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米中SSDの耐久対決、3カ月書き続けてついに決着。勝ったのは……
2023年12月18日 06:13
まず初めに、前回の記事の一部修正
結果を紹介する前に、まず前回の記事の内容について少し修正したい。
前回の記事では、検証用に用意したウエスタンデジタルの「WD_BLACK SN580X NVMe SSD」1TBモデル「WDS100T2X0E」と、HIKSEMIの「FUTURE SSD」1,024GBモデル「HS-SSD-FUTIRE 1024G」について、簡単に仕様を紹介するとともに、ベンチマークテストの結果を紹介した。
その中で、ベンチマークテスト実行中のSSDの温度変化についても紹介したが、HS-SSD-FUTIRE 1024Gの温度変化について一部誤解を与える部分があった。
その温度変化のデータは、PCのハードウェア情報調査ツール「HWINFO64」を利用して取得したものだ。そして紹介した結果では、HWINFO64で得られたSSDの温度変化が、表面温度をサーモグラフィーカメラで計測した温度よりもかなり低かった、と紹介した。詳細は、前回記事を参照してもらいたい。
ただ、記事掲載後に、その結果はおかしいのではないか、というご指摘をいただいた。HS-SSD-FUTIRE 1024Gの温度情報はHWINFO64で3種類得られ、その中でもっとも温度の高いデータが正しい温度変化だ、というものだった。
そのご指摘の通り、得られたデータをチェックすると、温度データは3種類得られており、そのうち2つは同一データだったが、残り1つはそれらよりも高い温度で推移していた。その結果が以下のグラフだ。
温度データが3種類得られ、そのうち1つが高い温度で推移していたのは記事掲載前にも確認していた。ただ、CrysitalDiskInfoなど、そのほかのツールでは低い方の温度が表示されることもあり、そちらを採用するのがいいと考えたのだ。しかし、本来なら低い温度変化だけでなく高い温度変化についても紹介すべきだった。それにより、記事の内容で誤解を与えることになってしまった。この点はお詫びしたい。
とはいえ、その高い温度変化のデータについても最高は62℃と、サーモグラフィーカメラで計測した表面の最高温度の76℃前後よりも10℃以上低い。そのため、HS-SSD-FUTIRE 1024Gで得られる温度情報は、やはり本来よりも低い温度で推移する可能性が高いと考えられる。この点、利用時には注意が必要そうだ。
検証方法をおさらい
次に、今回行なった耐久性検証の方法について紹介する。
検証に利用したPCの仕様は以下の通り。そして、このPCのメインのM.2スロット(PCIe Gen5準拠)に検証用SSDを装着。M.2用のヒートシンクはマザーボード付属のものをそのまま利用し、空冷ファンの風がヒートシンクに届くよう、ケース内にもファンを設置。システム用のSSDは、PCIe Gen4準拠のM.2スロットに装着し利用した。
テスト環境
- マザーボード:ASUS TUF GAMING B650-PLUS WIFI
- CPU:Ryzen 5 7600
- メモリ:DDR5-5600 32GB
- システム用ストレージ:Samsung SSD 950 PRO 256GB
- OS:Windows 11 Pro 64bit
耐久性検証には、株式会社スマートセキュリティイノベーションのSSD加速寿命テストツール「SSD耐久テストPro.」を利用した。
このツールは、指定したドライブに対し、容量1GiBのファイルを10個、合計容量10GiBのファイルを書き込んでは消去する、という動作を書き込みエラーが発生するまで延々と繰り返す。
時間あたりの書き込み量は、対象となるドライブの書き込み速度に左右される。そこで、24時間経過後の総書き込み容量をチェックしてみたところ、WDS100T2X0Eが約114TB、HS-SSD-FUTIRE 1024Gが約117TBと、いずれも110TBを超える容量が書き込めた。双方ともシーケンシャルライト速度が6,000MB/sを超えることもあって、このツールでもかなりの速度で書き込めるようだ。
【おわびと訂正】「双方ともシーケンシャルライト速度が6,000GB/sを超えることもあって」としておりましたが、正しくは「6,000MB/s」となります。おわびして訂正させていただきます。
公称の総書き込み容量は、WDS100T2X0Eが600TBW、HS-SSD-FUTIRE 1024Gが1,800TBWだ。それらに対して1日あたり100TB前後の容量を書き込むということは、総書き込み容量分はWDS100T2X0Eは約1週間、HS-SSD-FUTIRE 1024Gは約3週間で事足りる計算。もちろん総書き込み容量の数値はある程度マージンを取っているはずで、それを考慮しても1カ月か、1カ月半もあれば検証は終わるだろう。当初はそういう予想を立てていたのだが……。
HS-SSD-FUTURE 1024Gは書き込み容量が約1,600TBで「異常」表示に
では、実際の結果を紹介していこう。まず初めに、HS-SSD-FUTURE 1024Gの経過からだ。
検証開始後24時間経過時点では、先ほど紹介したように117TBほどの容量が書き込まれた。その後もほぼ同じペースで書き込みが進み、140時間ほどで総書き込み容量が630TBを突破。その時点では、CrystalDiskMarkでの速度チェックでも、シーケンシャルリードが7,422MB/s、シーケンシャルライトが6,594MB/sと、検証開始前とほぼ同じ程度の速度が確認できた。
その後、約240時間経過時点で総書き込み容量が1,000TBを突破した。公称1,800TBWなので、まだ6割弱ほどの書き込み容量ではあるが、CrysitalDiskInfoの健康状態を見ると、使用率が残り27%と、実際の書き込み容量以上に使用率が低下していることが判明。
また、その時点でのCrystalDiskMarkの結果も、シーケンシャルリードこそ7,236MB/sと十分な速度を維持していたが、シーケンシャルライトは1,739MB/sへと大幅に低下していた。まだ6割弱の総書き込み容量の時点でここまで大きな変化が起こるとは想定していなかったので、この点はかなり意外な印象だった。
書き込み速度が低下した理由として考えられるのは、NAND内のキャッシュ領域に何らかの問題が発生したから、というものではないだろうか。
HS-SSD-FUTURE 1024GはDRAMキャッシュレス仕様ということもあって、NANDへの負荷が大きいことは容易に想像できる。大量の書き込みによって利用できなくなったNANDが増え、キャッシュ領域を満足に確保できなくなったことで、書き込み速度が低下したものと想像できる。
その後、約330時間経過時点で書き込み容量が1,300TBを突破。ただ1,000TBの時点から使用率は10%しか減っていない。どうも使用率はあまり正確には示されていないようだ。
そして、検証開始から約400時間が経過し、書き込み総容量が1,600TBに達した時点で、健康状態が異常となった。HS-SSD-FUTURE 1024Gの公称の総書き込み容量は1,800TBWのため、200TBほどの容量を残して異常が発生した形だ。
異常を示したのが正確にどの程度書き込んだ時点かは分からないが、少なくとも前日夜にチェックした時点では異常とはなっていなかったため、書き込み総容量が1,550~1,600TBの間で異常が発生したと考えられる。
この異常の内容だが、クリティカルワーニングの値が「4」ということなので、「NVMサブシステムの信頼度低下」を示している。これは、このまま使用を続けるとNAND異常が発生し保存データが失われる危険性があることを示している。
とはいえ、その時点でもまだ書き込みエラーは発生しておらず、CrystalDiskMarkでも問題なく速度は計測できた。その速度は、1,000TBほどを書き込んだ状態と同じように、シーケンシャルリードは7,384MB/sと十分高速だが、シーケンシャルライトは1,751MB/sとかなり低下したままだった。
念のため、公称の1,800TBまで検証を続けたが、その時点でも書き込みエラーは発生しなかった。とはいえ、すでに健康状態が異常となっているため、ここで検証を終えることにした。
公称の10倍の容量を書き込んでも元気なWDS100T2X0E
対するWDS100T2X0E。こちらは公称の総書き込み容量が600TBWなので、比較的短時間で検証が終わるだろうと思っていた。しかし実際には、とんでもない容量が書き込めてしまった。
まず、検証開始から約72時間経過で総書き込み容量は320TBを突破。また約130時間経過で610TBを突破と、順調に書き込めていた。それぞれの時点でのCrystalDiskMarkの結果は、シーケンシャルライトが検証前よりやや遅くなってはいるが、そこまで大きな落ち込みではなく、まずまずの速度を維持できている印象だ。
ただ、総書き込み容量610TB突破時点での使用率は残り58%と、まだ半分に届いていない。この数字にちょっと疑問を感じつつも、もう公称の総書き込み容量を突破したので、あとは時間の問題だろうとその時点では考えていた。
検証から約260時間経過で、総書き込み容量は公称の2倍相当となる1,200TBを突破。この時点でのCrystalDiskMarkの結果はまだまだ良好。しかも、使用率は残り19%。想定よりもかなり書き込めているが、まあ公称の総書き込み容量は余裕を持っているはずで、まあ2倍ぐらいの容量は書き込めるのかな、と考えた。
その後、約350時間経過、総書き込み容量1,550TB超で、ようやく使用率が残り10%となり、健康状態が「注意」へと変化。しかしまだまだ状態は元気そのものだ。
そして使用率が残り0%となったのは、約440時間が経過し、総書き込み容量が1,890TBを超えたあたりだった。この時点で、公称の3倍の容量が書き込めている形だ。CrystalDiskMarkの結果は、シーケンシャルライトの速度が徐々に低下しているものの、まだまだ元気そのもの。書き込みエラーは発生していない。
このあとは長時間ほったらかしにしていたのだが、総書き込み容量が2,000TB、3,000TB、4,000TBとどんどん増えていくにも関わらず、書き込みエラーは発生せず、CrystalDiskMarkも安定した結果が得られるままだった。
そして、検証開始から約1,500時間が経過したところで、総書き込み容量が6,000TBに達した。この時点で総書き込み容量は公称の10倍に達したのだが、ここでも書き込みエラーは発生せず、CrystalDiskMarkの結果も検証開始前からほとんど変化が見られなかった。
個人的には、行くところまで行く覚悟ではあったが、編集部側が音を上げてしまい、ここで検証を終了することに。結果、NANDの耐久性はWDS100T2X0Eの圧勝と結論づけることとなった。
通常利用の範囲内では、どちらも耐久性を気にする必要はなさそう
今回の検証で、NANDの耐久性にはかなりの差が付いてしまった。DRAMキャッシュの有無などSSDの仕様の違いもあるが、1,000TBを超えたあたりで書き込み速度が大きく落ち込むとともに、公称の総書き込み容量に届かず健康状態が異常となったHS-SSD-FUTURE 1024Gと、公称の10倍の容量を書き込んでもまだピンピンしているWDS100T2X0Eの結果を比較すると、NANDの耐久性はどちらが優れるか一目瞭然だろう。
とはいえ、HS-SSD-FUTURE 1024Gにしても、1,000TB程度の書き込みを行なうまでは、書き込み速度も安定していた。1,000TBの書き込みは、1日あたり約2.7TBを書き込み続けて1年かかる計算だ。
ちなみに、筆者がメインで利用しているノートPCの内蔵SSDは使用時間が3,000時間を超えているが、総書き込み容量は19TBを超えている程度でしかない。このノートPCはもう2年以上使い続けてその程度。つまり、通常利用の範囲内であれば、1,000TBもの容量を書き込むには、酷使したとしてもかなりの年月を要するはず。個人的には、10年程度ではとうてい到達しないと考える。そのため、HS-SSD-FUTURE 1024Gも通常利用の範囲内では耐久性を気にする必要はないだろう。
とはいえ、検証で大差がついたのは事実。そのため、中国製NAND搭載のSSDよりも、WD製NAND搭載SSDを選択したほうが、耐久性に関しては安心できそうだ。
なお、今回の検証結果は、空の状態のSSDに対して耐久性検証ツールで延々とデータを書き込むという、通常利用とはかけ離れた使い方でのものだ。そのため、実利用でも同様の耐久性で利用できる保証はない。この点に納得したうえで、今後の製品選択の参考にしてもらいたい。