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Intel Arcが変えた家庭向けノートPCの選び方。同GPU搭載の「LAVIE N15」の内部構造も大公開!

NECパーソナルコンピュータ「LAVIE N15(N1585/EAL)」

 CPUやGPUなど、搭載パーツの定期的な進化に加え、コロナ禍の影響により、ゲーム、動画視聴、オンライン授業、在宅ワークなどさまざまな用途で自宅PCの必要性が高まるとともに、必要なスペックが変化している。そういった中、家庭向けPCの選び方も変わってきていることにお気づきだろうか?

 多くの家庭向けノートPCは、そこまで可搬性を重視せず、ハイエンドなゲーマーやクリエイター向けのPCほどの性能は持たない分、購入しやすい価格になっている。つまり、15.6型前後のパネルサイズで、GPUはCPU内蔵のものを採用しているものが多いということだ。

 しかし、その状況がいま変わりつつある。というのも、インテルが単独型GPU(ディスクリートGPU)「Intel Arc」を投入したからだ。一口にIntel Arcと言っても、モデルによって性能は大きく変わるが、共通した特徴として、Intel CPUとの組み合わせに最適化された設計になっているほか、競合GPUよりコストパフォーマンスに優れるというメリットがある。

 それにより、家庭向けノートPCにもディスクリートGPUをこれまでよりリーズナブルな価格帯で実装可能になり、従来の家庭向けノートPCでは諦めざるを得なかったゲームやクリエイティブな用途にも利用可能となったのだ。

 本稿で紹介するNECパーソナルコンピュータ(NECPC)の「LAVIE N15(N1585/EAL)」は、Intel Arc A350Mを他社に先駆けて搭載したノートPC。ゲームやクリエイティブ用途での性能については、すでに別記事で検証を行なっており、そちらを見ていただければ分かる通り、これまでの家庭向けノートPCとは一線を画す性能を実現している。

 ゲームをしたり、動画や写真の編集も少しやりたいといった場合、これまでだと非常に高価なゲーミングPCやクリエイター向けPCしかなく、ためらっていたという人にとって、Intel Arc搭載のLAVIE N15(N1585/EAL)は新たな選択肢となる製品だ。

 しかし、他社に先駆けてIntel Arcを搭載したこともあり、その開発の裏にはさまざまな苦労や試行錯誤があった。今回、NECPC商品企画本部プラットフォームグループグループマネージャーの石井宏幸氏にインタビューする機会を得た。一見するとただの家庭向け15.6型ノートPCに見えるLAVIE N15(N1585/EAL)の内部に潜む、開発者の挑戦や、高度な実装技術をひもといていく。

LAVIE N15(N1585/EAL)|の内部
Intel Arc搭載ノートPCの内部構造を動画でもチェック!
Intel Arcを搭載したNECパーソナルコンピュータのノートPC、「LAVIE N15(N1585/EAL)」を分解、PC Watch編集長の若杉が内部構造を動画で解説しました。記事と合わせてご確認ください。

LAVIE N15(N1585/EAL)は、A4ノートの利便性を追求しつつワンランク性能を高めたモデル

NECPC商品企画本部プラットフォームグループグループマネージャーの石井宏幸氏

--LAVIE N15シリーズは、NEC PCの製品の中でどういった位置付けの製品でしょうか。

石井氏:LAVIE N15シリーズは、エントリーからハイエンドまでを1つのプラットフォームでカバーするという、NEC PCの中核モデルとなる15インチA4ノートPCになります。その中で最上位モデルのLAVIE N15(N1585/EAL)は、久しぶりのディスクリートGPU搭載モデルとなっています。

 商品の位置付けとしては、据え置きの利用をメインに、USBや有線LANなど豊富なインターフェイスを搭載しつつ、日本のユーザーからは光学式ドライブへのニーズも多くありますので、光学ドライブモデルも用意しています。

ディスクリートGPUの代わりに光学ドライブを搭載するモデルも用意(※写真はN1575/EAR)

--シリーズ最上位モデルのLAVIE N15(N1585/EAL)はどういったユーザーがターゲットですか。

石井氏:LAVIE N15(N1585/EAL)は、一般的なA4ノートPCよりもワンランク上の性能を狙っています。少しコストがかかってもある程度性能の高い性能の製品が欲しいユーザーがターゲットです。以前クリエイター向けとして展開していた「LAVIE VEGA」シリーズは、ハイエンドのクリエイターやゲーマーをターゲットにしていましたが、LAVIE N15(N1585/EAL)はA4ノートPCの利便性を追求しながら性能をワンランク高めたものですので、ターゲットは異なります。

性能だけでなくCPUとの親和性も考えてIntel Arcを選択

Intel Arc A350M

--そのLAVIE N15(N1585/EAL)で最大の特徴となるのが、ディスクリートGPUにIntel Arcを搭載している点だと思いますが、なぜIntel Arcを選択したのでしょうか。

石井氏:ディスクリートGPUでどれを搭載するかはいろいろ検討しました。そういった中で、Intel製CPUと組み合わせるディスクリートGPUとしていちばん親和性に優れるのがIntel Arcだろうということと、IntelさんもIntel Arcに力を入れていく姿勢を示しているという点が大きいです。

 また、ディスクリートGPUを搭載するにはどうしてもコストがかかりますが、適度な性能と、CPUと一体でのシステムソリューションとしてIntel Arcがベストだと判断しました。

--コスト的にも有利な部分はありましたか

石井氏:それもあります。LAVIE N15(N1585/EAL)は中核シリーズの中での上位モデルということで数量も見込みたいという点があります。それにはコストも重要な要素となりますので、コストと性能のバランスがうまく取れるという部分も着目してIntel Arcを選んでいます。

 Intel Arcの描画性能は、CPU内蔵グラフィックスとは一線を画すものがあります。そして、それを他社のディスクリートGPUで実現する場合にかかるコストと比べるとかなり有利となります。性能とコストのバランスに優れるという点は、選択した大きな理由の1つです。

Intel Arc搭載によりゲームもプレイ可能

--Intel Arcを搭載するうえで、Intelとの関係はどうでしたか。また実装面で難しい部分などはありましたか。

石井氏:我々は、国内メーカーとして他社に先駈けてノートPCでIntel Arcを採用し商品化しました。ですので、チップの実装や回路設計、ドライバなどの知見がほとんどなかったというのが実情でした。ですので、Intelさんとも密接に協力しながら、我々が細かな部分まで作り込みつつ、それをリファレンスにしながらチューニングし作り上げていく、というように手探りでの開発となりました。

 今回N15に搭載しているのは、Intel Arcの中で下位となるArc A350Mですが、それでもTDPは非常に高いです。LAVIE N15シリーズはスリムなA4ノートPCですので、そのまま搭載してしまうと放熱が難しくなりますので、LAVIE N15(N1585/EAL)では光学式ドライブやHDDを非搭載にし、代わりにデュアルファン構造にし、放熱性と静音性を両立する設計にしました。

--Intel Arcの実装において特に難しい部分はどういったところでしたか

石井氏:Intel Arcを選択した当初は、比較的簡単に実装できると考えていました。ただ実際に開発していくと、思ったように性能が出なかったりというように、さまざまな問題が出てきました。

 たとえばリファレンス通りにチップを実装しても、実際の製品にではなかなかリファレンス通りの結果が出ないこともあります。また、シミュレーションでの結果と、実際にチップを実装した場合でも、同じ結果にならない場合もあります。

 そこで、Intelさんと協力し、メモリバスなど細かな部分を調整しながら実際に回路を組んで試行錯誤を多く繰り返すなど、手探りでチューニングしていきました。それによって、最終的には想定した性能が問題なく発揮されるようになりました。

マザーボードの表面と裏面

静音性にもこだわって冷却システムを開発

CPUとGPU用にそれぞれファンを装備
CPU側のヒートシンクとヒートパイプ
GPU側のヒートシンクとヒートパイプ

--ディスクリートGPU搭載ということで熱への対応が重要となりますが、冷却システムの特徴を教えてください。

石井氏:Intel Arcを搭載しない他のLAVIE N15シリーズでは、CPU冷却用としてヒートパイプを1本と、71×78×7.5mmの空冷ファンを1基搭載しています。

 それに対してIntel Arc搭載のLAVIE N15(N1585/EAL)では、CPUとディスクリートGPUそれぞれに1本ずつ、合計2本のヒートパイプに加えて、71×78×8.5mmと厚さを1mm増やした大型の空冷ファンを2基搭載しています。

 2本のヒートパイプの先には大型ヒートシンクが装着され、そのヒートシンクの横に2基のファンを配置して熱を外に排出します。1つは背面側に、もう1つは右側面に排気するようになっています。

ヒートシンク+ヒートパイプを取り外したところ
裏面

--冷却システムで難しかった部分はありますか。

石井氏:Intel ArcだけでなくCPUも同時に冷却する必要があります。CPUは第12世代 インテル Coreプロセッサーの中でも高性能なTDP 28Wのモデルを搭載しています。そこで、過去製品での冷却システムの知見に加えて、レノボのゲーミングPCの冷却システムの知見なども参考にしながら設計しています。

 それを比較的薄型の筐体に搭載する必要がありましたので、冷却用グラファイトシートを追加するなど、冷却まわりの設計にはかなり苦労しました。

第12世代 インテル Coreプロセッサー

石井氏:単純に空冷ファンを2つ搭載してファンを高速に回転させれば、問題なく冷却はできます。しかしLAVIE N15シリーズは静音性にもこだわっています。LAVIE N15(N1585/EAL)においても、ゲーミングPCのような大きな動作音は避けたかったので、静音性のバランスを取りながらうまく冷却できるかにも苦労しました。

 そこで、他のモデルで光学式ドライブを搭載している部分の底面に大きな吸気口を用意しました。また、吸気口や排気口の穴の位置や数、形なども、効率良く外気を取り込んで排出できるだけでなく、静音性も確保できように配慮して設計したものとなっています。

 LAVIE N15シリーズでは、ディスプレイを開くとキーボード後方が持ち上がるリフトアップヒンジ構造を採用していますが、この部分も冷却性と静音性の両立という点で有利に働いています。もともとは、キーボードの使いやすさを考慮した構造ではありますが、底面の隙間が広くなり、効率良く外気を吸気できるようになりますので、冷却性能を高められます。

 こういったことで、狙った静音性もしっかり実現できています。

GPU用のファン
CPU用のファン
フィン部分のアップ

--実装や冷却などで苦労したということですが、Intel Arcを選択して良かったと感じる部分はありましたか

石井氏:細かな部分では違いが見られるかもしれませんが、Intel Arcはゲームなどで他社製ディスクリートGPUに見劣りしない性能が発揮できています。またIntel Arcを選択したことで、Intelと協力してドライバまでかなり細かな部分までチューニングが行なえているのもメリットです。CPUもIntel製ですから、ディスクリートGPUとCPUを一気通貫で対応できるという部分も、製品を開発するうえで大きなメリットとなりました。

 そのうえで本製品は、ハイエンドゲーマーなどをターゲットとするのではなくて、一般的なA4ノートPCよりワンランク上の性能を目指すユーザーをターゲットとしています。そういったユーザーには十分訴求できる製品に仕上げられたと考えていますし、Intel Arcを選択して正解だったと感じています。

Wi-Fi 6E対応やキーボード、インターフェイス、ヤマハ製スピーカー搭載などにもこだわり

Wi-Fiコントローラ

--LAVIE N15シリーズでは、国内でいち早くWi-Fi 6E対応を実現しました。これも当初から狙っていたのでしょうか。

石井氏:我々の製品の出荷時期とWi-Fi 6E認可の時期がほぼ同時期だろうということで、ハードウェアレベルではWi-Fi 6E対応し、ドライバのアップデートで対応できるように進めていました。もちろん機器認証登録なども必要となりますので、事前にそういった部分の調整も含めて進めていました。

 そして現在、ドライバのアップデートでWi-Fi 6Eに対応できています。

--Wi-Fi 6E対応で難しい部分はなにかありましたか

石井氏:感度を確保するためにアンテナの搭載位置は工夫しました。ただN15シリーズはA4ノートPCということでサイズ的に余裕がありますから、そこまで苦労はしませんでした。

 最も苦労したのは、やはり認証回りですね。とにかくWi-Fi 6Eは初物と言うこともありましたので、苦労した部分です。

--キーボードの特徴について教えてください

石井氏:キーボードは、以前から静音性や打鍵の心地よさにこだわって設計していますが、そういった中でも打ちやすさを追求するために、キートップ中央を少し凹ませた「シリンドリカル形状」を採用しています。また、放熱の部分でも紹介しましたが、利用時に後方が持ち上がるリフトアップヒンジ構造の採用で、キーボードに適度な角度がつく点も、打ちやすさを高めています。

 LAVIE N15(N1585/EAL)ではバックライトも搭載しています。光の見え方やキーの隙間からの光漏れの低減、輝度の均一化といた部分でも細かく突き詰めています。もちろん、バックライトキーボードも他のキーボードと同じ打鍵感を実現しています。

LAVIE N15(N1585/EAL)のキーボード
液晶を開くとキーボード後方が持ち上がるリフトアップヒンジ構造
キートップ中央を少し凹ませた「シリンドリカル形状」は打ちやすい

--15型級のA4ノートでキーボードにテンキーを加えると少々窮屈な印象もありますが、テンキー非搭載は考えなかったのでしょうか。

石井氏:LAVIE N15シリーズはメインストリームをターゲットとする製品ですので、購入されるお客様の層を考えると、テンキーが搭載されているほうが有利となります。実際に、お客様調査でも、テンキーを搭載している方が高い満足度を得られています。実は、以前発売したLAVIE VEGAではテンキーを省きましたが、逆のお客様にテンキー非搭載の部分を指摘されました。ですのでN15シリーズではテンキーを搭載しています。

--比較的豊富なインターフェイスを搭載している点も特徴の1つと感じます。

石井氏:はい、そこもこだわっている部分です。たとえばUSBポートは、さまざまな周辺機器を接続して利用することを考えると数が必要ですし、USB Type-C接続のディスプレイはまだ主流ではありませんから、映像出力用のHDMIも必要となります。有線LANについても同様で、お客様の声を聞くと結構使われているようです。そういった必要なものを残していくと、豊富にインターフェイスを搭載することになります。

 USB Type-CはThunderbolt非対応です。Thunderboltを利用する大きな用途の1つが外部ディスプレイだと思いますが、そこはHDMIを搭載しており、市場で利用されているディスプレイもほとんどがHDMI搭載なので十分カバーできると考えています。そのうえで、コストなども考慮してThunderboltは非対応としました。

左側面に豊富なインターフェイス。右から、Gigabit Ethernet、HDMI、USB 3.2 Gen 2 Type-C、USB 3.2 Gen 1×2、ヘッドセット端子

--LAVIE N15シリーズの上位モデルにはヤマハ製のスピーカーを搭載していますが、そちらの搭載で何か工夫はありますか

石井氏:スピーカー自体は、従来モデルで利用していたものと同じものを採用しています。しかし、ソフトウェアDSPの「YAMAHA AudioEngine」は新筐体に合わせてチューニングされています。ヤマハさんが実際に機種ごとに音を鳴らしつつチューニングを行なってくれています。

 このほか、スピーカーの取り付けにおける配置や振動防止なども、これまでのヤマハさんとの協業における知見をもとに、意見をもらいつつ工夫しています。

ヤマハ製スピーカーは、モデルごとにヤマハによるアナログなチューニングが施されている

--LAVIE N15シリーズは国内開発、国内仕上げとなっていますが、それによるメリットはありますか

石井氏:LAVIE N15シリーズは国内で開発を行ない、製造は台湾のODMに委託していますが、製品の最終的な組み上げは国内で行なっています。海外製造の製品を直接お客様にお届けすると、トラブルなどへの対応や検証などを自分たちで行なえない部分もあります。しかし最終的な仕上げを国内で行なうことで、そういったトラブルなどへの対応も自分たちで行なえることになり、迅速に対応できるという部分はメリットとなります。

 それにより、お客様に安心感を持ってお使いいただけるのが最大のメリットと言えます。

LAVIE N15シリーズは、開発者のこだわりが詰まった魅力的な製品

 シリーズの位置付けとしてはメインストリーム向けのA4ノートPCかもしれないが、その中身は、国内で他社に先駈けてIntel Arcを採用したりWi-Fi 6Eに対応するなど、NECPCの開発者のチャレンジ精神が随所に現れた製品だ。

 メインストリーム向けのPCは、どちらかというとコストパフォーマンスが追求され、おとなしく、画一的な仕様になりがちだ。しかし、さまざまなチャレンジを行なっているLAVIE N15シリーズは非常に魅力的に感じる。加えて、そのチャレンジがメーカーの自己満足ではなく、より良いコストパフォーマンスで、家庭向けノートPCに新たな可能性をもたらすものとなっている点に注目したい。

Intel、インテル、Intel ロゴ、その他のインテルの名称やロゴは、Intel Corporationまたはその子会社の商標です。

[モデル: 奥村 茉実(浅井企画)/黒田 瑞貴(ブース)]