大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

PCの時代は終焉する? 目指すのは「スマホーム」
〜エレコム葉田順治社長にインタビュー



 マウス、キーボード、ゲームコントローラーなどの幅広いPCアクセサリ、周辺機器でトップシェアを誇るエレコム。2011年には創業25周年を迎え、この分野の老舗メーカーではありながらも、そのアグレッシブさは今でも衰えを見せない。それは葉田社長の強力なキャラクターによる点も大きい。そして、その成果は、増収を続けているという業績からも明らかだ。エレコムの強みとは果たしてどこにあるのか。同社葉田順治社長に話を聞いた。

●景気に左右されない企業とは

−−1986年の設立から、昨年(2011年)25周年を迎えました。また、経済環境が厳しい中増収を続けています。26年目を迎えたエレコムが好調な理由は何ですか。

葉田順治社長

【葉田】25年を振り返れと言われても、正直、何も覚えていないんですよ。昨年の25周年もいろいろと忙しくて、記念の社内行事を行なったのも今年春でした。たぶんその時にも、社員は、「25年間、こんなに辛かった」という話が、僕の口をついて出るんじゃないかと思っていたはずですが、過去の話は一切しなかった。話したのは、50周年の話。「その時には俺はいないぞ。スマートフォンも無くなっている。どうするんだ。すぐに、次の未来を考えてくれ」と言いましたよ(笑)。

−−確かに、葉田社長は以前から、取材の場でも過去の話は一切しませんよね。

【葉田】過去には辛いことは確かにあったが、それはすべて忘れるようにしています。標語にすれば、「昨日のことは忘れて、今日から輝く未来をつくろう!」というわけです(笑)。正直、25年経っても、まだ何もできていないと感じます。やることはまだまだあります。ただ、過去を振り返って、1つだけ言えるのは、PCラックから事業をスタートし、その後、PCの利用範囲が広がるのにあわせて事業の領域を拡大し、さらにハードウェアの中心が、PCからスマートフォンへと移行するという変化の中で、常にエレコムが実現してきたものは、人にとって快適な環境を提供することだったという点です。言わば、「ヒューマンインターフェイス」の部分を担ってきたという自負があります。あまり過去を振り返らないですから、最近になって、ようやくそれに気がつきましたよ(笑)。

−−市場全体が低迷する中、エレコムが増収を維持している理由は何ですか。

【葉田】正直に言うと、業績が好調という意識はまったくないですね。業績がいいからと言っても、それで良かったとも思いません。社内には課題ばかりですよ。僕は以前から、景気、不景気は関係ないという考えでやってきました。創業時もバブル期だったなんて全然気がつきませんでしたよ。あとになって、そうなのかという程度で(笑)。日本のGDPが500兆円前後。その中で、600億円の会社は、0.0001%の規模。そんな会社が景気に左右されるわけがないです。

 僕は、次の未来のためにどんな手を打つか、どんな新しい製品を作るか、どんな新しいジャンルに入るか、どんな新しい産業に入るかということを考えてきました。これが業績という結果につながってきただけのことです。細かく見ると、業績という点では、スマートフォンに参入したことが功を奏しているといったことは挙げられるでしょう。この分野のアクセサリにおいては、トップシェアを維持しています。ただ、この市場もいずれは限界に達します。そのタイミングはどこかをしっかりと見据えなくてはなりません。業績よりも、そのことが重要です。

●65歳での引退を決意している葉田社長

−−葉田社長は、何年先を見て仕事をしているのですか。

【葉田】自分の中では65歳での引退というのを決めていますから、まずはそこに向けて物事を考えるということはあります。しかし、あまり先を見ても仕方がないので、実際の事業という点では、1〜2年、最長でも3年といったところです。この業界は技術の変化が激しく、その点では毎日技術を追わなくてはなりません。僕のやり方は危機管理ですね。何年先に日本の経済が破綻するのか、何年先に世界恐慌が起こるのか、ということを考えていますね。経営者としては、それに耐えうる企業体質を作らなくてはこう見えても、慎重なんですよ(笑)。昔のハチャメチャぶりからは変わったでしょう(笑)。

−−3年先の判断を見誤らない手法はあるのですか。

【葉田】それはないですね。むしろ、間違えるものだと考えていたほうがいいです。間違えて当たり前というのが前提です。正しいことはそのままいけばいいのですが。間違ったことをいかに修正するかが大切。僕は、自分の考えが正しいと思ったことは一度もないですよ。変化に対応して、間違いをすばやく修正する方が大切なのです。

−−社員に向けて言い続けてきたことは何ですか。

【葉田】それは「クレド」(経営理念)としてまとめています。エレコムは成長し続けるということが前提であり、そのためには新たな機会や、新たな領域に挑み続ける必要があるということです。そして、行動指針では、真摯に、勤勉に行動すること、自分たちのやっている商品を世に問い、それによって成長するという姿勢を示しています。25年間を経過して、今エレコムという会社が残っていることを考えると、世間にその姿勢が受け入れられたのかなとは感じます。

社員が携行できるように名刺サイズとしたクレドと行動指針

−−エレコムは、創業以来、葉田社長のトップダウンによって動く会社ですね。これはこれからも変わらないのですか。

【葉田】今、上新電機社長に就任している中嶋克彦氏は、直前まで、エレコムの顧問を務めていたのですが、その際に「実際に、エレコムの中に入ってみて驚いた」というんです。それは、「エレコムは葉田さんのワンマンの会社ではなく、合意制で動いている会社だ」と。多くの人が、勘違いをしているのですが、普段の仕事については、僕は、ほとんど口出しはしませんよ。

−−以前から、現場をかなりアグレッシブに動き回っていた印象がありますが。

【葉田】ああ、その点では半歩引きました。3年ほど前からスタンスを変え、戦略を考えることを重視しています。ですから、最近は現場に行って、いろんな人と話すことはしていません。現場の様子は、営業からレポートが上がってきますからね。社長というのは、数年に一度、大きな決断をすることが仕事だと思っています。私は、創業以来、いつPCが終わるのかをずっと見ていました。今、PCはいよいよ終焉に向かって動き始めたな、と感じています。産業30年限界説の中で、PCは35年続きましたから、終わるタイミングは、ちょっと遅かったと思っているぐらいです。その理由は、PCに代わる機器がなかなか出てこなかったことにありますが、スマートフォンによって、PCのかなりの使い方を代替するようになってきました。これがPCに代わるものだという実感を持っています。新幹線の中でも、シニアが驚くほどの勢いでスマートフォンを触っていますからね。

●これからPCは無くなってしまうのか

−−PCは無くなると考えていますか。

【葉田】いや、PCが完全に無くなるということはありません。高度なデータ処理や、企業情報システムにおける重要な端末の1つとして、PCは必要です。ただし、スマートフォンを使う領域が広がり、PCとの使い分けがもっと明確になってくるのではないでしょうか。PCはPCとして使う、スマートフォンはスマートフォンとして使うことで、市場の広がりがでてくるのではないでしょうか。

−−PC、スマートフォン、タブレットのバランスはどうなりますか。

【葉田】それはわかりません。それは市場が決めることだといえます。一度、タブレットに行った人は、PCには戻れないとも言われますが、それも分かりません。ライフスタイルによってPCに戻る人もいますから。ただ、パーソナルユースで、PCを持ち歩く人は確実に少なくなるでしょうね。僕の個人的な印象では、タブレットがこれから主流になると言われても、なんであんなに重たいタブレットを持ち歩くんだという感じもありますよ(笑)。大切なのは、その変化に対応していくこと。それだけです。

●エレコムが打ちだす「スマホーム」とは

−−エレコムは、中長期的にはどんな方向性を打ちだしていきますか。

【葉田】まだ具体的にはお話しできませんが、これまでのノウハウを活用した新規事業の立ち上げに取り組んでいく考えです。一方で、プロダクトでは、NAS事業を本格化させていきます。こうした取り組みの上で目指すのが、「スマホーム」です。

−−スマートホームではなく、スマホームですか?

【葉田】スマートホームは、住宅メーカーや電機メーカーなどの取り組みになりますが、エレコムが提案するのは、スマホームです。マルチベンダー、マルチプラットフォームに対応し、スマートフォンによるスマートホームを提案するのがエレコムのスマホームです。

−−どこが違うのですか。

【葉田】家中の機器がつながる、家族全員が使えることを狙うという点では同じかもしれません。しかし、エレコムは、NASを中心にして、PC、TV、スマートフォンが接続し、情報を格納し、機器を制御するといったパーソナルクラウドのような提案となります。NASを中心にして、いつでもどこでも情報が取り出せるようになります。まずは、スマートフォンからTVのチャンネルを変えるというアプリケーションの提供から始まっていますが、これからさまざまな形で、スマホームの提案をしていくことになります。今、NASの開発に力を入れているのも、スマホームの実現に向けた布石の1つです。

 スマホームのもう1つの特徴は、オープンであるという点です。住宅メーカーや電機メーカーのスマートホームは、特定のメーカーの機器で全てを完結させようとしていますが、エレコムの特徴はマルチベンダーなので、その時のベストの機器を使い、あらゆるメーカーのものを全部つなげることができます。家の外も、家の中も自由な選択のもとで、構成できるわけです。

 今、少しずつではありますが、主要店舗において、エレコムが目指すスマホームとは何かといった展示を開始しています。どんな売り場を作ったらいいかを試行錯誤している段階であり、ノウハウを蓄積しながら、来年の夏ぐらいまでには多くの店舗で見せられるようにしたいと思っています。この提案はTV売り場でやることも考えています。量販店のTV売り場は今閑散としているのは周知の通りです。スマートフォンでTVのチャンネルを変えたり、外出先から家電機器を制御できるといった提案を見せられるのは、TV売り場しかないと考えています。

−−クラウドあるいはHEMSといった領域にも踏み出すのですか。

【葉田】クラウドサービスはやりません。また、HEMSにも乗り出すつもりはありません。誰もがやっていること、誰もができることはやらない。そして、大手企業がやっていることはやりません。

−−スマホームの売り上げ計画は出すことはできますか。

【葉田】それは難しいですね。さまざまな領域の商品が組み合わさって構成するのがスマホームです。よくよく考えてみたら、この提案はエレコムしかできないんです。なぜならば、エレコムは、商品だけでなく、検証、サポート、設定、設置サービスなどを含めて提案することができるからです。

 PC業界にいると、OSやCPUに不具合があった場合に、日本マイクロソフトやインテルがすべてをカバーするのではなく、サードパーティーである我々が、エンドユーザーのサポートまでをしなくてはならないという環境でビジネスをしてきました。つまり、サポートすることには、かなり鍛えられてきました。エレコムでも、150人体制のカスタマーサポートセンターを持ち、泥臭く、コツコツと、最後の最後までとことんサポートする体制をとっています。

 PCデポの野島隆久社長の奥さんが、当社の製品を購入したら偶然、不良にあたってしまったらしく、サポートセンターにお問い合わせをいただいたのですが、すぐに対応でき、逆に、あとからお礼を言われ、エレコムのファンになってくれましたよ(笑)。これも日頃から顧客を重視するという姿勢の成果だと思っています。

 コンセプトは、売りっぱなしにはせず、使えるまで面倒をみるということ。こうした経験がありますから、結果として、スマートフォンでも、プリンタでも、TVでもサポートできるノウハウを持っています。

 また、ソフトウェア開発部門を擁し、スマートフォンのアプリケーションを開発しているということも、こうした環境で生きることになります。これは、つい最近まで僕も気がつかなかった特徴でした。コツコツやってきたものが、ノウハウとして蓄積され、製品群もすべてつながっていた。これからは、スマートフォンで何ができるのか、NASをどう位置づけるのか、といったことを売り場で提案していることになりますが、その中で、これからは「スマホーム=エレコム」といったイメージも出していきたいです。もはやPCアクセサリの売り上げ構成比は約3割です。PCアクセサリメーカーという言葉では捉えきれない状況になっています。ストレージやネットワークの売上高が拡大する中で、新たなエレコムの姿を、形にしていきたいですね。

●Windows 8で「混戦」の時代を迎える

−−2012年度下期のエレコムの重点施策は何ですか。

【葉田】1つは、Windows 8関連商品への取り組みですね。2012年度下期以降、「カオス」あるいは「混戦」といった時期がやってきます。Appleはすでにピークに達し、15%ぐらいのシェアで留まるでしょう。そうした中で、iOSに加え、Android、Windows 8との混戦状態になるのは明らかです。

 Windows 8は、MS-DOSからWindowsに変わったほどのインパクトがあります。これから、かなり活気づくだろうと考えています。こうした新たなOSの登場によって、デバイスの操作方法が大きく変わると、周辺機器が変わり、PCアクセサリメーカーにとっては、大きなビジネスチャンスが訪れることになります。Windows 8の操作環境に対応したマウスも品揃えしていきますし、キーボード上でWindows 8のタッチ操作ができる新たなキーボードも登場する。さらに、タブレットにあわせた新たな製品も求められる。積極的にラインアップを増やしていきたいですね。

●エレコムショップ出店を軸に海外事業を加速

−−ここ数年、海外事業に力を注ぎ始めていますね。

【葉田】海外事業の基本戦略は、新興国市場を中心にやるということになります。かつて欧州などに出ていき、100億円ぐらいの損失を出したことがありましたが、同じやり方はしません。インドをはじとめするアジアの新興国、中南米やアフリカなどにフォーカスし、パートナーとの連携で、広く浅く、新興国を攻めていくつもりです。

エレコムが出店したインドのエレコムショップ

−−海外事業の比率はどこまで高めていく考えですか。

【葉田】それは、よく聞かれる質問ですが、僕の経験から、海外事業は売り上げ計画を立てると、ロクなことにはなりません(笑)。だから計画は立てていません。エレコムが置かれた立場からすれば、今慌てて海外に収益を求めないと息切れしてしまうという状況にはありません。むしろ、円高の享受があり、国内だけでも成長を維持している。ただ、今後、日本が中長期的にどうなるかがわかりません。もしかしたら、一度クラッシュすることすら考えられる。そうした危機感から、エレコムの将来の柱の1つとして、海外事業を着実に育てていきたいと考えています。

−−海外事業の手応えはありますか。

【葉田】香港の店舗はうまくいっています。ここでは、量販店などに商品を展示するのではなく、自前の「エレコムショップ」を展開し、それが成果を上げています。香港のエレコムショップでは、最先端の技術を搭載した、高価格商品から売れています。また、エレコムでは、スマートフォンのケーブルだけで約30種類をラインアップしていますから、選択肢が広いわけです。海外市場にはそこまで揃っているメーカーがありません。最先端の技術と、きめ細かな商品ラインアップによって、エレコムの存在感が高まっています。こうした付加価値の観点からも大きな需要があるという手応えを感じています。香港の店舗は、現地のリテール販売のプロにお願いしています。土日は午前11時オープンで、閉店は午後11時。ユーザーには、遅い時間まで来店してもらっています。

 さらに香港での店舗を拡大していきたいと思っていますし、ほかの国にもエレコムショップを展開していきたいです。中国、シンガポールなど、人口が多い、あるいは人口密度が高いところを狙う。見出しを立てるとすれば、「苦節20年、エレコムに海外事業の足がかりをみた」というところでしょうか(笑)

●エレコムの強みはエレコムスピリッツ

−−改めて葉田社長にお伺いしますが、エレコムの強みとは何でしょうか。

【葉田】社員のモチベーションが高く、社員の中に、エレコムスピリッツがあるという点ではないでしょうか。社員たちが、良い商品を作ることに力を注ぎ、その商品には自信を持っている。これを多くの方々に使ってもらえるという喜びもある。仕事は厳しいし、楽ではないですが、一緒に成長して、成長した喜びを分かち合うのがエレコムのカルチャーです。自らの成長によって、自己実現ができる会社だと言えます。社員同士はとても仲がいい。派閥は葉田派閥だけです(笑)。

 エレコムの基本姿勢は、「for the customer」です。お客様に、いかに早く、望むものを提供し、喜んでもらうか。そして、時にはびっくりしてもらう。特に、ここにきて力を入れているのが品質です。for the customerを突き詰め、根本から考えていくと、行きつくのは、品質となります。もちろん、品質が高まるということは、サポートコストの低減につながり、業績の面からもプラスの要素となります。エレコムでは、品質のスペシャリストを採用し、新たなチェックの仕組みを作り、ISOを取得するといった改善に取り組んできました。この結果、品質は飛躍的に良くなり、不良率は1桁変わり、品質に対するクレームが減りました。インチキ商品は売らないというのがエレコムのやり方です。まだまだ改善を続け、顧客満足度は限りなく100%に近づけていく。そういう点で、これから他社との差が明確に出てくると思います。

 もう1つ、特徴的なのが、ソフトウェア部門を強化しているという点です。かつて、アプリケーション開発分野には1億4,000万円を投資したものの、300万円しか回収できずビジネスにはならなかったという反省があります。しかし、それが今、資産として生きている。僕らしいでしょう(笑)。ユーティリティ、アプリケーションと周辺機器とを組み合わせることで、使い勝手を高め、より幅広い提案ができるといった、ハードとソフトの融合による強みが発揮できるようになっています。また、セキュリティ分野にも踏み出すことができています。この融合が、これからのエレコムの強みになるといえます。