笠原一輝のユビキタス情報局

WiMAX2+の新たな“3日で10GB制限”はユーザーのモバイル環境をどう変えるか?

 UQコミュニケーションズ株式会社はWiMAX2+サービスにおける速度制限の見直しに関する発表を行なった(別記事参照)。本記事では、こうしたUQコミュニケーションズによる制限見直しについての狙い、常時接続で使いたいユーザーへの影響を考えていきたい。

3日で10GBと8時間のみ制限は制限緩和、速度上限1Mbpsは制限強化

 UQコミュニケーションズは、これまで同社のデータ専用回線「WiMAX2+」で運用してきた3日間で3GB以上の速度制限のスキームを見直し、新しい方式を2017年の2月2日より導入する。そのポイントは、大きく言うと以下の3つになる。

  • (1) 3日で3GBから、3日で10GBに
  • (2) 制限時の速度はYouTubeでHD画質動画を視聴可能な水準から1Mbpsに減退
  • (3) 制限される時間は13時~翌日13時だったのが、18時から翌午前2時頃までに

 2015年の4月から順次導入が開始されたWiMAX2+の速度制限は、直近3日間でユーザーが利用したデータ量が3GBを超えた場合に、13時~翌日13時(つまりまる1日)まで通信速度が制限されるというものだった。2015年4月から順次開始された当初は、YouTubeの標準画質(360p)を見ることができる程度の速度とされていたが、利用者などの反発を受けて暫定的にYouTubeのHD画質(720p)を視聴できる程度の速度に緩和されていた。

 このYouTubeのHD画質が視聴できる速度ってどの位だよという話しだが、筆者は自分で契約しているWiMAX2+回線を使用し、3日間で10GB以上使って制限がかかっているであろうと思われる状態にしてspeedtest.netで計測してみたところ、何度やっても3.93Mbpsなど4Mbpsを下回る結果になった。

W03で3日間で10GBを超えるデータ通信を利用した状態でベンチマークを行なった
speedtest.netでの通信速度のベンチマーク結果。4Mbpsを上回ることはなかった

 ほかのユーザーに聞いてみても、3~4Mbpsになっているという人が多かったことを考えると、やはりこのあたりで制限がかかっていると考られるだろう。従って、実質的には以下のようになっているようだ。

従来の制限と新しい制限
2017年2月1日まで2017年2月2日以降
制限がかかるしきい値3日で3GB3日で10GB
制限時の上限速度4Mbps以下(筆者推定)1Mbps以下
制限がかかる時間終日18時~翌午前2時まで

 今回の改定では、まず制限がかかるしきい値が直近3日で3GBから、直近3日で10GBに緩和される。また、従来は13時~翌日13時までと終日制限がかかっていたのに対して、改訂後は18時~翌日の午前2時までは制限がかかるが、それ以外の時間は制限がかからないという形になる。なお、午前2時を過ぎてもセッションが切れなければ制限は継続される。このため、午前2時を過ぎて制限なく利用したい場合にはルーターの再起動などが必要になる。

 逆に言えば、その8時間以外の16時間(午前2時~18時)は直近3日間で10GBどころか100GBを使っていようが制限されない。この2点は緩和と考えていいだろう。

 それに対して、制限時の上限速度は明らかな制限強化ということになる。従来は“YouTubeのHD画質視聴可能な速度”という曖昧な言い方だったが、概ね3Mbps~4Mbps程度の制限がされていたことは既に説明した通り。これが概ね1Mbpsとなっているが、UQコミュニケーションズに確認したところ、この表現は最大速度が1Mbpsという意味とのこと。

 それでも、3大キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)で制限が入る場合は128kbpsなので、それに比べて10分の1程度の制限となるWiMAX2+は、動画を見ずにWebサイト巡回やメールを使う程度であれば十分使いものになる速度であることも付記しておく。

データ利用量が多い上位数%のユーザーが全体の1/3を使っているという現状

 そもそも、なぜ通信キャリアはこうした容量制限を設けなければいけないのだろうか? その最大の理由は、“土管ビジネス”と総称される通信ビジネス特有のインフラ整備の問題がある。

 インターネットの場合、クライアントの通信速度は、同じ通信回線に繋がっているクライアント全体で分け合うベストエフォートという形で実現されている。無線通信の場合には、1つの基地局に繋がっているクライアントの機器が、その基地局が実現可能な通信速度を分け合うという形になる。

 とはいえ、1つの基地局にあまりに多くの機器が接続されていたり、大量にデータ通信を行なうクライアントばかりが接続されていると、安定した通信環境を提供できない。例えば、午後8時~午前0時など、多くの会社員が帰宅してから通信を利用する時間にピークが発生したりする。通信キャリアとしては、そのピーク時に多大な通信が発生しても大丈夫なように通信インフラへの投資を行なっている。その投資を料金に反映させて、利用者全員で頭割りして通信料金を決定する。これが通信キャリアのビジネスモデルだ。

 ここで問題になってくるのが、そのピークとなる通信量がどのように分布しているかだ。UQコミュニケーションズによれば、現在同社の通信量全体のうち3分の1のデータ量が、上位数%のユーザーにより利用されているそうだ。かつ、特にデータ通信のピークは夜に集中しているという。つまり、現状としては上位数%の顧客のためだけに、通信インフラを追加するという状況だ。

 今後もそこが増えていくと、通信インフラへの投資が増加し、最終的には料金に跳ね返ることになるので、そこまでデータ通信を使っていないユーザーにとっては必要ない負担を強いることになってしまう。これが通信キャリアがデータ量の制限を行なう時の理屈ということになる。

WiMAX2+サービスの発展と制限の歴史
日付トピック最大速度(下り、理論値)速度制限制限がかかる条件制限がかかる時間帯
2013年10月31日WiMAX2+サービス開始110Mbps暫定的になし
2015年2月12日WiMAX2+の電波拡張開始220Mbps暫定的になし
2015年5月末WiMAX2+に速度制限導入を導入220MbpsYouTube動画(標準画質360p)が視聴可能な水準に制限直近3日間で3GB13時~13時
2015年7月批判を受けWiMAX2+に速度制限を緩和220MbpsYouTube動画(HD720p)が視聴可能な水準に制限直近3日間で3GB13時~13時
2016年12月4x4 MIMOとCAに対応したWX03が販売開始440MbpsYouTube動画(HD720p)が視聴可能な水準に制限直近3日間で3GB13時~13時
2017年2月2日以降速度制限見直し440Mbps概ね1Mbps3日間で10GB18時~2時

 UQコミュニケーションズは、2013年の10月末にWiMAX2+のサービスを開始した時には、データ量の制限を行なっていなかった(ただし、その時点で2015年の3月末までの措置だと説明されていた)。これは1つには、それ以前に同社が提供していたWiMAXサービスからの移行を促したかったという側面があったし、何よりまだWiMAX2+を利用しているユーザーが多くなかったためだと考えられる。

 そして2014年の11月に、予定通り2015年4月から通信量が多いユーザーに関しては制限がかけられることが発表された。その時の条件が直近3日間で3GBを超えるデータ量のユーザーはYouTube動画(標準画質360p)が視聴可能な水準に制限となっていた。

 しかしユーザーの反発が大きく、同社の表現を借りれば、この条件が“暫定的”に見直されて、直近3日間で3GBを超えた場合にはYouTube動画(HD720p)が視聴可能な水準に制限(概ね3Mbps~4Mbps)という条件に緩和されて今に至っている。

 それが今回の新しいスキームでは、3日間で10GBと使えるデータ量が増え、かつ制限がかかる時間が従来は24時間だったのが8時間(18時~翌2時)までと制限が緩和されている。その代わりに制限時の速度は1Mbpsへと制限が強化されている。

 その狙いは明白で、上位数%の大量のデータを使っているユーザーに対し、特に夜の時間帯だけを狙い撃ちして制限することで、ネットワーク全体の破綻を防ぎ、現状の価格を維持するということ。その代わりに午前2時から18時までの16時間に関しては上位数%のユーザーであっても制限なしで利用できるわけだ。

 この結果、データ通信がそれほど多くなく、3日で10GBには届かないユーザーにとっては事実上の制限なしへの移行になるし、データ通信量が3日で10GBを超えるユーザーに関しては、18時~午前2時までの時間には大量のデータのダウンロードは避ける必要があるが(Windows Updateをしないといった使い方)、それ以外の時間帯は制限なしとなる。なかなかよく考えられた制度だと言って良いのではないだろうか。

新しい制限見直しには、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが打ち出した新料金への対抗策という意味合いも

 UQコミュニケーションズがこうした戦略を採る背景には、今年(2016年)の夏頃から3大キャリアが、スマートフォンの料金プランで、20GB、30GBといった比較的大容量のデータ通信量の料金を大幅に引き下げてきたことへの対抗策とも考えられるだろう。

 3大キャリアのスマートフォンの料金は現在横並びで、定額制の音声通話、ISP料金、データ通信込みの料金が、20GBの場合は8,000円(税別)、30GBの場合は1万円(税別)という料金になっている。価格競争力の比較という意味では、下表のようになる。

3大キャリアの20GB/30GBの料金とUQモバイル+WiMAX2+の価格比較
通話+20GB(NTTドコモ)通話+30GB(NTTドコモ)UQ Mobile+UQ WiMAX
電話料金1,700円1,700円1,980円(1~13カ月)/2,980円(14~24カ月)
ISP料金300円300円-
データ6,000円8,000円4,380円
合計8,000円10,000円6,360円
24カ月合計192,000円240,000円163,640円

 WiMAX2+の場合、通話+2GBデータで1,980円(税別、最初の13カ月、14カ月目以降は2,980円、24カ月契約)という価格設定の、UQモバイルの音声回線をスマートフォン向けに契約したと考えても、月額6,360円となる。音声通信は必要ないと思えば、4,360円(税別)だ。

 MVNOで実用に耐えない128kbpsの速度制限がかかることを考えると、WiMAX2+の価格面でのメリットは今でもある。特に月に30GBを超えて使うことが多いユーザーであれば、WiMAX2+が有利である。

 ただ、20GBや30GBで十分なユーザーであれば、ユーザーが価格差と利便性を、どう考えるか次第だろう。例えば、どこでも使えるという接続性が優先だと思えば3大キャリアになる。UQコミュニケーションズのWiMAX2+は以前よりは改善しているが、それでも地下だったり、地方でも人口があまり多くないところなどにいくと接続できないということが少なくない。

 この場合、ユーザーは3大キャリアのスマートフォン回線にテザリングして回避できるが、そういう使い方をするのであれば、多少のコストの追加はあるがスマートフォンのテザリングだけ済ませたいと考えたくもなる。そこはユーザーが何を重視するか次第だ。

 筆者のようにモバイル回線が必要なのは日中に外出している時で、夜は自宅の固定回線を利用しているユーザーであれば、昼間ビジネスタイムにいくらデータ通信を行なっても速度制限はされないのだから、今回の見直しは事実上の制限撤廃にほかならない。夜に制限される場合にのみ、スマートフォンにテザリングして逃がすなどの措置を行なえばいい。

 逆に、一番影響を受けるのは、WiMAX2+を家での回線として利用しており、特に会社などから帰宅した夜に大量にデータ通信を行なっていたユーザーだ。残念ながら現時点の携帯電話回線の技術ではそうしたユーザーを救うのは難しく、もっとも抜本的な解決方法は固定回線を引くことである。

通信キャリアには引き続き本当の無制限の実現を、ユーザーは制約の中で常に見直しをしていく必要

 最後になるが、筆者としては、やはりキャリアには本当の意味での無制限通信の実現を目指して欲しいと思っている。以前の記事でも述べたが、本格的なクラウドコンピューティングの時代はもうそこまで来ており、ユーザーのデータはクラウドにあり、それをクラウドにあるアプリケーションで処理していく、そういう時代がまもなくやってくる。

 その時には、PCもインターネットに常時接続されているデバイスとして使えるようになっていく必要があり、WiMAX2+なり、3大キャリアのLTE回線といった高速で大容量のデータ通信ができる回線がPCにもあたり前の時代になるだろう。それでもなお、データ容量に制限があったりすれば、ユーザーは常に容量を意識しながら使わないといけない。それは未来の有るべき姿ではない。

 もちろん、そうは言っても、無線は有限の資源であり、闇雲に投資したからといって、効率が改善されて誰もが無制限で使えるようになるかと言えば、現状ではそういかないのも事実だ。そこは、現在ほかに割り当てられている帯域を通信に割り当てるなど、国家的な政策変更も必要になる。こればかりは通信キャリアだけの努力でどうにかなるものでもなく、ユーザーとしてはこれでは困ると国などに声を上げていくことが重要になってくる。

 現状では、さまざまな制約を考慮した上で、ユーザーが自分にあった回線を選ばないといけない段階にあり、ユーザーの側でも回線の選択を常に見直していくべきである。今回UQコミュニケーションズが行なった制限の見直しは、多くのWiMAX2+ユーザーにとってはWiMAX2+を選び続ける理由になるだろうし、月に30GBを超えるデータ通信を昼間に行なうユーザーであれば、WiMAX2+に乗り換える理由になり得るのではないだろうか。