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【教えてVAIO】うっかり落としても壊れにくいノートPCを作る、そのために必要なこととは?エンジニアの品質試験があまりにも過酷だった

VAIOのペン挟み試験。どう見ても壊れそうだが壊れない

 PCみたいな精密機器、特に重さが1kg前後しかないような、軽さを重視したモバイルノートであれば、ちょっと落としただけで壊れてしまいそうな印象がある。しかし、「困る人がいるなら困らないように頑丈にすればいいじゃない!」。世の中にはそんな気概を持って知恵や技術を駆使し、壊れにくいノートPCを作ろうと熱く取り組む人たちがいる。

 「我々VAIOのノートPCは頑丈です」。なぜ彼らはそうも自信を持って言えるのか? これから、今回筆者が長野県安曇野市のVAIO本社工場で目撃した品質試験の数々をご覧いただく。VAIOは頑丈さを実現し、「やり過ぎ!」と思うこと間違いなしの数々の試験をパスしているのである。

127cmの高さからノートPCを一気に落下させるVAIOの落下試験。しかも下は鉄板。でも壊れない

【閲覧注意】驚愕のスパルタVAIO品質試験!

 「VAIOノートの頑丈さは言葉で語るより、環境試験室でやっている“試練”を見てもらうのが一番です」と、いきなりちょっと怖いことを言い出したのは、VAIO株式会社オペレーション本部の山口俊夫氏だ。

VAIO株式会社オペレーション本部品質CS部品質保証課の山口俊夫氏。口調は優しく分かりやすい説明なのに、お話し中に突如ご自身が使っているVAIOノートをテーブルに「ドン」と落としてみたり(しかも何度も!)、ディスプレイとキーボード面にペンを挟んで「ギューギュー」閉じて見せたりと、やってることがエグイ! 逆に言えばすごい自信である

落下試験

 山口氏に連れられ、製造フロアの一角にある環境試験室に向かった。 これ以降は見るに堪えないVAIOノートに対する仕打ちの数々が掲載されているので注意!

 まず見せてもらったのは高さ127cmからの落下試験。手でノートPCを持ち歩いているときに落としてしまったという想定だ。

この高さだと絶対壊れそうだけど……
記事冒頭で見せた落下試験。127cmの高さから鉄板に落とすので、「バーン!」というすさまじい音が響き渡る

 「心臓に悪いかもしれませんね」とニコニコしながら話す山口氏。実際、落下時に絶対壊れただろうと思うようなかなり大きな音がするのでびっくりする。山口氏は落下試験について次のように説明する。

 「こういった落下・衝撃試験は繰り返し試験することで、どこまで過酷な環境で使っても大丈夫なのかというデータが得られるため、製品の改善・改良に役立ちます」。

 山口氏は叩きつけられたVAIOノートをその後で事も無げに使って見せたので、試験の知見は十分に生かされていると言えそうだ。

落下後もしっかり動いている
落下後に、VAIOノートの画面を表示させて何事もないことをアピール。すげー! マジで起動するじゃん!
落下試験の鉄板には、これまで何千回、何万回も落下し続けたVAIOノートたちによる痛々しい十字の爪痕が残されている

 「アメリカ国防総省が制定したMIL-STD-810Hという規格があるのですが、この規格では軍用として納入するあらゆる資材が、過酷な環境下でも機能を保ち、正しく動作することを要求します。VAIOの落下試験はこれをベースにした品質試験に加えて、さらに独自試験も行なうなど、堅牢性に注意を払っています」。

角衝撃試験

 派手さはないが、地味にダメージが残りそうな角衝撃試験も用意されている。ノートPCを片手で持ち、デスクの上に置くときなどはこういった衝撃が加わると想像できる。

 この試験は5cmの高さから角に対して落下ダメージを与え続けるのだが、なんと5千回も繰り返される。こういった検証行なうことで、日々の扱いにおける小さなダメージの蓄積結果を解析する。

角をガツガツぶつける
自動的に角を何度もぶつけるテスト。塵も積もれば山となるということで、日々の動作で蓄積されるストレスへの耐性を検証するわけだ

加圧振動試験

 続いてはノートPCの上下から圧力をかけつつ振動も与える試験だ。ラッシュアワーの満員電車などであり得そうなシチュエーションだろう。

 この試験ではVAIOノートの天板と底面側から150kgf(!)の力で挟み込む。そして、ガタガタの未舗装道路をトラックで60km/hで走行した程度の振動が加わるとのこと。その実、満員電車以上に過酷な負荷がかけられているわけだ。

加圧振動

埃試験

 ノートPCの故障につながるのは、強い加圧や衝撃だけではない。チリやホコリが内部に入り込むことによる環境の影響も考えられる。

ホコリをかけまくる
ホコリをかけては吹き飛ばし、かけては吹き飛ばしの繰り返し。当然ノートPCは動いているので、ファンからホコリを吸い込んでしまうが、それをうまく吐き出すように作るのが設計者の腕の見せ所

 そんな状況を想定して行なわれるのが「埃試験」だ。密閉空間に電源を入れたままのVAIOノートを置き、さまざまな方向からホコリを吹き付けて、吸い込ませることで、内部に溜まって悪さをしないかをチェックする。

びっしりと溜まったホコリ
USBやHDMIポートに溜まったホコリが超リアル! 自分のPCは絶対にこの中に入れたくない!
これが埃試験機の全体。密閉された空間の中、いくつも取り付けられた射出口からホコリが吹き付けられる

 山口氏はこの装置について次のように補足した(しかもなんだか楽しそう)。

 「このホコリって、VAIOの“スペシャルブレンド”なんですよ。実際にノートPCの中に溜まったホコリを分析して、いろいろな大きさの繊維や粒子を混ぜて本物のホコリに近づけているんです。2時間試験すると大体1年分のホコリを吸い込みます。試験後はPCを分解してみて、どこにホコリが詰まるのかを調べ、エアフロー(PC内部の空気の流れ)を改善し、吹き出し口から排出できるようにします」。

試験後の内部は意外にもキレイ
これはホコリ試験の後の筐体内部。ビニールが掛かっているので若干分かりづらいが、思ったほどホコリが溜まっている箇所がない。うっすらとホコリが積もるものの、吸い込んだホコリはファンから排出されているようだ。山口氏いわく、このサンプルは、ホコリがちょっと動いちゃってるので、実際にはもっと薄っすらということだ

ペン挟み試験

 山口氏が最後に見せてくれたのがVAIO独自のペン挟み試験だ。

 「お客様からの“カバンに入れておいたVAIOの液晶が割れた”というお問い合わせを受け、詳しくお話を伺ってみたら、直径1cmほどのペンをキーボードの上に置いたまま、液晶パネルを閉じてしまったという話でした。それを機に、品質試験項目に追加されたのがペン挟み試験です。VAIOノートのキーボードの上にペンを置いた状態で液晶を閉じて、パネルが割れないかをテストしています」。

ペンを挟んで閉じたらえらいことに
ペン挟み試験で折れ曲がる液晶パネル。巨大な文鎮が重々しい。いやーこれはキツイ。絶対壊れそう

 「VAIOではお客様の障害事例がコールセンターから品質保証や設計メンバーに共有されて、速やかに対策を講じたり、改善されたかを新しい試験で確認したりするなど、部門間の連携がスムーズに行なわれます。長野県安曇野市にあるVAIO本社にものづくりに関わる部署が集結しているからこそのスピード感ですね。品質試験では、ほかにも曲げたりねじったりしていますが、それでもVAIOは問題なく起動するんです!」。

 山口氏が述べたような、ここで紹介している以上のテストの映像がVAIOの品質試験の紹介ページで公開されているので、怖いものを見たい方はぜひご覧あれ。

全社を巻き込むのがVAIO流の開発

 環境試験室から戻り、苛酷なテストに耐え得る筐体はどのように設計されているのかを見せてもらった。バラした筐体を見せつつ説明してくれたのはVAIO株式会社開発本部の只野順一氏だ。

VAIO株式会社開発本部テクノロジーセンターメカ設計部メカ設計課メカニカルプロジェクトリーダーの只野順一氏。なんでも答えますよ、という堂々たる佇まいなので、最初はベテランマーケティング担当かと。話し方もうまいし。メカ設計担当だからなのか、品質担当の山口氏がインタビューの場でVAIOノートを痛めつけるたびに、顔をしかめていたのが忘れられない(笑)

 「VAIOは“ユーザーの声を反映するスピード”が速いと思っています。先ほど説明があった“ペンを挟んで閉じたら液晶が割れた”という事例が分かりやすいでしょう。

 山口は品質保証という立場なので“ペンを挟んでも液晶が割れないVAIOノートが欲しい”という理想の品質改善要求を開発に上げてきます。でも一般的なPCの開発部門なら“はぁっ?”となるワケです(笑)。たぶん、ほかの企業でもそう。でもVAIOの開発チームって“はぁっ?”の次に“なら、やったろうじゃん!”なんです。難しい問題があると、俄然やる気を出しちゃうんです」。

分解したVAIOを前にして、VAIOの開発スピリットを語る山口氏と只野氏。部署の違うお二人だが、普段から部署の垣根を超えた連携をしているという

 品質保証の山口氏は、VAIOの開発スピリッツを補足する。

 「品質保証だって“ペンを挟んだら液晶が割れる”なんて当たり前なので、普通は障害として取り合わないでしょう。でも僕らは“何kgの力で何cmのペンを挟むと液晶が割れるのか?”、“じゃあその原因はどこにあるのか?”を品質試験から突き止めるんです」。

 只野氏は「全社を巻き込んで開発するのがVAIO流」と続ける。

 「VAIOでは、製品開発の初期段階から全ての部門が1つの机を囲んで、問題点や障害、どうやったら対処や改良ができるのかを話し合います。通常は製品ができてから動き出す品質保証の山口も、カスタマーサービスも開発会議に参加します。製造段階で動き出す製造技術(どうやって効率よく生産するかを試行錯誤する部門)も最初から開発会議に入ります。

 VAIOがこんなことをできるのは、この長野県安曇野市の本社建屋にものづくりに携わる全ての部門が入っているからなんです。結果として“ペンを挟んで液晶を閉じても液晶が割れにくいVAIOノート”ができるわけなんです」。

所狭しのノートPCの中
VAIOノートの内部。こんなに電子機器が密集していてほんの薄い外装に守られているだけなのに完成品は頑丈だ

 確かに製品開発段階からユーザーサポートの部門が開発会議に参加するメーカーはPCだけでなく、家電メーカーでも類を見ない。

 「開発メンバーは経験と感覚から“この接合部は重い部品と軽い部品だから重量差で衝撃力が集中する”、“だからがっちりネジ止めするよりもテープで接合して衝撃を受け流そう”とはなるんですが、どのくらいの強度を確保できるかはCADでも計算できない部分があるんです。こうなると実験しかない。でも膨大な衝撃のデータを持っている品質保証が開発に関わっているので、ふわっとしたものでも経験と感覚で確信に変わるんです」。

 デザイナーや製造技術が製品開発で担う役割についても聞いてみた。VAIOのノートPCはスタイリッシュなデザインも評価されているわけだが、それは当然頑丈さを合わせ持った上で成り立たせているもの。構造とデザインの制約をどう乗り越えているのだろうか。

 只野氏は次のように説明してくれた。

 「カーボンファイバーは加工しづらく、アンテナ設計の難易度が高い材料です。しかしユーザーのために軽くカッコイイVAIOノートを作りたい。そこで全社を巻き込んだワンチームで試行錯誤していきます。

 VAIOはデザインありきの内部設計、内部設計ありきのデザインではありません。ゼロ段階からデザイナーと開発部門がタッグを組んで、求める仕様を満足するための熱い議論を日々繰り返しています。

VAIO SX12
これはVAIO SX12。天板はカーボンファイバー、キーボード面はアルミニウム合金、ディスプレイ面と底面は樹脂で構成されている

 ご覧のとおり、VAIO SX12とVAIO SX14の筐体は、素材の特性を考慮してカーボンファイバーやアルミニウム合金、樹脂などを組み合わせています。これらのパーツを組み上げる工程も、ネジでとめる、ツメではめ込む、形状を変更してほしいという要望が、設計を検討している段階でも、製造技術から開発に上がってきます。あらゆる部門が連携して取り組むことで、スムーズな試作・量産を実現しているのです」。

 最後に只野氏は、特に頑強にしなければならない液晶と本体をつなぐ「ヒンジ」についても教えてくれた。

インサート成型が施されたキーボード面
左はキーボード側、右は液晶側のヒンジ取り付け部分。金属製のネジ穴が付いているが、これはインサート成型という特殊な樹脂成型によるもの。液晶側もキーボード側も強度を出すため「リブ」が多数入っている

 「特に荷重がかかるようなところは、インサート成形という特殊な樹脂成型を用いる場合もあります。ヒンジの接合部を見てほしいのですが、金属が樹脂と一体化しています。これは樹脂の穴に金属を打ち込んでいるワケじゃないんです。

 ご存じの方も多いと思いますが、樹脂を成形するときには型に樹脂を流し込みます。インサート成形では金属部品をあらかじめ型に仕込んで樹脂を流し込むので、金属部品と樹脂が一体化し、強度を上げられるんです」。


 ここまで見てきたように、ノートPCの設計に凝らされた知恵と努力には恐れ入る。もはや執念とも呼べるようなチームワークがVAIO全体で発揮されているのだろう。

 ほんの一部ではあるが、VAIOの環境試験室で見た品質試験の数々は文字通り苛酷で、その中を生き抜いたものが、VAIOのノートPCとして世に出ているということになる。「頑丈」という言葉はありふれた謳い文句ではあるが、その工程をまざまざと見せつけられると、VAIOの頑丈さがただの宣伝ではない“本物”であることが実感できる取材となった。

VAIOは今年で設立10周年、上から下まで隙のないラインナップに

 VAIOは2024年7月に設立10周年を迎える。ソニーのPCブランドであるVAIOから独立し、VAIO株式会社として発足。ソニー時代からの生産拠点だった安曇野工場はそのまま引き継がれたものの、会社としての体制は完全に見直され、少数精鋭でのゼロからのスタートとなった。

 新生VAIOは、よりビジネスユースに軸足を移し、ソニー時代からのDNAと高品質なハイエンドモバイルを融合した製品群を展開。この10年間でVAIOらしさを損なわない意欲的なノートPCが生み出されてきたのは記憶に新しい。そうしたVAIOへのユーザーの支持もあり、企業としては右肩上がりの成長を続けている。

 現在では上位クラスから順にSXライン、Sライン、FラインのノートPCを提供しており、用途や価格に合わせたラインナップが展開されている。

 以下に示すように、現状では上から下まで6種類のノートPCが展開されている。VAIOの製品は数が絞られており、ラインナップの分かりやすさが、製品の選びやすさにもつながっている。この中でもVAIO F14とVAIO F16は、これまで同社に欠け気味だった普及価格帯のノートPCとして、VAIOシリーズに新しく加わった注目の存在だ。

VAIO SX12 / VAIO SX14

VAIO SX12(左)とVAIO SX14

 「VAIO SX12」と「VAIO SX14」は、VAIOが“ハイエンドクラス”に位置付けるSXラインの最新鋭モバイルノート製品。12.5型ワイドと14.0型ワイドの2種類が用意されており、質量1kg前後と軽量かつ、カーボン天板を使用した頑健さなどが特徴。ビジネスパーソン御用達のスペックがウリとなっている。

VAIO S13 / VAIO S15

VAIO S13

 「VAIO S13」は13.3型ワイドで、「VAIO S15」は15.6型ワイド。それぞれVAIOが“アドバンスト”と位置付けるミドルレンジクラスのノートPCとなる。

 VAIO S13はアスペクト比が16:10のWUXGA(1,920×1,200ドット)液晶ディスプレイを採用しつつ、デュアルSIMにも対応。質量は約1kgでモバイルノートとしての性格が強い製品。同じモバイルノートであるVAIO SX12よりもコストを抑えることができる。

VAIO S15

 VAIO S15は、15.6型ワイドの大画面を生かした据え置きタイプの製品で、Core Hシリーズの高性能プロセッサを採用。ディスプレイは4K HDR液晶を選んだり、メインストレージのSSDに加え、セカンダリドライブとしてHDDを搭載したりできるほか、光学ドライブも装備。ほかのVAIOノートとは違った拡張性がある。

VAIO F14 / VAIO F16

VAIO F14
VAIO F16

 「VAIO F14」と「VAIO F16」は“スタンダード”として位置付けられており、VAIOが「PCの定番」を目指したノートPC。VAIO F14は16:9の14.0型ワイド液晶を、VAIO F16は16:10の16.0型ワイド液晶を採用する。両製品とも13万円台から購入可能というリーズナブルな価格設定の製品だが、上位モデル譲りの静音キーボードや各種生体認証、AIノイズキャンセリング機能などが継承されていて、実用十分なスペックだ。