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なぜMSIのノートは“強い”のか?性能・静音重視モデルなど、その人気のワケに迫る
~日本法人社長のRicky Chiang氏にインタビュー
- 提供:
- エムエスアイコンピュータージャパン株式会社
2024年8月23日 06:30
2024年はMSIがノートPCの生産を開始してから20周年となった。秋葉原では歴代モデルを展示するイベントを開催し、20周年記念限定パッケージモデルの発売、セールを実施するなど、記念イヤーを盛り上げる活動を積極的に行なっている。
現在ではゲーミング、ビジネス、クリエイター、ポータブルと幅広いモデルを展開しているMSIのノートPCだが、国内展開当初はさまざまな苦労もあったという。そこからどのようにして事業を拡大したのか、そしてこの先どこを目指すのか。エムエスアイコンピュータージャパン株式会社 代表取締役社長のRicky Chiangにお話を伺った。
2004年に始まったMSIノートPCの歴史
――MSIの過去20年間のあゆみについて教えてください。
Ricky Chiang氏(以下、敬称略) 1986年、MSIはマザーボードやビデオカードといった主要なPCパーツを製造するメーカーとしてスタートしました。品質が最も重要な要素であると考え、製品の構想・設計・開発から製造の最終段階まで、すべて一貫して自社で行なうこと、これがMSIが市場で支持を得た最初の理由であると考えています。
そして、2004年にノートPCの生産を開始しました。後年軸足を置くことになるゲーミング分野に参入する前から、技術者たちによる専門的な知識のバックアップもあり、MSIはすでに「GX600」、「Wind U100」、「X340」といったいくつかの特徴的なノートPCを発売できていました。
しかし、2009年にMSIノートPCにとって最も困難な出来事が起きます。タブレットやスマートフォンの急速な普及により人々の生活習慣が変化し、また、金融危機に端を発する市場での激しい価格競争により、MSIは厳しい状況に置かれました。
このとき、MSIはゲーミングノートPCに軸足を移す方向へ舵を切ります。当時ではかなり大胆な方針転換でしたが、それが功を奏し、多くのカジュアルゲーマーやプロゲーマー、eスポーツプレイヤーからの支持を得られました。加えて、彼らから得られたフィードバックを積極的に開発に取り入れ、性能だけでなく、ゲーマー向けの機能を多数実装した、まさにゲーミングの名に相応しいノートPCを開発していきました。
また、コロナ禍を抜けた2023年には消費者の活動が再び屋外へ戻っていったため、それまでテレワークなどの需要により活況だったノートPC市場の売り上げは急速に減少していきます。世界のノートPC市場は前年比成長率はマイナスでしたが、MSIは市場への調査・分析、徹底した生産および在庫管理、さらには柔軟な販売戦略が功を奏し、市場の傾向に逆行してさらなる飛躍を遂げられました。
近年では、Mercedes-AMG Motorsportと提携することで販売範囲を拡大し、これまでとは異なるマーケットのお客様にMSIを認知いただけたと思っています。
ノートPCの新たな価値を生み出した「ゲーミングノート」への取り組み
――MSIはなぜ数あるノートPC市場の中で「ゲーミング」分野を選び、どのように成功をおさめたのでしょうか。
Ricky Chiang 当初MSIは価格競争ではなく、「価値」の提供によるシェアの獲得を考えていました。そこで、注目したのがゲーミングの分野です。しかし、当時ゲーミングは私たちにとって未知の領域であり、進出にはさまざまな課題がありました。
たとえば、「ゲーミングPC」と言えばデスクトップタイプのみを指し、「ゲーミングノートPC」という概念がまず存在しませんでした。また、ハードウェアパフォーマンスの面で、ノートPCがゲームのパフォーマンスの要求を満たせるとは考えられていなかったこともあります。このため、周囲からもゲーミング分野への参入には疑問の声があがっていました。
こうした状況で「ゲーミングノートPC」という、市場にとって新しい価値を提供するために、次のようなことに取り組みました。
まず、ゲーマーにとって優れた価値ある製品を設計するには、ゲーマーのニーズを理解することが重要であると考え、製品デザインからマーケティングに至るまで、プロプレイヤー、ストリーマー、キャスター、メディアなどに所属するさまざまなゲーマーに開発チームへ参加してもらいました。
さらに、新しいアプリケーションをノートPCに搭載するために、プロゲーマーから幅広いフィードバックを収集しました。このときのフィードバックから得られた、現在まで生かされている重要な視座があります。ゲーミングノートPCには強力なパフォーマンスだけでなく、総合的な体験の実現も必要であるということです。
つまり、サウンド、ビジュアル、コントロール、ネットワーキングなどの機能を充実させること。MSIは、ゲーミングノートPCにこれらの機能を搭載または強化してきました。すべては、ゲーマーがゲームの世界を満喫し、素晴らしい体験をできるようにするためです。
さらに、ハードウェアパフォーマンスにおいては、品質の高いパーツ(メモリやSSD、チップなど)の採用による性能の向上を図る一方で、スペックに忠実に性能を発揮できるように、実際のパフォーマンスとその安定性を高めることに注力しました。
たとえば、MSI独自の冷却テクノロジは、同じGeForce RTX 4060 Laptop GPUを搭載しているノートPCでも、GPUがサーマルスロットリングを起こすことなく安定したパフォーマンスを発揮させ、実際の使用においてもスペックにより近い水準の性能を実現できます。
これらの取り組みが実を結び、2015年には世界のゲーミングノートPC市場の19%のシェアを獲得し、当該市場でトップクラスのシェアを持つブランドへ成長しました。
ユーザー重視で将来のトレンドを見据えた製品開発
――製品開発について教えてください。
Ricky Chiang 先ほどもお話しましたが、MSIはユーザーのフィードバックを非常に重視しています。当社の製品機能の多くは、現在のユーザーのニーズに対応したり、既存の顧客体験を改善したりするように設計されているからです。
もう1つの重要な側面は、市場のトレンドを少なくとも3〜5年前に予測すること。ご購入いただいたノートPCは数年間は使用されることを想定して、現在のテクノロジだけでなく、お客様に最新のテクノロジをお使いいただけるようにしています。
また、デザインも同様に重要視しています。抽象的に聞こえるかもしれませんが、私たちのデザインチームは、色のトレンドを特定するために、近年の世界的な出来事を研究しています。パートナー企業様と協力して、製品に求められる色や表面の質感を作り上げるのに、かなりの時間をかけています。
さらに、CPUやGPUなどの主要なコンポーネントが新しくリリースされるたびに、これらを搭載した新製品を早期に市場へ投入できるように、研究開発、生産スケジュールの調整、在庫管理などのあらゆるリソースを活用して尽力しています。
――ブランドの成長に何が重要だと考えていますか。
Ricky Chiang 私たちはMSIというブランドと、その製品開発において品質とイノベーションを重視しています。特にブランドを成長させようとする場合、これらは不可欠な要素だと考えています。もちろん、製品開発における強力な技術力という基盤が必要です。また、詳細を申し上げると品質を重視しているのは、耐久性のテスト期間を長くするなど、品質向上により適切な管理を実現するためです。高い品質は必ず顧客満足につながると信じています。
イノベーションを重視しているのは、消費者のニーズの満足や課題の解決において、最も適したアイデアやソリューションを発想し、それを迅速に実用的な製品機能として実装させるためです。そして、製品の構想から開発、ソフトウェアおよびハードウェアの設計、さらには生産に至るまで、すべて一貫して自社で行なっているMSIならではの背景的な強みが結実したことで、今日の私たちのブランドがあると考えています。
Mercedes-AMGとのコラボゲーミングPCなども展開
――これまでで最も思い出に残っているノートPCを教えてください。
Ricky Chiang 印象に残っている製品はたくさんありますが、近年では、Mercedes-AMGとコラボレーションした「Stealth 16 Mercedes-AMG Motorsport」が特に思い出深いです。
弊社とMercedes-AMGとは長期的なパートナーシップを結んでおり、私たちの活動は、コラボレーションモデルのノートPCだけに留まらず、多岐にわたっています。たとえば、Mercedes-AMG esportsチームには、MSI製品をお使いいただいており、安定したパワフルな性能は、レースシミュレーションのエクスペリエンスの向上などの活動に貢献しています。
また、今夏発売予定のシリーズ最新モデルである「Stealth 18 Mercedes-AMG Motorsport」は、「Titan 18 HX A14V」で世界初搭載した18インチ4K+ Mini LED 120Hzディスプレイを採用したノートPCであり、圧倒的な映像美を実現しています。
もう1つのモデルは、Raider GEシリーズです。Titanシリーズが復活するまで長らくMSIゲーミングノートPCのフラグシップモデルとして展開してきました。最上位CPU/GPUとハイスペックディスプレイを搭載したシリーズであり、ゲーミングデスクトップPCレベルの性能と機能をノートPCで実現してくれる製品だったためとても気に入っています。また、Raider GEシリーズの性能はそのまま、機能を厳選して価格を抑えたVectorシリーズも個人的に気に入っています。
――Raider GEシリーズについて、最上位のCPU/GPUを搭載する上での苦労を教えてください。
Ricky Chiang Raider GEシリーズではデスクトップPC向けCPUをノートPC向けに最適化したCPUに加え、最大消費電力が175Wに達するGPUを搭載しています。非常に高性能なCPUとGPUをノートPCに詰め込むためにはしっかりとしたクーラーを搭載している必要があります。
GeForce RTX 40シリーズLaptop GPU搭載モデルからクーラーの設計を見直し、専用ヒートパイプとシェアヒートパイプを組み合わせたハイブリッド型ヒートパイプを採用したノートPC内蔵強冷クーラーを開発しました。これにより、従来よりも冷却効率を向上させることができ、より高性能になったCPUとGPUの性能を最大限発揮させつつ、長時間の安定動作を実現できるようにしました。
クーラーの開発はMSIが特に注力している部分ですが、苦労しているところでもあります。多数あるシリーズに対してそれぞれ最適化したデザインのクーラーを設計するのはとても大変です。
――特にACアダプタという電源の出力が制限される点は、設計的に難しいと思いますが、どのように解決しているのでしょう。
Ricky Chiang 採用するCPUやGPUの種類、消費電力の組み合わせを各シリーズのデザインやコンセプトを考慮して選んでいます。ウルトラハイエンド級のRaider GEシリーズであれば、CPUはノートPC向けのCore i9 HXシリーズ、GPUは最大消費電力を175WにしたGeForce RTX 4080/4090 Laptop GPUを採用しています。
Katanaシリーズはより多くのeスポーツゲーマーにお届けできるよう性能・機能・価格のバランスを最大限考慮した製品となっており、CPUはCore Hシリーズ、GPUは最大消費電力を105WにしたGeForce RTX 4060/4070 Laptop GPUを搭載しています。この組み合わせにすることでノートPC本体やACアダプタが大きくなりすぎることを防ぎ、ウルトラハイエンドモデルよりも価格を抑えることで手にしやすく、扱いやすい製品になることを目指して開発しています。
ゲーム以外でも活用されるようになったゲーミングノート
――最近のゲーミングノートはスマートなデザインが増えています。ゲーム以外の用途で使われることが増えたからでしょうか。
Ricky Chiang おかげさまでゲーミングノートPCを手にしていただいているお客様の層は年々広がっています。ゲーマーの方々だけでなく、ゲーム開発や3Dデザイン、設計を行なうクリエイター、将来のクリエイターを目指す学生、より高性能なノートPCを必要とするビジネスユーザーなど10年前では考えられないほど客層が広がっています。
そうなってくると、必ずしもゲーミングノートPCに「ゲーミングPCっぽさ」が必要ではないと考えられます。目立つRGBライティング機能や派手なデザインはゲーマーの方には好まれますが、制作現場・教育現場・ビジネスシーンではあまり好まれない傾向にあります。
そのため、より幅広いお客様にお届けする製品のデザインは持ち運びやすさや機能性を重視したよりスマートなデザインにし、ハイエンドゲーマーが求めるウルトラハイエンドクラスの製品は見た目だけでもゲーミングノートPCとすぐ分かるようなデザインにして差別化しています。
――最新のゲーミングノートでは冷却力に加えて静音性にも進化を感じています。実際に開発で静音性には力を入れているのでしょうか。
Ricky Chiang ここは先ほどお伝えした、各シリーズのデザインやコンセプトに合わせて搭載するCPU・GPUを選ぶというポイントが大きく関わっています。CPUとGPUの性能が上がるほど消費電力が大きくなり、その分発熱量も増えるため、より大型で強力なクーラーを搭載する必要があります。
逆に、性能と消費電力のバランスを考慮することが静音性の高い製品の開発にもつながっています。CyborgやThinシリーズでは、CPUやGPUの最高性能よりも本体の薄さ・軽さ・持ち運びやすさを重視した製品のため、GPUの最大消費電力は低めに設定されています。それでもカジュアルゲーマー向けには十分な性能を得られることに加え、消費電力が少なく、発熱量も上位モデルよりも抑えられているため、大規模なクーラーを必要とせず、多くの利用シーンで静音動作を可能にしています。
Katanaシリーズはハイスペックモデルながら、TitanやVectorシリーズよりも性能を抑えることで性能・価格のバランスに加え、多くの利用シーンで比較的低い動作音で使用可能になっています。
ユーザーのニーズを理解し、それを満たす製品をつくり続けていく
――今後20年、あるいはそれ以降を見据えて、MSIはどのような新たな計画や目標を持っていますか
Ricky Chiang 今年はMSIノートPCの20周年という重要な年となりました。2024年の6月から、各国でこの20周年という節目に一連のプロモーションや特別な20周年記念商品の販売を開始しております。過去20年間のMSIノートPCの主要なマイルストーンを紹介する特別展示会も開催されています(日本では7月26日~27日に東京・秋葉原で開催)。
20年の歴史を通じて、MSIは3つの中核となる価値観を育み守り続けてきました。
1つ目の価値観は「Luxurious Aesthetics」です。Luxurious Aestheticsは製品そのもののフォルムやデザインの美しさを追及することを指しています。
この価値観には、弊社がノートPCを単なるコンピューティングデバイスという製品カテゴリを超えて、消費者の皆さまの「所有したい」という感情を揺さぶるようなデザインが吹き込まれた製品をお届けするという意識が込められています。このことは、ファッションデザイナーの藤原ヒロシ氏や、高級車ブランドのMercedes-AMG Motorsportなどのブランドとのコラボレーションにより、彼らのユニークな要素をノートPCのデザインに溶け込まさせ、従来とは異なるファッショナブルな製品を世に送り出すことで体現できました。
このLuxurious Aestheticsという価値観には顧客体験の向上に対する美学的追求の意味も含まれています。たとえば、当社のポータブルゲーミングPC「Claw」は、人間工学に基づいた最適なグリップ感を生み出すために、数万回のシミュレーションと試行を費やしました。また、ユーザーが長時間快適にデバイスを使用できるように、最高品質のジョイスティックを使用しています。
2つ目の価値観は、「究極のパフォーマンス」です。究極のパフォーマンスは、その名称の通り最高の製品パフォーマンスを追求するMSIの姿勢や取り組みと定義しています。私たちはこの究極のパフォーマンスという命題に対して、最も厳しいプロフェッショナルユーザーの要求を満たす、効率的な処理能力、最高レベルのパフォーマンスを発揮できる製品の開発に重点を置いています。
これにあたって高い品質を維持するための設備や技術力向上のための投資、高品質な素材を採用することに常に積極的です。先ほどもお伝えしましたが、実際のパフォーマンスを極限まで高めるために、MSIの冷却システムには競合他社よりも堅牢な素材を使用しています。
最後の価値観は、革新的なテクノロジの積極的導入です。弊社はこれまで最先端のテクノロジを採用し、ノートPCでできることの限界を常に押し広げてきました。すなわち、革新的なテクノロジ・機能を製品へいち早く導入する取り組みです。
これは、MSIのノートPCをお選びいただくお客様に、その選択で最新かつ最高のテクノロジをご提供できるようにするためです。革新的なテクノロジは常にMSIの長い歴史の中で受け継がれ、つむいできた伝統です。弊社は最先端のテクノロジをノートPCに組み込めるように常に努め、新しい可能性を探求し続けています。
「ユーザーのニーズを理解し、それを満たす製品をつくる」この信念のもと、今日まで変わらず、MSIは常にユーザーのニーズに耳を傾け、理解し、これらの洞察を製品のコンセプトや革新的なアイデアを生み出してきました。これはこれからも変わらずMSIの中心に位置するスピリットと言えます。
現在弊社は、専門のチームを設立し、法人市場を含むより多くのお客様に製品・サービスを提供することを目指しています。MSIノートPCのこの20年間における多くのステイクホルダーの皆さまへこの場をお借りして改めて感謝を申し上げます。
私たちは、この先何十年もこれまで以上に前へ力強く進んでいきたいと考えています。MSIは今後もイノベーションと最先端のテクノロジをもって、お客様にさらなる喜び、驚き、満足をお届けしてまいります。