山田祥平のRe:config.sys

○と□のせめぎあい

 丸いディスプレイを持つノートPCやスマートフォンって、あまり考えたくない。なのに、世のなか、なぜか○がもてはやされる。○はどうして□よりも好まれるのだろうか。そこにはもったいないという感覚はないのか。

Alexaとディスプレイ

 アマゾンジャパンが、AI Alexaを使うためのスマートスピーカーで知られるEchoシリーズの新型として、Amazon Echo Spotの販売を開始した。6月20日から販売を開始、出荷は7月26日が予定されている。価格は14,980円で、すでに先行予約が開始されている。

 Echo Spotは、円形のタッチディスプレイを持ち、従来のEchoのAlexaができたすべての機能に加えて、さまざまな情報やコンテンツを「見せる」ことができるという。ディスプレイのサイズは2.5型で解像度は480×480ドットとなっている。スクリーンは円形なので、じつは、480×480ドットという正方形に内接する円の外側部分は無駄になっている。貧乏性のようだが、これがとてももったいないと感じるのだ。

 アマゾンジャパンのカレン・ルービン氏(JPカントリー・マネージャー)は、「スクリーン付きの新しいスマートスピーカーであるEcho Spotはスタイリッシュでコンパクト、カメラとスピーカー、そして4つのマイク、さらにスクリーンを使って何ができるかを考えた結果、既存機能の新しい利用体験を提供する」という。検索結果の画像表示を指でタッチして選択したり、ビデオ撮影をしたり、Alexaがよく頼まれるというタイマーのカウントダウンにしても、タイマー名を表示して残り時間を表示する。また、音楽再生も曲をタッチして好きな曲を選べるのだという。はっきりいってこれはまるでスマートフォンかタブレットだ。

 リリースにあたっては、画面対応のスキルも数多く用意され、現在加速度的に増えているという既存Echo用スキル950超に加え、Spot対応のスキル50が同時に使えるようになるそうだ。

 動画コンテンツへの対応なども目新しい。まるでTVのように番組を表示してくれるのだ。だが、Echo Spotは、TVのように四角くない。

四角いコンテンツを丸く見る

 動画コンテンツの多くは四角い画面、ほとんどの場合は縦横比16:9の画面で見られることを想定して作られている。それを円形ディスプレイで表示すると、本当なら見たい部分がけられて見えなくなることも多い。それを回避するには、ズームアウトして円のなかに収まるようにする必要がある。当然、表示は小さくなる。もう1つ方法はあって、AIが重要な要素を検知し、自動的にズームインすればいい。だが、まだ、そこまで賢くない。

 Echo Spotはクッキングレシピの動画表示などでも役に立つとされているが、それにしたって四角いコンテンツを円のなかに表示するのでは肝心の部分が見えないことが多くなってしまう。

 似たようなことを、スマートウォッチの出はじめの頃にも思った。多くの製品が従来の腕時計を模した円形ディスプレイを採用していて、四角形のディスプレイを持つスマートウォッチはあまりなかった。腕時計とは円形であるという刷り込みに近いイメージを崩すことはトクにならないと考えられたのだろう。今、Apple Watchは頑固に四角形のディスプレイを維持しているが、その姿勢にはある種のこだわりも感じる。

 腕時計に限ったことではないが、時計に円形が似合うのは、アナログ時計が針を回転させて時を刻むようにできているからだ。デジタル表示であれば円である必要はない。さらに、いまのスマートウォッチのように、時刻を知るという目的以外に、さまざまな情報表示をするためには、画面は四角いほうが有利だ。捨てる部分がなく、より多くの情報を表示できるからだ。

 なのになぜEcho Spotは円ディスプレイにこだわったのか。米国では四角いディスプレイを持つEcho Showも発売されている。アマゾンジャパンによれば、目覚まし時計など、かつて身近だった円形のオブジェに対する親しみやすさが優先された結果なのだという。

 かつて慣れ親しんだもののイメージをメタファーにしたものとしてよく知られているものとして、Windowsデスクトップがある。確かに道具を並べ、書類を並べるのだから机そのものだ。個人的にはそこに敷くのが壁紙というのがどうにも納得できなかったりもする。机に敷くなら壁紙ではなくテーブルクロスだろうとつっこみたくなってしまう。だが、書類はウィンドウだし、窓は壁にあいているものと相場が決まっている。そのあたりの矛盾には目をつぶったまま現在まで引き継がれているわけだ。

 機能をとるのか、親しみやすさをとるのかは難しいテーマだ。とくにデジタルガジェットはそこが決め手となって受け入れられるかどうかが決まったりもするからたいへんだ。Echo Spotが、日本の市場デビューにあたり、円ディスプレイを選んだことが、どのように受け入れられるのか、その結果が気になるところだ。

このEchoは誰のもの?

 Echoシリーズで興味深いことの1つに、今後、コミュニケーション機能が追加されるという点がある。

 Amazonによれば、2台のEcho Spot同士、あるいはEcho SpotとAlexaアプリ間でビデオ・音声通話が、また、2台のEchoシリーズ、あるいはEcho SpotとAlexaアプリ間でメッセージ送受信、また、Echo SpotのユーザーはAlexaアプリを使い、別の部屋や外出先から自宅の様子を確認することができるようになるようだ。

 Echoシリーズにはデバイス名をつけられる。また、AlexaはAmazonアカウントと紐付けられてインストールされている。デバイス名やアカウント名を使って相手を特定し、その相手に対してメッセージを送ったり、対話をしたりすることができるわけだ。

 なら、Echo Spotが設置されている居間に誰がいるのかわからない場合、そのデバイスに対して「お父さん」宛てにメッセージを送ると、Echo Spotはお父さん宛のメッセージがあることを表示し、それを「お父さん」が開くとメッセージを確認できるという。ここで重要なことは、デバイス宛てのメッセージは誰でも開けるが、自分宛ではないメッセージを開くか開かないかは、その人の良心に委ねられるという点だ。お父さん宛のメッセージをお母さんが開くかどうかということだ。

 スマートフォンのAlexaアプリなどは、個人が自分のために携行しているデバイスで稼働しているのでそういうことを心配しなくてもいいが、Echoシリーズのように半パブリックなデバイスがこうしたコミュニケーション機能を持ちはじめることで、ちょっとややこしいことにもなりそうだ。

 話としてはついにAmazonがメッセージングの世界に参入という面もあって興味深いのだが、パーソナルでもなくパブリックでもないホームという特殊な場所におかれたデバイス、つまるところは、かつての固定電話のような存在としてのEchoシリーズが、それ自身のアイデンティティをどこに置こうとしているのか。アマゾンジャパンでは、そのあたりもまだ模索中ということだ。