デュアルGPU「GeForce GTX 690」ベンチマーク詳報


 米NVIDIAは4月29日、28nmプロセス世代のウルトラハイエンドデュアルGPU「GeForce GTX 690」を発表した。すでに、同製品のベンチマーク速報は掲載しているが、今回、詳細編をお届けする。

●28nmプロセス世代GPU初のデュアルGPU

 GeForce GTX 690(以下、GTX 690)は、28nmプロセス世代のGPUを用いた初のデュアルGPUカードで、GeForce GTX 680(以下、GTX 680)と同じKeplerアーキテクチャを採用する。GTX 690の各チップは、1基当たり1,536基のCUDAコアと128基のテクスチャユニットを備える、GTX 680と同じフルスペック版GK104コアである。各GPUはそれぞれ、256bit幅のインターフェイスで1,502MHz動作(6,008MHz相当)のGDDR5メモリ(2GB)と接続されており、メモリ周りに関してもGTX 680と同等の仕様だ。

 GTX 690の動作クロックは915MHzで、自動オーバークロック機能「GPU Boost」により、負荷に応じて最大1,019MHzまで上昇する。この動作クロックはGTX 680より低いものであり、この部分だけがGTX 680と異なる。ただし、このクロックの低下が手伝ってか、GTX 690のTDPは300Wと、GTX 680の1.5倍程度に留まっている。

【表1】GeFroce GTX 690の主な仕様
 GeForce GTX 690GeForce GTX 680GeForce GTX 590
アーキテクチャKeplerKeplerFermi
プロセスルール28nm28nm40nm
GPUクロック915MHz1,006MHz607MHz
Boostクロック1,019MHz1,058MHz
シェーダークロック1,215MHz
CUDAコア1,536基×21,536基512基×2
テクスチャユニット128基×2128基64基×2
メモリ容量2GB GDDR5×22GB GDDR51,536MB GDDR5×2
メモリクロック(データレート)1,502MHz(6,008MHz相当)1,502MHz(6,008MHz相当)853.5MHz(3,414MHz相当)
メモリインタフェース256bit×2256bit384bit×2
ROPユニット32基×232基48基×2
消費電力300W195W365W

●デザインへのこだわりが見て取れるリファレンスボード

 今回、NVIDIAより借用したのはGTX 690のリファレンスボードだ。ボードの全長は、ブラケット部を除いて約280mmで、1世代前のデュアルGPUカードGeForce GTX 590(以下、GTX 590)とほぼ同じサイズだ。基板上部に1基のSLI端子と補助電源供給用の8ピンコネクタを2系統備える。ブラケット部のディスプレイ出力端子には、3系統のDVIと1系統のmini DisplayPortを備えている。

 GTX 690のリファレンスボードは、従来のNVIDIA製ハイエンドGPUのリファレンスボードがGPUクーラー全面を樹脂製のフレームで覆っていたのに対し、クロムメッキを施したアルミ製のフレームや、射出成型で作成したというマグネシウム合金製のファンハウジングの採用など、従来のリファレンスボードとはかなり趣の異なるデザイン性に富んだビデオカードとなっている。

GTX 690のリファレンスボードアルミ製のフレームはクリアパネルの窓を備えており、内部のヒートシンクが見える
ブラケット部のディスプレイ出力補助電源コネクタは8ピンコネクタ2系統GTX 590(下)とのカード長比較

●テスト機材

 それではベンチマークテストの結果紹介に移りたい。今回は機材調達の関係上、GTX 680のベンチマークレビュー時に測定したGTX 680、GeForce GTX 580(以下、GTX 580)、Radeon HD 7970(以下、HD 7970)の結果を流用し、今回新たに用意したGTX 690とGeForce GTX 590のデータと比較した。

【表2】テスト環境
GPUGTX 690GTX 680GTX 580
GTX 590
HD 7970
CPUIntel Core i7-3820
マザーボードASUS P9X79 PRO (BIOS:0902)
メモリDDR3-1600 4GB×4
(9-9-9-24、1.5V)
ストレージWestern Digital WD5000AAKX
電源Silver Stone SST-ST75F-P
グラフィックスドライバGeForce 301.33 DriverGeForce 300.99 DriverGeForce 296.10 DriverCatalyst 12.2
OSWindows 7 Ultimate 64bit SP1

●DirectX 11対応ベンチマークテスト

 まずはDirectX 11対応ベンチマークテストの結果から紹介する。実施したテストは「3DMark 11」(グラフ1、2、3)、「Unigine Heaven Benchmark 2.5」(グラフ4)、「Stone Giant DX11 Benchmark」(グラフ5、6)、「Lost Planet 2 Benchmark DX11」(グラフ7)、「Alien vs. Predator DX11 Benchmark」(グラフ8、9)、「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」(グラフ10)だ。

 GPU負荷の高いDirectX 11対応ベンチマークでは、GTX 690の3D性能の高さが際立つ結果となった。H.A.W.X 2の低負荷設定や3DMark 11の3DMark 11のCombinedでは、CPUがボトルネックとなってか、他のGPUにトップスコアを譲るものの、ExtremeプリセットのGraphicsなどGPU負荷の高い条件では、GTX 680の1.8倍を超えるスコアを記録しており、Stone Giantに至ってはGTX 680の倍以上のスコアを記録した。

 GTX 680の2倍を超えるStone Giantのスコアについては、ドライババージョンの違いによる影響を受けたものであると思われるが、GTX 690はK104コアを2基搭載したマルチGPUカードとして、理想的な性能を発揮していると言って良いだろう。

【グラフ1】3DMark 11 Build 1.0.3
【グラフ2】3DMark 11 Build 1.0.3(Graphics Score)
【グラフ3】3DMark 11 Build 1.0.3(Combined Score)
【グラフ4】Unigine Heaven Benchmark 2.5
【グラフ5】Stone Giant DX11 Benchmark(1280×720)
【グラフ6】Stone Giant DX11 Benchmark(1920×1080)
【グラフ7】Lost Planet 2 Benchmark(DX11・テストタイプB)
【グラフ8】Alien vs. Predator DX11 Benchmark(1280×720)
【グラフ9】Alien vs. Predator DX11 Benchmark(1920×1080)
【グラフ10】Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark

●DirectX 9/10対応ベンチマークテスト

 続いて、DirectX 9世代とDirectX 10世代のベンチマークテストの結果を紹介する。実施したテストは「3DMark Vantage」(グラフ11、12)、「3DMark06 Build 1.2.0」(グラフ13、14)、「ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク」(グラフ15)、「MHFベンチマーク 【大討伐】」(グラフ16)、「Lost Planet 2 Benchmark DX9」(グラフ17)、「Unigine Heaven Benchmark 2.5」(グラフ18)だ。

 DirectX 11対応ベンチマークでは圧倒的な性能を示したGTX 690だが、DirectX 10および9対応ベントマークでは他のGPUとのスコア差が一気に縮んでいる。比較的GPU負荷の高いベンチマークテストである3DMark VantageのExtremeプリセットや、Unigine Heavenの1,920×1,080ドット設定時には2番手を引き離していることから察するに、CPUがボトルネックとなってGPUの性能を引き出せていないテストが多いようだ。

 そのような中で、特異な結果となったのが「ファイナルファンタジーXIV」と「MHFベンチマーク 【大討伐】」だ。「ファイナルファンタジーXIV」ではGTX 590、「MHFベンチマーク 【大討伐】」ではGTX 590とGTX 690が著しく低いスコアを記録している。設定を確認しながら調査したところ、SLI動作を無効化するとそれぞれシングルGPUとしては妥当なスコアを記録することが確認できたが、SLI動作が有効になっているとこのように異常に低いスコアとなってしまうようだ。あくまでベンチマークテスト上での結果ではあるが、デュアルGPUカードがシングルGPU以上に、ドライバの最適化やアプリケーションとの相性の影響を受けやすいことが伺える結果といえるだろう。

【グラフ11】3DMark Vantage Build 1.1.0
【グラフ12】3DMark Vantage Build 1.1.0(Graphics Score)
【グラフ13】3DMark06 Build 1.2.0
【グラフ14】3DMark06 Build 1.2.0 高負荷設定(1,920×1,080、8x AA、16x AF)
【グラフ15】ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク
【グラフ16】MHFベンチマーク 【大討伐】
【グラフ17】Lost Planet 2 Benchmark(DX9・テストタイプB)
【グラフ18】Unigine Heaven Benchmark 2.5(DX9)

●消費電力の比較

 最後に消費電力の測定結果を紹介する。消費電力はサンワサプライのワットチェッカー(TAP-TST5)を利用して、各テスト実行中の最大消費電力を測定した。

【グラフ19】システム全体の消費電力

 GTX 690は同じデュアルGPUカードのGTX 590に比べ、アイドル時の消費電力で24Wの差をつけている。GTX 680で改善された待機時消費電力がデュアルGPUカードであるGTX 690にも反映された格好だ。負荷時の消費電力についても、正常にテストが行なえている3DMark11とLostPlanet 2については、GTX 590より55~91Wも低い数値を記録しており、GTX 590に対しては大幅な性能向上と消費電力の低減を同時に実現していることが分かる。

 このグラフにおいて注意が必要なのは、GTX 590が不自然に低いスコアを記録したファイナルファンタジー XIV実行時の数値と、GTX 590とGTX 690が共に著しく低いスコアに留まったMHFベンチマーク実行時の数値。そして、OCCTのGPUテスト実行時の数値だ。

 ファイナルファンタジーXIV実行時のGTX 590の数値は、瞬間最大的に高い数値を記録したため違和感はないものの、MHFベンチマークではGTX 690が比較製品中もっとも低い数値を記録し、GTX 590もGTX 680に次ぐ3番目に低い数値を記録した。この消費電力の数値からも、MHFベンチマークについてはデュアルGPUカードが正常にパフォーマンスを発揮できていないことが伺える。また、OCCTのGPUテストを実行した際、GTX 590の消費電力はGTX 690を下回っているが、テスト実行中に動作クロックが下がるという現象が発生した。GTX 590のリファレンスボードは、電源回路の設計を超える電力供給を避けるためのリミッターが設けられており、これが作動したことによるものと思われる。

●圧倒的な3D性能を実現した最速のウルトラハイエンドGPU

 以上の結果から、GTX 690が既存のビデオカードを大きく凌駕する3D性能を持った製品であることが分かる。従来のウルトラハイエンドGPUであるGTX 590に対しては、GTX 680がGTX 580に対してそうであったように、性能向上と消費電力低減を同時に果たしており、新世代GPUのウルトラハイエンドに相応しい製品だ。

 描画クオリティをできるだけ高めてゲームをプレイしたいユーザーにとって、現時点で最速のビデオカードとなるGTX 690のパフォーマンスは魅力的なものだろう。一部のテストでデュアルGPUカードならではの著しいパフォーマンス低下が確認されているが、そのような場合でも、マルチGPUモードを無効化することでGTX 680に匹敵するパフォーマンスを発揮できる。

 ともあれ、GTX 690の真価を発揮するには、やはりドライバの最適化は必須と言える。後のドライバアップデートに期待するとともに、GTX 690がGTX 680によるSLI構成に対して魅力ある価格で販売されることを願いたい。

(2012年 5月 10日)

[Reported by 三門 修太]