トピック

AI性能強化が目立つが、CPUコアも強化されたインテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ2)。日本でも7メーカーの製品が一斉披露

~Intel 18Aプロセスノード採用の次期「Panther Lake」はテープアウト完了

 インテル株式会社は9月3日から4日にかけて、ビジネスパートナー向けイベント「Intel Connection 2024」を東京ミッドタウンで開催。「技術とビジネスをつなぎ、社会を前進させる」をテーマに、さまざまな分野の業種・業界の交流と新たなビジネスの創出を目的として実施するイベントだが、同タイミングにドイツで開催されたIFA 2024にて正式発表となったインテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ2)について、大きな注目が集まった。

 本稿では「インテルが牽引するAI PC」と「AI Everywhere, The New Chapter」という2つの基調講演を中心に、イベントの模様をお伝えする。

データセンターから個人所有のデバイスまで、すべての製品ラインナップをAI対応にする「AI Everywhere」

 インテル株式会社 代表取締役社長の大野誠氏は基調講演「インテルが牽引するAI PC」の開始に際して、イベントのテーマにもある「AI Everywhere」のビジョンを「ほとんどがデータセンターで処理されているAIワークロードを、エッジネットワークやパーソナルデバイスにも拡げること」と説明した。

 ここでいうパーソナルデバイスとは、AI PCのことを指す。インテルは、AI PC向けのNPU搭載CPUとして「インテルCore Ultraプロセッサー」を展開しており、前述の通り、このイベントの直前に第2世代にあたる「インテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ2)」の発表がドイツで行なわれた。

 大野社長によれば、2023年末に発売した「インテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ1)」は9月までに約2,000万個以上を出荷したという。インテルでは独立系ハードウェア/ソフトウェアベンダーと協力して製品開発を行なう「AI PC アクセラレーション・プログラム」を通じて、現在までに300以上のAI関連機能とソフトウェアを開発し、AI PCを取り巻くエコシステムの拡大を図っているとアピール。

 具体的には「現在、AIは急激な進歩を遂げていますが、未だ発展途上の存在です。期待が大きい一方で、課題も多い状況にあります。しかしそれゆえに、パートナーの皆様にとってチャンスがあり、私たちにとってもそのチャンスを拡げられる機会と考えています。AIが世界経済や社会に与えるインパクトは絶大です。そしてその範囲もすべての業種・業界と言って過言ではありません。インテルではAI PCの発展のため、今後も継続的に新製品を提供していく所存です」(同氏)とした。

インテル株式会社 代表取締役社長の大野誠氏
インテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ2)を手に持つ大野社長

3つのプロセッサを備えた「インテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ2)」はソフトウェア開発者の選択肢を拡張

 続いて登壇したインテル株式会社 執行役員マーケティング本部長の上野晶子氏は、直前にドイツで発表したインテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ2)を本イベント向けに改めて紹介するため、ドイツで現地取材を行なったテクニカルライターの笠原一輝氏とリモートで対談した。

 対談の中では、現地取材の様子としてハードウェア性能の比較デモや、Stable Diffusion 3を使った生成AIの処理速度について言及。ゲームプレイ時のフレームレートや消費電力の比較、8K動画エンコードや3Dレンダリングの模様を動画で伝えた。

 「今回、僕が現地取材を進める中で強く印象を受けたのは、(インテルCEOの)パット・ゲルシンガーさんが使う"Centrino Moment"という言葉でした。2003年にインテルからCentrinoが世に出たとき、Wi-Fiがいろんなところで使えるようになりましたよね。今回の発表にはあの頃にあった勢いが感じられましたし、これからAI PCが普及していくことを予感させるものでした」(笠原氏)。

インテル株式会社 執行役員マーケティング本部長の上野晶子氏
本誌でも活躍している笠原一輝氏もドイツからリモートで参加
ドイツでのデモの様子。インテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ2)でゲームをプレイした際のフレームレートを比較しているところ
シリーズ2では消費電力の効率化も図っている

 続いて、インテル株式会社 技術本部長 工学博士の安生健一朗氏と上野氏が、インテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ2)搭載AI PCを披露。Acer、ASUS、Dell、マウスコンピューター、MSI、サードウェーブ、ユニットコムの7メーカーの製品が紹介された。

 安生氏は、インテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ2)について、シリーズ1からの進化点にも言及し、特にシリーズ1と比較して、電力効率がCPUで2.29倍、GPUで2倍、スレッド当たりの性能が3倍、PCゲーム性能は30%向上したことに焦点を当てた。

 また産業向けベンチマーク「UL Procyon Office Productivity Benchmark」による計測結果として、ワット当たりの性能が最大2倍、バッテリ寿命は最大20時間伸長した点も強調している。

インテル株式会社 技術本部長 工学博士の安生健一朗氏
インテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ2)を搭載したAI PCを披露した
インテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ1)からの進化ポイント
特に電力効率については大きく伸長している

 「よく"AI PCってAIにしか使えないのですか?"と聞かれるのですが、もちろんそんなことはありません。さまざまな用途に対応できるPCとして正常進化させることが基本的な方針です。

 AI PCで重要なことの1つは、ソフトウェアデベロッパーさんがやりたいことを実現できるだけの柔軟性を提供できることです。インテルCore Ultraプロセッサーに搭載しているCPU/GPU/NPUの中から、電力を優先するならNPU、性能優先ならGPUを使うといった具合ですね。インテルCore Ultraプロセッサーは、複数の選択肢を提供しているので、さまざまなアプリケーションを実現できるフレームワークとして捉えることができます」(安生氏)。

 CPUのコア性能に関しては、「PCを使った生産性の軸」と位置づけており、インテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ2)ではPコアで電力効率の向上を図ったほか、Eコアについては「幅広い電力のダイナミックレンジを持ったアーキテクチャ」として再設計したという。

Pコアは電力効率を特に大きく向上。Eコアは低電力Eコアを統合
運用や用途に応じてAI処理に使うプロセッサの選択肢を提供する
インテルCore Ultra 9 288Vプロセッサーと他社製品のGeekbench比較
Stable Diffusion 3による推論時の比較

AIソフトウェア開発者を育てるコミュニティ「AI PC Garden」

 上野氏はAI PC普及のためにクリアすべき課題の1つに「アプリケーション不足」があったと振り返る。そこで、マーケティング主導の施策として、開発者向けコミュニティ「AI PC Garden」を始めたと話した。

 「AI PCというハードウェアが出そろったとしても、日本で使えるアプリケーションがほとんどない状態が続いていては、エンドユーザーがAI PCを十全に活かすことはできません。『ローカルでAI処理ができる』という便利で素晴らしい機能をエンドユーザーにお届けするにはどうしたらいいのか?と考えたとき、AI PC Gardenのコンセプトが生まれました」(上野氏)。

 上野氏はAI PC Gardenに込めた想いを「開発者の中にあるアイデアの種を育てて、たくさんの種類の花を咲かせること」と説明。エンドユーザーには咲いた花の中から好きなものを選んでほしいとし、それができる下地がなければ、AI PCというカテゴリは育っていかないのではないかと話した。

 3月に原宿で実施したAI PC Gardenのイベントでは、AI PCが普及した少し先の未来をイメージした展示を実施。ここでは「AI PCがどんな可能性を持ち、どのように育っていけるか」を表現している。

種を撒き、育て、エンドユーザーが収穫するイメージ
3月にAI PC Gardenイベントを原宿で開催した

 「かつてCentrinoを発表したとき、ハードウェアとあわせてWi-Fiを同時にプロモーションしました。これによってPCを積極的に外へ持ち出せることを伝えることができたのです。この時は、新しいハードウェアにもう1つ別の何かを結びつけて推進することで、"Centrino"というカテゴリが認知されました。AI PC Gardenはまだまだ小さなグループではありますが、AI PCでもそのような新しい可能性が見いだせるのではないかと考えています」(同氏)。

 AI開発者を支援する取り組みの1つとしては、5月に開催したアイデアソンを紹介。最優秀賞は教員向けにAI教育支援を行なう「教育機関向け課題解決支援AI」。VCの協力を受けながら実現に向けて取り組みを進めている。この日の分科会では、こうした取り組みから生まれた新しい国産AIアプリケーションも紹介された。

 上野氏は、「PCが活躍する場として最も大きな領域は企業なので、企業でどのようにAIを活用するかはとても重要な課題です。私たちにとって未来は予測するものではなく、作り上げるもの。AI PCは最初の一歩を踏み出したばかりで、先を予測して手を打つにも限界があるはずです。

 それよりは、ここにいる皆さん全員でAI PCの未来を作り出していきたい。ここから何ができるようになるのか?人々の生活がどれだけ変わって、どれだけ豊かになれるのか?その先を一緒に見たいと思っています」とした。

AI PCのパートナー各社
分科会で実際にLunar Lake搭載のAI PCで生成AIを試すデモ動画を公開した。写真ではGIMPでStable Diffusionによる画像生成を行なっている
いくつかのベンダーを招いて、アプリの生成AI機能を紹介している。写真はCyberLinkの商品画像/テンプレートデザインアプリ「Promeo」でプロンプトを入力して画像生成しているところ

エッジの重要性が増大するAIワークロードの現状

 基調講演「AI Everywhere, The New Chapter」では、インテルコーポレーションセールス&マーケティング・コミュニケーション統括本部アジア・パシフィック日本地域本部長のハンス・チュアン氏が登壇。インテルの半導体戦略と微細化技術開発の進捗について報告した。

 半導体戦略としては、オープンなエコシステムの推進を挙げている。PCやデータセンター向けのハードウェア/ソフトウェアを含む、すべての製品ラインナップをAIのワークロードに対応させることで、1企業や単一のアーキテクチャに縛られることなく、多様なニーズに合わせた開発が可能になる柔軟性を提供していくことが重要であると強調した。

 また、エッジの重要性も増しており、2026年までにAI処理が占めるエッジコンピューティングのワークロードは50%に達すると予想。PCにおいてもAIワークロードの需要が高まる中、OEM各社による協力のもと、すでに次世代AI PCの共同開発を進めているという。

 なお、エッジでのワークロード需要を引き上げている要因としては、インフラの構築/維持費用と処理時間の増大、およびセキュリティの縛りが問題になっている。具体的には、エッジで生成したデータをクラウドに戻して処理するにはその仕組みを構築/維持するために費用がかさむ点、データをクラウドに戻すまでに時間がかかりすぎる点、企業の機密データを外に出せない規制の存在が、エッジでのAIワークロード需要を増大させているとした。

インテルコーポレーション セールス&マーケティング・コミュニケーション統括本部アジア・パシフィック日本地域本部長のハンス・チュアン氏
AIの研究開発と運用に際して生まれる課題
あらゆる環境でAIを利用可能にするエコシステムをAI Everywhereとして打ち出す
クラウドだけでなく、クライアントやエッジのデバイスにもAIを統合する

 微細化技術については、主に「Intel 18A」プロセスの進捗状況を報告した。ここではファウンドリーの顧客に対しても技術提供を行なうことを念頭に、3つのマイルストーンを示している。

 第1のマイルストーンとして、PC向けIntel 18Aプロセスノードの「Panther Lake」とサーバー向けの「Clearwater Forest」はテープアウト(回路設計が完了)し、現在は検証サイクルでWindowsとLinuxのシステムで動作が確認できた状況だという。

 第2のマイルストーンは、7月にPDK(Process Design Kit) 1.0をリリースしたこと。これによって顧客企業はEDA(電子設計自動化)とIP(設計資産)をアップデートし、最終製品の設計が開始できるようになる。

 第3のマイルストーンは2025年前半に達成する見込み。ファウンダリ顧客に対する18Aテープアウトを予定している。

 「私たちは2025年に半導体のプロセス技術においてグローバルのリーダーシップを取り戻すため、4年間で5つのプロセスノードを実現する計画を進めています。また、外部顧客にプロセス/パッケージングを提供するファウンドリサービスの強化も図っており、どちらも現在のところは予定通り進捗しております」(チュアン氏)。

Intel 18Aプロセスはロードマップ通り進捗
2025年以降にはIntel 14Aプロセスノードの投入を予定している

企業による生成AI活用では固有データとLLMの組み合わせで高精度化が進む

 今回のイベントにおいてインテルは、基調講演や分科会でオープンなエコシステムの推進を行なうと繰り返し述べている。大野社長は基調講演の中で、企業におけるAI活用の機運は日本においても引き続き高まっており、実際に多くの業種で導入が進んでいることを踏まえて、企業向け生成AI市場が進む今後の展望について発言した。

 「これまで企業内データの多くは"ダークデータ"であり、その活用も堅牢なデータセンターの中で処理されてきました。その一方で、生成AIのような大型AIモデルの学習環境は日進月歩の進化を遂げながら、クラウド環境でAIアクセラレータなどによる演算処理を行なっています。

 最近ではRAG(検索拡張生成)のような手法を用いることで、AIモデルと企業内データの両方を活用できるようになり、より間違いの少ない、精度の高いAIを実現する流れに向かっています」(大野社長)。

 こうした潮流から、企業による生成AI支出は2027年までに22兆円規模に達するというIDCの予測を引用。オープンエコシステムの推進によって、多くのユーザーが持つ多様なニーズに合わせた柔軟性を提供していくことが重要だと話した。ここでは、AIアクセラレータ「Gaudi」シリーズの導入事例として、富士通とNTTデータの例を紹介している。

 基調講演ではこのほか、今後生成AIが産業界に及ぼす経済的な影響、半導体の研究開発で直面している技術面/コスト面での課題、半導体後工程自動化・標準化技術研究組合(SATAS)の取り組み、東京のスマートシティ化、HPCと科学技術研究における生成AIの利用などさまざまなテーマについても議論された。

企業固有のデータとAIモデルを組み合わせて補完するRAGによって、精度の高いデータが利用可能になっていく
インテルのプロセッサ展示
メザニンカードの「Gaudi 3」実物が展示された
背面
富士通とCohereのAIサービス「Kozuchi」や「Takane」が紹介された
日本語の処理に長けたNTTデータのLLM「tsuzumi」
AI Everywhereを軸にさまざまなテーマの分科会を実施
半導体の製造技術とコストのそれぞれが抱える課題の現状
開発ができてもスケールしない「ギャップ2」問題によって半導体製造にかかわる企業がふるい落とされている
半導体後工程自動化・標準化技術研究組合(SATAS)
SATASの中でインテルの取り組みを紹介する鈴木国正会長
AIとデータによって未来の都市計画を行なうスマートシティ論
スパコンとAIを科学技術研究に活かす取り組みの事例を紹介
展示会場にはインテルのパートナー企業が出展
各メーカーのAI PCを展示した
事業者向けのソリューション展示が中心だった
2023年にASUSがインテルから引き継いだNUCの展示