山田祥平のRe:config.sys

タッチが変えるフォームファクタとアプリ




 Windows 8は、タッチ操作に本格的に取り組んだOSだ。各社のPC新製品もタブレット形状のものや、ハイブリッドタイプのものなどが順次揃い始めている。Windowsが新しくなったことで、これほどハードウェアの形状に変化をもたらすのは初めてのことではないだろうか。

●タッチを常用してみる

 Windows 8が一般向けに発売されてから、ほぼ1カ月が経過した。各社の新製品も登場し、暮れにかけてPCを新調しようとしているユーザーも多いと思う。そのときに迷うのが、タッチ対応のものにするかどうかだ。

 例えば、モバイルPCの場合、タッチ対応にすることによって数mm分厚くなり、100g程度重量が増加する。デスクトップPCの場合は、ある程度以上のディスプレイサイズでは、使用時にディスプレイの表面まで手が届かなかったりもする。

 個人的には、Windows 8になっても、新しいUI用のアプリが充実するまでは、タッチはあるにこしたことはないが、まだなくても特に不便はないという判断をしている。でも、実際に自分の環境で体験してみないことにはわからない。そんなわけで、ここ1カ月は、パナソニックの「Let'snote AX2」と、レノボの「IdeaPad Yoga 13」の2台のどちらかを持ち出す生活をしてみた。

 それまで常用していたLaVie Zに対してLet'snoteでも数百g、Yogaにいたっては500g以上重い。いかにLaVie Zが軽かったかを痛感する。

●スクロールとズームはタッチが便利

 2台のモバイルPCは、両方ともディスプレイを裏側に折り返せるコンバーチブルタイプのフォームファクタだ。ちなみにぼくは、Windows 8を使うようになっても、ノートPCを操作する作業は、そのほとんどがクラッシックデスクトップ環境だ。割合的には9割以上だといっていい。ノートPCの場合は、スリープとそこからの復帰を繰り返して使う。Windows 8を起動したときには、あの新しいスタートスクリーンが表示されるが、そこからいったんデスクトップ環境にいくと、以降はスリープして復帰したときに表示されるのは、スリープ直前まで使っていたデスクトップだ。そして、それを繰り返す。だから、明示的にWindowsキーなどを叩かない限り、スタートスクリーンにお目にかかることはない。

 だから、せっかくのコンバーチブルなのに、液晶を裏に返してタブレットとして使うことがほとんどない始末だ。

 かといって、タッチ機能を持ったスクリーンに、いっさい手をふれないかというと、決してそんなことはない。いちばんよく使うのはスクロールだろうか。たとえば、ブラウザでページを開き、今までならタッチパッドを2本指でなぞったり、パッドの右端をこすったりすることでやっていたスクロール操作を、タッチでやるようになった。

 ぼくは、ブラウザを使うときは、最大化していることが多く、場合によってはファンクションキーのF11でフルスクリーン表示しているので、液晶の右端に親指を合わせ、残りの4本の指は液晶の裏側に回すようにしてつかみ、親指でスクロールするようなクセがついた。これは、片手でスマートフォンやタブレットを操作するときと同じだ。クラムシェル形状で使ってるときの液晶ディスプレイは、いろいろな工夫によって、人差し指だけで操作をしても、ちょっとやそっとでは液晶がぐらつかないようになってはいるが、心理的になんとなく不安になってしまうのだ。

 スクロールについては、ブラウザに限らず、Wordなどのエディタでも重宝する。ただ、困ったことに @syohei で常用しているTwitterクライアントJanetterが、クライアント領域のタッチ操作でスクロールしてくれない。スクロールバーに狙いを定めてタッチ操作しなければならず、普通にフリックしてスクロールさせることができないのだ。Tweet部分をフリックすると、文字の選択になってしまう。これは、ぜひとも対応してほしいところだ。

 次によく使うのは、ブラウザでのズーム操作だろうか。こちらはピンチ操作をすることが多いが、液晶の左上をつかんで親指をページのどこかに固定し、右手の親指でズームするといった使い方をすることもある。また、この連載のページのように、複数のカラムに分割されてコンテンツが表示されるようなページでは、真ん中部分をダブルタップして拡大表示させることも多い。ただ、そのときもなぜか親指を使う。ぼくは、どうも、人差し指で狙いを定めるのが苦手なようだ。だからこそ、液晶のどこかを他の指で支え、空いている親指で操作をするのだと思う。

●上部に配したタスクバーのタッチしやすさ

 一般的なデスクトップアプリケーションでは、メニューの操作やツールバーボタンの操作をしたいことがたくさんある。これらの操作はたいてい従来通りタッチパッドを使い、ポインタをこれらのオブジェクトに合わせる。

 その一方で、ウィンドウを閉じる操作はウィンドウ右上の×を使うことが多くなった。また、最大化のときは、タイトルバーをダブルタップすればいいので、これについてもタッチですませることが多くなった。

 さらに、もっとも頻繁にタッチを使うのは、タスクバー上のタスクバーボタンの操作だ。こちらは、ある程度の大きさが担保されていることも理由の1つだ。それに、複数のウィンドウが開いているときのタスクバーボタンは、タップすると個々のウィンドウのサムネールが表示される。このサムネールはタッチするのに十分な面積があるので、操作しやすい。そもそもぼくは、Windowsデスクトップでは、タスクバーをスクリーン上部に置いている。だから、これまたつい親指で操作してしまうのだ。

 タスクバーについては、通知領域のアイコン操作もできればタッチで操作したいところだが、いくらなんでもこれは難しい。通知アイコンのサイズが小さすぎるからだ。だから、こちらは相変わらずタッチパッド操作を強いられる。

●対応が進む外付けHID、アプリもこれから

 Windows 8では、スクリーン右側からのスライドインによるチャーム表示、左側からのスライドインによるタスク切り替えがサポートされるようになった。これは、クラッシックデスクトップでも同様だ。だからこそ、スクリーンの周りには額縁があるし、それはスクリーン面とツライチになっている。ただ、普通にデスクトップ環境で作業を続けている限り、この操作はほとんどすることがない。新しいUI用のアプリを頻繁に利用するようになれば話は別だろうが、当分の間はあまり必要としないというのが実情だ。

 PCのベンダーによっては、タッチパッドにも、このスライドインの操作体系を取り入れ、同じようにチャームの表示やタスク切り替えができるようにしているところも多い。また、ロジクールやMicrosoftも、タッチパッドのドライバで、この操作をサポートするようになっている。でも、操作の一貫性という点では疑問も残る。これは、強引といわれようとも、Windows 8として、標準的なタッチパッド操作を規定すべきだったのではないだろうか。

 逆に、スクリーンのタッチに頼らない操作もある。それは複数オブジェクトのドラグ&ドロップだ。特に、タブレット形状のときには絶対にしない。なぜなら、ドラッグ途中で気が変わったときに、それをキャンセルする方法がないからだ。キーボードがあればESCキーを叩けばいいのだが、タブレット時にはそれもできない。さらには、アンドウのためのショートカットも使えない。これは不便だ。

 そんなわけで、Windows 8がハイブリッドなOSであるように、操作についてもパッドとスクリーンのタッチをハイブリッドで使っている。

 でも、こうして多くのユーザーがハイブリッドにWindowsを使っていくことで、今後はデスクトップアプリにもタッチ操作を配慮した変化が出てくるだろう。Office 2013のプレビュー版を見ていたりしても、その傾向が見て取れる。これからが楽しみなのは、新しいUIだけではないということだ。