山田祥平のRe:config.sys

モビリティは持ち運びやすさと取り出しやすさの両立

 「移動しながらモノを使う」という行為は、新型コロナのせいで第一線を当面は退いた。だが、再び人々の移動が活性化する日々を夢みて、そのための装備を考える。それだけで楽しくなる。じつに単純だが大事なことだ。今回は、カバンのモビリティについて考えてみた。

出かける準備をしよう

 緊急事態宣言が全面解除された。「移動のためにモノを持ち運ぶ」のが線のモバイルがあれば、「移動しながらモノを使う」線のモバイルもある。そして「移動先でモノを使う」点のモバイル。新型コロナ感染拡大防止対策は、その点と線を変容させた。不要不急の外出を自粛することで、移動が最小限に抑えられたからだ。

 いつになったら元に戻れるのか、もう元には戻らないのか。元に戻らないほうがいい。いろんな考え方があるし、そのどれもがそれなりの説得力を持っている。でも、気ままに外に出て、外界から気持ちの上での刺激を受けられる自由は貴重だ。

 個人的に、長い間、移動にさいしてはバックパックを使ってきた。ショルダーバッグを使っていた時期も長かったのだが、どうしても片側の肩に負担が偏ってしまう。かと言って左右反対のタスキがけはどうにも気持ちが悪いのでバックパックに戻した。

 バックパックやショルダーバッグは、スーツを身につけなければならない場合には不向きだと考える人も多い。というのも大事なスーツを型崩れさせてしまう可能性があるからだ。また、素材によってはカバンの裏側が衣服とこすれあって、衣服側の弱い布地をテカテカに摩耗させる可能性もある。

 それがわかっていてもバックパックやショルダーバッグを使うのは、移動中に両手が自由になるからだ。とくにショルダーバッグは両手が自由になるのに加えて、移動しながらモノを取り出すのもたやすい。

 その一方で、バックパックは体への負担は少なくなるが、移動中の取り回しの点ではショルダーバッグに劣る。というのも、バックパックの中味を取り出すためには、どうしても背中からバックパックを降ろし、トップ部のファスナーなどを開く必要があるからだ。

 このとき、バックパックを支えるために片手でバックパックを吊り下げ、もう片手でファスナーを開けるといったことになる。あるいは、床や地面にバックを置いて両手で開口する。やってみればわかるが、どちらの方法でも機動性という点ではショルダーバッグにかなわない。それに運良く電車で座席に座れたときに、バックパックは背負ったままというわけにはいかない。

 バックパックとショルダーバックのよさを兼ね備えたカバンがあればいいのにとずっと思っていた。

出かけるためのカバン学

 外出自粛中は時間に余裕があったので、身の回りの装備をいろいろと再考することができたのはよかった。自宅での仕事環境のみならず、きっとそのうち使うであろう外出時の装備についてもいろいろ考えた。

 そんななかで、文字どおりのウィンドウズショッピングで見つけたのがmoshiというメーカーのバックパック「Arcus」だ。多機能バックパックとして紹介されて3色がラインナップされている(この原稿執筆時点ではチャコール・ブラックは販売終了)。

 調べてみるとmoshiは、2005年にサンフランシスコで創業したメーカーで、意外に歴史がある。テクノロジとアートの両立を目指して立ち上げたブランドということで、製品設計を外部委託せずに自社内で追求しているそうだ。

 Apple製品用のアクセサリ類で評価を高めてきたが、近年は、オリジナルのバッグ類が注目されているという。手元の記録を調べてみると、創業当時から海外の展示会などで何度も見かけていたブランドのはずだがキャッチアップはできていなかった。

 同社製品は、日本国内から直販で入手できる以外に、蔦屋家電二子多摩川に専用コーナーを設けていたり、東急ハンズなどでも扱っているようだ。また、AmazonなどのECサイトや正規代理店のMJSOFTでの通販などでも入手できる。

 このバックパックが気になったのは、自分がバックパックに求める多くの要素を、ほとんどすべて満たしているように見えたからだ。ただ、購入するには勇気がいる価格だ。でも興味がつきないので入手していろいろとチェックしてみた。

 まず、ポケットの数がたくさんあるのがいい。ポケットの数の多さはそのまま重量に影響するので一長一短かもしれないが、整理のためにガジェット類を小分けパックすると、小袋だけでも重量はバカにならないのでそこには目をつぶる。カタログスペックではバックパックそのものの重量は1.25kgと、決して軽くはない。

 でも、ポケットが多いことで、どこに何を入れているかを覚えていれば、瞬時に必要なものを取り出すことができる。とくにぼくの場合は、基本的に荷物は入れっぱなしだ。帰宅しても中身を取り出すことはない。常用するバッグはいくつかあるが、それぞれ全バッグに必要最低限のグッズが入ったままだ。折りたたみ傘、名刺、モバイルバッテリ、PD充電器、ケーブル類だ。これらを個別に定位置に収納できるのはうれしい。

 また、バックパックでありながら縦置き状態で自立する。これも支えなどの実装で重量との兼ね合いがあるが、カンファレンスやセミナーなどで足下に置く場合に便利だ。

 これ以外にバックパックに求める要素としては、500mlのペットボトルを外側に格納できることもある。そのスペースは、雨に濡れた傘をレジ袋などに入れて持ち運ぶ場所にもなる。

 もちろん、薄型のモバイルノートPCを入れる独立したスペースも欲しい。これはPCの保護というよりも、使いたいときの取り出しやすさだ。基本的にPCはPCケースなどに入れることはない。だから、むき出しで入れても気を使わないようになっていてほしい。サッと出してサッとしまえることが重要だ。

 加えて、未だに受け取ることが多いA4の紙書類を折らずにしわくちゃにしないで収納できること。そのためにA4クリアファイルを数枚持ち歩いている。可能であれば角2封筒がスッポリと入ることが望ましい。

 Arcusは、これらの要素をすべて満たす。

 しかも、側面から内部のスペースにアクセスできることで、右側の肩にかけたままで荷物を取り出せる。結果として両手が使えるのでこれが思った以上に便利だ。

 さらに注目すべきはArcus Camera Insertというカメラを収納できるインナーバッグがオプションとして用意されている点だ。

 Arcus Camera Insertはそれなりのズーム域を持ったレンズを装着した状態の一眼レフカメラとアクセサリ類を収納できるサイズで、造りもしっかりしていて保護の点でも安心だ。そして、インナーバッグのフタ部分をバックパック側面のフタと連動させて中身を取り出すことができるのだ。

 バックパックに一眼レフカメラを入れる場合、サイズの点でも重量の点でも、どうしても底の位置に押し込むことになり、撮影のためにすばやくバックパックから取り出すのは難しい。だが、この仕組みなら左のベルトを肩からはずし、右の肩からぶらさげた状態で側面からカメラを取り出すことができてスピーディに撮影態勢に入れる。

 Arcus Camera Insertは、メインのスペースを7割程度占有してしまうが、その上にもある程度の荷物は格納できる。メインスペースを上部からと側面からの両方から利用できるので機動性が高まるというわけだ。

 複数のインナーバッグを用意しておき、持ち出す装備ごとに使い分ければ、出かける前にインナーバッグを入れ替えるだけで準備が完了し、忘れ物をすることもない。

20Lの小宇宙

 もちろん、改良を望む要素もある。たとえば、キャリーバッグやスーツケースの持ち手に固定するストラップがない。これはあったほうが絶対に便利だ。

 また、PCの収納スペースが上部からのアクセスだが、これも側面からアクセスできるようにしてもよかったのではないか。ただ、PC収納部はマチつきとは言え両側面までファスナーがあるので、ノートPCのサイズ次第では、側面からの出し入れもなんとかなる。

 そしてカメラ同様、肩にかけたままでのPCの出し入れもできなくはない。電車のなかで立ったままPCを取り出すといったことが、バックパックは意外とたいへんなのだが、その煩雑さを解消できると良い。

 カメラ収納については、内部の仕切りなどの工夫でArcus Camera Insertを使わなくても2層化できるようになっていれば重量増も最小限に抑えられるかもしれない。

 災害時のことなどを考えても、必要なものをカバン1つで持ち出せるようにしておくと安心だ。ぼくの場合は、常用バックパック内には最低限必要なものを格納したままなので、あとはスマートフォンとノートPCを入れて持ち出せれば、当面は不自由することはないはずだ。

 そういう意味ではArcus Camera Insertをもう1つ用意し、そのなかに最低限の着替えや洗面用具などを非常グッズとして入れておき、一大事ということが起これば、それを格納して持ち出すといった使い方もあるかもしれない。

 緊急事態宣言が解除されても油断は禁物だ。企業によっては従業員の安全確保のために当面は在宅勤務を継続するところもあるようだ。その一方で、在宅勤務が難しい場合の、歩いて通える仕事環境確保など新しいビジネスもいろいろと立ち上がってきているようだ。Arcusは約20Lの小宇宙。その中身を吟味して、ウィズコロナの時代に備えたい。