山田祥平のRe:config.sys

いつ起こるかわからない災害に備えた「使うための電力」

 スマートデバイスは日常での生活はもちろん、災害のような非常時には本当に頼りになる。関係各方面からの正確な情報や、SNSなどで拡散される有用な情報は、大げさかもしれないが、精神面でも身体面でも生きのびるための特効薬だと言ってもいい。だが、そのスマートデバイスもバッテリが切れたらおしまいだ。

非常時に備えたバッテリ運用

 今年(2018年)の日本は数々の災害に見舞われている。台風や震災の被害に遭われた方々には、こころからお見舞い申し上げたい。

 われわれは2011年の東日本大震災のさいに、非常時に近い状況を体験しているが、7年の歳月が経過し、あのときの危うさを忘れそうになっているかもしれない。だが、今年起こり続ける数々の災害状況に、改めて危機感を心に留めておかなければならないと痛感した。今日、あるいは明日、もしかしたら今夜、災害が自分の身に降りかかるかもしれないと覚悟しておかなければならないのだ。

 北海道での大規模停電は、震度がそれほど大きくなかったエリアにも深刻な状況をもたらした。電力の全面復旧は11月以降になるそうだが、そのくらい長期にわたって供給が不安定な状態が続くとされている。こうなってしまうと、多少の備えがあっても、一般市民は無力に近いものがある。

 だが、数日を乗り切るというのならなんとかなるかもしれない。

 ないよりははるかにいい。そう思って、非常用のバッテリの運用見直すことにした。手元にある最大容量のモバイルバッテリはフォースメディアのJ-Force JF-PEACE8K2660で、その容量は26,800mAhだ。スマートフォンのバッテリが3,000mA前後だとすると、8回程度はフル充電できることになる。

 重量は640gで、日常的な持ち歩きはできないわけではないが、ちょっとつらい。それに丸1日の外出にはオーバースペックだが、災害時には心強い。モバイルバッテリだが60W PD(Power Delivery)対応なので処理性能の高いPCの充電にも使える。

 このバッテリを非常用に確保し、たまたま今月は9月で自分の誕生月でもあるので、毎年誕生日にフル充電して保存しておくことを決めた。フル充電の状態でのバッテリ保存はあまり推奨されないのだが、非常用ということで目をつぶる。5~6年に一度は買い替えなどで対応したほうがいいかもしれない。今どきのバッテリは、1年くらい放置したところで、放電量はたかがしれている。万が一のことが起こった場合には強力な助っ人になってくれるにちがいない。

バッテリの容量を知る

 バッテリの容量はmA/hで表記されることが多かった。そのバッテリからどれだけの電力を取り出せるかを示すもので、「h」は「時」で、3,000mA/hなら3,000mAの電流を1時間流すことができることになる。ただ、この表記は、電気を取り出すときの電圧が、たとえばレガシーなUSB充電のように5Vに固定されていた時代にはわかりやすかったが、さまざまな規格が出てきている今、ちょっとわかりにくい。

 そこで最近のバッテリは、Whでその容量が明記されるようになってきている。たとえば、手元のJF-PEACE8K2660の場合、26,800mAとあわせて96.48Whと明記されている。Wは電流と電圧の積なので、mA表記の容量に取り出す電圧をかければWhがわかる。

 これで計算すると、このバッテリはリチウム系バッテリの定格約3.6Vを変換して、USB 5Vやそのほかの規格の電圧を作り出していることがわかる。3.6Vがそのまま出力されているわけではない。

 さらに、JF-PEACE8K2660はUSB PD対応のバッテリだ。最大20V/3A=60Wを取り出せる仕様になっている。つまり、USB PDで20Vを使っての充電時には、3.6Vの電圧を20Vに変換しているわけだ。内部的には直列接続などが行なわれている可能性もあるが仕様からはわからない。

 直流を異なる電圧の直流に変換する場合、必ずロスが発生する。持てる容量の8~9割になると思っていたほうがいいだろう。変換時のロスは熱になる。バッテリが熱くなるのはそのためだし、別の電圧を作り出すかぎりは、持てる容量は目安にしかならないことが想像できる。

急速充電のためになにをそろえればいいか

 一方、バッテリを消費する側のデバイスも変わりつつある。多くの機器が交換できないバッテリを内蔵し、その急速充電をサポートしている。急速充電の規格は、今後USB PDに統一されていく方向だが、まだ混沌とした状態であることは否めない。

 まず、自分の使っているデバイスが、どの方式の急速充電に対応しているかをきちんと理解しておこう。

 急速充電はACアダプタ、ケーブル、デバイスの3要素が対応していて初めて機能する。たとえばiPhoneは、iPhone 8以降の世代で急速充電に対応しているが、専用のType-C-Lightningケーブルを使わないと急速充電ができない。純正電源アダプタが必要とされているが、これは汎用PDアダプタだと考えてよさそうだ。もし心配ならAppleの純正品を確保するといい。

 一方、Androidスマートフォンは、Type-C端子を持つものが増えてきてはいるが、現役でエンドユーザーに使われているスマートフォンはまだMicro USBでの充電が少なくない。急速充電に対応していてもQualcommのQuick Charge対応のものもある。Quick ChargeとPD両対応のものもあるから話はややこしい。

 そもそも急速充電用の装備を持っていないエンドユーザーも多いかもしれない。最近はスマートフォンを購入しても電源アダプタが付属していないことが多いので、古いものをそのまま使っていて、せっかくの急速充電機能を使ったことがないエンドユーザーもいるはずだ。発表されたばかりのiPhoneも高速充電に対応と言いながら、付属のアダプタとケーブルは非対応だ。

 災害時、避難所や街角のサービスなどでAC電源をちょっとでも確保できるような場合は、短い時間でより多くの充電ができたほうがいい。そのためにも、自分の使っている機器が、どうすれば急速充電できるのかを知っておきたい。寝ている間に枕元で充電するなら普通の充電でもことが足りるが、非常時はやはり短時間での充電ができたほうが安心だ。

 このことは、モバイルバッテリにも言える。JF-PEACE8K2660はPDでの出力ができるとともに、PDでの充電ができる。最大20V/1.5Aでの充電ができるので、これだけの大容量バッテリでも、30W超のPDアダプタがあれば急速に充電ができる。

災害時には心の健康も大事

 もう1つ覚えておきたいのは、スマートフォンデバイスそのものだ。バッテリを交換できない以上は別のバッテリに電力を頼ることになる。その場合、バッテリでバッテリを充電することになるわけで効率がいいとは言えない。

 だったら交換用スマートフォンを1台用意しておいてはどうか。古いスマートフォンを二束三文でしか引き取ってもらえないなら別の用途を考えたほうがいい。SIMを抜いて別のスマートフォンに差し替えればスマートフォンそのものが緊急用スマートフォンとして使える。スマートフォンの機能を持ったバッテリだと思えばいい。

 SIMトレイを抜き差しするためのピンはゼムクリップなどで代用できる。そのためだけに新しいスマートフォンを購入するのはたいへんだが、機種変更などのときに保管しておくというのでもいいだろう。こちらはバッテリそのものが経年変化でへたっているうえに、モバイルバッテリと違って自然放電でバッテリが消耗することがあるので、できれば日常的にACにつなぎっぱなしにしておくのがいいかもしれない。

 また、入れておくアプリは最小限にしておく。そうでないと、いざというときに電源を入れたら大量のアプリのアップデートが走り、貴重な電力を一気に消費してしまう可能性がある。アプリの自動更新はオフにしておくこともあわせて対策としてもよさそうだ。

 ただし、多くのユーザーがそういうときこそ使いたいであろうLINEの扱いだけはやっかいだ。端末とアカウントが紐付けられるので、こうした使い方で臨時に別の端末でということが想定されていない。最悪の場合、トーク履歴などが失われてしまうので注意が必要だ。

 災害時にはスマートフォンの省電力機能を使ったり、通知を抑制したり、画面を暗くするなどの方法でバッテリの消費を抑える方法が紹介されることが多い。これらはスマートフォンの機能を制限することであり、不便を強いることでもある。

 ただでさえ滅入った気分に陥ってしまう災害時の長い夜、SNSをつらつら眺めていて見つけたジョークが気持ちを明るくしてくれることだってあるかもしれない。そういうことも大事だと思うのだ。省電力のせいで、大切な人からの連絡を、すぐに受け取れないのもつらい。

 もちろん、電力の備蓄が一定なら、デバイスは電力を節約すればするほど長く使える。反論があるのは承知の上だ。そのことを理解したうえで、心の健康も重要だと考えたい。使わないのではなく、できるだけいつもと同じように使うためにはどんな備えが必要か。そういうことを考えてもいいんじゃないだろうか。