山田祥平のRe:config.sys
軽さは恥だが役に立つ
2016年12月30日 06:00
スマートフォンは絶対にPCの代わりにはならないし、逆にPCもスマートフォンの代わりにはならない。でも、双方で重なる部分は多い。だからこそ、互いの良いところをうまく使い、補いながら役に立たせることが重要だ。
スマートフォンと外部キーボード
今年(2016年)ももうわずか。残っている仕事を進めつつ、今は年初のCES取材に向けて、取材用の装備をまとめている。
もちろん、スマートデバイスとして主戦力となるのはレッツノートのRZ5。790gのモバイルノートPCだが、もうこれなしの取材はありえないと思うくらいに信頼している。
だが、ラスベガスは広い。あのホテルからあのホテル、この会場からこの会場へと移動も多い。感覚的には東京の新宿から渋谷あたりまでを直線的にカバーするイメージだ。
さっきまで京王プラザの宴会場でプレスイベントに出席していたかと思えば、30分後には渋谷のセルリアンタワーに移動して別のイベントに参加しなければならない。東京のように公共交通機関が充実しているわけでもなく、とにかく歩く距離は長くなる。
そんなあわただしさだから、持ち運ぶ荷物はできるだけ軽い方が良い。場合によっては790gのレッツノートでさえ億劫だ。
そこで、今年(2016年)はスマートフォンと外部キーボードの組み合わせを試してみることにした。買ったままでそのままにしてあったMicrosoftのUniversal Foldable Keyboardとスマートフォンの組み合わせだ。
スマートフォンはNexus 6PかMoto Zのどちらかを使う。Verizonのネットワークを使うつもりなので重い方のNexusを選ぶことになりそうだ。その場合、キーボードとの合計は355gとなる。どうせスマートフォンはいつもポケットの中にあって、それはPCを携行している時も同様だ。だから790gのレッツノートでやっていたことの一部を、外部キーボードの重量約177gですませようというわけだ。それができれば500g以上の節約になる。
アプリの準備も万端に
やりたいことは長文のテキスト入力だ。それに尽きる。取材時のメモ、込み入った内容のメールへの長い返信といったことができさえすればいい。場合によっては原稿も書くかもしれないが頻度は低そうだ。
懸念はUniversal Foldable Keyboardが膝の上では使いにくい点だ。携帯時にコンパクトにするための真ん中で折れる構造が裏目に出てしまうのだ。だが、そこは裏にクレジットカードサイズの何かを敷くだけでずいぶん安定する。そのあたりで配布されているパンフレットなども役に立つかもしれない。ただ膝頭をピッタリと併せていないと不安定になるのにはちょっと閉口する。
さらにイス席のみの環境では、スマートフォンをどこに置くのかも問題になる。床に置いてしまうのがもっとも現実的だが、その場合は多少文字サイズを大きくする必要がありそうだ。あるいは、前のイスの背中に何らかの方法で固定することを考えるべきかもしれない。
こうした物理的な装備と同様に、ソフトウェア的な準備も必要だ。頼りにしているのはAquamarine Networksのエディタ「Jota+」だ。このエディタを選んだのは比較的キーアサインが自由になることと、文字サイズ、行間を設定できる点だ。個人的にはこのエディタに加えて、同じ開発元が配布している「Tweaked Keyboard Layout」を使ってAの左隣のCapsキーをCtrlキーと入れ替えている。
小さなスマートフォン画面だが5型以上あれば十分に実用になる。昔は8型程度の軽量タブレットが良いと思っていたが、スマートフォンがある程度大型化するようになって、それでも使い物になると感じるようになった。それに外付けキーボードで入力すればソフトウェアキーボードに画面の半分を占有されることもない。一画面に見えている文字数は、ぼくがJota+で設定している文字サイズと行間で200文字未満だが、それなりに実用になる。昔はペラと呼ばれる200字詰め原稿用紙に手書きしていたのだ。普通に文字を入力するだけなら、速度的にもPCを使っているのとそれほど変わらない。
書いている内容はスマートフォンのローカルストレージにテキストファイルとして保存する。Jota+は、GoogleドライブやOneDriveに直接ファイルを保存する機能もあるのだが、ほんの少しだが保存に時間がかかって、入力のテンポをさまたげる。
また、クラウドストレージにファイルを保存すると、どうしてもほかのデバイスでそのファイルを触ってしまい、排他制御的にやっかいなことになる可能性がある。だから保存はローカルだ。そして、イベント終了などのキリの良いところで、Google Keepに登録する。Jota+はダイレクトインテントの機能を持っているので、現在編集中の内容をそっくりそのままKeepアプリに渡すことができるのが良い。
キープしたメモは、ホテルの部屋に戻るなど、PCの使える環境に落ち着いたところで、OneNoteなどのほかのアプリに内容を転記し、後の参照に備える。
ぼくにとってのJota+は、あくまでもフロントエンドのエディタであって、完成形を作るためのものではない。それにもしキーアサインなどにこだわらなければ直接KeepやOneNoteで作業すれば良いだろう。その方がうまくクラウドを活用し、排他制御のことも気にしなくて良くなるはずだ。マルチデバイスでの作業はこのあたりの整合性を取るのがやっかいだ。
この原稿も、予行演習のためにこの環境を使って書いているが、おかしなこともたまに起こる。例えば時折、シフトキーが押されっぱなしの状態になったりする。別のキーボードで試すと、こうした問題を起こさないところを見ると、どうもハードウェア的な差異が影響しているのだろう。ここには目をつぶる必要がある。また、Universal Foldable Keyboardには変換キーがないので、IMEのオン/オフには半角/全角キーを使う必要がある。ホームポジションからはちょっと遠い。それでもほかのキーボードを使わないのは、抜群の可搬性からだ。
さらにぼくの愛用しているIMEのATOKだが、Windows用のATOKは、シフトキーを押しながらキーを押して大文字のアルファベットを入れると、その瞬間に英数モードに切り替わって日本語文中の欧文入力に便利なのだが、Android版にこの機能はない。細かいところだが、日常の入力環境との微妙な違いが効率を下げてしまう。
600gのダイエットで失うもの
レッツノートを持ち歩いていても、どうせスマートフォンはポケットの中で待機している。だから、外付けキーボードを追加して、レッツノートを持たない選択は、約600gをダイエットすることになる。そのことで失われるものは、実用的なサイズの画面、取材用カメラのメモリカードをすぐに読み込めるSDカードスロット、さまざまものが格納されていて好きな時に検索して参照できる広大なストレージといったところだろうか。ストレージについてはクラウドストレージを使っているので大きな問題ではない。それでもPCの方が便利で効率的なことは火を見るより明らかで、600gとの交換条件としてはすばらしい。だが、用途に限って言えばスマートフォンと外付けキーボードも捨てたもんじゃないということが分かる。
はっきり言って、この環境ではメモや原稿を書くといったところまでは対応できても、現場で写真を撮って、その中から必要なものをセレクトし、それぞれに説明を付けて送るといった作業までは対応できない。やろうと思えばできるだろうけど、したくないし、したとしても倍くらいの時間がかかるだろう。そのための手間を考えると、そこはPCを頼った方が良さそうだ。やはり、適材適所というものがあるのだ。
それに、ずっと画面を点けっぱなしにしていると、思った以上にバッテリの消費が速い。朝7時にホテルの部屋を出て夜遅くまで戻らないという1日では不安だ。スマートフォンはたまにポケットから取り出して使う分にはいいが、小1時間、ずっと使いっぱなしというのには向いていないようだ。かと言ってモバイルバッテリや充電器を別に持つというようなことでは、600gのアドバンテージが台なしになってしまう。インタビューや会見が続く日にはちょっと対応できそうにない。
そんなわけで、年初のCESは、この装備をちょっと試してみることにしたい。前半の極端に過酷なスケジュールでは難しそうだが、出張後半の会場めぐりなど、時間に多少の余裕が出てくる頃には、ジャケットのポケットに外付けキーボードを忍ばせて、少なくとも外見は手ぶらに見えるような出で立ちでの取材もできるかもしれない。
やはり軽さは正義だ、そして役に立つ。