笠原一輝のユビキタス情報局
ハイエンドモバイルを幅広いユーザーに提供する「VAIO Pro」
(2013/6/17 00:00)
ソニーが発表した「VAIO Pro」は11.6型/13.3型の液晶を搭載した軽量薄型ノートPCで、タッチなしの11.6型は770g、タッチを搭載した13.3型でも1,060gと軽量さを実現しながら、11.6型で約11時間、13.3型で約13時間(いずれもJEITA測定法1.0での数値)と長時間のバッテリ駆動を実現していることが大きな特徴になっている。いずれの製品にもシートバッテリが用意されており、シートバッテリを利用した場合には倍のバッテリ駆動時間が実現可能で、これまでは夢でしかなかった1日のビジネスをバッテリだけでこなすことが現実となってきている。
そうした長時間バッテリ駆動を実現したのは、Intelの新しいSoCである第4世代Coreプロセッサを採用したことが大きな要因だが、では第4世代Coreプロセッサさえ採用すればこういったPCが誰にでも作れるのかと言えば、実際にはそうではない。それぞれの製品は、こだわっているポイントが異なっており、そこにはそれぞれのメーカーの哲学のようなモノが色濃く反映されている。
今回はそうしたVAIO Proを設計したエンジニア達の“こだわりポイント”がどこなのかを知るために、お話しを伺ってきたので、その模様をお伝えしていきたい。
VAIO Zのデザインフィロソフィーを継承して普及価格帯をカバー
ソニーは2012年に発表された「VAIO Duo 11」から、VAIOの後の製品カテゴリを示す文字を、従来のアルファベット1文字の「Z」や「S」などから、Duoのように一目で位置付けがわかるような3文字に変更している。「Duo」、「Tap」、そして2013年夏モデルで追加された「Fit」と来て、今回「Pro」が追加されたことになる。
ソニーでは新しいシリーズだと説明しているが、やはりユーザーとしては、既存のどの製品の後継になるのか気になるところだ。まずこの質問からしてみたところ「基本的にはこのVAIO Proは新シリーズという位置付けとなる。ただし、我々がZシリーズやTシリーズで作り込んできたイメージを大事にして作り込んでいる。また、Sシリーズで、光学ドライブや豊富なI/Oなどを入れてオールインワンモバイルを作り込んできた。その中でユーザーにレジュームしてからすぐ使える、アプリケーションの起動が速いなどの新しい価値を提案してきた。そうした要素と、Zを凌駕するようなデザインフォルムを実現することで、新しい製品として提案した」(ソニー株式会社 VAIO&Mobile事業本部 PC事業部 商品1部商品2課 統括課長 宮入専氏)とのことだ。
ソニーの宮入氏は明言こそ避けたものの、VAIO Proが、ソニーのハイエンドモバイルであるVAIO Zシリーズと、メインストリーム向けのVAIO Sシリーズ、両方をマージしたような製品であることを示唆した。実際、値段もVAIO Zシリーズが20万円台半ばからのスタートだったのに対して、VAIO ProはVAIO Pro 11が15~16万円、VAIO Pro 13が17万円(いずれも店頭予想価格)という価格設定になっており、価格帯としては従来はVAIO Sシリーズの価格帯をカバーする製品であることがわかる。だが、デザインやスペックに関しては後述するように、VAIO Zで採用されていたような尖ったデザインが採用されており、ハイエンドモバイルという意味ではVAIO Zに近い製品と言える。
では、そうしたVAIO Proでは、ソニーのエンジニア達はどのような想いを込めて開発したのだろうか。そのコンセプトについてソニー株式会社 VAIO&Mobile事業本部 VAIO企画部 商品企画課 プロダクトプランナー 城重拓郎氏は「スマートフォンやタブレットの普及が進んでいるが、PCだからこそ、クラムシェル型だからこそできる価値があるはずだと考えた。クラムシェル型の最大の利点はキーボードにあり、そこを極めたいと考えた。ただ、Windows 8時代にはタッチは必須になるので、タッチ付きUltrabookとして最軽量は実現したい。その中で最大限使いやすいモノをということで設計が始まっていった」と説明する。
このコンセプトは、特にキーボードに慣れ親しんでいるユーザーにとっては非常に重要なポイントだと言える。ユーザーがクラムシェル型のノートPCを選択する大きな理由の1つはキーボードだからだ。例えば、コンテンツを楽しむだけにデジタルデバイスを使うユーザーにとっては、キーボードは重要ではないだろう。しかし、コンテンツを作成する側、それは筆者のように文章を書くことを生業としているユーザーも含め、ビジネスパーソンのようにPowerPointで資料を作ることが仕事というユーザーもそうだが、大きな意味ではSNSに積極的に書き込んだり、Blogを書いたりすることもコンテンツクリエーションの1つだ。
そうしたことは、現在はスマートフォンやタブレットで行なっているユーザーが多いかもしれないが、SNSやBlogなどに書き込むことが増えれば、効率を重視したくなるだろう。そうしたときにソフトウェアキーボードよりも、ハードウェアのキーボードの方が圧倒的に速いのは言うまでもなく、実際スマートフォンやタブレットにキーボードを接続して使っているユーザーも少なくない。VAIO Proは大きな意味で、そうしたコンテンツクリエーションをするユーザーをターゲットにした製品だと言えるだろう。
本製品は2013年のUltrabook要件に含まれているタッチ機能が標準で搭載されている。ソニーの城重氏は「ビジネスユーザーにもタッチは有益だと判断したので、タッチをやるからないかかの議論は無かった。ただ、タッチに関してはVAIO Duoというペンソリューションを用意している別製品を用意しており、そちらでもう少し踏み込んだ機能を実装した」と説明し、Duoのようにペンやタッチの機能を重視しているわけではないが、Windows 8を使う上で重要なタッチを標準搭載したと説明した。
非常に上手なことに、VAIO Pro 11の店頭モデルではUltrabookではないタッチなしの製品を用意しており、それにより770gという軽さを実現している。VAIO Pro 13はタッチなしの店頭モデルはラインナップされていないが、ソニーストアで販売されるCTOモデルはタッチなしが用意されており、128GB/256GBのSSDを採用した状態で940gと13.3型で1kg切りを実現している。Windows 8にはタッチが必要だと理解しているが、もっと軽い方が良いというユーザーもきちんと取り込めるようになっている。ユーザーに選択肢を用意してくれている点は素直に称賛していいだろう。
基板設計ではY方向をできるだけ小さくすることにこだわったがコストも重視
VAIO Pro 11、VAIO Pro 13には、Intelの新しいモバイルPC向けのプラットフォームである“SharkBay”(シャークベイ)が採用されている。SharkBayの最大の特徴は、第4世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Haswell)を採用していることで、プラットフォーム全体で従来製品に比較して待機時電力が20分の1になっており、それによりバッテリ駆動時間が50%ほど従来製品よりも伸びている。
ノートPC向け第4世代Coreプロセッサには2チップ版(Hプロセッサ/Mプロセッサ)と、SoC(1チップ版、Uプロセッサ/Yプロセッサ)が用意されているが、VAIO Pro 11/13にはSoCのUプロセッサが採用されている。従来のVAIO Z2シリーズではHプロセッサ/Mプロセッサに相当する第3世代Coreプロセッサ(TDP:35W)が採用されていたのに対して、今回のVAIO Pro 11/13ではUプロセッサが採用されているのは、待機時消費電力が20分の1になるという特徴がSoC製品だけだからだ。
第3世代CoreプロセッサのSV版(35W)とULV版(17W)の差はピーク時の電力だけで、待機時の電力はどちらもほぼ同じだった。つまり、ピーク時の消費電力に対応できるように筐体の熱設計を工夫するだけで搭載可能だった。このため、クアッドコアが搭載可能なZ2ではSV版を採用できていたのだ。これに対して、今回の第4世代Coreプロセッサでは、Hプロセッサ/Mプロセッサと、Uプロセッサでは待機時消費電力が段違いになっている。具体的な数値で言えば、Uプロセッサでは、C8~C10というCPUの新しい電力状態に対応するのだが、C10まで落ちた場合、M/Hプロセッサも対応しているC7に比べて6分の1になるという。これだけ差があると、バッテリ駆動時間には大きな影響を与えるため、モバイル志向の製品に関しては、Uプロセッサ/Yプロセッサしか選択がないと言っていいだろう。
基板の設計は、ソニー株式会社 VAIO&Mobile事業本部 PC事業部 商品1部 商品2課 小坂和也氏によれば「まずはY方向(縦方向)が重要だと判断して設計に取りかかった。というのも、今回のモデルはくさび形デザインのため、パームレスト部分に入れるバッテリに十分な容積を確保するのが難しい。そこで、できるだけY方向を小さくまとめることで、バッテリに必要な容積を確保することを重視した」という。
従来のモバイルノートPCの場合、各メーカーはどうやって小さな基板を作り、それを筐体に押し込めるかを重視していた。このため、VAIOシリーズでも、過去の製品では高密度実装基板と呼ばれる集積度をあげた基板により、できるだけ実装面積を小さくするアプローチがとられている。しかし、Ultrabookになり、そのトレンドは若干変わっており、液晶サイズは大きなまま薄さ(つまりはZ方向)を重視するアプローチがとられており、XY方向(つまりは底面積)に関してはあまり気にされていないことが多い。このため、PCメーカーの中には、基板の製造コストを下げるために、層数が少なく実装密度もあまり高くない基板を採用することが少なくないのだ。
しかし、VAIO Pro 11/13ではデザイン上の要請(具体的には前面に来れば来るほどボディが薄くなるというくさび形)により、特にパームレスト側にあまり厚いモノを配置できなくなっている。そのしわ寄せが結果的に基板が占有できる面積を圧迫し、やはり高密度実装基板を採用せざるを得なくなった。「基板は8層の1段ビルドアップ基板を採用している。弊社では従来から10層基板で2段ビルドアップ基板などより高密度な基板にも取り組んでいたが、そうすると今度は厚みが増えてしまう。そこで、厚さと底面積のバランスを考えてこの設計にした」(小坂氏)。例えば13.3型の内部を見ると分かるのだが、バッテリを敷き詰めて残った所に基板とヒートシンク、ファンが入っているという、非常にシンプルな設計になっている。だが、一見したシンプルさこそ、基板はギリギリまで切り詰める必要があったということの何よりの表れだ。
システムを見ていると感心するのは、本当に残されたスペースをギリギリまで使っているという設計だ。VAIO Pro 13ではユーザーから見て右手にあるスピーカーのボックスの上を、ヒートパイプがまたぐという「首都高速か!」とつっこみたくなるようなデザインになっている。スピーカーの音質を良くするには、ボックスの容積をとる必要があるのだが、それを少しでも確保するためにとられたデザインがこれなのだ。「オーディオについてはボックスにこだわりたかった。今回は設計の段階でUltrabookでもしっかりした音を出したいという企画側からの要望があり、できるだけ確保できるようにした」(小坂氏)とのことで、Ultrabookとしてはいい方の部類の音がなるのもVAIO Pro 13の特徴の1つだ。多くのユーザーはノートPCで音を聴くときにはおそらくヘッドフォンをつなぐことが多いと思うが、それでもプレゼンをする時により良い音でなってくれたり、あるいは出張で宿泊しているホテルの部屋でちょっと動画を見ようという時などにそれなりの音でなってくれた方がいいのは言うまでもないだろう。そのあたりは音響メーカーでもあるソニーらしいこだわりポイントと言えるだろう。
くさび形をしている筐体設計に対応を迫られた基板設計
そうした基板設計だが、今回から第4世代CoreのUプロセッサ、CPUとチップセットが1チップになったSoC版を採用し、VAIO Pro 11/13が搭載するUプロセッサは、GPUがGT2(Intel HD Graphics 4xxxx)の製品で、TDPは15Wとなる。「1チップとなったことで、信号線が密集し配線が難しくなるのではないかという懸念があったが、実際に着手してみると、PCI Express x16の信号線がないことなどから、シミュレーションしてみると意外とすんなり入ってしまった」(小坂氏)という。
ただ、実際にデザインしていくと、先ほど述べたY方向をできるだけ小さくしていくこと、さらには、デザイン上のニーズからコネクタの場所が決まってしまったりという制約があったという。例えば、今回VAIO Pro 11とVAIO Pro 13のシートバッテリ(VGP-BPSE38、7.5V/4,690mAh、295g)が共通化されている。2つの製品に同じ型番のバッテリを提供することでコストダウンが可能になる(大きなメーカーでは型番を1つ作るだけで数百万円からのコストがかかるモノだ)。逆に、どちらの製品でも同じ場所に取り付けるための穴やコネクタを設ける必要があり、それが制約になる。それらの要素を加味していく必要もあった。
さらに、くさび形のデザインを採用しているため高さが連続的に変化している。「これまで連続的に基板の高さが変わるという設計はしてこなかった。しかし、この製品ではそうしたデザインが必要になるため、バッテリ端子とSSDの端子を、基板を切り欠いて落とし込むことにより薄さを確保した」(小坂氏)と実に細かな配慮をした結果今回の基板ができたと小坂氏は説明した。
なお、今回のモバイル向け第4世代Coreプロセッサは、Uプロセッサ(TDP 15W)とYプロセッサ(TDP 11.5W)の2つの製品が用意されているが、なぜUプロセッサを採用したのか伺ったところ、「ビジネスユーザー向けというこの製品の特徴を考えると、やはり性能の観点からUプロセッサが必要だと判断した」(宮入氏)とのこと。この点は筆者も同感だが、ただ、Yプロセッサを採用することで、さらに薄く、軽くすることが可能になるのは事実。例えば11.6型のVAIO Pro 11にYプロセッサを採用してもっと小さくという選択肢があってもいいと思うのだがと問うと「実はVAIO Pro 11ではYプロセッサを採用しようかという話はあった。VAIO Pro 11とVAIO Pro 13の放熱機構が微妙に違うのは、その迷いの名残」(宮入氏)とのことで、やはり検討はしてみたのだという。しかし、結局の所、現在のVAIO Pro 11の薄さ、軽さでもUプロセッサが入るのであれば、ビジネスユーザーにとっては性能が高い方がいいだろうという判断で、現在の形に落ち着いたということだ。
第3世代Coreプロセッサ以降でサポートされているcTDP(Configurable TDP)について、今回のVAIO Pro 11/13でも利用しているが、上方向(cTDP Up)へクロックを上昇させる使い方はされておらず、下方向(cTDP Down)を利用する設計になっているという。
「CPUの消費電力とヒートシンク部分の温度センサーを使って筐体の表面温度を計算し、それらを元にパワーリミット値を動的に制御している」(小坂氏)との通りで、単純にcTDP Downを使うのでは無く、使用時に触れることになる表面温度が熱くなるとPCが判断すれば、cTDP Downの仕組みを利用してクロックを下げるなどさまざまな制御をする。ユーザーが安全に使えるように、cTDPの仕組みを活用するというわけだ。ただし、この状態でもTurbo Boostの機能は有効で、アプリケーションの起動時などだけ瞬間的にTDPを飛び越えてクロックを一時的にあげることは可能だ。このため、ユーザーの体感にはあまり影響しないと予想されるという。
内蔵カードモジュールはNGFF改めM.2を採用
CPU以外に搭載されているデバイスを細かく見ていこう。メモリに関しては、今回のVAIO Pro 11/13ではDDR3LがDRAMとして採用されている。第4世代CoreのUプロセッサは、メインメモリとしてDDR3、DDR3L、DDR3L-RS、LPDDR3という4種類のDRAMを選択できる。この中で、消費電力の観点で最もメリットがあるのは、LPDDR3だ。LPDDR3は待機状態にDRAMが自分のデータを保持するために行なうセルフリフレッシュという動作にかかる電力を、通常のDDR3に比べて少なくしているのが特徴となる。また、DDR3L-RSも通常のDDR3Lとピン互換で、セルフリフレッシュ時の電力を減らしているバージョンもあるのだが、今回はDDR3の中でも低電圧(1.35V)で動作するDDR3Lが採用されている。
DDR3のDRAMチップのバス幅はx8、x16、x32という3つの選択肢があるが、今回はx16のチップを選択しているのだという。「DDR3L-RSとLPDDR3にはコストと供給面での不安があった。x16を選択したのはバランスの問題。x32を選択すればチップ数を減らすことができるので省電力になるがコストが上がってしまう。これに対してx8を選ぶとコストが下がるがチップ数が増えてしまうので、電力が上がってしまう」(小坂氏)。なお、VAIO Pro 11/13ではDRAMは完全にオンボードで搭載されており、ユーザーが追加することができない。このため、8GBを選択したい場合には、ソニーストアのCTOモデルを選ぶ必要がある。
内部拡張スロットは、以前はNGFFと呼ばれていたM.2が2つ実装される形になっている。1つはストレージ用、1つは無線LANとBluetooth共用のモジュール用となっている。「内蔵カードに関してはPCI Express Mini Cardを引き続き使うという選択肢もあったが、今回はPCI Express接続のSSDを使いたいという意向があり、SSDベンダーと相談した結果今後はM.2でやっていきたいというロードマップを示されたことや、IntelもM.2を推進していることもあり、M.2にすることに決めた」(小坂氏)と、内蔵ストレージにPCI Express接続のSSDを利用したいことを最優先に考えた結果、M.2ソケットを2つ実装することにしたのだという。
通信カードに関してはM.2にした結果、Wi-Fi(無線LAN、IEEE802.11a/b/g/n)とBluetooth 4.0のコンボカードが入る仕様になっている。「通信カードに関しても同じように考えていた。PCI Express Mini Cardに比べて横幅が狭いという点や、将来リリースされるような新しい機能はこのM.2になると考えた」(宮入氏)との通りで、実際PC向けの通信カードの最大手と言ってよいIntelのロードマップには、PCI Express Mini Cardの新型は用意されておらず、今後はすべてM.2カードになるということは以前の記事でもお伝えした通りだ。そうした中で、通信用にもM.2が選択されたというのは論理的な解だろう。
ただ、日本ローカルなニーズとしてはWiMAXがなんとか入れられないのかというユーザーは少なくないだろう。実際ソニーでもWiMAXないしはワイヤレスWAN(LTEなど)を入れられるようにすべきでは無いかという議論はあったそうだが「スマートフォンの普及が進み、PCを使っているユーザーであれば携帯でテザリングしているというユーザーが増えている。そこで、本体を大きく重くしてまで内蔵する必要があるかは議論し、早い段階で仕様から落とした」(城重氏)と、内蔵しないという決断に至ったようだ。確かに内蔵した方が単体で通信できるというメリットがあるのだが、その分モジュールやアンテナを入れるスペースも必要になり、結果として重く厚くなってしまう可能性が高い。そのあたりは軽さ、薄さとのトレードオフだと考えることができるので、確かにスマートフォンでのテザリングが当たり前になった今、適切な判断だと言えるのではないだろうか。
VAIO Z2のRAID 0 SSDに匹敵する性能を発揮するPCIe SSD
すでに述べた通り、VAIO Pro 11/13ではストレージを実装するのにはM.2ソケットを利用している。このうち、VAIO Pro 13では電気信号として、従来までのSATA(Serial ATA)だけでなく、PCI Expressで接続されるSSDを選択できる(ただしソニーストアでCTOした場合に限る)。
従来のSSDは、CPUから見ると、チップセットの内部にあるHCIコントローラをSATAの信号に変換し、SSDの側で再びSATAからSSD内部の信号に変換するという作業が行なわれていた。SATAの信号変換のオーバーヘッドは非常に大きく、そこがボトルネックになってしまい、SSDに内蔵されているフラッシュメモリの本来の性能を発揮できていないという問題があったのだ。そこで、PCI Express SSDでは、このHCIコントローラをチップセットの外に出し、SSD側にHCIのコントローラを実装させ、HCIとチップセットの間はPCI Expressで接続するという仕組みになる。これだとSATA変換にかかるオーバーヘッドが無くなり、フラッシュメモリ本来の速度を発揮させることができるのだ。
ただ、その開発は簡単ではなかったという。「開発を始めたところSSDベンダーから提供されのはロジックのシミュレーションだけで、その後来た開発ボードもすぐには動かなかった。特に苦労したのは、SSDモジュール側にHCIコントローラが来たため、従来のチップセット側のHCIとはいろいろ違っていて苦労した。特にすぐにはOSをブートさせることができず、我々がブートコードを書いてなんとかブートさせることができた」(宮入氏)との通りで、開発には困難が伴ったという。
一般的に、SATAのコントローラやHCIのコントローラというのは、チップセット側に内蔵されており、PCメーカー側はチップセットベンダー(この場合はIntel)から提供されるソフトウェアなどを利用することで、特に苦労しなくてもOSをブートさせられる。ところが、PCI Express SSDは、HCIがチップセットではなく、SSDモジュール側に内蔵されることになり、HCIもIntel製ではなく、SSDベンダー製ということになる。同じHCIコントローラであっても方言のような違いがあり、そこをソニー側でSSDベンダーやBIOSベンダーと協力しながら開発する必要があったのだ。「OSがブートするようになったのは今年(2013年)に入ってからで、そこから省電力、性能向上などの最適化を続けていった」(宮入氏)と開発には時間と手間がかかったということだ。
だが、そうした甲斐もあって性能は十分満足できるレベルになっているという。「IOmeterで計測したところ、SATAの倍の性能を発揮した。従来のZシリーズで採用していたRAID 0のSSDと遜色ない性能を発揮している」(小坂氏)とのことで、従来のVAIO Zシリーズで、SSD RAIDを利用していたユーザーでも不満を感じない性能が1つのSSDで実現できているという。
Windows環境でユーザーが不満に感じる瞬間はOSの起動だったり、アプリケーションの起動だったりするが、そうした問題もPCI Express SSDを選択すれば大幅に低減されるだけに、性能重視のユーザーはぜひともPCI Express SSDを選択したいところだ。なお、PCI Express SSDを選べるのは、VAIO Pro 13のCTOモデルで、256GB、512GBを選択した時となる。
ダイヤモンドカッターを利用して加工することで高級感を出したオーナメント
VAIO Pro 11/13のデザインには、VAIO Zのエッセンスを継承させており、VAIO Zが担っていたようなシャープなデザインを継承している。今回のVAIO Pro 11/13は「ヘキサシェルデザイン」と呼ばれるようなデザインで、液晶を開いたときに液晶の底面部がヒンジの役割を果たすような特徴的なものだ。
特に注目したいのは、液晶を開いたときに底面部となるシルバーの「オーナメント」と呼ばれる部分だ。ソニー株式会社 VAIO&Mobile事業本部 共通設計部門 6部 機構設計 2課 渡村憲司氏は「今回のデザインではこのオーナメント部分の出来でセットとしてのアイデンティティが決まってくると考えていた。そこで、象徴的なデザインになるように外周をダイヤカットして高級感を出している」と、そのデザイン意図を説明する。渡村氏によれば、ダイヤモンドがついた巨大なカッターマシンで高速回転させながらゆっくりと、このオーナメントの外周部分を舐めるように加工していく。それによって、高級感がでるデザインに仕上がったのだという。
なお、このオーナメントにはソニーロゴが入っているが、通常であれば、削ってソニーロゴを入れるところなのだが、文字が小さすぎて削ることは不可能だったという。このため、プレスをかけてソニーロゴを入れているのだが、プレス加工だとソニーのロゴがなまってしまい、開発時には何度もだめ出しをして、シャープになるようやり直したそうだ。
また、冒頭でも紹介したとおり、VAIO Pro 11/13はキーボードがあるクラムシェル型ノートPCとして軽量、薄型を目指した製品であるため、やはりキーボードにはこだわって作っているという。当初は、何もしていない状態でそのまま作ったら、キーボードのストロークは1.2mmしか確保できなかったそうだが、キーボードバックライトのモジュールをより薄くするように新規で起こしてもらった結果、0.2mmほど薄くすることに成功し、最終的に1.4mmのキーストロークを確保することに成功したそうだ。たがが0.2mmかと思うかもしれないが、1mm前後の中での0.2mmは非常に大きく、それだけでもユーザーの使い勝手には大きな影響を与えるだけにキータッチを重視したいユーザーにとっては注目したい点だと言える
ハイエンドモバイルPCが欲しいけど、価格でと躊躇していた人も要検討
以上のように、今回ソニーが発表したVAIO Pro 11/13は薄型、軽量を実現するための内部設計、さらにはハイパフォーマンスを実現するためにいち早くPCI Express SSDをサポートするなど、薄くて、軽くて、しかも速いというVAIO Zで実現してきた特徴を実現している点は、ハイエンドのノートPCが欲しいユーザーにとっては大きな魅力と言えるだろう。
そして、もう1つ言えることは、価格帯が、従来のVAIO Zより一クラス下がっていることだ。確かにVAIO Zシリーズは完成度も高く良いノートPCだったが、一方で価格が20万円台半ばとやや高めだったことも事実だ。今回のVAIO Proは店頭モデルで10万円台半ば、CTOで10万円台の前半からと比較的リーズナブルな価格に設定されている。
そうした意味で、ハイエンドモバイルノートPCをずっと待っていたユーザー、ハイエンドモバイルノートPCは欲しいけど、コストの面でちょっと……と思っていたユーザーであれば、積極的に検討してみる価値がある製品だと言っていいのではないだろうか。