特集
UHS-I?スピードクラス?複雑怪奇なSDカードのロゴと規格をまとめてみる
2022年12月5日 06:17
8月のことである。編集担当の劉氏より「SDカード……というかmicroSD? の規格を解説するものを1本お願いしようと思っておりまして、Class 2/4/6/10の話から始めて、UHS-IとかIIはなんじゃらほいとか、V30/V60/V90はなにかとか、Application Classとはなんぞやとか、その辺りの謎用語解説をお願いできますでしょうか」という依頼が届いた。
急ぎではない、ということだったので急ぎの原稿を先行したらこの時期までずれたのは、筆者は悪くない(責任転嫁)。
そもそも規格が多すぎる
個人的にはUSBと並んで分かりにくいのがSDカードやmicroSDカードだと思っているのだが、これには歴史的経緯が色々絡んでいる。SDカードのロゴと規格については、SD Associationのこのページの図(図1)が分かりやすい。現状では(1)~(5)の5種類の表記があるわけだが、当たり前の話で全てのSDカードでこれが全部入ってるわけではない。
写真2はとりあえず机の周りに落ちてたデジカメから抜いて並べたものだが、全部のロゴが入ってるわけではないことがお分かりいただけるかと思う。
SDカードの仕様を策定しているのは先ほども出て来たSD Associationである。SD Association自体は1999年にSanDiskとパナソニック、東芝の3社によって設立された。この3社は現在もボードメンバーとして名を連ねている(東芝はキオクシアになったが)。このSD Associationが2000年のCESで発表したのが最初のSDカードである。
ベースというか先行していたのはSanDiskとSiemens(現Infineon Technologies)が開発したMMC(Multi Media Card)で、SDカードはこれと互換性があるように開発された。後でスペックの一覧を示すが、当初は最大容量2GB、ファイルシステムはFAT12/16で、転送速度は12.5MB/s(のちにVersion 1.10で25MB/sのHigh Speed Modeが追加)であった。ちなみにSDカードの「SD」は「Secure Digital」の略であったが、途中で単に「SD」になり、仕様から「Secure Digital」の文字が消えたのは、SDカードとして名前が普及してしまったためかもしれない。
さて2000年当時であれば、2GBと12.5MB/sは十分な容量と速度だったわけだが、デジカメの高画質化やメディアプレーヤーの高機能化(当初はMP3の再生だけだったのが、ビデオの再生を可能にする製品も増えてきた)などと相まって容量不足の声が聞こえてくるようになる。
こうした声を受けて、2006年に出たSD Specification Version 2.0でSDHC(High Capacity)カードを定義する。最大32GBに容量は増えた。この時点では転送速度の方は向上していないが、2009年のSD Specification Version 3.01ではSDXC(eXtended Capacity)が定義されて、最大容量が2TBまで広がると同時に、新しくUHS-I(Ultra High Speed I)と呼ばれる転送方式が定義され、最大104MB/sまで高速化された。
その後、SD Specification 4.10(2013年)にUHS-II I/FとUHS Speed Grade 3が追加され、最大で312MB/sまでの転送速度が確保されている。次のVersion 5.0(2016年)はVideo Speed Classの追加のみであったが、2017年のVersion 6.00では新たに624MB/sのUHS-IIIが追加された(これは正しい言い方ではないのだが、一般にはこれで通用している)。
2020年3月のVersion 7.10では、さらに新しい規格としてSDUC(Ultra Capacity)とSD Expressが追加された。SDUCは最大容量が128TBまで増えており、もうSSDとしても利用できるんじゃないかという規模感である。
またSD Expressはもう名前の通りSDカードのI/FにPCI Expressをそのまま通すというもので、まずはPCI Express 3.1 x1レーンで1GB/sの規格が定義され、2020年9月のVersion 8.00ではこれに加えてPCIe 3.1 x2/PCIe 4.0 x1/PCIe 4.0 x2も追加された。PCIe 4.0 x2では転送速度は4GB/sに達しており、容量だけでなく速度の観点でもNVMe SSDと大差ないところまで来ている。
ちなみに仕様の最新版は2022年8月にリリースされたVersion 9.0であるが、こちらは速度とか容量には変化がなく、
- Boot Functionalities:SDカードからのブートメカニズム
- TCG(Trusted Computing Group) Security:セキュリティ保護
- RPMB(Replay Protected Memory Block):読出/書込要求コマンドのリプレイ攻撃を防ぐ仕組み
- Update Write Protection function including Write Protect Until Power Cycle:書き込み保護の強化
といった項目が追加されているに留まっている。要するにセキュリティ周りの強化がVersion 9.0の主な事項で、速度とか容量に関して言えばVersion 8.0が最新ということになる。
なおI/Fに関しては、「一応」後方互換性が確保されている。Photo03はカード裏面の端子の状況をまとめたものだが、
- SD Bus/UHS-I:SD Bus/UHS-Iのみで利用可能
- UHS-II/III:SD Bus/UHS-I/UHS-II/UHS-IIIで利用可能
- SD Express 1 Lane:SD Bus/UHS-I/UHS-II/UHS-III/SD Express x1で利用可能
- SD Express 2 Lane:SD Bus/UHS-I/UHS-II/UHS-III/SD Express x1/SD Express x2で利用可能
となるように配されているのがお分かりかと思う。
「一応」というのは、例えばUHS-IIに対応したデジカメにSD Busのみのカードを突っ込んだときに、そのデジカメがちゃんとSD Bus経由で読み書きを行なえるかどうかはデジカメ次第というところがあるからだ。仕様には「Legacy SD UHS-I interface is supported for backward compatibility (with limited features)」としており、必ずしも使えることが絶対保証されているわけではない。
とまぁここまで簡単に概略をまとめて来たが、既に十分情報量が多い気がする。ということで表1にまとめてみた。
カード種類 | - | - | SD Card | SDHC Card | SDXC Card | SDUC Card |
---|---|---|---|---|---|---|
容量 | - | - | ~2GB | 2GB~32GB | 32GB~2TB | 2TB~128TB |
I/F種別および転送速度 | SD Bus | 12.5MB/s | ○ | ○ | ○ | ○ |
25MB/s | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
UHS-I | 50MB/s | × | ○ | ○ | ○ | |
104MB/s | × | ○ | ○ | ○ | ||
UHS-II | 156MB/s | × | ○ | ○ | ○ | |
312MB/s | × | ○ | ○ | ○ | ||
UHS-III | 312MB/s | × | ○ | ○ | ○ | |
624MB/s | × | ○ | ○ | ○ | ||
SD Express | 1GB/s | × | ○ | ○ | ○ | |
2GB/s | × | ○ | ○ | ○ | ||
4GB/s | × | ○ | ○ | ○ |
ここで○は「その設定を利用可能」×は「その設定を利用不可能」である。要するに初代のSDカードは、容量は2GB止まりだしインターフェイスも一番基本のSD Busのまま、転送速度は12.5MB/sか25MB/sしか選べないのだが、SDHC/SDXC/SDUCに関してはI/FはSD Bus/UHS/SD Expressのどれでも使うことが可能だし、その速度はI/Fに応じて変化することになる。だから仕様の上で言えば、SD Busのみに対応したSDUCカードとか、SD Expressに対応したSDHCカードというものが存在し得る。
もっとも、存在し得るからといって存在するとは限らないというか、普通そういう変な構成の製品はないわけで、SDHC/SDXCカードはUHS-I~IIIのI/Fであるのが普通だ。SDUCカードは現時点でそもそも市場では販売されていない。というのは、SDUCカードがターゲットとする市場(まずは業務用ビデオカメラとか業務用スチルカメラなどの類)にはCFexpressが既に存在しており、こちらが広く使われているためという部分もある。仮にこのマーケットがSDUCカードで代替されるようなことがあれば、その場合のI/FはUHSではちょっと不足であり、SD Expressが利用されることになるかと思う。
- ファイルシステム別規格:容量に関係
- UHS I/Fの規格:転送速度に関係
- SD Expressの規格:転送速度に関係
- 動画撮影のスピードクラス:転送速度に関係
- スマートフォン向けアプリケーションクラス:転送速度に関係
という感じになっている。
速度の話
さて話を戻す。そんなわけでSD/SDHC/SDXC/SDUCというカードの種類は、カードのメモリ容量で一意に決まることになる。決まらないのは速度の方だ。表1に示した速度は、それぞれの規格における最高速度であって、実際のSDカード(やSDHC/SDXCカード)の速度がどの位か、はまた別の話である。
前出の写真2を見ると、90MB/sだの45MB/sだのと、カードごとに速度が書いてあるのが分かるかと思う。これは公式のものではなく、あくまでメーカーがユーザーへの利便性を高める目的で追加したものであるが、一応SD Associationでもカードごとの実際に利用できる速度に関しての指標を出している。それがスピードクラスと呼ばれるものだ。
スピードクラスとして示されるものの一覧がこちら(図4)。SDHCカードとして示されているのは、要するにSD Bus/UHS-Iでの転送を行なった場合で、この頃のフラッシュメモリはそもそもそんなに高速ではないので、I/F的には104MB/sまで出るとは言っても、実際にはフラッシュメモリがそこまで追いつかない。
②/④/⑥/⑩の各数字は、そのSDカードがSD BusなりUHS-Iで保証する、最低転送速度を示す。次のSDXC Iカードは、そのカードが同じようにUHS-I/II/IIIで保証する最低転送速度で、U1は10MB/s、U3は30MB/sを示す格好だ。ちなみにカード表面に「SDXC I」とか「SDXC II」とあるのは、I/FがUHS-IかUHS-IIかを示す(滅多にないが、UHS-III対応カードの場合は「SDXC III」になるわけだ)。
最後のSDXC IIカードの例として示される「V」シリーズはビデオスピードクラスである。こちらも速度と言えば速度なのだが、SDHCカードあるいはSDXC Iカードは例えばデジカメの連写程度が想定ターゲットであり、長時間連続しての転送は考慮されていない。これに対してVシリーズとして示されるビデオスピードクラスは、長時間(それこそ1時間とか)連続して転送できる最低転送速度を示している。V6/V10/V30/V60/V90の5つが定義され、それぞれ転送速度(V6なら6MB/s、V90なら90MB/s)が保証されていることになる。
もっともこのビデオスピードクラス、定義こそされているが、そういう用途で使われるケースはそれほど多くないように思う。かつてはポータブルメディアプレーヤーにSDカードを挿入して直接プレイバックという用途が確実に存在したが、スマホ全盛の昨今でそうしたニーズはもう非常に少なくなっている。ましてや4K動画を直接保存するとか、逆にSDカードから直接読み込んで再生なんてケースはまず存在しない。その意味では、もうあまり意味のないクラス分けになってしまった気はしなくもない。
ただ保証される最低転送速度が明示的に示されている、という意味では役に立つのだが。写真2で言えば、右下のProGradeの128GB SDXC-IIには「V90」の表示が、左上のSanDisk Extreme 32GB SDHC-Iには「V30」の表記がそれぞれあり、なので使われていないわけではない。ただ普通はむしろ併記されている「R:300MB/s W:250MB/s」とか「90MB/s」の方に目が行くだろう。
もっと役に立たないと思われるのが、アプリケーションパフォーマンスクラスである。こちらはSD Specification Version 5.1でClass 1(A1)が、Version 6.0でClass 2(A2)がそれぞれ定義されているが、要件としては表2のように定められている(いずれも最低要件)。
Class | Random Read | Random Write | Sequential Write |
---|---|---|---|
A1 | 1,500IOP | 500IOP | 10MB/s |
A2 | 4,000IOP | 2,000IOP | 10MB/s |
ちょっと面白いのは、Class A1のSequential Writeは単に10MB/sとあるのに対し、Class A2はコマンドキュー(サポートされている場合)およびキャッシュを使った状態で10MB/sが維持できれば良いとしてあるところだろうか。
それはともかくこれは何か? というと、SDカードに直接プログラムを置いておき、ここから実行する場合を想定したクラスである。こういう製品、確かにかつては存在した。実際筆者が所有していたデルの「Streak」がまさにこれで、ブート用とアプリケーション用に2枚のmicroSDカードが内蔵されていた。
ただこれは2010年の話である。では昨今は? というと、例えばRaspberry PiとかNVIDIAのJetson Nanoなど、SDカードからブートして動く機器がないわけではないが、テスト用はともかく機器に組み込んで年単位の連続稼働に耐えないということで、別のブートデバイスを用意することが多い(業務用の高耐久SDカードとかもあるので、全くないわけではないが)。ただ昨今のスマートフォンとかでSDカードからブートしたりアプリケーションを起動したり、という例を筆者は知らない。
製品そのものがないわけではなく、2017年にはmicroSDカードが秋葉原で販売されていたりしたが、現状ではこれを意識する必要は皆無に近いと思う。
miniSDとmicroSD
さてここまでは通常のSDカード(Standard Size SD Card)について説明してきたが、これの派生型としてminiSDカード、およびmicroSDカードがある(図5)。まずminiSDは2003年のCeBITでSanDiskが発表したもので、日本でも携帯電話向けに同年から発売するというアナウンスがあった。
2006年にはSDHCカードのmini版であるminiSDHCカードも発表されたものの、これをサポートする機器がなく、結局miniSDHCカードは容量の大きなminiSDカードとして扱われることになってしまう。後述するmicroSDカードが普及したのが最大の要因で、結局2008年あたりで市場から消えることになる。miniSDカードをサポートした機器には、microSDカード+miniSDカードアダプタの形で対応できたので、移行もスムーズであったと記憶している。
microSDは当初、TransFlashという名称で開発されていた。日本でも2005年2月にSanDiskがこの名称で発表会を行なっている。ところが同年3月にニューオリンズで開催されたCTIA Wireless 2005において、SD AssociationはこれをmicroSDカードという名称にすることを発表。SDカードでは大きすぎる用途向けに、miniSDカードを駆逐してあっという間に標準的なカードの座を勝ち取った。
もっとも写真5で判るようにサイズがかなり小さくなったので、どうしても容量の面ではSDカードよりも少な目になっていた。もっともそれもここに来て急速に差がなくなってきており、実際SanDiskのメモリカード製品一覧で確認すると、SDカードとmicroSDカード、どちらも最大容量は1TBになっている。キオクシアは来年容量2TBの製品を量産することを発表しており、来年には遂にSDXCの容量の限界に到達する事になりそうだ。
ちなみにmicroSDカードもSDカード同様に、microSD/microSDHC/microSDXC/microSDUCの4種類があり、そのスペックはSDカードの場合と全く一緒である。異なるのは転送速度で、SD Expressはx1とx2の2種類が定義されたが、microSD Expressはx1のみである。なのでPCIe Gen3.1 x1の場合で1GB/s、Gen4 x1で2GB/sが最高速度となり、Gen4 x2の4GB/sには未対応である(図6)。
ということで分かりにくいSDカード/microSDカードの規格の話をちょっとまとめてみた。最終的には「で、私はどのカードを買えばいいの?」という話になるかと思うのだが、そのあたりは「SDカードを突っ込む機器のマニュアル見てください」という話になる。
例えば筆者が所有する取材用カメラ(オリンパスE-M1X)の場合、マニュアルの記述はこんな感じ(写真7)。普通に記録する(静止画)ならSD/SDHC/SDXCカードのどれでも良く、ただし動画撮影をするならSDのクラス10(10MB/s)、4K撮影などをするならUHS-IのClass 3(30MB/s)以上が必要ということになる。
ちなみにそのE-M1Xに突っ込んでるのは、写真2で右下にあるProGradeの128GB SDXC-IIで、明らかに性能的にはオーバーであるが、これは速度というよりも容量や耐久性を狙って選んだものなので別に後悔はしていない。
一般論的に言えば、UHS-IのClass 3ないしUHS-IIに対応したSDHC/SDXCカードならほとんどのケースで性能に不満が出ることはないだろう。あとは容量とかメーカーの好みで選べばOKかと思う。