山田祥平のRe:config.sys

ファーウェイが選んだプレミアム路線

 ファーウェイがPCラインナップを拡充、伝統的なクラムシェルタイプノートの「MateBook X」と2in1 PCの「MateBook E」を発売した。

 同社は2016年のMWCで2in1の初代MateBookを発表し、PCのカテゴリに参入したが、1年少々を経て今回のクラムシェルノートを追加し、より広いニーズに応えられるように体制を整えた形だ。また、日本におけるMateBookの発売は昨年(2016年)の7月だったので、約1年でのリニューアルとなる。

日本のニーズは世界のニーズ

 ファーウェイ・ジャパンで端末部門を統括するデバイス・プレジデントの呉波(ゴ・ハ)氏は、初代のMateBookには、ファーウェイ初のPC製品として、詰め切れていない使いにくいところがいろいろとあったかもしれないが、今回は細かいところまで改善できたという。とくに新しいPC製品に、いかにスマートフォンと同じような使用感を実現するかに注力したそうだ。

 実際、2in1のMateBook Eは、カバーを兼ねたキーボードの改善が目に留まる。しかも標準添付だ。本体の傾斜角度も無段階になった。

 初代機ではカバーを閉じたときに本体上部の電源ボタンを押してしまい、カバンのなかで電源がオンになったり、電源ボタンの長押し状態が起こり強制終了が起こったりすることがあったが、新しいカバーは本体を挟み込むだけのタイプとなって電源ボタンのトラブルは起こらなくなった。こうした細かいところに手が入っているのを見ても、かなり細部まで検討が行なわれたものと推察できる。

 同社のようにワールドワイドで製品を発売しているベンダーの場合、特定の国のニーズを満たす仕様を要求するのはかなり難しい。A国で求められる機能がB国でも求められるとはかぎらないからだ。

 ファーウェイの日本法人の場合、日本市場のニーズに対して、相当柔軟に本社が言うことを聞いてくれると呉波氏は言う。呉波氏によれば、世界的に見ると、日本はもっとも技術が先行している国で、ほかに類をみないらしい。日本人が求めていたデバイスはじつは海外でも求められていたということがあとでわかるということがよくあるそうだ。

 ファーウェイは、現在、170カ国でビジネスを展開しているが、デバイスで使われる重要な部品はすべて日本での調達で、ファーウェイのデバイスを通じて日本の技術が世界に紹介されていく。日本の消費者はわがままだと思われがちだが、同じようなニーズが世界にあることが証明されていくというわけだ。

 そしてそれはスマートフォンでもPCでも同様だ。つまり世界の消費者は国を問わずに基本的にわがままなのだ。そこをわかっていないと何かが間違ってしまう。

 それらの特有のニーズを探し出すことも日本法人の重要なミッションだ。具体的には、ファーウェイの日本法人にはプロダクトプランニングの部署があり、業績や売上などでは評価されない部署として、日本の消費者がどういうニーズを持っているかなどをまとめて本社に対してレポートする役割をになっている。

 そのレポートを本社側で評価し製品の定義づけに使う体系が確立されている。たとえば、新発売のスマートフォン「HUAWEI P10 Plus」には赤外線ポートが実装されている。かつてのガラケーについていたデータ転送用の赤外線ポートではなく、学習リモコン用としてP10 Plusを使うためのもので、「スマートリモコン」と呼ばれる標準アプリで世界各国の各種電化製品のリモコンデータがプリインストールされている。これは日本からのレポートが採用されたものの1つだそうだ。

安くはないがいいものを

 世界標準と日本標準があるとして、その違いをうまく活かすことはできないものか。スマートフォンのみならず、PCの世界でも同様だ。呉波氏は昨年(2016年)以降、PCのビジネスを日本で実際にはじめてみて、市場そのものが全然違うことを痛感したという。

 スマートフォンにはたくさん要素の選択肢があるが、PCは比較的閉鎖的なアライアンスのなかにある。IntelアーキテクチャでWindows、しかも、大きな仕様の違いはありえないため、ほかのメーカーと差別化しにくい点が挙げられる。

 だからこそ、UX(User Experience)に着目して差別化するしかないと呉波氏。スマートフォンでやってきたUXでの差別化をPCの世界でも展開したいとする。今、日本の市場は成長力に乏しいが、ニーズは1か国でかなりのボリュームがあるという重要な国での戦い方として、同社製PCは、意外といっては失礼かもしれないがプレミアム路線を選んだ。

 実際、今回ファーウェイが出したPCの価格は競合他社に比べて高い部類に入る。たとえばCore i5/8GBメモリ/256GB SSDのMateBook Xは、直販価格で156,384円(原稿執筆現在の税込み価格)。ほぼ同スペックのHP Spectre 13と比べても2割ほど高い。その分をなんらかの差別化で埋め合わせる必要がある。たとえば、3:2の画面を採用したことなどはその一環だろう。

 ちなみに、同じ3:2のアスペクト比の画面を持つMicrosoftの2in1である新しいSurface Proと、クラムシェルのSurface Laptopは、今回のファーウェイの両機と真っ向からバッティングする。価格もほぼ同等だ。

 パートナー各社が取り組みにくい領域にチャレンジすることをめざしたSurfaceだが、ファーウェイのようなベンダーの登場を導き出したとも言える。ラップトップのタッチ対応という点でSurface Laptopに優位性を感じるものの、興味深い戦い方を見せてくれそうだ。

 ファーウェイがコストパフォーマンスを本気で追求すれば、それはもう驚くほどの価格を提示できるとは思う。だが、それは今のフェイズでは同社にとって得策ではないと個人的には思う。安いものを作ることよりも、ブランディングをしっかりと画策し、きちんとしたものを作れるベンダーであることをアピールするのが先決だ。

 PCにしてもスマートフォンにしてもプレミアム路線を確立することが、その先にフォローアップするであろうミドルレンジ機が高く評価される下地となるからだ。安いからファーウェイを選ぶのではなく、気に入ったからファーウェイを選ぶユーザーを確保するのは将来の同社のビジネスを左右する重要な要素だ。

ブランドの先にあるもの

 個人的に楽しみにしているのは、ファーウェイのようなベンダーが、HPやデルがあまり熱心ではない世界最小最軽量といった領域に踏み込んでくることだ。スマートフォンで培ったノウハウや経験を活かすことで、他社とは異なるアプローチもできるはずだ。

 とくに、Microsoftが提唱しているAlways Connected PC構想については、その最初の賛同ベンダーとして名乗りを上げている。どんなフォームファクタで、どのようなコンセプトのPCを考えているのか興味津々だ。ARMで動くWindowsということであれば、その実装に同社のアドバンテージもあるだろう。

 ずっと安心安全のイメージで日本のPC市場に君臨してきたNECパーソナルコンピュータや富士通、東芝といったブランドの存在感は、以前に比べればほんの少し希薄になりつつもある。少なくとも製品の外観については、外資系メーカーのほうががんばっている感もある。とんがり感は外資のほうが強い印象だ。Appleなどは言うまでもない。その一方で、フォームファクタの軽薄短小を追求しているという点では日本のメーカーの底力と意地を感じる。

 こうして国内メーカー、海外メーカーの製品群を並べ、豊富な選択肢のなかから、自分がもっとも気に入った製品を選べるというのは幸せだ。クルマにしたってトヨタ、日産、ホンダなどの国産にこだわる層もいれば、あくまでもBMWやベンツといった外車にこだわる層もいる。

 それぞれうまく棲み分けができているように、PCもまた、そういうフェイズに入ってきたということなのだろう。また1つ選択肢が増えた。悩めることはいいことだ。