山田祥平のRe:config.sys

Webごしのアプリ

 PCとOS、そしてアプリは切っても切れない関係にある。それは今なお変わらない。ただ、OSネイティブのアプリがいつまで使われ続けるのかは分からない。

エンジンさえあればどこにでも行ける

 エンドユーザーにとって、オペレーティングシステム(OS)は、コンピュータを使うための手段だ。身近なOSとしてはWindowsやmacOS、iOSにAndroidなどがあるが、コンピュータごとに使われているOSは異なっても、基本的にはコンピュータのアーキテクチャに応じたOSと、そこで使うネイティブアプリを用意することで、色々な作業をこなしてきた。

 また、エンドユーザーにとっては、アプリで作成したデータを扱うためのファイルシステムも重要な役割を果たしてきた。こちらもOSと深く結びついた機能だ。

 インターネットが浸透し、クラウドがOSと深く結び付くようになって、PC+OS+アプリという構造にちょっとした変化が起こった。外部と通信をすることなく、スタンドアロンで稼働するPCが皆無に近い状態となり、データはクラウドに置くのを前提にして、ローカルのハードウェアにはそのキャッシュを置くようになりつつもある。

 そして今は、アプリもネイティブな時代ではなくなろうとしている。いわゆるWebアプリが台頭し、ハードウェアローカルで個々のOSのもとで実行されてきたアプリも、プログレッシブアプリとして提供されるようになってきている。プログレッシブアプリはWebアプリをあたかもネイティブアプリのように使えるソフトウェアテクノロジーで、エンジンはWebブラウザだ。

データを扱う3つのスタイル

 具体的な例でみていこう。

 例えば、Wordで文書を編集する場合、データはクラウドにあるというのを前提にすると、以下の3つの方法がある。

  1. 各OSネイティブのアプリで編集
  2. Webブラウザを使ってWebアプリで編集
  3. プログレッシブアプリで編集(エンジンはWebブラウザ)

 これは、PCでもスマホ、タブレットでも同じだ。現状では1の方法をとるユーザーが多いと思う。ただ、ネイティブアプリが提供されていない場合は、2か3の方法を選ばざるを得ない。

 もっとも、ネイティブアプリとWebアプリやプログレッシブアプリでまったく同じことができるとは限らない。ぼく自身は、Wordの場合なら「Webレイアウト表示」での編集ができないことに不満を感じている。ネイティブアプリで「Webレイアウト表示」を使うと「印刷レイアウト」を無視して、レスポンシブなウィンドウで作業ができるのに、Webアプリではそれができない。書式や文字装飾などについても異なる点があり、まったく同じものを作るのは難しい。

 それでも、ネイティブアプリでしかできなかったことの多くが、インストールの必要がないWebアプリやプログレッシブアプリでできるようになったことの意味は大きい。OSではなくWebブラウザ依存ということになるが、エンドユーザーにとっては、使っているハードウェアやOSとは関係なく、目的の作業ができるからだ。WebブラウザがハードウェアやOSの違いを吸収するわけだ。

ネイティブアプリはいつまで使われることになるのか

 その一方で、Adobeのクラウドドキュメントのように、データはクラウドに置くが、それを処理するのはあくまでもデバイスローカルのOSネイティブアプリというスタンスをとるケースもある。デバイスを問わず、シームレスに同じデータを扱えるし、ほとんど同じ編集ができるが、ローカルにネイティブアプリをインストールする必要がある。

 多少のスタンスの違いがあるとはいえ、AdobeにしてもMicrosoftにしても、ローカルネイティブアプリがメインである点では同じだ。Microsoftはほんの少しWebアプリの方向性を模索しているにすぎない。

 だが、GoogleのWeb志向は徹底している。Google Workspaceの各種アプリはもちろん、Meetのようなオンライン会議にしても、すべてWebアプリとして提供されている。

 にもかかわらず、Googleドキュメントを筆頭に各種アプリが、印刷を前提とした編集スタイルを強いる上、レスポンシブなグラフィカルユーザーインターフェースを持たないのだ。すでにPCで作成される多くの文書が印刷されずに画面上でしか読まれないのに、Googleが各種のアプリで印刷レイアウトにこだわり続ける理由がいまひとつ分からない。もしかしたら、何かとっておきの奥の手があるのかもしれない。

趣味で選ばれるようになるかもしれないハードウェア

 かつてのPCは、アプリの数だけ使い道があると言われたものだが、今は、Webサイトの数だけ使い道があるといったところだろうか。

 そうはいっても、作業時間の多くは、ローカルのIMEを使ってローカルのワープロやエディタ、スプレッドシートなどに文字や数値を入力して編集することに費やされている。データはクラウドにあっても、フロントエンドがネイティブアプリなのだ。

 エンジンともいえるWebブラウザはもちろんローカルアプリだ。そして、それらの使い心地はPCのハードウェアの能力に依存する。様々な処理をクラウドに頼るにしても、ローカルハードウェアの処理能力は使い心地に大きな影響を与える。

 そのハードウェア依存の部分をクラウド依存に転嫁し、誰もが潤沢な帯域とわずかな遅延でクラウドと通信ができるようになれば、ネイティブアプリはその存在感が希薄になっていき、最後には消滅してしまう可能性もある。

 そのとき、クラウド側にいったいどれほど大きな負荷がかかり、そのためにどれほどのコンピュータリソースが必要なのかは想像を絶するものだろう。でも、最終的にはその方向にいくように思う。

 個人が所有するコンピュータは、今のクルマのように、個人の趣味や用途にあわせて軽トラからスポーツカー、4WDのワゴン、ラグジュアリーなセダンが選ばれるのと同じ感覚でチョイスされるようになる。スマホでもノートでもデスクトップでもできることが同じなら、ハードウェアのカタチを趣味で選んでも失敗はない。

 となれば、ハードウェアベンダーのビジネスモデルやマーケティングも、大きな方向転換が迫られることになるだろう。

 そういう時代がすぐそこにやってきているような気がしてならない。