■山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ■
Nexus 7。販売はGoogle、製造はAsusが受け持つ。海外では7月から発売されており、日本向けの出荷は9月25日に開始された。Google Playでの販売価格は19,800円(16GBモデル)で、このほか量販店ルートで8GBモデルが販売される |
Googleの「Nexus 7」は、Asusが製造する7型のAndroidタブレットだ。最新のAndroid 4.1を搭載しつつ、19,800円というリーズナブルな価格で、日本への出荷が発表された9月25日から現在(10月上旬)まで品薄の状態が続いている。ハードウェア中心のレビューは別記事をご覧いただくとして、本稿ではこのNexus 7を電子書籍端末として利用する場合の使い勝手を紹介していく。
●7型タブレットとしては軽量。カードスロットがない点は注意
本論に入る前に、本製品の仕様周りを簡単にチェックしておこう。
本製品の大きな特徴といえば、OSにAndroid 4.1を搭載していることだ。筆者はこれまで同じ7型タブレットでは、GALAXY Tab(Android 2.2→2.3)、GALAPAGOS A01SH(Android 3.2→4.0)をメインに使ってきたが、本製品の動きのヌルヌルさは段違いだ。リファレンスモデルということでチューニングに注力していることもあるだろうが、描画性能を上げたAndroid 4.1の恩恵は大きいと感じる。iPhone/iPadの動きのスムーズさに慣れているユーザーでも、違和感なく使えるはずだ。
ハードウェア面では、本体が約340gと軽量であることは特筆モノだ。300g台後半がほとんどの既存の7型タブレット(約249gのドコモMEDIAS TAB ULは除く)と比べると、手に持った瞬間「あ、軽い」とはっきりわかるレベルだ。国内でもいずれ直接のライバルとなる可能性が高いAmazonのタブレット「Kindle Fire」や「Kindle Fire HD」と比較すると、実に50g以上も軽い。
一方、microSDカードスロットがない点は要注意だ。容量に不足を感じた場合も、一般的なAndroidタブレットと違ってmicroSDカードで容量を増やせない。電子書籍端末として使う場合も、ストアから購入するコンテンツはまだしも、自炊ビューアとして使う場合は使い方に制約が出るので、注意したほうがよいだろう。この点については後述する。
また本体裏面のスピーカーの配置など、基本的に縦向きに使うことを前提とした設計なので、横向きの状態で動画を鑑賞しようとすると音声はかなりの違和感がある。さらにHDMIコネクタもなく、カメラもインカメラのみでアウトカメラがない。こうした仕様を知らずに買い、使ってみてびっくり、というパターンもあるだろう。使い込んでいくといろいろと気になる箇所があるのは事実だ。
もっとも、それを補ってあまりあるのが19,800円というリーズナブルな価格であり、動きのスムーズさであることは、各所で指摘されている通りだ。こと読書端末として見れば、スピーカーの配置やHDMI端子の不在はあまり関係のない話であり、ハードウェアからしてもかなり読書用途に向いていると言えるだろう。
余談だが、個人的に嬉しいのは多くの7型タブレットのように充電が専用のACアダプタ/ケーブルでしか行なえないのと違い、microUSBケーブル、もしくはAC変換アダプタ経由で充電できること。そのためmicroUSBケーブルさえ持参すれば、出先での充電が行なえる。本体が軽いことはもちろん、遠征時に持ち歩く荷物が少なくて済むよう配慮されているのは好感が持てる。
●Googleの電子書籍ストア「Google Playブックス」が利用可能さて電子書籍ストアである。本製品の発売に合わせて正式にサービスインしたGoogleの電子書籍ストア「Google Playブックス」が利用できる。その名称からわかるようにGoogle Playの1カテゴリという位置づけで、Googleウォレットを使っての支払いに対応している。そのため、Google Playでアプリなどをクレジットカード支払いで買ったことがあれば、とくに新規の会員登録などをすることなくGoogle Playブックスで電子書籍が購入できる。
これはビジネス/経営/経済カテゴリを表示したところ。偶然だとは思うが、ジョブズ関連本が複数あるのが面白いといえば面白い | 無料本として青空文庫コンテンツをラインナップする。一部書籍はプリインストール済だ |
書籍のラインナップは、現状ではかなり心もとない。蔵書点数は公表されていないが、ざっと見る限りでは数百点程度のようにも見えるし、単語検索をするとインデックス検索からは見つからない本が大量に表示されたりするので、1万点くらいはあるようにも見える。いずれにせよ蔵書の顔ぶれはかなり偏っているので、紙の本として話題になっている書籍を探した場合、ほかのストア以上に絶望的な結果が得られる。「Googleアカウントがそのまま使えるので、せっかくだから何か試しに読んでみよう」という動機を除けば、積極的に利用する価値はあまりない、というのが現時点での評価だ。
もっとも、すでにクレジットカード情報が登録済みのGoogleアカウントでそのまま購入できるのは、他の電子書籍ストアにとって脅威だろう。今後コンテンツが充実してきた場合、Android端末で電子書籍を楽しみたいユーザーの多くはGoogle Playブックスで塞き止められてしまい、その他の電子書籍ストアのアプリを一切インストールしなくなるかもしれないからだ。
●ストレスのない購入フロー。読書時の操作方法もごく一般的ストアの購入フローは、ジャンル分けに多少癖はあるので入り口の段階で戸惑うことを除けば、Google Playの利用経験があればすぐ慣れるレベルだ。詳しくはスクリーンショットをご覧いただきたいが、好みの本の詳細ページで価格をタップすると即決済画面に移行し、決済完了後はすぐさまダウンロードが開始される。各書籍にはお試し版も用意されており、最終ページまで到達するとストアへのリンクをたどって正式版を買うことができる。いずれの場合もストレスはまったく感じず、きわめて秀逸な導線設計だ。
今回はすぐに購入するフローを紹介しているが、さきに無料サンプルをダウンロードした場合、最終ページでこのように購入画面へのリンクが表示される。このあたりの作りも丁寧だ | ライブラリの一覧画面。タップすることで本が表示される。1画面には4冊の本が表示され、横方向のスクロールで5冊目以降の本が表示できる |
本を読む際の操作方法だが、タップもしくはフリックでページめくり、画面中央タップで進捗バー表示、さらには設定画面を表示して配色を変えるといった操作に対応する。このあたりは一般的な電子書籍ビューアと変わらない。音量ボタンを用いたページめくりや、画面を白黒反転させて暗い場所でも読みやすくする夜用の表示モードなど、他のビューアではあまりみない機能も備える。
ところでGoogle Playブックスで売られている電子書籍には、EPUBやXMDFといったテキストタイプではなくスキャンデータを用いた画像タイプの本が多くラインナップされている。いわば「公式の自炊データ」のようなもので、ほかのストアとは異なる独特のスタイルだ。紙を直接スキャンしているケースとデータ出力のケース、2通りがあるようだが、どちらにせよ画像ベースなので文字サイズの変更などは行なえず、テキスト検索なども対応しない。
もっとも、実際に読むぶんにはほとんど違和感を感じない。その理由の1つとして、7型の液晶画面が、新書や単行本と同等であることが挙げられる。ほぼ原寸大であるが故に文字サイズを調節する必要がなく、結果的にテキストフォーマットで作られている書籍と大差なく読めてしまうというわけだ。そうした意味で、7型という画面サイズとの相性は非常によいと感じる。
そうなると危惧されるのがスマートフォンなど小さな画面での閲覧性なのだが、これらスキャンデータで構成された書籍では、画面上部に「スキャンされたページだけで構成されています。小さな画面にはおすすめできません」というメッセージが表示されるので、うっかり買ってしまって読むに耐えなかったということはない。文字サイズの変更ができない点など、もう少し具体的な説明があったほうがよいとは思うが、最低限の水準は満たしていると言えるだろう。
ところで、ここまで見てきたのはスキャンデータによる画像タイプの書籍だが、テキストフォーマットの書籍では、行頭に句読点が来るなど、縦書き時の禁則処理に一部違和感がみられる。ただしきちんと行なわれているケースもあり、何が基準になっているのかは不明だ(ページまたぎの際のみ発生するようにも見える)。
このほか、縦書き表示であるにもかかわらず横書き用の句読点が用いられているケースもあるようだ。数字が回転しているなど致命的な違和感はざっと見る限りでは見つけられなかったが、今後のブラッシュアップは必要だろう。
行頭に句読点が来ているケース(1行目)。また句読点の位置も違和感がある | 本製品の出荷直後のバージョンでは青空文庫が横書きで表示される不具合があったが、その後修正されている。個人的には横書きも悪くないと思うのだが、縦書き横書きの切替機能は備えていないようで、現在では横書き表示は見られなくなっている |
●他の電子書籍アプリもおおむね問題なく利用可能
Google Playブックス以外の電子書籍ストアの対応状況だが、いくつかインストールして基本動作をチェックしてみた限りでは、BookLive! Reader、紀伊國屋書店Kinoppy、BOOK☆WALKER、Kindleは購入済み電子書籍も問題なくダウンロード可能、BooksVはアプリこそインストールできるものの端末登録がうまくいかず断念、GALAPAGOSは現状Android 4.1に非対応で導入不可、ソニーのReaderは自社端末以外非対応なので同じく導入不可、という状況だった。BooksVが原因不明なのがやや気になるが、基本的にAndroid 4.1への対応に左右されるといっていいだろう。
【16時40分追記】 ソニーのReaderが11日付けアップデートされ、Android 2.3以降の機種すべて対応となりました。
なおこれは余談になるが、Google PlayブックスはPCでも閲覧できるほか、iOS向けにアプリも提供されている。iPhone 4Sにインストールしてログインしたところ、既読位置もきちんと同期された。また面白いのは自動的に余白がトリミングされることで、画面サイズの小さな端末でも読みやすいようになっている。このあたりはKindleの挙動に近いものがある。
●自炊ビューアとしても快適。カード経由の読み込みができない点は注意
もう1つ、自炊データのビューアとしての可能性についてもチェックしておこう。前述のとおり文庫本や新書、単行本がほぼ実寸サイズで表示できるので、本をそのままスキャンしたデータでも拡大縮小の必要性がほぼなく、快適に閲覧できる。試した限りでは、ScanSnapのスーパーファインモード(カラー/グレー300dpi)でスキャンしたデータをそのまま「i文庫」で読み込むことで、快適な読書が行なえた。
ところで本製品を自炊ビューアとして使う場合に気をつけなくてはいけないのが、本製品はmicroSDスロットを装備しないことだ。そのため、PCに直結してデータを転送したり、あるいはDropboxなどオンラインストレージ経由で転送するのならまだしも、カード経由で自炊データを読み込ませる方法が使えない。これまで他のAndroid端末で、自炊データが大量に入ったmicroSDを使っていたユーザーは、別の方法を考えなくてはならない。
個人的なおすすめは、ネットワーク経由のデータ読み込みに対応したビューアアプリを使うことだ。具体的には「ComittoN」というアプリなのだが、このアプリであれば自炊データをNAS上に置いたままの状態で読書が楽しめる。つまり1ページめくるたびにNASの共有フォルダから次ページのデータを転送して展開表示する仕組みなのだが、パフォーマンス的には端末上に置いて読んでいるのと変わらない使い勝手で読書が楽しめる。仕組み上ローカルIPアドレスが使える範囲、つまり家庭内での利用に限定されるのと、データがPDFではなくZIP圧縮JPEGである必要があるが、個人的には本端末と組み合わせて自炊データを(家庭内で)楽しむのであれば、このアプリが最適ではないかと思う。
「i文庫」での表示。今回試した限りでは、ページめくり効果がややカクカクする場合があったが、表示そのものは問題ない模様 | 「ComittoN」はNAS上に置いた自炊データを直接読み出せる。これはNAS上のデータをリスト形式で表示しているところ | 「ComittoN」で自炊データを表示したところ。フォーマットはPDFではなくZIP圧縮JPEGである必要があるが、ScanSnapで自炊したPDFは画像がJPEGであるため表示できるなどの例外もある模様。詳細はGoogle Playの概要を参照されたい |
●電子書籍のビューアとして積極的におすすめできる製品
以上ざっと使ってみたが、Google Playブックスの品揃えはともかくとして、文庫本や新書、単行本がほぼ実寸サイズで表示でき、動作は(多くの場合は)サクサク、しかも端末自体が7型タブレットとしては軽量ということもあって、読書端末としての使い勝手はすこぶるよい。とくに画面サイズについては、登場が噂されるiPadの小型版や、国内投入が予想されるKindle Fire HDなどとともに、7型が今後の主戦場となっていくことを予感させる。
ラインナップが現状心もとないGoogle Playブックスにしても、会員登録などの手続きがあらためて必要ないのはこの上ないメリットであり、今後に期待が持てる。他のストアと同じ土俵で著名出版社のコンテンツを拡充するのではなく、オリジナルの切り口で攻めてくるのではないかと思うが、品揃えに対する考え方の違いがよい方向に作用すれば、かえって面白い存在になるのではないかと思う。本を見つけるまでの導線だけはもう少し見直したほうがよいとは思うが、これはGoogle Playにも共通する検索軸なので、妥協するしかないのかな、という気がする。
ともあれストアのハードルの低さは現時点で折り紙付きであり、ハードはほかのストアにも幅広く対応し、自炊データも快適に読めるなどつぶしも効く。電子書籍のビューアとして使えるタブレットを探しているユーザーには、パフォーマンス、コスト、可搬性、さらにそれ以外の汎用性もプラスして、積極的におすすめできる製品だといえるだろう。