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CES、その出展企業の興亡

 世界最大のコンシューマエレクトロニクス展示会CESが4日間の会期を終えて閉幕した。その前哨戦を含め、あわただしかった1週間を振り返ってみよう。

雨で停電は前代未聞

 CESそのものは今年(2018年)で51回目を迎えるが、個人的にこの展示会を最初に訪れたのは2000年のことなので、今年は18回目の参加となる。少なくとも、この18年間は、ずっとこの砂漠の地、米ネバダ州ラスベガスで開催されてきたCESだが、その間には雨もあったし、雪も経験した。だが、2日間も雨が降り続き、その影響で3時間におよぶ停電まであったのは初めてだ。

 メイン会場のセントラルホールとサウスホールが停電し、サウスホールはすぐに復旧したものの、セントラルホールは3時間ものあいだ閉鎖された。大きな混乱はなかったようだが、とつぜんの電源断に展示機器類の不具合が発生していないかどうか、盗難などはなかったのかが気になる。

 個人的な被害としては、ちょうど停電時間中にセントラルホールのブースで取材の約束があったにもかかわらず、ホールに入れなかったためにキャンセルせざるを得なくなってしまったことだ。翌日、別の時間に訪れてことなきを得たが、電化の展示会で電気に悩まされるというのは貴重な経験だったと思うことにしよう。

 この18年の間だけでも、CESのイベント規模は高まる一方で推移してきた。CESそのものはかつて米国の民生電子機器産業の成長を推進する全米規模の業界団体であるCEA(Consumer Electronics Association)がスポンサードしてきたイベントだ。このCEAは現在、名称をCTA(Consumer Technology Association)と称している。ちなみに、このイベントはコンシューマ・エレクトロニクス・ショーと呼ばれることが多いが、主催者側としてはその名称は使わないでほしいとしている。

 今年は17万人超の参加者があったようだが、5年前の15万人と比べても少し増えている。出展者数も3,250社から3,900社へと増えた。

 会場規模も変わってきている。18年前に最初に来たときには、ラスベガスコンベンションセンター(LVCC)のノースホールとサウスホールの2つがメイン会場で、隣のヒルトンホテル(現ウェストゲートホテル)、近隣のサンズエキスポ会場程度だったものが、昨今では周辺にできた新しいホテルを含めて、会場は周辺に大きくエリアを増殖している。もはや4日程度で全部を見て回るのは不可能だ。

メイン会場と出展企業の変遷

 現在のセントラルホールはかつてサウスホールと呼ばれていた。ところが、その南側に新しいサウスホールができたことでセントラルホールと呼称が変わった。ここがメイン中のメイン、いわば目抜き通りとなるCESを象徴する会場だ。いわゆる超大手の企業が出展するエリアとなっている。日本の企業で言えば、パナソニックやソニー、東芝などが規模の大きなブースをかまえる花形会場だ。パナソニックや東芝のブースにかつての勢いを感じることができないのは日本人としてちょっと残念である。

 時代が変わるにつけて、このメイン会場の様子も変わっていった。IntelやMicrosoftがCESに積極的に参加するようになり、このメイン会場の一等地に陣取るようになった。CES的にはいわば新参者だといってもいい。さらに、SamsungやLGなどの韓国勢も進出してきたし、Qualcommもここに堂々としたブースをかまえるようになった。今年は、HuaweiがQualcomm、Intelブースに隣接するブロックに一番奥から引っ越してきて、その勢いが感じられる。

 一方、ノースホールは昔からクルマ関連の展示が多かったが、ここ数年はその傾向に拍車がかかっている。CESはもはやクルマとAIの展示会だといってもいいくらいの状況だというのはその様子を見てのものだろう。

 それでもトヨタや日産といったクルマの世界では超大手のメーカーが、ノースホールのかなり奥のほうにしかブースを得られないでいる。だが、かつてはコンシューマエンタテイメント系のベンダーが集まる現サウスホールにいたNVIDIAがノースホールに移転してきて、その一帯が、まるでモーターショー的なエリア展開になっているところが興味深い。

 今、もうMicrosoftはCESへの出展を取りやめているが、こうしたメイン会場からの撤退を余儀なくされている企業はほかにもたくさんある。そういう意味ではメイン会場であるセントラルホールとノースホールの出展企業の変遷を見ると、IT業界を支える構成がなんとなく見えてくるというものだ。

 とはいえ、DellやLenovoのようなPCの業界では巨人と呼ばれるベンダーでも、メイン会場ではなく、メイン会場とは離れたベネチアンホテルの通路に長屋のようにPCストリートを構成しているところもある。かと思えばHPのように公式にはブース等をかまえず、会期中に開催されるさまざまなプライベートイベントにのみ出展するようなベンダーもある。

 また、今年は、サウスホールの隣にサウスプラザと呼ばれるパビリオンが作られ、広大な空間に整然と数多のブースが並べられた。おそらくはラスベガスのいたるところに散在していたパーツベンダーや中国系のベンダー、スタートアップなどが集められたのだろう。こうしたベンダーとの取引をもくろんでCESにやってきた参加者にとってはじつに効率的な視察、商談ができそうに見える。

 一方、ベネチアンホテルの一角には、中小のベンダーが個室を借り、小規模な展示を行なっている。約束がないと入れないところが多いが、商談の場としてはうまく機能しているようだ。

 CESでの展示が一般向けにで見本市的な展開である一方で、この手の小部屋では、未発表の案件が秘密裏にデモンストレーションされ、商談につながっていることが多いと聞く。新しい技術の存在をいちはやく知って、チップなどが量産段階に入る前に早期に取引をはじめてエンドユーザー製品に実装するようなことが行なわれるわけだ。おそらくは、エンドユーザー製品としてこれらの秘密案件がわれわれの手に入るのは1年後といった時期になる。

AmazonとGoogleの熾烈な戦い

 今年のCESで気になったのはAmazonとGoogleの立ち位置の違いだ。北米ではもはやスマートスピーカーにおいてAmazonのAlexaの築いた地位は確固としたものとなっているようで、とくにアピールしなくてもスマートスピーカーといえばAmazonといった捉え方をされている。

 それをGoogleが黙って見ているはずもない。会場周辺ではGoogleがいたるところでGoogleアシスタントのデモをあの手この手で展開していた。セントラルホール前の広場には専用のパビリオンを設置していたほか、セントラルホール玄関脇には巨大なGoogleガチャを設置し、Googleアシスタントを経験させようとする。展示会参加者はこのガチャを回し、Googleアシスタントに話しかけ、ガチャで出てくるボールに入ったプレゼントを受け取る。どうやらもっともいい賞品はスマートフォンのPixelのような高価なものまであるようで、最終日になっても120分待ちの行列ができていた。

 CESからは一歩退いていたGoogleがここまで派手にアプローチしてイベントに参加するのは興味深い。これを見てもGoogleがGoogleアシスタントの認知度を上げようと懸命になっていることがわかる。街中を走るモノレール、ホテル壁面の大きなLEDディスプレイなど、街のいたるところでGoogleアシスタントの広告を目にすることができた。その露出は半端ではない。

 新しい展開として、Lenovoによる「Lenovo Smart Display」もGoogleアシスタントを搭載している。これは対話の結果がビジュアルで表示される新しいタイプのデバイスだ。Qualcommの技術によってハードウェア的に音声のエコーキャンセルなどを行なうことで正確な音声認識によるインタラクションが可能になっているそうだ。

 これまでのタブレットを音声で操作するのとどう違うのかという疑問もあるが、Googleがこれまで以上に積極的に、これからのスマートデバイス、とくに家庭で使われるデバイスの将来を牛耳ろうとチャレンジしていることを実感できた。家庭の一等地に置かれるAI用のデバイスが、スマートスピーカーのみになるのか、それともスマートディスプレイが一般的になるのか。スマートスピーカーでAmazonにちょっとリードされてしまっているGoogleの次の一手が気になるところだ。

 そしてCESは閉幕した。来年(2019年)のCESは1月8日からスタートでの4日間。今年よりも1日早まるスケジュールだ。すでに宿泊ホテルの予約は争奪戦もはじまっている。近年はクルマ関係者の参加が増えるなど、イベントの性格が拡張されいろいろなものが確保しにくくなっている傾向にあるようだ。まったく鬼が苦笑いしそうではあるが、来年の参加をもくろんでいるなら、滞在先だけでもあらかじめ確保しておくことをおすすめする。