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予算20万円で戦うAMD対Intel PC!最新環境で勝つのはどっちだ?

 2021年内にはCPUコアの世代交代がなく、2020年に引き続き「第4世代Ryzen」を武器に戦ってきたAMD。しかしそれでも自作PCユーザーやショップでは大きな影響力を保ち続けており、2022年に投入される新製品で、その勢いはさらに拡大する見込みだ。

 そうした状況の中で最大のライバルたるIntelは、2021年11月にコードネーム「AlderLake」と呼ばれてきた「第12世代Core iシリーズ」を投入。性能面で大きく差を開けられてきた状況を、一部覆すことに成功した。さらには2022年1月5日には低価格モデルを投入することで、以前の勢いを取り戻す反転攻勢に出ている。

 今回はこうした二大CPUメーカーのプラットフォームに注目し、20万円台という予算内でそれぞれ作例を作って比較してみた。コストや性能はもちろん、それぞれのプラットフォームにおける作例の自由度、実際の作例における消費電力や各パーツの温度なども細かく検証していこう。

AMDは自由度の高さが魅力、小型PCも作りやすい

 AMDのCPUやマザーボードを利用する場合のメリットとしては、「作例を考える際の自由度の高さ」がある。というのもAMD製CPUを利用できるマザーボードは、低価格モデルから高価格帯モデルまで幅広いラインナップが存在する。そのため一般的なミドルタワーPCだけではなく、Mini-ITX対応マザーボードを利用して小型PCも作りやすいのだ。

AMDの作例では、Mini-ITX対応の「NR200P」をPCケースとして選択し、小型のゲーミングPCを作った

 一方でIntel Z690チップセットを搭載するマザーボードは、ATX対応モデルが主流で、microATXやMini-ITX対応モデルは少ない。またオーバークロックに対応する高性能CPUを利用することを前提に設計されているため、高性能で安定性重視の設計なのはいいのだが、その分価格も非常に高い。

 さらに対応メモリの問題もある。Intelの第12世代Core iシリーズではDDR5メモリに対応したが、現状DDR5メモリの入手性は非常に悪く、価格も高い。比較的低価格なDDR4メモリ対応マザーボードも存在してはいるのだが、やはりATX対応モデルが主流だ。Mini-ITXやmicroATXといった選択肢は取れず、普通のミドルタワーPCにならざるを得ない。

Intelの作例では、Lian LiのATX対応ミドルタワーケース「LANCOOL 205 MESH」をPCケースとして利用

 なお、Intelは1月5日に、ローエンドからミドルクラスに位置するCore i3やCore i5の新製品とともに、より低価格なマザーボード向けのチップセット「Intel H670/B660/H610」も発表している。こうした低価格なCPUやチップセットを搭載するマザーボードが入手できるようになれば、今回のような状況も大きく変わる可能性はある(※低価格マザーを使った検証は後日掲載予定)。

 もう一つ、いま新しく自作PCを作る場合に考えなければならないことが「ビデオカードの高騰」である。というのも、例えばいまミドルレンジのビデオカードを購入する場合、7~9万円のコストを考えておく必要がある。3~4年前ならこのクラスのビデオカードは3~5万円が相場だったことを考えると、隔世の感がある。

 こうしたビデオカードの高騰は、今回のように「20万円前後でPCを作りたい」という時に大きな足かせになっている。予算の半分近くをビデオカードに充てなければならないため、そのほかのパーツのグレードを下げたりして調整する必要が出てくる。

 こうした背景もあり、AMDの作例では「Ryzen 5 5600X」、Intelの作例では「Core i5-12600K」をCPUとして採用する。

 どちらも両者の最新CPUの中ではミドルクラスにあたる。この予算なら本当はもう少しグレードの高いCPUを使いたいところではあるが、ビデオカードを組み合わせることを考えると、このあたりで調整するしかないのが現実だ。

AMDの作例では「Ryzen 5 5600X」をCPUとして使った。6コア12スレッド対応のミドルレンジモデルで、発熱の目安となるTDPは65Wと低め
Intelの作例で使ったのは「Core i5-12600K」。高性能コアは6コア12スレッド、高効率コアを4コア搭載した10コア12スレッドのCPUだ。Processor Base Powerは125Wだが冷却性能が十分の状態ではMaximum Turbo Powerの150Wで動作する

【AMDの作例】大型ビデオカードも組み込めるキューブサイズケースで作る

 AMDの作例では、Mini-ITX対応マザーボードとPCケースを利用し、小型のゲームPCを作ってみた。PCケースは185×376×292mm(幅×奥行き×高さ)のコンパクトなキューブケーススタイルを採用する、Cooler Masterの「NR200P」を組み合わせた。長さ33cmもの大型ビデオカードの組み込みに対応しており、強力なゲームPCを作れる。

【表1】AMD環境の構成パーツ
カテゴリ製品名実売価格(※執筆時点)
CPU Ryzen 5 5600X(6コア12スレッド)4万2,000円前後
マザーボード GIGABYTE B550I AORUS PRO AX(rev.1.0)(AMD B550)2万円前後
メモリMicron Crucial CT2K8G4DFS832A(DDR4-3200 SDRAM 8GB×2)1万円前後
ビデオカード MSI GeForce RTX 3060 Ti VENTUS 2X 8G OCV1 LHR(GeForce RTX 3060 Ti)8万9,000円前後
SSD CFD販売 CSSD-M2B1TPG3VNF(1TB、PCI Express 4.0)1万7,000円前後
PCケース Cooler Master NR200P(Mini-ITX)1万1,000円前後
電源ユニット Cooler Master V SFX Gold 650W(650W、80PLUS Gold)1万3,000円前後
CPUクーラー サイズ 虎徹MarkII(12cm角×1、サイドフロー)3,500円前後
合計金額20万5,500円前後

 マザーボードは、チップセットに「AMD B550」を採用するMini-ITX対応モデルの中でも比較的低価格な、GIGABYTEの「B550I AORUS PRO AX(rev.1.0)」を使った。8フェーズのデジタル電源回路を搭載し、高性能なCPUも安定して動作する。PCI Express 4.0対応のM.2スロットや、USB 3.1(3.2 Gen 2)対応のType-Cポートなど、インターフェイスも充実している。

GIGABYTEの「B550I AORUS PRO AX(rev.1.0)」。Wi-Fi 6対応の無線LAN機能を搭載し、ワイヤレスでインターネットに接続できる

 ビデオカードはGeForce RTX 3060 Tiを搭載するMSIの「GeForce RTX 3060 Ti VENTUS 2X 8G OCV1 LHR」を選んだ。冷却性能に優れる「トルクスファン 3.0」を搭載し、GPUをしっかりと冷却できる。今回の予算感では、これより性能の高いGPUを搭載するビデオカードを選ぶのは非常に難しく、事実上このあたりが限界だ。

MSIのビデオカード「GeForce RTX 3060 Ti VENTUS 2X 8G OCV1 LHR」。長さは23.5cmなので、NR200Pには問題なく組み込める

 CPUクーラーはミドルレンジ向けでは定評のあるサイズの「虎徹MarkII」、電源ユニットはCooler MasterのSFX対応モデル「V SFX Gold 650W」を組み合わせた。Ryzen 5 5600Xなら虎徹MarkIIでも十分冷やせるし、全体的な消費電力は650W電源でまかなえる範囲なのでこちらも問題ない。

 NR200Pは、側板だけではなく天板や前面パネル、底面も外してフレームだけにできる。そのため、各部にパーツを固定したり、ケーブルを挿して整理したりといった作業を様々な方向から行なえるため、パーツの組み込み作業はラクに行なえた。

 なおNR200Pには12cm角ファンが2基付属しており、通常はこれらを天板に組み込む。ただ今回の作例では、虎徹MarkIIのファン固定用クリップが背面に近い12cm角ファンに干渉してしまうため、組み込む12cm角ファンは1基だけにした。後述する通り、CPU温度やGPU温度は十分低く、ファンを1基外しても問題ない状態だった。

CPUクーラーに近い部分には、ケースファンは組み込めない

【Intelの作例】ゴールドレコメンドを獲得したミドルタワーケースで作る

 組み合わせたPCケースは、Lian Liの「LANCOOL 205 MESH」。前面に14cm角ファンを2基、背面に12cm角ファンを1基備え、エアフローに優れるATX対応モデルだ。その冷却性能と機能性から、DOS/V POWER REPORT 2022年冬号の「PCパーツ100選」でゴールドレコメンドを獲得している優れたPCケースである。

【表2】Intel環境の構成パーツ
カテゴリ製品名実売価格(※執筆時点)
CPU Core i5-12600K(10コア16スレッド)4万2,000円前後
マザーボード GIGABYTE Z690 UD DDR4(rev.1.0)(Intel Z690)2万8,000円前後
メモリMicron Crucial CT2K8G4DFS832A(DDR4-3200 SDRAM 8GB×2)1万円前後
ビデオカード ASUS DUAL-RX6600XT-O8G(Radeon RX 6600 XT)7万2,000円前後
SSD Micron Crucial P5 CT1000P5SSD8JP(1TB、PCI Express 3.0)1万5,000円前後
PCケース Lian Li LANCOOL 205 MESH(Extended ATX)1万1,000円前後
電源ユニット Corsair RM750x 2021 CP-9020234-JP(750W、80PLUS Gold)1万4,000円前後
CPUクーラー サイズ 風魔 弐(12cm角×2、サイドフロー)
SCMK-1700(LGA1700マウンティングキット)
8,000円前後
合計金額20万円前後

 Z690搭載のマザーボードとしては、GIGABYTEの「Z690 UD DDR4(rev.1.0)」を選んだ。入手性に優れ、低価格なDDR4メモリに対応したATX対応マザーボードである。Z690搭載マザーボードとしては低価格ながら、16+1+2フェーズとかなり充実の電源回路を備えている。

GIGABYTEの「Z690 UD DDR4(rev.1.0)」は、豪華な電源回路やヒートシンクを備えた高性能なマザーボード

 ビデオカードはASUSの「DUAL-RX6600XT-O8G」。Radeon RX 6600 XTをGPUとして搭載するミドルレンジのビデオカードだ。同じシステム上で比較すると、GeForce RTX 3060 Tiカードには若干劣る場面がある。とは言え、今回の予算を考えると、やはりこれより上のグレードは選びにくい。

ASUSの「DUAL-RX6600XT-O8G」は、直進性の高い2基のファンを備えて冷却性能を高めたビデオカードだ

 電源ユニットは信頼性のあるCorsairの「RM750x 2021」、CPUクーラーは2基の12cm角ファンを備えるサイズの「風魔 弐」を組み合わせた。またZ690 UD DDR4(rev.1.0)のCPUソケットはLGA1700で、従来のCPUソケットとは固定用の穴の位置が異なる。そのためサイズのLGA1700対応マウンティングキット「SCMK-1700」も追加した。

 消費電力や発熱が大きな第12世代Core iシリーズを利用する場合、電源ユニットやCPUクーラーはそれなりに品質の高い物でないと安定動作に期待できない。またCPUクーラー用の穴の位置も変更されているため、CPUクーラーはLGA1700対応モデルであることをよく確認しておく必要がある。

 LANCOOL 205 MESHは一般的なサイズ感のミドルタワーPCケースなので、組み立て作業で特に難しいと感じる場面はないだろう。天板付近のスペースは広く、風魔 弐を付けた状態でもそれなりにスペースは確保しており、EPS12V電源ケーブルの抜き差しに困ることはない。

広い空間でゆったりと組み込み作業が行なえる

【ベンチマーク】総合性能では優れた性能を見せるIntel環境

 ここからは、それぞれの作例でいくつかのベンチマークテストを実行し、その結果を比較してみよう。

システム系ベンチマーク

 まずは一般的によく使われるアプリを実行してその性能を検証できる「PCMark 10」の結果だ。

PCMark10 Extended

 総合Scoreでは、微差ながらIntelの結果がAMDを上回った。個別のScoreでは、CPUの強さが反映されるEssential、Productivity、Digital Content CreationでIntelの作例が勝利し、ビデオカードの影響が強いGamingではAMDの作例が勝利した。

3D系ベンチマーク

 3D描画性能の検証では、標準的なベンチマークテスト「3DMark」のほかに、実際のゲームでの挙動を検証するため「ファイナルファンタジーXIV:暁月のフィナーレ ベンチマーク」と、ユービーアイソフトの「ウォッチドッグス レギオン」のベンチマークモードで描画性能を検証した。

 ファイナルファンタジーXIV:暁月のフィナーレ ベンチマークのグラフィックス設定は「最高品質」と「標準品質(デスクトップPC)、ウォッチドッグス レギオンは「最高」で計測した。解像度はどちらも1,920×1,080ドットのフルHDを選択している。

3DMark
ファイナルファンタジーXIV:暁月のフィナーレ ベンチマーク
ウオッチドッグス レギオン

 AMDの作例では、GeForce RTX 3060 Ti搭載のビデオカードを利用する。Intelの作例に組み合わせたAMD Radeon RX 6600 XT搭載カードと比べると、性能面では若干の優位性があるため、3D描画性能のテストではAMDの作例の方が優れた結果を示した。

エンコード速度

 その一方で、純粋なCPU性能を反映しやすい動画のエンコードテストでは、Intelの作例が圧倒的な強さを見せた。

TMPGEnc Video Mastering Works 7

 TMPGEnc Video Mastering Works 7のH.264/AVC形式でのエンコードでは、AMDの作例に比べて約70%、H.265/HEVC形式でのエンコードでも約77%の時間で処理を終えており、非常に大きな差が付いた。CPU性能だけで言えば、Intelの作例で選択したCore i5-12600Kの方が優れていると言えそうだ。

CPU温度

 CPU温度と消費電力はアイドル時と、「OCCT 10.0.5」の「POWER SUPPLY」テストを10分間実行した時の最高値を高負荷時と規定して比較した。

各パーツの温度

 CPU温度は、Intelの作例の方が高い。CPUクーラーはIntelの作例の方が高性能なものを組み合わせていることを考えると、Ryzen 5 5600XよりもCore i5-12600Kの方が発熱はかなり大きいことが分かる。

 ビデオカードの温度は、Intelの作例に組み込んだDUAL-RX6600XT-O8Gの方が低くなった。PCパーツの冷却性能は、搭載するCPUクーラーやGPUクーラーだけではなく、PCケースの内部状況や構造、ファンの数によっても大きく変わってくる。

 GeForce RTX 3060 Ti VENTUS 2X 8G OCV1 LHRの温度が高くなったのは、内部に余裕がない小型ケースに組み込んでいることを考えると仕方のない側面もある。しかしほぼ近い性能ながらもDUAL-RX6600XT-O8GのGPU温度はかなり低くなったことは、優位点の1つとして考えてよい。ゲームもプレイできる小型PCには、もってこいのビデオカードといえるだろう。

消費電力

 システム全体の消費電力については、アイドル時はIntelの作例が低いという結果になった。一方でCPUやビデオカードをフルに利用する状況では、AMDの作例の方が低い。

 OCCT 10.0.5を実行中の状況を確認してみると、Ryzen 5 5600Xの消費電力は概ね76W前後を行き来している。一方でCore i5-12600Kは、150Wに近い状態を維持し続けていた。CPU温度の違いは、こうした消費電力の違いを反映していると考えていいだろう。

システム全体の消費電力

 同じくOCCT 10.0.5を実行中のGPUが消費する電力を見ると、AMD環境のGeForce RTX 3060 Tiが200W前後で、Intel環境のRadeon RX 6600 XTが135W前後だった。こうした違いも、GPU温度の差を考えると妥当なところだ。また性能面では大きな違いがないにも関わらず、AMD Radeon RX 6600 XTの消費電力が65W前後も低い結果を示したことには、ちょっと驚いた。

 また今回はAMDの作例には650Wの電源ユニットを組み合わせ、Intelの作例には750Wの電源ユニットを組み合わせた。結果としてはどちらも電源ユニットの定格出力の範囲内で収まっており、安心して利用できることが分かる。

両者ともに拮抗状態、Intelの低価格モデル作例にも注目

 性能面の検証結果から考えると、20万円台という枠内で考えた作例では概ねIntelの作例が優位、という結果となった。ただし、その性能差はさほど大きくない。また各部の温度や消費電力では、AMDの作例の方が明らかに優位であり、どちらの作例でも優劣が付けがたい。

 第11世代Core iシリーズの頃は、性能面でもAMDの第4世代Ryzenシリーズに大きな差を開けられていたことを考えると、Intelの巻き返しが激しくなってきたことを感じさせる結果となった。

 ちなみに冒頭でも紹介した通り、Intelは1月5日にローエンドからミドルレンジの新CPUと、より低価格なマザーボード向けのチップセット「Intel H670/B660/H610」を発表した。今回設定した20万円台という予算で考える場合には、こうした低価格なCPUやマザーボードを選択するメリットは大きい。

 そこで次回は、Core i5-12400やIntel B660を搭載する低価格なマザーボードを利用し、スタンダードなPCを作ろうと思う。CPUやマザーボードのコストを削ることで生まれる予算の枠を、ビデオカードにつぎ込むことで、全体のバランスはどうなるのだろうか。今回の作例と比べた時の性能差なども検証する予定だ。