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ASUSのSocket FM2+マザーボード「A88X-PRO」を試す

発売時期:未定

価格:未定

 AMDの次期APU「Kaveri」に対応したSocket FM2+対応マザーボードが、9月中旬頃から発売された。まだKaveri自体発売されていないし、発表もされていないので、Socket AM3+の時と同じくしてマザーボードが先行発売となった格好だ。今回、ASUSから未発売のFM2+マザーボード「A88X-PRO」をお借りしたので、見た目や使い勝手などを検証したレポートをお届けする。

 当然のことながら、現時点ではKaveriを入手できるはずもないので、FM2+マザーボードと互換性のあるFM2対応の「A4-5300」を搭載し、BIOSやユーティリティなどのスクリーンショットを取得した。

 FM1→FM2移行時は、ソケットに下位互換性がなかったわけだが、FM2+では下位互換性が維持されているため、TrinityやRichlandのAPUを搭載できる。ただしAM3→AM3+移行時は、一部AM3マザーボードでも、BIOSをアップデートすることでAM3+対応CPUを動作させられたが、FM2のマザーボードでFM2+のAPU(=Kaveri)を動作させられるかどうかはまだ不明だ。とは言えSocket FM2+マザーボードが発売となった以上、これからAPUで組むなら、(まだないMini-ITXで組むならともかく)Socket FM2+一択になるだろう。

Intel 8シリーズマザーボードとデザインが共通化

 パッケージは黒をベースに金色がアクセントとなったもの。ASUSはIntel 8シリーズ以降マザーボードのカラーをブルーからゴールドに変えているが、本製品もその方針に則っている。メインストリームの価格帯ということもあり、付属品は控えめで最低限と言ったところだ。

 本体も、黒のPCBを基調に、メモリスロット、ヒートシンク、3基のPCI Expressスロット、SATA 6Gbpsポートがゴールド(風)となっている。ブルーからゴールドに変えた理由としてASUSは「競合他社もブルーが多い(GIGABYTEやMSIなど)ほか、プレミアム感のあるイメージが出しやすい」ことを挙げている。“ゴールドだからプレミアム感がある”というのは、筆者もその説明を聞いた当初は懐疑的だった。しかし昨今、iPhone 5sのゴールドばかりが売れている状況を見れば、納得せざる得ない。

 それではハードウェアを詳しく見ていく。電源周りはデジタル制御方式の「DIGI+」で、メモリもデジタル制御回路となっている。後述するが、OS上からでも挙動を細かく設定可能だ。電源は8フェーズで、100WのAPUを支えるには十分だ。ヒートシンクも密着しており、放熱効果が高い。例え低消費電力の45W~65WクラスのAPUでも電源周りがそれなりに熱くなるマザーボードが存在するが、本製品の動作中は熱くなることはなかった。

 搭載されるFM2+は、FM2のソケットと比較するとピンホールが2つ多い。しかしAM3+もAM3よりピンホールが1つ多かったにも関わらず、結局CPU側で使われることがなかったので、AM3+ CPUはAM3マザーボードにも物理的に装着できた。Kaveriではどうなるかまだ分からない。

 チップセットはAMD未発表のA88X。詳細は不明だが、Socket FM2+ APUを正式サポートするチップセットだと理解して良いだろう。PCI Express 3.0に対応したことも最大のトピックになると見られるが、PCI Express 3.0はKaveri APUに内蔵されるものなので、チップセットの機能ではない。

製品パッケージ
A88Xチップセットの搭載と、FM2+ CPU Readyが謳われている
付属品は最低限
A88X-PRO本体
本体背面。パーツを装備しておらずスッキリしている
Socket FM2+
Socket FM2対応のA4-5300が装着できる
CPUクーラーの装着方式もFM2と同じで、Socket 754時代から共通。もう10年以上も続く規格だ
8フェーズのデジタル方式電源回路
独自のDIGI+電源回路コントローラを搭載する
ヒートシンクを取り払ったところ
A88Xチップセット
チップセットクーラー
メモリの電源回路もデジタル方式
メモリ側は2フェーズと見られる
ゴールド色のヒートシンク
VRM部はしっかり密着している
ヒートシンクは羽のような造形が施されている

 メモリスロットは4基で、デュアルチャネルに対応。拡張スロットはPCI Express x16形状が3基、同x1形状が2基、PCIが2基。SATAポートは6Gbps対応が6基。内部USB 2.0ピンヘッダは多めで、8ポート分(4基)が用意されている。一方USB 3.0ピンヘッダは2ポート分(1基)のみだ。

 ファンコネクタは4基と、このクラスにしてはやや少なめ。とは言えAPUの性能と発熱を考えたら十分だろう。いずれも後述するソフトウェア上から制御可能な4ピンタイプだ。独自の省電力プロセッサ「EPU」と、オーバークロック用プロセッサ「TPU」を搭載し、「DUAL INTELLIGENT PROCESSORS 4」などと謳われている。EPU/TPUの有効/無効スイッチを備える点もユニークである。

 また、メモリの相性問題を回避する「MemOK!」機能用のボタンや、USBメモリからUEFI BIOSを更新できる「BIOS Flashback」ボタン、電源をオンにして直接UEFI BIOSに入る「DirectKey」ボタン、POSTコード表示7セグメントLEDなどを備えている。

 サウンド機能はRealtekの「ALC1150」。サウンド回路はPCB分離やオペアンプなど特別なデザインを採用しておらず、コンデンサを用いたオーソドックスなタイプである。Gigabit EthernetコントローラもRealtekの「RTL8111GR」。RTL8111シリーズは息の長いGigabit Ethernetコントローラだが、本製品に搭載されるチップはかなりシュリンクされており非常にコンパクト。良く見ないと見落としてしまうほどである。

 バックパネルインターフェイスは、USB 3.0×4、USB 2.0×2、eSATA×2、DisplayPort、HDMI出力、ミニD-Sub15ピン、DVI-D、Gigabit Ethernet、PS/2、音声入出力。ディスプレイ出力関連が充実しているのは、APUを活用するユーザーにとってありがたい。なおUSB 3.0の一部は、ASMediaの「ASM1042」によって実装されている。

メモリスロットは4基
SATA 6Gbpsを6ポート備える
PCIスロットも2基装備し、互換性を重視
独自のオーバークロック用プロセッサ「TPU」
TPUはスイッチで無効にできる。そのスイッチの上には、UEFI BIOSに直接入るDirectKeyを装備
EPUもスイッチで無効にできる
CPU/メモリなしでも、電源のみでUSBメモリからBIOSを更新する「USB Flashback」ボタン
POSTコードを表示する7セグメントLED
オーディオコーデックの「ALC1150」
サウンド回路はオーソドックスな作り
Super I/Oとなる「NCT6791D」
メモリ相性を回避する「MemOK!」ボタン
クロックジェネレータ「ICS 9LPRS477DKL」
PCI Expressマルチプレクサー/デマルチプレクサースイッチ「ASM1480」

UEFI BIOSとユーティリティもIntel 8シリーズに追いつく

 UEFI BIOSは、Intel 8シリーズと共通のモジュールに刷新され、多くの機能が追加された。まず、背景がブルーに刷新(これまでは青緑だった)。また、デフォルトで見せるEZ Modeはメモリの動作速度やファンの速度回転調節機能などが加わった。

 新たに追加された「ショートカット」は、F3キーを押すことで呼び出せ、すぐにその項目にジャンプできる機能。一方「お気に入り」は、項目自体(1項目のみ)をお気に入りのページに集約する機能だ。オーバークロックはもちろんのこと、ブートデバイスを変えてOS環境を変更するといったユーザーには便利な機能だろう。ショートカット/お気に入りの登録はF4キーで行なえ、動作は非常に軽快。この辺りもパワーユーザーを意識している。

 BIOS上ではCPU電圧、ノースブリッジ電圧、DRAM電圧、サウスブリッジ電圧など10項目を変更可能。CPUとノースブリッジ電圧に関してはマニュアル モード(電圧固定)とオフセット モードを選択できる。また、当然のことながら、CPU動作倍率やベースクロック、ノースブリッジのクロック、GPU Boostなどを選択可能だ。

 このほかDRAMのタイミングや、DIGI+電源回路の挙動なども細かく設定できる。一部項目は日本語でしっかり説明がなされており、項目変更によるオーバークロックやシステム安定性への影響を理解できる。

UEFI BIOS初回起動画面
EZ ModeでもメモリのXMPを選択できるようになった
言語設定で、日本語に変更可能
日本語に設定した後のEZ Mode
オーバークロック設定を行なう「Ai Tweaker」
CPUの電圧設定など
設定できる電圧は全部で10項目
メモリのタイミングも細かく設定できる
DIGI+ Power Controlの設定画面。日本語で丁寧に解説されている
CPUの機能設定
SATAの設定
USBの設定
ノースブリッジの設定
電源関連の設定
UEFIによるネットワーク接続用のスタックも有効/無効に設定できる
電圧監視とファンコントロール
CPUファン以外はすべてケースファン扱いとなっており分かりにくい
Fan Xpertを使わずとも手動である程度は設定できる
ブートに関する設定。設定によって起動を高速化できる
お気に入りのページ。最初は何も登録されていないので、登録方法が解説されている
F4キーを押すと、お気に入り/ショートカットの登録を選べる
ショートカット機能を呼び出したところ
CPU倍率をショートカットに登録したところ
「Last Modified Log」で、過去の変更項目を確認できる。BIOSのセーブ/終了時にも表示されるため、変更されたかどうかをすぐに確認できて便利
Quick Noteでは好きな文字列を入力できる。ただしCMOSクリアで内容が消えるため注意

 Windowsユーティリティも「AI Suite 3」にアップグレードされ、画面が洗練された。UEFI BIOSと同じDIGI+電源回路の各種設定をリアルタイムに変更できるほか、EPUの挙動の変更と設定、リアルタイムで行なえるオーバークロック「TurboV EVO」、ファンの速度設定「Fan Xpert 2」などが利用できる。

 Fan Xpert 2では、ファンごとの回転速度を管理できるほか、プロファイルで自動的に最適な設定が行なえるようになった。クーラーの性能を計測する機能も新たにSABERTOOTHシリーズから継承された。

AI Suite 3
DIGI+ Power ControlではUEFI BIOSと同じ項目変更がリアルタイムでできる
EPUの設定。自動でもコア電圧を下げ、消費電力を下げる
Max Power Savingの設定
TurboV EVOでは動作クロックなどを変更可能
TurboV EVOのGPU Boost設定。クロックは細かく調節できないようだ
ビジュアルな表示で、具体的なクロックは分からない
Fan Xpert 2によるファンコントロール
ファンの回転速度を計測できる
このように、PWMに応じた計測結果が表示される
ネットワークを優先するプログラムを設定できる「Network iControl」。リアルタイム性が要求されるオンラインゲームなどを登録しておくと良いだろう
インターネット上からUEFI BIOSを直接ダウンロードして更新する機能も健在
マザーボードの情報などを表示する機能
USB 3.0デバイスの転送速度を高速化する「USB 3.0 Boost」

幅広いユーザーにオススメできるメインストリーム製品

 以上簡単にではあるが、A88X-PROを概観してきた。過不足のないオンボード機能に加え、しっかりした電源周りの設計、十分な設定項目など、普段使いのみならず、オーバークロックにも十分な製品だと言えるだろう。

 まだ発売日/価格ともに未定のため、コストパフォーマンスは未知数だが、機能的には現在発売されている「F2A85-V PRO」に近く、ほぼ同じ13,000円前後の価格帯になると予想される(ただし今後円安がどう影響するかわからない)。コストパフォーマンス的には十分であり、現時点でKaveriがリリースされていないが、とりあえず当分はTrinityまたはRichlandで凌ぎ、Kaveriが発売されたら即交換して使い続けたいユーザーにうってつけだろう。

(劉 尭)