山田祥平のRe:config.sys

ノー・モア・モバイル

 モビリティがもてはやされる時代が遠くなりつつある。とくに、線のモバイルについては全滅に近い。スマートフォンの浸透により、ほとんどの作業ができるようになったからだ。こうした状況の中で、ということで、このあたりでノートPCの存在意義について考えてみる。

持ち運ばないのに軽量長時間がもてはやされる

 興味深い調査結果が発表された。IDC Japanによるもので、「国内軽量/長時間バッテリ駆動型ノートPC市場競合分析結果」と題するレポートだ。

 プレスリリースによれば、その要点として3つの項目が挙げられている。

・2017年 国内法人向け 軽量/長時間バッテリ駆動型ノートPC市場 ベンダー別出荷台数トップシェアはパナソニック
・軽量/長時間バッテリ駆動型ノートPC市場は法人向けノートPCの中で31.5%を占め、前年比61.5%増
・働き方改革の推進やフリーアドレス制度の浸透、デスクトップPCからノートPCへの切替えへの動きが軽量/長時間バッテリ駆動型ノートPC増加の背景

 IDC Japanによれば、従業員が求めるノートPCを企業が選定するさいに、まず、軽量/薄型で持ち運びやすいこと、そして、長時間のバッテリ駆動が優先されるという。そこで、1.2kg未満、8時間駆動というしきい値が設定されたようだ。

 そして、この2つの要件を満たすノートPCの出荷台数は49万台。国内法人向けノートPCの実に31.5%を占めていることがわかったという。しかもノートPC全体の成長率は前年比6.4%だったのに対して、これらのPCの伸び率は前年比61.5%増と、急速な拡大が認められるらしい。

PCの持ち出し禁止とその解禁

 世の中には2種類のビジネスマンがいる。出先や移動中にPCが必要な職種といらない職種だ。だが、ご存じのように、世の中には第3の職種が存在する。それは、PCを持ち出したくても持ち出すことが許されない職種だ。

 現状では圧倒的に、その第3の職種が多いと聞く。それでも街角のカフェを除けば、多くのビジネスマンがPCをひろげて何やら作業をしているし、新幹線や飛行機はもちろん、地下鉄のような短時間の移動時でさえ、座席でPCを膝の上で操作しているビジネスマンを見かける。それも決して珍しくはない頻度で目撃できる。

 「働き方改革に伴うモバイルワーカーの増加やフリーアドレス制度を導入する企業が増加する傾向にあり、今後も軽量/長時間バッテリ駆動型ノートPCの出荷は増加する」とIDCでは分析しているようだ。でも、本当に働き方は変わるのか、現実的にそれは可能なんだろうか。

 かつて、今はPCくらい使えないと生きていけないと言われた時代があった。たぶん1980年代の終わりころだと思う。今はさしずめ、PCくらい持ち歩かないと仕事ができるはずがないといったイメージだろう。どっちにしても脅迫に近い言い草だ。

 PCを持ち出し禁止にしている企業がたくさんあるにもかかわらず、こうしたノートPCが飛躍的な成長を見せているのは、いつかは持ち出しを解禁しなければなるまいと多くの企業が考えているからなのだろう。また、会社から持ち出さないことが前提だとしても、社内であちこちを移動しながら仕事をするには、PCは軽い方がいいし、いちいち電源アダプタを持ち歩かなくてもすむくらいにはバッテリがもった方がいい。残業が禁止されて就業時間が短くなれば10時間程度駆動できれば、少なくともPCを社内で使う分にはケーブルから開放される。

 このとき不思議に思うのは、フリーアドレスの職場が多くなってきている中で、いったい夜間はそのPCをどこに置いておくのだろう、ということだ。ただ、フリーアドレスに踏み切るような企業は、PCの持ち出しにも寛容であることが多い。つまり、PCは自宅に持って帰るのだ。自宅でフル充電しておけば、1日をバッテリ満タンでスタートすることができる。

 PCの持ち出し禁止は、重いPCしか使わさせてもらえない時代にはむしろラクチンだったはずだが、持ち出しが解禁されれば通勤時の荷物が増える。これは間違いない。その負担を減らすためにも軽量ノートが必要だというわけだ。世の中全体がそんなふうになるにはまだ数年の猶予が必要だろうが、最終的にはそういうふうになっていくのだろう。そこでようやくデジタルトランスフォーメーションがかなう。

 その背景には、管理されたPC以外で業務をしてほしくないという思惑もある。だからPCは会社のものを使わせる。仕事では唯一無二のPCとして、オールマイティなPCが求められるというわけだ。ここには適材適所のマルチデバイスといった考え方はない。

線での負担軽減と点でのパフォーマンス

 こうした考え方でノートPC市場が進むとすると、ある程度の画面サイズを確保し、線のモバイルはスマホにまかせ、点で使いやすいPCがチヤホヤされるのはごく自然な成り行きだ。今のセキュリティリスクを考えれば、カフェでのんきにPCを開くことなどありえないという風潮もその領域を後押しする。

 だからというわけでもないが、軽量/長時間バッテリ駆動PCがもてはやされたとしても、ビジネスマンの働き方が変わるとは思えない。そこにあるのはモビリティではなく、ポータビリティの確立だからだ。

 個人的には電車のベンチシートでも、両隣の人に迷惑をかけない程度のフットプリントで作業ができる10型画面のノートPCを重宝している。こうした環境で使うには、13.3型は幅が広すぎるのだ。残念ながら、そのカテゴリに属するが今後充実していくようには思えない。期待を裏切って普及するとすればじつにうれしいのだが、さてどうなることか。

 それに10型画面は、線のモバイルでは重宝しても、点のモバイルでは狭すぎる。記者会見や発表会、インタビューや打ち合わせでメモをとるための持ち歩きには、その機動力が抜群だと感じても、これからのビジネスマンが働くシーンでは、さほど価値が認められないだろう。そういう意味では愛機のレッツノートRZシリーズのフルモデルチェンジは期待できそうにないのはとにかくつらい。

 世の中のモビリティは、こうしてポータビリティに移行しつつある。小さなノートで大きな仕事をするのはもう古い。大きなノートを線でラクに持ち歩き、点でのパフォーマンスを確保することこそが求められる。ノートPCはこうした世の中にあわせて、大きな舵取りをすることが求められるだろう。