山田祥平のRe:config.sys

明日になったらおしおき、だぞっ

 ノートPCを開き、スリープから復帰させて認証すれば、もうインターネットに繋がっている。UQコミュニケーションズのWiMAXと、そのモジュール内蔵PCによって、そんな夢のような環境が手に入るようになったのが2009年のこと。Windows 7が発売された年だ。あれから7年が経過し、WiMAXを取り巻く状況は大きく変化した。来年(2017年)2月からの速度制限緩和施策を発表し、WiMAXリターンズという印象も強い朗報もある。

速度制限の憂鬱

 先日、深センに出張した際、来年3月末までのドコモのキャンペーンで「海外1dayパケ」が無制限利用できるということだったので、980円(免税)/24時間でこのサービスを試してみた。

 別途、維持している「中国移動香港の4G/3G 中国・香港10日間1.5GBデータプリペイドSIM」は1日あたり48香港ドル(約750円)で無制限利用ができるし、香港キャリアのローミング扱いだから、中国国内においてもTwitterやFacebookなどのアクセス制限がなく使いやすいので重宝しているが、日本のキャリアのローミングも、980円/24時間で使い放題ならかなりリーズナブルな価格だと言える。

 その使い放題を試したが、2泊3日の約36時間の滞在で約12GBを使ったようだ。ノートPC 2台を携行し、ずっとスマートフォンのテザリングでインターネットに接続していたのだが、たまたまWindows 10のInsider Previewの更新日にぶつかり、2台ともにアップデートをしたことで、データ量がかさんでしまった。これは極端な例で、日常的に使っている分には、まずそんなに多くのトラフィックは発生しない。それでも上限がないというのは精神衛生上すごく安心だ。

 WiMAXのかつての魅力は、なんと言ってもデータ量が無制限だというところにあった。ところが、昨年(2015年)、WiMAX2+のサービス開始とほぼ同時期に、速度制限の施策が発表され、3日間で3GBを超えると翌日の13時頃から約24時間の間、速度制限が実施されるようになった。使い放題がWiMAXの魅力の1つだったが、それがそうでもなくなっていたのだ。

 ところが、今回、来年2月から、3日間で10GBを超えると翌日の夜18時頃から翌朝2時頃までの約8時間を速度制限と、大幅な制限緩和が発表された。「おしおきは翌日」というのがミソだ。大量のデータトラフィックを起こしてしまったとしても、翌日の夜までは速度制限はない。だから、大量のトラフィックを要する用事に影響はないとも言える。次の日の夜だけ我慢すればいいのだから。

SIMロックと端末ロック

 UQコミュニケーションズによれば、ごく一部、数%のユーザーがデータ量を多く使っていて、それに合わせて設備を確保すると、現在4,380円の料金水準を維持することができなくなってしまうという。ネットワーク利用上の公平性を確保するために、その一部のユーザーのトラフィックを抑制しようというのが今回の施策だ。

 これまでの制限では、一般のユーザーがカジュアルに大量のトラフィックを発生させてしまった場合にも影響があったが、今回の施策を見る限りは、毎晩大量にデータを消費する数%のユーザー以外にはあまり影響がなくなる可能性が高い。ユーザーによっては使い放題のWiMAXが戻ってきたという実感を持つ方もいるかもしれない。やっぱりWiMAXはこうでなくっちゃといった印象だ。

 毎晩大量のトラフィックを発生させるし、それを回避できないという事情があるなら、WiMAXを2回線契約して毎日交換して使えばいい。そうすれば制限が影響することはない。倍額払えば無制限ということだ。もっとも、総額を考えると光などの固定回線を契約した方が安上がりだから微妙な話ではある。

 いずれにしても、ごく普通のユーザーにとっては事実上の速度制限撤廃と考えていいんじゃないだろうか。

 実は、ぼく自身、今、UQ WiMAXの契約はやめてしまっている。代わりにというわけではないが、UQ Mobileに加入したからだ。日常的に持ち歩く複数のスマートデバイスに加えて、もう1台モバイルルーターが加わるというスタイルがどうしてもうっとおしくなったというのも大きな理由だ。とにかくカバンの中に入れっぱなしで操作することがないデバイスを毎日充電しなければならないというのが億劫になってしまった。

 それに最近は、スマートデバイス自体がSIMスロットを持ち、そこにSIMを装着することで、データ通信ができるようになりつつある。スマートフォンやタブレットはもちろん、PCだって例外ではない。

 WiMAX2+はブランド名であり、実際には、TD-LTEという方式でBand41を使う国際標準のサービスだ。B41対応のスマートデバイスもずいぶん充実してきた。例えばiPhone 7がそうだし、手持ちのデバイスでは、SamsungのGalaxy S7 edge、モトローラのMoto Z、HPのElite x3がそうだし、Huaweiの新製品 Mate 9も対応している。

 一方、WiMAXはSIMを使ったサービスだから、UQコミュニケーションズが提供するモバイルルータにはSIMスロットが装備され、そこに同社から発行されたSIMを装着することで利用できるようになる。

 ハードウェアとしての端末のSIMロック解除義務化については総務省の意向もあって、いい方向に進んでいる。ところが、WiMAXのSIMをこれらのSIMロックが解除されたTD-LTE対応端末に装着しても通信はできない。言ってみれば、端末がSIMを選ばないのに、SIMが端末を選ぶのだ。例え、同じUQコミュニケーションズが提供するUQ Mobileが販売する端末であっても扱いは同じで、WiMAXのSIMは使えない。

 直近では、FREETELが同社製ルータ「ARIA 2」が発表当初WiMAX2+対応をアピールしていたが、現在では「UQ WiMAXおよび提携MVNOで契約のSIMカードは、IMEIによる制限があるため利用できません」と但し書きがされるようになるという話題もある。

DSDS時代に向けて

 なぜWiMAXがここまで頑なに他社端末を拒むのか。その理由は定かではない。ただ、WiMAX2+は、auのネットワークの一部としても機能していて、あちらはあちらで別の料金体系で提供されている。UQ Mobileも同様だ。そことのバランスを考えると、SIMロックを解除すれば、どんな端末でもTD-LTE B41にさえ対応していれば使える、というようには踏み切れないということなのだろうか。

 最近は、DSDSもトレンドだ。2枚のSIMを装着し、デュアルSIM/デュアルスタンバイで通信ができる。DSDS対応端末に大手キャリアの音声SIMとWiMAXのSIMを装着すれば、データ通信はほぼ無制限で、通話は安心の大手キャリアネットワークという環境を1台の端末で実現できる。だが、その夢は、今のところかなわない。

 WiMAXが取り戻した「ほぼ無制限」という施策は素直に手放しで歓迎したい。だが、さらなる願いは端末ロックの撤廃だ。UQコミュニケーションズには、ぜひ、前向きに検討していただきたいと思う。