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なんだこの椅子は!包み込まれるメッシュとあり得ない軽さ。高級チェアに「Steelcase」という選択肢を見つけた

使用しているのはSteelcase「Karman」

 在宅ワークの広がりで、「いい椅子」への注目度はかつてないほどに高まっている。デスクワークがメインの人にとって、疲れや痛みの出にくいチェアを使うことは、健康面においても、引いては仕事の効率や生産性の面においても重要、という認識は今や一般的になっているところだ。

 ただ、よく知られているところだと、アーロンチェアといった高級な「いい椅子」は、10万円、20万円超えの高い買い物になる。製品選びは慎重にならざるを得ないが、それでも最初は「著名メーカーだから」とか「評判がいいから」というのが検討の取っかかりになることが多いのではないだろうか。

 そんな中で注目したいのが、おそらく国内での存在感はほかのメーカーの影に隠れ気味ながらも、チェアを始めとするオフィス家具の業界で世界的に知られるSteelcaseだ。座って作業する人の「身体の動き」に着目し、快適に過ごせるチェアとはどういうものか、といった点に徹底的にこだわって研究・開発した、堅実でいて個性的な製品をラインナップする。

 Steelcaseは一体どんな特徴を持つチェアなのだろうか。今回は実売20万円前後の最新高級モデル「Karman」と、7万円前後のスタンダードモデル「Series 1」の2機種を試しつつ、紹介していきたい。

独自の新メッシュ素材を全面に採用した「Karman」

Karman(ブラック・ブラック、18万4,980円)

 まずはSteelcaseの中で最も新しいシリーズである「Karman」から。この製品は同社にとって全面メッシュを採用した初めてモデルで、価格はカラーによって異なり、18万4,980円~21万4,980円(2025年9月時点)。一般向けにはミドルバックのみ(ヘッドレストなし)の展開となる。

オブシディアン・ラックス・レッドブルー(21万4,980円)は、見る角度によってメッシュ部の色合いや表情が変化する

素材

 最大の特徴は、強度と快適性を両立した独自のメッシュ素材「Intermix」(インターミックス)を採用することだ。一般のメッシュチェアはフレームが構造体であり、そこにポリエステルやナイロンを素材を張る作りになっているが、張り方が弱いと身体が沈んでしまい、反対に強く張ると座り心地に影響するうえ、そのぶんフレームを頑丈にしなければならずチェア全体の重量が増すことになる。

独自のメッシュ素材「Intermix」を採用

 それに対しIntermixは異なる2種類の素材を編み込み、身体にフィットする適切な弾力を実現しつつ、十分な強度が保てるようになっている。フレーム側には過剰な強度が求められず、実際、それを保持するフレームは手で簡単に曲げられるほど柔らかい。フレームが“しなる”柔軟性を持っており、これ自体が構造体というめずらしい作りになっているのだ。

 こうした構造により実測でわずか13kg程度という軽さを達成している。大抵の高級チェアは20kgくらいあるので、かなり軽いことが分かるだろう。

メッシュ地を保持するフレームは柔軟性が高く、全体的に軽量な作り

 Intermixの肌触りはファブリックに近い。体重をかけたとき、一般的なメッシュチェアにあるような堅い感触は一切なく、優しくしなやかだ。それでいて背中側の通気性は一般的なメッシュと同等と思える。ただし座面については、メッシュの下に厚い生地を配置してクッション性を持たせる作りになっているため、通気はそのぶん抑えられている。

優しく、でもしっかりと受け止めてくれる背もたれ
座面はクッションとの組み合わせで体重を支える

調節機能

 高さ調節は、床面から座面(最高部)まで実測45~57cm、約12cmの範囲で調節可能。アームレストについては高さ調節に加えて、前後左右に自在に動かせる「4Dアーム」という機能も備えている。

 4Dアームは、回転させて左右に向きを変えるような単純な仕組みではなく、全体を滑らせるようにして向きや位置を無段階で変えられる自由度の高いものだ。触れてみるとかなりインパクトのある動きで、姿勢に合わせていかようにも対応させられそう。

前後左右にスライドさせるようにして動かせる「4Dアーム」

 ロッキング(リクライニング)のオン/オフ機能もあるが、ここには「体重感知機構」という仕組みが採用されている。ユーザーの体重に応じて背もたれを倒すときの反力が自動で調節されるというものだ。

レバーでチェア全体の高さ調節、先端を回転させるとロッキングのオン/オフ

 反力をユーザー自身の手で調節する機能はなく、構造の工夫のみによって実現している。体重の軽さ・重さに関わらず最適な力加減でなめらかに背もたれが動くので、誰もが自然にリラックスできるだろう。

「体重感知機構」により、ユーザーの体重に応じて反力が自動調節される

リーズナブル、コンパクトながら上位モデルの機能を受け継ぐ「Series 1」

 「Series 1」はSteelcaseのラインナップの中ではエントリークラスに位置付けられるモデル。カラーバリエーションは標準で7種類と豊富に用意され、オンラインでの通常価格は7万円台と比較的リーズナブルだ。

Series 1(エラナイトアウル・シーガルフレーム、7万9,980円)

材質

 エントリーモデルだからと言って機能が少なかったり、快適性が犠牲になっていたり、ということはない。背もたれはメッシュ地、座面はファブリックという構成で、厚めの座面は堅すぎも柔らかすぎもしない、ほどよい張りで体重をしっかり支えてくれる。

背もたれはメッシュ
座面はファブリック

調節機能

 座面は前後の位置調節もでき、その移動範囲は実測で7cmほど。ユーザーの体格差はこの前後位置調節と、高さの調節(床面から座面まで実測46~58cm、約12cmの範囲)でしっかり吸収できそうだ。

座面裏にあるレバーを操作することで前後位置の調節が可能
左に見えるレバーとダイヤルが高さ調節とロッキングのオン/オフ切り替え、右の黒いレバーが前後位置調節用

 高さ・前後左右の位置調整が可能な4Dアームや、ロッキング機能(体重感知機構)も備えている。体重感知機構はオフを除いて2段階で調整可能。

 体重に合わせた最適な設定と、より軽い力で倒すことができる設定の2つを切り替えられるので、好みに合わせた使い心地を実現できる。

4Dアームも備える
ロッキング機能は2段階の反力を切り替え可能

 背もたれの張り地の強度を最適化したSteelcase独自の「LiveBackフレクサー」機能も特徴的。背面に横向きに8本設けられたフレームは場所によって強度が異なり、体重をかけると人体の背骨形状に沿って変形する。背中の圧力を等しく分散させ、姿勢を正しく保つのに貢献する仕組みだ(KarmanもLiveBack機能があり、そちらはメッシュ地の張り方で強度を最適化している)。

 背もたれは柔軟なメッシュではあるものの、LiveBack機能が背中を自然なバランスで支えてくれるため、頼りなさみたいなものは皆無。背面側に装着するタイプのランバーサポートも付属し(Webサイトではオプションと表記されているが、個人向けは標準装備のようだ)、これを上下に動かして調節することで腰周辺の保持力を変化させられる。しっかりと背中にフィットしつつ、メッシュらしい高い通気性はそのままで、クラスを超えた座り心地が得られるようだ。

背面側にある「LiveBackフレクサー」が背骨の形状に沿って身体を支える
ランバーサポートは上下位置を調節可能

 また、アームレストは後方から立ち上がって前方に突き出ているようなイメージで、左右の空間に余裕があり、これによってチェアの使い方の自由度を高めている。極端に言えば、横向きに座ったとしても、アームレストのアーム部分が邪魔にならないメリットがあるわけだ。

アームレストが邪魔にならない設計

 ミドルバックだが、オプションでヘッドレストの追加も可能。とはいえ、Series 1は全体的にコンパクトなつくりではあるので、1人1人のスペースがあまり大きく取れないオフィスや、最小限の仕事スペースしかない自宅でも活躍するだろう。

オプションのヘッドレストを追加したSeries 1

そもそもオフィス家具メーカーの「Steelcase」とは?

 Steelcaseのチェアに興味が湧いただろうか?日本ではそれほど馴染みがないかもしれないので、どのようなメーカーなのか説明しておこう。

 Steelcaseは創業1912年、つまり113年もの歴史を持つ米国発のオフィス家具メーカーだ。製造・開発・マーケティングなどのビジネス拠点は世界44箇所にあり、従業員数は1万1,000人を超える(2025年現在)。

Steelcaseは創業113年、日本を含め世界に44拠点を構える

 日本国内にはオフィス兼ショールームである「Steelcase WorkLife Tokyo」が港区南麻布に設置されており、チェアやデスクなど同社のさまざまなオフィス家具製品を見て試せる。ショールームの見学は予約制で、法人・個人を問わず受け付け中だ。

オフィス兼ショールーム「Steelcase WorkLife Tokyo」

 個人向けには製品のネット販売も行なっているが、主要顧客はどちらかというと法人。デスク周りの製品の大量導入はもちろんのこと、近年は空間ソリューションも手がけており、業務内容や企業風土、あるいはワークスタイルのコンセプトにマッチしたオフィスデザインの提案も事業の柱の1つとなっている。

さまざまなスタイルのミーティングルーム
スタンディングにも対応するおにぎり型デスク
ゲーミングシーンの提案も

 法人向けにはネットで販売されていない多様なオフィス家具を取り揃え、要望に合わせたカラーリングや素材の変更など細かなカスタマイズにも応じている。そのうえで、個人・法人の両方に対して同社が注力しているカテゴリが、ビジネスチェアだ。

 最も新しいモデルである全面メッシュ素材の「Karman」、高機能なフラグシップモデルの「Gesture」、人体の骨格を考慮した背もたれと高いカスタマイズ性を持つ「Think」、それらの強みを受け継ぎつつ優れたコストパフォーマンスを実現した「Series 1」など、一般向けには6シリーズをラインナップしている。

全面メッシュ素材の「Karman」
フラグシップモデルの「Gesture」
コストパフォーマンスの高い「Series 1」(ヘッドレストはオプション)
法人向けは張り地のカスタマイズにも対応する

「身体の動き」に着目したビジネスチェア、12年保証で環境にも配慮

 Steelcaseのチェアすべてに共通している特徴の1つは、パーツの大半について12年の長期保証を提供していることだ。フレームなどチェアの構造体は永年保証(ファブリックは3年保証、可動部などは8年保証)で、長く安心して使える。もちろんサポート対応は日本語もOKだ。

Steelcaseのチェア製品は12年保証

 2つ目の特徴は「身体の動き」を考慮した製品設計になっていること。そもそも人が椅子に座っているとき、長時間常に同じ姿勢を取り続けることは少ない。足を組み替えたり、身体を揺らしたり、肘掛けに体重をかけたりすることもあるだろう。キーボードをタイプしているときもあれば、前屈みでメモを手書きすることも、背もたれに寄りかかって考え事をするときもあるはず。

画面にまっすぐ向かって仕事するときもあれば……
伸びをしてみたり……
足を座面に乗せたり、みたいなときも

 Steelcaseのチェアはそうしたデスクワーク中のあらゆる姿勢に対応できるように設計されており、たとえばそれは各部調節機構の柔軟さに表れている。モデルにもよるが、座面、アームレスト、ヘッドレストなど、さまざまな箇所を自在に動かして調節できるのだ。どういった調節機構を持つのかは、すでに紹介した通りだ。

さまざまな箇所を自在に動かせる柔軟な調節機構を持つ

 チェアのサイズにバリエーションはなく、すべてのシリーズで低身長から高身長の人まで1サイズで対応しているのもユニークな点と言える。同社によると、1サイズで世界の95%の人にフィットするよう設計しているのだとか。このあたりは、チェア製品全ラインナップのうち95%を自社で設計・製造することにより、独自性の高い製品づくりを可能にしていることも要因かもしれない。

 もう1つ、特に企業として導入する際にポイントとなるのがSteelcaseのサステナビリティへの取り組みだろう。チェアの製造から製品寿命を迎えるまでのライフサイクル全体で、(排出量削減、カーボンクレジットの導入、植樹などのカーボンオフセットにより)すでにカーボンニュートラルを達成している。さらに2030年には排出量より多く削減するカーボンネガティブを、2050年には「バリューチェーンを通じてネットゼロを実現する」ことを目指しているという。

チェア製品はカーボンニュートラル認証を取得済み

 リサイクル素材の使用、プラスチック使用量の削減、輸送・廃棄効率を高める梱包の簡素化も進めており、まとまった台数を一度に導入する企業側の負担を減らすこともできる。このような導入のしやすさもSteelcaseのチェアが法人に選ばれやすい理由の1つと言えそうだ。

輸送・廃棄効率の観点から梱包資材は最小限。なお、個人でネット購入した場合は組み立てられた状態で届く

姿勢を崩していても気持ちのいいビジネスチェア

 Steelcaseのビジネスチェアは、ハイエンドクラスはもちろんのこと、エントリークラスのモデルであっても高機能・高性能だ。1人1人異なる体格や体型だけでなく、使用中に逐一変化する姿勢にも対応できる調節機構や構造上の工夫がふんだんに盛り込まれ、「姿勢を崩していても気持ちいい」座り心地になっていると感じる。

 リーズナブルでも高機能さは失われていないこと、環境への配慮も積極的であることといった点は、とりわけ企業にとって魅力的な部分でもあるだろう。もしSteelcaseのチェアやオフィス家具が気になったなら、一度ショールームへ見学や相談に訪れてみてはいかがだろうか。