山田祥平のRe:config.sys

写偽ですが、それがなにか?

 写真はコミュニケーションのためのツールだ。ところが写真はものを言わない。カメラは光景以外の情報を記録するための術をもたなかったからだ。ところがデジタルの時代になって状況は変わった。メタデータとして画像にさまざまな情報が記録されるようになったからだ。今回は、いきなり饒舌になった言語としての写真について考えてみよう。

検索できたメタデータ

 今から14年ほど前、この連載添付の写真にメタデータを埋め込んだ。当時の検索エンジンはそれをサーチしてはくれなかったのだが、先日、ふと思いついて検索してみたところ、見事に写真を探し出してくれた。埋め込んだキーワードは「figure4pcwatchreconfigsys6」なので、Googleなどを使って検索を試して見てほしい。

 見つかった写真をダウンロードしてWindowsでプロパティを確認すると、タグとしてこのキーワードが埋め込まれていることが確認できる。それ以外にも、著作権情報などもある。これらは自分の手で埋め込んだものだ。

 それ以外には、撮影時のシャッター速度や絞り、測光方法などが自動的に埋め込まれている。当時はまだ内蔵GPSを持ったカメラはもちろん、外付けのGPSも持っていなかったので、残念ながら位置情報はない。また撮影日時に対しては、少なくともWindowsのプロパティで確認するかぎり、日時としては記録されていてもタイムゾーンの情報がない。地球上のどのタイムゾーンでの年月日日時なのかがわからないのだ。

 今は、写真のようなイメージを検索するさいに、こうしたメタデータを対象にすることができるほか、赤い薔薇、白い雪といったイメージ全体の印象、さらには映っている対象、人物なども検索の対象にできるのだから、ある意味、写真はとてもおしゃべりになったといえる。

中途半端な撮影日時

 その一方で、写真にとってとても重要な要素である撮影日時の記録については、とても中途半端な状況が続いている。

 個人的に写真を撮るさいには、その写真を撮る場所の時刻にカメラを設定する。この方法の欠点は、夏時間を採用している地域において、冬から夏への切り替え時に同じ時刻がもういちど繰り返されること、夏から冬への切り替え時に空白の1時間ができてしまう点だ。また、渡航先ですぐに切り替えればいいのだが、それを忘れて最初の数枚に別の地域の時刻を記録してしまうこともある。日本に戻ったときも時刻の戻し忘れはしゅっちょうだ。

 これを回避するには世界で一意の時刻、つまりUTCに設定しておくのがいい。いわゆる協定世界時だ。この時刻で、設定された場所のタイムゾーンをもとにその場所の時刻を計算してくれるような仕組みになっていれば混乱することはない。

 ところが写真のメタデータ規格としてのEXIFは時刻を絶対的なものとして記録し、タイムゾーンの情報を記録しない。最近はそれを記録するカメラもあるようだが、有効には活かされていないようなのだ。カメラの設定にはタイムゾーンの設定があるのだが、それはカメラの時刻の見かけ、すなわち、そのタイムゾーンでは今何時なのかを切り替えるだけのものにすぎない。夏時間か冬時間かも自分で記録する必要がある。

 最近のカメラはこのあたりの使い勝手が多少はあがっている。たとえば愛用のニコンD5600やD850はSnapBridgeというスマートフォン用のアプリを使い、カメラからスマートフォンに撮影した画像をBluetoothで転送してくれる。200万画素程度にリサイズする機能もあり、重宝しているのだが、このアプリにはスマートフォンの時刻情報、位置情報を取り込み、写真に埋め込む機能が装備されている。

 ご存じのように、スマートフォンは場所を移動して最初にモバイルネットワークにつながったとき、その場所での時刻情報を自分自身に自動設定する機能を持っている。だから、飛行機が目的地の空港に着陸し、スマホの機内モードを解除したとたんにスマートフォンの時刻が変わる。そのスマートフォンをカメラと接続して写真を撮れば、カメラの設定を手動変更することなく、現地の時刻がカメラに記録されるわけだ。これでついうっかりのミスもなく、カメラは現地の時刻、そして位置情報を正確に写真に埋め込んでくれるのだ。

これからもさらに饒舌になるカメラ

 なにやら一般的なエンドユーザーにはチンプンカンプンな機能ではあるが、ぼくらのような商売にはとても重要な機能だ。風景写真を撮るユーザーなども、ふとしたことで撮影した写真の位置や撮影日時がわかれば、太陽の位置や日没時刻などから、次に同じ場所で写真を撮りたいというようなときに、もっとドラマティックな夕焼けを写せるといった判断の材料になるはずだ。

 おそらく、カメラがAI機能を実装するようになれば、こうしたメタデータはさらに詳細なものを埋め込むことができるようになるだろう。すでに、レンズがとらえた光景について、それが料理なのか、犬なのか、山なのかといった判断をするファーウェイの「Mate 10 Pro」のようなスマートフォンも出てきている。ただ、こうしたことができる撮影専用機はまだない。でも、うまくスマートフォンと連動させることができれば、いともカンタンに実現できる機能のはずだ。

 写真はものを言わないのが当たり前だと考えてる間は、こういう発想は出てこないだろう。ごく普通の人々が、当たり前のようにスマートフォンのなかに何千枚、何万枚もの写真を蓄積するようになった今、それらのなかから、望み通りの写真を探しだし、十数年たったときにも楽しめることが保証されるようになるといいのにと思う。

 もちろん、いや、それでは写真はつまらない。写真は写すのも偶然なら、目に留まるのも偶然だからおもしろいという意見もあるかもしれない。すでに写真は真実を写すものではなくなっている。カメラのビューティモードは「ネタ」として本人の力量をはるかに超えた容貌を記録したりもする。でも、そのおかげで「もりすぎ」を話題にコミュニケーションが広がる。インスタ映えだって同様だ。

 これまでのポスプロがリアルタイムの処理になる。それはそれでおもしろいことだと思う。写真ではなく写偽。それはそれで楽しい。でも、「真」もいっしょに記録してはほしいのだが……。