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「PS5が8万円ならゲーミングPCを買え!」は正しいのか?安価なPCゲーミング環境の現状を考える

PS5が約8万円に値上げ。「それならゲーミングPCの方がいい」のか?

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、PlayStation 5の本体や周辺機器を9月2日から値上げすると発表した。本体価格は、通常版が6万6,980円から7万9,980円となる。

 家庭用ゲーム機で約8万円というと、そろそろレーザーアクティブやFM TOWNS マーティーの価格帯に近づいてくる……というのは置いといて、SNSでは「PS5に8万円も払うなら、ゲーミングPCを買った方がいい」という話題が大いに盛り上がっている。

 確かに最近のゲーム、特に高品質な3Dグラフィックスを採用した作品は、PS5やXbox Series X/S、そしてSteamを始めとしたPCプラットフォームにもマルチ展開されるものが多くなっている。遊びたいゲームがあれば、何かしらの高性能機があればよく、それがゲーム専用機でもPCでも構わないという状態になりつつある。

 それゆえに「PS5よりゲーミングPC」という話になるのだが、ではゲーミングPCは8万円で買えるのだろうか?あるいは、どのくらい安価に買えるのか?その辺りに着目して、どんな製品があるのかを調べてみた。

 PCに詳しい方なら、自作PCパーツや中古品も活用し、PS5と同等レベルのPCを安価に仕立てられると思う。ただそれならPS5も初期型を中古で買えばもっと安上がりなわけで、どんどん話がややこしくなるので、今回は新品の完成品PCに限って話をさせていただく。

PS5と同じくらいの価格でゲーミングPCは手に入るのか?

 まずは安価なゲーミングPCを見ていこう。最近はBTOメーカーで安価な製品を扱うブランドが立ち上がっており、思ったより安く買えることも多い。

 たとえば、マウスコンピューターではゲーミングPCブランドとして「G-Tune」を長らく展開しているが、現在はコストパフォーマンス重視の新ブランド「NEXTGEAR」が併存している。

 調査した8月28日時点では、「NEXTGEAR」ではミニタワー型の「NEXTGEAR JG-A5G5A」が最も安く売られている。

 CPUはRyzen 5 4500で、既に3世代前の製品となるのだが、安価ながら6コア/12スレッドとそこそこの性能があり、低価格ゲーミングPCで採用が多い。GPUはGeForce RTX 3050(6GB)と、こちらも1世代前のローエンドとなる(ただしデスクトップ向けのGeForce RTX 4050は未発売)。

 GeForce RTX 3050のグラフィックス性能は、スペック上ではPS5よりやや劣ると見られる。ただしフレームレートを向上させる技術「DLSS」が使えるので、体感では同等以上となる場面も多いはずだ。

 このほか、メインメモリが16GB、SSDが1TBなどの構成で、価格は11万9,900円。価格が上がったPS5から約4万円プラスとなる。またマウスやキーボード、ゲームパッドなどの操作デバイスは付属しないので、別途用意する必要がある。光学ドライブも非搭載だ。

NEXTGEAR JG-A5G5A

 ほかのメーカーも見てみよう。パソコン工房では、ゲーミングPCブランドとして「LEVEL∞」を展開しているが、こちらも新たにコストパフォーマンス優先のブランド「LEVELθ」が立ち上がっている。

 「LEVELθ」の最廉価モデルは、ミニタワー型の「LEVEL-M1P5-R45-LAX」。

 CPUはRyzen 5 4500、GPUはGeForce RTX 3050(6GB)というのは「NEXTGEAR」と共通で、価格は9万9,800円と10万円を切っている。ただしこちらはSSDが500GBと少ない。

LEVEL-M1P5-R45-LAX

 安価なゲーミングPCと言えば、昨年、GeForce RTX 4060を搭載しながら10万円を切るPCを販売した駿河屋も注目しておきたい。製品名は「A2-Gamingバトル/RBM013」。

 CPUはRyzen 5 4500、GPUはGeForce RTX 4060の構成で、現在は10万2,800円となっている。10万円は超えてしまったが、激安であることに変わりはない。GeForce RTX 4060であればPS5の性能も十分上回ると見られ、あえてゲーミングPCを選んだ時の満足度も高いだろう。またGPUをGeForce RTX 3050(6GB)に変更したモデルは、さらに安価な8万9,800円で販売されている。

 なお駿河屋のPCはスペックが固定で、かつ受注生産となっている。先のBTOメーカー2社では、製品のカスタマイズができたり、即納モデルがあったりもするので、より柔軟に対応できる。またケースの外観などで好みが分かれる部分もあるだろう。各々の状況に合わせて、適切な製品を選んでいただきたい。

A2-Gamingバトル/RBM013

 ノートPCで安価な製品を探してみると、レノボ・ジャパンの「LOQ 15IRX9」が比較的安い。

 15.6型筐体に、CPUはCore i5-13450HX、GPUはGeForce RTX 3050 Laptopを搭載。16GBのメインメモリや512GBのSSDを搭載して、価格は10万7,800円。大手メーカーのゲーミングノートPCは、時折大幅なセール販売が行なわれるが、GeForce RTXシリーズを搭載して10万円を切るものはなかなか見かけない。

LOQ 15IRX9

 これよりも安いゲーミングPCもあるのだが、CPUやGPUの性能がさらに低くなり、明らかにPS5に見劣りしてしまう。コストパフォーマンスと性能のバランスを考えると、この辺りが現実的なラインかなと思う。

8万円程度で入手できるPCゲーミング環境は?

 ここまではゲーミングPCを見てきたが、「PS5が高いからゲーミングPCにしよう」と言いながら、さらに何万円も上積みするのも筋が違うように思う。今度は金額的に同じになる8万円程度のラインで、別の選択肢がないのか考えてみる。

 真っ先に思い浮かぶのは、ポータブルゲーミングPCだ。CPU内蔵グラフィックスが進化したことで、低消費電力でも3Dゲームをプレイできる性能を持った結果、Nintendo Switchを思わせるような、画面とコントローラが一体化したPCが登場してきた。

 中でも、高性能な内蔵GPUを搭載したRyzen 7 7840Uは注目度が高かった。グラフィックス性能もPS5に近いレベルになってきており、最新のAAAタイトルもプレイできると豪語するポータブルゲーミングPCも登場している。

 その中から、価格が8万円に近く、高性能なものをいくつか紹介しよう。まずはASUSの「ROG Ally」。Ryzen 7 7840Uとほぼ同等の性能を持つ、Ryzen Z1 Extremeを搭載しながら、安価であることで人気となった。

 価格情報サイトによると、最安値は8万3,000円台となっている。なお性能を落としたRyzen Z1を搭載した別モデルもあるので、購入の際には間違えないよう注意したい。あえて価格重視で安価な方を選ぶという選択肢もある。

ROG Ally

 次はMSIの「Claw A1M」。こちらはCPUがIntel製になっており、下位モデルではCore Ultra 5 135Hを搭載している。価格は最安値で8万円程度となっている。また上位モデルで、CPUにCore Ultra 7 155H、ストレージが2倍の1TBとなったものも、最安値で8万7,000円程度とお買い得感がある。

Claw A1M

 もう1つの選択肢として、ポータブルゲーミングPCでも採用されているCPUを搭載した、スタンダードなノートPCを選ぶという手がある。筐体が大きくなることで、画面サイズや拡張性で有利になる。ただこちらは8万円に近い安価なモデルは非常に少ない。

 現時点でおすすめできるのは、デルの「Inspiron 14」。14型のスタンダードノートPCだが、AMDモデルではRyzen 7 8840Uを選択できる。メインメモリは16GB、SSDは1TBで、価格は8万7,980円。ただ本製品は価格変動が大きく、過去には8万3,508円で販売されたこともあるので、セールのタイミングなどでもっと安く購入できる可能性はある。

Inspiron 14

 これらの製品は、ディスプレイが搭載されているのが強みだ。ゲームのためのテレビやディスプレイを用意する必要がなく、どこでもゲームをプレイできる。大画面でプレイしたい時には外部出力する方法もある。

PCならではのメリットも忘れてはいけない

 PS5の代替となるPCを一通り考えてみて感じるのは、たとえ値上げしたとしても、PS5はまだ価格競争力のある製品ではある、ということだ。4年前に発売された時には、「これをPCで作ったら何倍の値段になるんだ?」と言われたものだが、今でもPS5と同等のPCゲーム環境を作るには、同等以上の価格になる。

 また値上げ自体はネガティブに聞こえるが、実は北米価格は発売時の499.99ドルから変わっていない。ゲーム機の生産コストが以前のゲーム機ほど下がらなくなっていることに加え、世界的インフレや歴史的円安の影響で、日本円ベースの価格が上がっていると考えるのが妥当だ。

 特に日本国内においては実質的な競合相手がいない状態なのも大きい。Switchとは明確に住み分けができているし、Xbox Series X/Sは日本での販売台数で大差をつけていると見られ、SIEが日本でのPS5の本体価格を抑え込む努力は、あまり必要ないと考えても仕方ない。

 何にせよ、あとはユーザーが選ぶだけのことだ。もしPCを選ぶというなら、価格的にはまだ負けるとはいえ、PS5にはない魅力ももちろんある。汎用性の高さは家庭用ゲーム機とは別次元だ。

 ゲーミングデバイスにおいては、PCには制約がない。現在はXbox用コントローラがほぼ純正コントローラという位置付けになってはいるが、その気になれば何でも接続はできる。マウスやキーボードなども当たり前に選べるし、選択肢も多い。

PC用ゲームパッドで何を選ぶか迷ったら、まずはXbox純正品を選ぶのがいい。おすすめはケーブルとセットになった「Xbox ワイヤレス コントローラー + USB-C ケーブル

 モニターの選択肢も多い。最近は16:9より横長なウルトラワイドモニターも人気だが、家庭用ゲーム機ではこれらの解像度に対応するのは難しい。PCであればそういった制約もなく、自分好みの画面比率でウルトラワイド環境を存分に堪能できる。2台以上のマルチモニターでゲームをプレイすることも可能だ。

ウルトラワイドモニターでプレイしたいなら、PCの方が間違いない。こちらの例はASUSの49型32:9ウルトラワイドモニター「ROG Strix XG49WCR

 ハードウェア面では、後からパーツを増設・交換できるのもメリットだ。特にストレージは、最近ではSSDが主流になってきているが、500GBや1TBでも簡単にいっぱいになってしまうこともある。SSDの追加やメインメモリの増設など、後から対応可能な部分が多いのは、やはりPCの利点である。

 ソフトウェア面では、コミュニケーションツールを自由に選べるのもメリットと言えるだろう。PS5でもDiscordへ直接参加できるようになるなど改善は続けられているが、PCの自由さにはかなわない。

 ほかにも裏でWebブラウザを使って情報検索したり、ゲームごとの外部ツールを導入したりも(ゲームの規約で許されている範囲に限られるが)できる。ゲーム配信をしたいとなった時にも、PCの方が何かと融通が利く。もちろん仕事や学業にも使えるわけで、用途が増えるほどPCの魅力は増していく。

 値上がりしたPS5と、単純に価格や性能を比較するのもいいが、用途や環境は人それぞれで異なるので、自分に合った選択肢を取っていただきたいと思う。本稿がその助けになれば幸いだ。