山田祥平のRe:config.sys
HUAWEI P10、その温故知新
2017年6月23日 06:00
HUAWEIの最新フラグシップスマートフォン P10/P10 Plus。SIMロックフリー市場における同社の立ち位置を明確に主張する、秀逸な製品だ。今回は、この製品が醸し出す、最新さとオーソドックスが混在する不思議な感覚を見ていくことにしよう。
格安の先にあるもの
ファーウェイがP10 Plusの発売を開始した。この2月にバルセロナで開催された「MWC 2017」でP10とP10 Plusの両機が発表されたときには、きっとPlusのほうは日本では出ないだろうと思っていたが、今回は、P10、P10 Plusの両方をラインナップするという。プレスリリースを見てちょっと驚いた。
現時点での日本市場では、SIMロックフリースマートフォンというと、どうしてもMVNO用というイメージがつきまとい、格安SIMを装着して通信費をローコストに抑える層のためのイメージが強い。1台目のメインスマートフォンではなくサブであったりするわけだ。
当然、予算もそれほど潤沢には費やせない。ファーウェイもその期待に添うかのように製品をラインナップしてきたし、安くても高品質のイメージは十二分に獲得できてきたのではないかと思っている。そんななかで、高級機のP9が大ヒットし、同社の日本市場における立ち位置にちょっとした変化が訪れた。
MWCのさい、同社日本法人で端末部門を統括する呉波氏をインタビューしたときに、「P9のヒットを受けて、そろそろハイエンド路線でも勝負をかけてよいくらいにHUAWEIのブランドは確立できたのではないですか」と話を持ちかけたところ、明確な回答は得られなかったものの、迷いながらも呉波氏にその気持ちがあるような感触は得られていた。当時の会話が影響したかどうかはわからないが、それが今回のP10とP10 Plus双方の投入につながっているようにも感じている。
P10、P10 Plusの6~7万円超の値付けは、もはやキャリア販売のハイエンドスマートフォンの粋に達しており、決して安くはない。だが、HUAWEIは、ついにこの領域で勝負する道を選んだわけだ。もしかしたら、「安かろう悪かろう」を払拭するための戦略なのかもしれない。
もっとも、メガキャリアが提供するハイエンド端末はさらに高額だ。最新iPhoneも同様だ。月々サポート的な値引きを考慮すると、通信費は高いが端末は安いというイメージを持つユーザーが多いが、それこそ「実質価格」は高価だ。P10はそれよりは安い。
今回HUAWEIは、その高価な価格の領域に積極的にチャレンジしている。ハイエンド端末として当たり前の価格を提示しているのだ。
HUAWEIが楽天市場に持つ直営のオンラインショップでは、P10が71,064円、P10 Plusが73,224円となっている。同時に発売されたミドルレンジのP10 liteは32,378円だから、その倍以上の値付けだ。そして、これらの価格に対して、MVNO各社が各種キャンペーンで特価を提示する。
日本の市場において、端末と通信サービスを分離した考え方を示し、それを浸透させることができているベンダーとして、ASUSの存在を忘れるわけにはいかないが、HUAWEIの存在感も突出している。
ただ、今のところ大手キャリアには同社製品の扱いがない。同社は販売チャネルを選ばないとしているので、この先はどうなるかわからない。大手キャリアでも扱われるようになり、さらに、SIMロックフリー端末として各種チャネルでも入手できるようになるのが理想的だ。
シャープや富士通が大手キャリアから一般市場へチャネルを拡大してきたのと逆を行くように、ASUSやMotorola、そしてHUAWEIが、一般市場に加わる大手キャリアチャネルを虎視眈々と狙っている。
そして、どの通信事業者のサービスを使っていても、自分の好きな端末、しかもハイエンド製品を選んで購入して使えるという当たり前のことが、ようやく現実になりつつある。これまでiPhoneにしかできていなかったことだ。
サイズに感じる絶妙さ
今、人気のハイエンド端末を並べてみよう。
- iPhone 7 4.7型 138g
- P10 5.1型 145g
- Galaxy S8 5.4型相当(縦長5.8型) 155g
- P10 Plus 5.5型 165g
- iPhone 7 Plus 5.5型 188g
- Xperia XZ Premium 5.5型 191g
- Galaxy S8+ 5.8型相当(縦長6.2型) 173g
見事にフォームファクタで各端末が差別化できる。P10シリーズの狙いは絶妙であることがわかる。本当にうまくスキマを埋めている。
もっと大きな画面を持つ端末として、HUAWEIはMateシリーズを持っているが、現行製品の後継となるであろうMate 10もひかえている。こうして並べて見るかぎり、もうまさに、iPhoneキラー的な戦い方を選んでいるように見えると同時に、既存ハイエンドスマートフォンとの無駄な戦いは避けているようにも見える。
個人的に、常用するとすればP10 Plusのほうを選ぶだろう。両機を使ってみたが、同時期に発売された端末なので、OSの仕様は同じかと思ったら、微妙に異なることがわかる。たとえば、P10 Plusには画面の表示モード設定機能があって大中小を選択できる。広い画面を、大きなサイズで使うか、表示情報量を増やすために使うかを自分で決められる。だが、P10にはその機能がない。バッテリ容量の点でも有利なことを考えると、P10 Plusを選ぶだろうと思う。
カメラ機能については、さまざまなメディアがライカとの協業によるそのすぐれた描写を取り上げている。ここでは深く言及はしないが、十二分に満足のいける写真が得られる。
最先端のテクノロジを凝縮しながら、この端末には、ものすごくオーソドックスな印象も受ける。いわゆる、これまでのスマートフォンの集大成的なものとして、スマートフォンに対する先入観と期待を持って手にするユーザーを誰も裏切らない。逆に言うと驚きがないということでもある。でもそれは同社がP10を選ぶユーザー層を確実に獲得するための戦略であると考えることもできる。
気になる充電仕様はどうか
製品パッケージには、ACアダプタとType-A to Type-CのUSBケーブルが添付されている。P10/P10 Plusとこのアダプタ、ケーブルを使って充電した場合のみ、超急速充電モードに移行する。
詳細については公開されていないが、純正ケーブルであるかどうかを厳密にチェックする仕組みが実装されているそうだ。ケーブルには56KΩの抵抗が実装されているため、ほかの用途に使った場合の安全性を担保する。
また、両端Type-Cのケーブルを使っての充電では、USB Type-C Currentとして「超」のつかない急速充電となる。加えて、USB Type-C PowerDerivary 対応充電器に接続すると、9V2A前後で急速充電が行なわれる。どうやら密かにPDにも対応しているようだ。このあたりを見ても、全方位を強く意識していることがわかる。
習うより慣れる
誰の期待も裏切らないというのは、どんな端末から移行してきても、すぐに慣れることができるということでもある。ナビゲーションボタンの工夫はその典型だ。
この機能を有効にすると、画面下の指紋センサーが、ナビゲーションボタンとして機能するようになる。具体的には、長押しでホーム、短押しで戻る、左右のスライドでタスク切り替えといった具合だ。
ナビゲーションキーを有効にしている場合は、ナビゲーションバーが表示されないので画面の縦方向を少し広く使える。さらにナビゲーションバーは、戻る、ホーム、タスク切り替えの並びを反対にもできる。
つまり、物理ホームボタンがあって、その右に戻るボタンがあった時代のGalaxy、iPhoneのホームボタンに慣れきっていても、すぐに自分好みに設定ができるということだ。個人的には、ほかのスマートフォンを使うときに混乱するので、こうした機能をオンにすることはまずないのだが、試しに使ってみて、あまりの使いやすさにオンにしたままになってしまっている。
世のなかにはいろいろなスマートフォンがあって、それぞれに熱心なファンがいる。P10シリーズはこうした既存スマートフォンのユーザーにとって、機種変更につきまとうハードルをかなり低いものしている。
個人的にはかつてもっとも気に入って使っていたGalaxy Note 3が最新装備で戻ってきたような、そんな印象ももった。最新なのにオーソドックスというのは、そういうことだ。