境を常用することで、視界のほとんどをデスクトップが占有する作業のノウハウは得られた。どっちもできなくちゃと欲張ってしまう。

PCをスマホで使ってもいいじゃないか

 過去の世代において、スマートフォンはPCのようなことができるコンパクトなデバイスだった。そのことに興奮して飛びついた。そして共存をもくろんだ。スマートフォンがPCに届かないことを知っていて、それを前提に適材適所で使い分ける。

 だが、新しい世代においては違う。スマートライフに必要なデジタル体験のほとんどを網羅したスマートフォンが初めてのPCそのもので、高性能で広い画面を持つノートPCやデスクトップPCは、なくても困らない存在だ。そのなくても困らない感が悩ましい。

 日本では、子どものPC使用率がかなり低いレベルで推移しているようだが、GIGAスクール施策などで多少は改善されていくのだろうか。本当は、PCがなければ宿題をするのも大変になるくらいの状況に追い込まないと、将来的に大ごとになる危惧もある。

 かといって、いきなりハードウェアとしてのPCを必須にしてしまうのは、もう難しいだろう。ならば、スマートフォンに大きなディスプレイを繋いで使うことを想定するのがよさそうだ。ちょうど、ノートPCに外付けディスプレイを接続して画面を拡張するようなもので、コスト的にも低い。最悪の場合、家庭用のTVを使うという手もある。

 Windows 365のようなサービスで提供される仮想マシンがそこから使えればなおいい。ベンダーによって異なるシェルのデスクトップ作法よりも、標準的なデスクトップが手に入る方がよさそうだ。

 スマートフォンしか手元にないけれども、大画面でPCを使えるという環境は、今の状況を少しは変えていくための現実的な解になるかもしれない。Microsoftは学生や教職員向けに各種の無料施策を提供しているのだから、そこにWindows 365を加えてくれればとも思う。

 iPhoneにしてもAndroidスマートフォンにしても、外付けディスプレイに直結してミラーリングができるだけで、仮想マシンを使うデバイスとしては十分な力を持っている。PCを使い始めるための敷居としてはかなり低いものになる。

 ただ、ケーブル1本で外部ディスプレイに接続できるものは意外に少ない。iPhoneでは「Lightning - Digital AVアダプタ」のような製品を使えばいいが、Androidの場合、無線でMiracastするしかない機種も少なくないのはちょっとやっかいだ。

 このあたりの事情さえ解決すれば、色々な事情が改善されるのではないか。適材適所でデバイスを使い分けるのが難しいなら、1台のデバイスをハイブリッドに駆使することで、未来が見えてくるように思う。

 楽観的かもしれないが、ノートPCやスマートフォンは自転車のようなもので、いったん使いこなしがヘタになっても、そして長期間使わなくても、すぐに元通りに使えるようになる。だからこそ、スマートフォンがあれば困らない層にも、大きな画面で得られる怠惰の魅力を知ってほしいと思う。

 小さな画面から大きな画面へのシフトの方が負担は小さい。そしてそれがローカルで使うフルスペックPCの所有欲に繋がればなおいい。ハードウェアメーカーにとっても悪い話ではあるまい。