■山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ■
薄型軽量という従来モデルの特徴を継承しつつ、9,980円という低価格を打ち出した、ソニーの電子書籍端末「PRS-T2」。試用レポート後編は、ストアの購入フロー、および新機能のFacebook/Evernote連携機能についてチェックしていく。
●購入フローは従来通り。フローは一般的もID/パスワード入力が面倒本製品で電子書籍を購入する方法は、PC経由と、無線LAN経由で端末から直接購入する方法の2通りがある。今回は無線LANを経由して端末側で購入する方法をチェックする。
ホーム画面で「Reader Store」のアイコンをタップするとストアに接続される。目的の本を検索し、カートに投入した後、決済を行なえばダウンロードされて本棚に表示される。個々の画面内容はスクリーンショットを確認いただくとして、フローとしては一般的だ。
ただし、このフローが昨今徐々に“一般的”ではなくなり始めている点は気をつけるべきだろう。昨今は購入フローがシンプルになりつつあり、Kindleであればパスワードを入れなくともワンクリックで決済できるし、koboも基本的に同様の仕組みを採用している。フローが一般的かどうかはあくまで他ストアとの相対評価なので、競合ストアがより簡単な仕組みを採用しつつある昨今、本製品の購入フローは面倒さを感じる。とくに他ストアに慣れたユーザーにとっては、それは顕著だろう。この件については別の問題と合わせ、最後の章でまとめて触れる。
【動画】ホーム画面からReader Storeにアクセスし、新着の中から西田宗千佳氏「漂流するソニーのDNA」を表示し、サンプルをダウンロードして開くまでの様子。購入する場合は「サンプルを読む」を押すかわりに「カートに入れる」をタップし、その後決済フローを経ることになる |
ところで本製品はReader Storeのほか、紀伊國屋書店 Bookwebも利用できる。ホーム画面の[アプリケーション]→[紀伊國屋書店]を選択するとブラウザベースでストアが表示されるので、ログインして本を選び、購入するとReaderのホーム画面に表示されるという流れだ。
購入完了後は、Reader Storeで買った本とまったく同様に扱える。ためしにReader Storeと紀伊國屋書店で同じ本を買ってみたが、ホーム画面上でまったく見分けがつかない(設定画面の「情報」欄でストア名を見れば判別は可能)。どのストアで買ったかというのはユーザーにとっては本来気にしなくてよい話だけに、シームレスに扱えるのは嬉しいことだ。
なお、従来モデルでは紀伊國屋書店とともに対応ストアに含まれていた楽天Rabooは、終息にともなって本モデルでは対応から外れた。2013年3月31日にストアも閉鎖とあって、これはやむなしといったところだろう。電子書籍ストア選びを間違えるとこうなるという実例にほかならず、背筋が凍る思いである。
●本製品で「あとで読む」を実現するEvernote連携機能が便利続いて、新機能であるFacebook連携機能、そしてEvernote連携機能について紹介しよう。先に結論を書いてしまうと、後者のEvernote連携機能は、E Ink端末の使い道の幅を電子書籍の購読以外にも広げる、たいへん秀逸な機能であると感じる。順に見ていこう。
まずはFacebook連携機能。これは現在読んでいる電子書籍のタイトル、もしくは本文の一部をFacebookに投稿する機能だ。他社製品ではkobo Touchにも搭載されているが、kobo Touchが文字列の範囲選択が実用レベルにまったく達していないのに比べ、本製品のそれは選択範囲変更時のハンドルもきちんと表示され、じゅうぶんに実用的に使える。ブックマーク機能やメモ機能などと併用すれば、読んでいて気になった点などを控え忘れることはないだろう。
次にEvernote連携機能。本製品で言うところのEvernote連携機能は2つに分類できる。1つは「電子書籍の本文で気になったところをEvernoteに保存する機能」で、つまりReader→Evernoteの方向にアップロードされる。アップロード時にはノートブックも指定できるので、Evernoteの特定のノートブックに、電子書籍の本文で気になったところをどんどんクリップしていける。
さきほどと同じ文字列を、今度はEvernoteに投稿してみる。範囲選択した状態で「Evernote」を選択 | こちらもコメントを追加できる。試しに「テスト」と入力 | アップロード完了 |
PCのEvernoteから見たところ。入力したコメントが本文の上に表示されている | 設定画面。保存先となるノートブックを選択できる |
もう1つ、おそらくこちらが本命の機能ということになるが、「Evernoteに保存したノートを本製品にダウンロードして読む機能」だ。PCのブラウザ上で表示している記事を、ChromeまたはFirefoxの機能拡張「Evernote Clearly」を用いてEvernoteにノートとして保存することで、Reader側でダウンロードして読めるようになるのである。向きとしてはEvernote→Readerである。
つまり、Evernoteと本製品を組み合わせることで、いわゆる「あとで読む」に相当する機能が実現できてしまうわけである。ネットを見ていて気になった記事をどんどんEvernoteにクリップしていけばあとで本製品の電子ペーパー画面で読めるわけで、たいへん快適だ。スマートフォンやタブレットで読むのと違って軽量かつ目にやさしいのも強みだろう。Evernoteユーザーであれば、電子書籍に興味がなくとも、このためだけに本製品を購入する価値もあるのではないかと思うほどだ。
すでにお気付きの方も多いと思うが、この仕組みはKindleが搭載している「Send to Kindle」機能とよく似ている。ただし、KindleおよびKindleアプリ(PC含む)でしか閲覧できないSend to Kindleと異なり、Readerの機能はEvernoteを使って実現している分、汎用性は高い。やや裏技になるが、読み込み対象となるノートブックを設定画面から切り替えて手動で同期すれば、そのノートブックに含まれるノートがどさっとダウンロードされてくる。過去にストックしたまま目を通していないノートの「積ん読」にも有効だろう。
使い勝手の面での注意点は2つ。1つは本端末上でのデータの「削除」と、Evernote上での「削除」は意味が異なること。本製品側でデータを削除すると、Evernote側ではごみ箱に移される。Evernote側で削除した場合は、同期後であれば本製品上のデータはそのまま残る。要するにフェイルセーフ的に正しい設計になっているのだが、慣れていないと挙動に戸惑う(実際、例外的な挙動もあるようだ)。また自動同期も絶え間なく行なわれるわけではないので、実質的に手動同期が必要となる。もともとまったく異なる2つの製品/サービスが連携しているわけで、このあたりはある程度ユーザーの側で慣れてやる必要がありそうだ。
もう1つは、この仕組みを使ってEvernoteから読み込めるのは、基本的にウェブをクリップしたデータか、あるいはテキストデータに限定されていることだ。例えばドキュメントスキャナ「ScanSnap」からEvernoteにアップロードしたPDFデータを、該当のノートブックに移動させたのち本製品に同期させても、白紙で表示されてしまう(ファイル自体は存在している)。これはEvernoteからのダウンロード時に内部的にEPUBに変換されていることが原因のようだ。
もっとも、いくつかの技術的課題がクリアされれば、近い将来、ドキュメントスキャナからEvernoteに直接アップロードし、それが自動的に同期されてReaderで読めるようになるかもしれない。今後につながる、いろいろな応用性を感じさせる機能だといえるだろう。
●端末は100点満点で80点から90点の高評価、だが……以上ざっと見てきたが、基本機能はさらにブラッシュアップされ、レスポンスは向上し、価格は下がり、さらにEvernote連携など価値の高い新機能も追加になるなど、どこを取っても高評価だ。もちろん気になる箇所がゼロというわけではないが、端末をトータルで見れば100点満点で80点から90点はつけられる。少なくとも本稿執筆時点で国内で入手可能なE Ink端末としては、頭ひとつ抜きん出ている。
が、端末をベタ褒めしておきながら真逆のことを言うようで申し訳ないのだが、筆者はソニーのReader Storeはこれまでほとんど利用しておらず、今後もよほどの理由がない限り使わないと思う。理由は単純にして明快、ストアの使い勝手がよくないからだ。実際、過去2年で購入した書籍は今回のようなレビュー用途で購入した数点しかなく、常用というのは程遠い。Reader数台に加え、Xperiaまで所持していながら、である。
カテゴリ検索のコミックで「週刊少年ジャンプ」で検索した例。このページに限らず、数十巻あるシリーズが検索画面を数ページに渡って埋め尽くしていることはざらだ |
使い勝手の問題は大きく2つに分かれる。1つは検索性。著者名にリンクすらなかった当初よりは大きく改善されたとはいえ、例えばコミックはシリーズ単位ではなく1巻ずつ表示されるので、検索画面で何十巻とあるシリーズに出くわすと延々とページをめくらなければ次の候補が見られず、そこで音を上げてしまう。「何か買って読もうかな」と思っても、新しい本と出会う労力が半端ではないのだ。かといって特集などで補完されるわけでもないので、強烈に読みたいと思った特定タイトルがある場合のみピンポイントで使う形になり、いつしか「もう他ストアでいいや」となってしまうわけだ。
もう1つは購入フローの拙さで、カートに入れて決済するたびに、メールアドレス(またはMy Sony ID)とパスワードを要求されること(例外あり。詳しくは後述)、さらに購入毎にメールマガジン登録のチェックボックスをオフにしなくてはいけない。今回のPRS-T2では改善されていることを期待していたのだが、案の定なんの変化も見られなかった。「今後もよほどの理由がない限り使わない」と書いた最大の理由がこれである。
特にメールアドレスとパスワードを要求されることについては、本をカートに入れ「よし、買うぞ」と思って「購入手続きへ」ボタンを押した直後にフォーム画面が表示されるので、購入モチベーションの低下が著しい。同社なりのポリシーがあるのか、購入数への影響は軽微という裏付けがあるのか、その理由は不明だが、決済プロセスだけピックアップすれば後発のkoboにも負けている。仮にコンテンツ数や価格などの条件が同等として、Kindleが今後国内でサービスインした場合、ReaderからKindleに流れるユーザーはいても、現状ではその逆はないだろう。
ちなみにこのパスワード入力、メールアドレス(またはMy Sony ID)とパスワードの両方を要求される場合(左)と、パスワードのみ要求される場合(右)がある。購入後間もないタイミングであればパスワードだけで済むが、半日ほど経つとメールアドレスを要求される。詳しいロジックは不明だが、現実的には本を買う度に両方を要求されるとみていい |
実際にはメールアドレス(またはMy Sony ID)を頭何文字か入れたところでフォーム側が記憶していた文字列を補完してくれるので全部入力しなくても済むのだが、応答の遅いE Inkの画面上での操作でもあり、イライラの元になりやすい。そもそもこの時点でストアにはログイン済でポイント残高まで見れる状態にあり、しかも端末は(機能をオンにしていれば)4ケタの暗証番号を入力してロックを解除した上で操作しているわけで、そこまでして認証させる意図がわからない。また、メールマガジンの購読チェックに至っては、マイページで「受信しない」となっていても毎回しつこく尋ねられる有様だ。
たとえチェックを外しても、次回購入時には必ず「メールマガジンを購読する」にデフォルトでチェックが入る | ちなみにマイページではメールマガジンは「受信しない」となっているのだが、それとは無関係に購入のたびにチェックを外す必要がある。本の販売数量よりもプライオリティの高い配信数目標でもあるのだろうか |
といったわけで、端末がこれだけブラッシュアップされ、さらに電子書籍のラインナップ数もかなり充実してきただけに、ストアがなんとも残念というのが現時点での筆者の評価だ。
おそらく端末については次期製品で解像度の向上やライトの内蔵など、現行のトレンドを取り入れた改良が加わると予想するが、それよりも同社が注力すべきなのは、何をおいてもストアの使い勝手の向上だろう。現状これらの問題が比較的目立たない理由は、単に蔵書数など別の論点が大きくピックアップされているが故に矛先が逸れているだけ、というのが筆者の見解である。ぜひストアの“覚醒”を待ちたいところだ。