2026年5月18日 19:00
徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所/フォトニクス健康フロンティア研究院の時実悠講師・岸川博紀准教授・久世直也教授・安井武史教授、徳島大学大学院創成科学研究科の菊原拓海大学院生、徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所の永妻忠夫客員教授らと、岐阜大学工学部の久武信太郎教授の研究グループは、安定かつ高速な無線通信実現のために、マイクロ光コム駆動型テラヘルツ通信システムを開発しました。
<ポイント>
● 従来の電子技術では350 GHz超の高周波信号生成が困難であり、6Gに向けた超高速無線通信の実現には新たな手法が求められていた。
● 光ファイバー接続マイクロ光コムを用いたテラヘルツ通信により、560 GHz帯で単一チャネル112 Gbpsの無線伝送を実証した。
● 本成果により、6Gにおける超高速モバイル・バックホール通信や光・無線融合ネットワークの実現に向けた技術基盤の確立が期待される。
<報道概要>
移動通信は、無線キャリア周波数を高周波化することにより、高速・大容量化を進めてきました。2030年代にサービス開始が見込まれる次世代移動通信(6G)(注1)では、300 GHz以上のテラヘルツ波の利用が期待されていますが、350 GHzを超える領域では、従来の電子技術による信号生成の限界や位相雑音の増大により、安定かつ高速な無線通信の実現が困難とされていました。
徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所/フォトニクス健康フロンティア研究院の時実悠講師・岸川博紀准教授・久世直也教授・安井武史教授、徳島大学大学院創成科学研究科の菊原拓海大学院生、徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所の永妻忠夫客員教授らと、岐阜大学工学部の久武信太郎教授の研究グループは、これらの課題を解決するため、光ファイバー接続マイクロ光コム(注2)を用いたテラヘルツ波生成と多値変調技術を組み合わせたマイクロ光コム駆動型テラヘルツ通信システムを開発しました(図1)。本研究では、マイクロ光コムの高安定な周波数特性を活用して低位相雑音のテラヘルツキャリアを生成し、560 GHz帯において単一チャネル112Gbpsの無線伝送を実証しました。
これにより、従来の数十Gbps級を超える高速化を達成しました。
本成果は、420GHzを超える領域における100Gbps級無線通信の実現可能性を初めて示したものであり、6Gにおける超高速バックホール通信や光無線融合ネットワークの実現に向けた重要な技術基盤となることが期待されます。
詳細はこちらをご覧ください。
徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所 安井研究室
YouTubeチャンネルによる説明動画
https://youtu.be/2g-7tL7qDVM
図1 マイクロ光コム駆動型テラヘルツ通信の概念図
<研究の背景と経緯>
移動通信は、無線キャリア周波数を高周波化することにより、高速・大容量化を実現してきました。第5世代(5G)通信ではミリ波帯が利用されていますが、今後の通信需要のさらなる増大に対応するため、2030年代の実用化が見込まれる次世代移動通信(6G)では、300 GHz以上のテラヘルツ波の利用が期待されています。特に350 GHzを超える領域は、広帯域を活用した超高速通信が可能な一方で、従来の電子技術による高周波信号生成には限界があり、出力の低下や位相雑音の増大といった課題が顕在化しています。そのため、安定かつ高品質な信号を生成できる新たな技術の確立が求められてきました。
このような背景のもと、本研究グループは電子技術に代わる手法として光技術に着目し、光周波数コムの一種であるマイクロ光コムを用いたテラヘルツ信号生成および無線通信への応用、すなわちマイクロ光コム駆動型テラヘルツ通信(Photonic 6G(注3))に関する研究を進めてきました。マイクロ光コムは、高い周波数安定性と低位相雑音特性を有し、その広い周波数間隔を活かして、テラヘルツ帯における高品質な無線キャリア生成を可能にする有望な技術として注目されています。しかし、350 GHzを超える領域では、安定な高周波信号の生成と高次変調による高速データ伝送を両立することが難しく、実用的な無線通信の実現には至っていませんでした。
本研究は、このような背景のもと、350 GHzを超える領域における超高速無線通信の実現に向けた技術的課題を解決し、100Gbps級通信の実証を目指したものです。
<研究の内容と成果>
本研究では、まず安定かつ小型なテラヘルツ信号源の実現に向けて、光ファイバー接続型の微小光共振器を用いたマイクロ光コムデバイスを開発しました。窒化シリコン製の微小光共振器に対し、光ファイバーを光学接着剤により直接接合する構造を採用することで、従来必要とされていた光学顕微鏡観測や多軸ステージによる精密な光学調整を不要とし、装置の大幅な小型化を実現しました(図2)。さらに、この構成により励起光カップリング効率の時間安定性を大幅に向上させ、高出力励起光の利用を可能にしました。その結果、長時間にわたる安定動作が可能となり、テラヘルツ帯における高安定・低雑音な信号生成の基盤技術を確立しました。
図2 光ファイバー接続微小光共振器を用いたマイクロ光コム装置
次に、この光ファイバー接続マイクロ光コムを用いたテラヘルツ無線通信システムを構築しました。マイクロ光コムの光注入同期により高安定・高信号対雑音比の2波長光キャリアを生成し、光領域で多値変調(QPSKおよび16QAM)を付与しました。その後、フォトミキシングにより560 GHzの多値変調テラヘルツ波を生成し、変調信号を無線搬送しました。受信側ではサブハーモニックミキサーを用いたヘテロダイン検出により信号を復調しました。その結果、QPSK変調において84 Gbps、16QAM変調において112Gbpsの無線伝送を達成しました(図3)。これは、420GHz以上の未踏周波数帯において、初めて100Gbps級無線通信を実証した成果です。
図3 テラヘルツ無線通信の実験結果(100 Gbps級伝送の実証)
<今後の展開>
本研究により、350 GHzを超えるテラヘルツ帯において100Gbps級無線通信が実現可能であることが示され、6Gにおける超高速モバイル・バックホール通信や光・無線融合ネットワークの実現に向けた重要な技術基盤が確立されました。今後は、マイクロ光コムのさらなる低位相雑音化により信号品質を向上させることで、より高次の変調方式を適用した一層の高速・大容量通信の実現が期待されます。また、実用的な通信距離の拡張に向けては、大気吸収の影響が小さい周波数帯の選択に加え、テラヘルツ波の高出力化や高利得アンテナの導入が有効です。これらの技術を組み合わせることで、テラヘルツ無線通信の実用化が加速し、次世代通信インフラへの応用が期待されます。
【用語解説】
(注1)次世代移動通信(6G)
2030年代にサービス開始が予定されている次世代の移動通信(第6世代移動通信、6G)では、無線キャリアとして300 GHz以上のテラヘルツ波が利用される予定です。6Gでは、「超高速・大容量通信」「超低遅延」「超カバレッジ拡張」「超高信頼通信」「超低消費電力・低コスト化」「超多接続&センシング」といった条件が求められています。
(注2)光ファイバー接続マイクロ光コム
マイクロ光コムは、複数の光周波数モード列が櫛の歯状に等間隔で立ち並んだ超離散マルチスペクトル構造を有し、電気的手法よりも桁違いに高品質な超高周波光電気周波数信号の生成が可能です。更に、半導体プロセスにより一括大量生産可能なため、将来的には超小型・簡素・低価格化が期待できます。
本研究で用いた光ファイバー接続型では、光ファイバーを微小光共振器に直接接合することで高い結合安定性と再現性を実現し、従来必要とされていた精密な光学調整を不要とするなど、実用化に向けた大きな利点を有します。
(注3)Photonic 6G
『Photonic 6G』は徳島大学の登録商標です(登録第6537005号)。
【謝辞】
本研究は、上記の徳島大学と岐阜大学に加え、名古屋工業大学の菅野敦史教授、山梨大学の岡村康弘特任准教授、情報通信研究機構の諸橋功主任研究員、徳島県立工業技術センターの牧本宜大研究員による協力の下行われました。
本研究開発は、総務省の「電波資源拡大のための研究開発:無線・光相互変換による超高周波数帯大容量通信技術に関する研究開発(JPJ000254)」および持続可能な電波有効利用のための基盤技術研究開発事業(FORWARD)「次世代移動通信のための光コム駆動型テラヘルツ基準周波数信号源の研究開発(JPMI240910001)」の委託を受けたものです。また、内閣府・地方大学・地域産業創生交付金事業徳島県「次世代“光”創出・応用による産業振興・若者雇用創出計画(次世代ひかりトクシマ)」、日本学術振興会(JSPS)による地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)(JPJS00420240022)、および徳島県地方大学・地域産業創生事業補助金の支援を受けて実施されました。
【論文情報】
掲載誌:Communications Engineering
論文名:Beyond 350 GHz: Single-channel 112 Gbps photonic wireless transmission at 560 GHz using soliton microcombs
著者名:Yu Tokizane, Hiroki Kishikawa, Takumi Kikuhara, Miezel Talara, Yoshihiro Makimoto, Kodai Yamaji, Yasuhiro Okamura, Kenji Nishimoto, Eiji Hase, Isao Morohashi, Atsushi Kanno, Shintaro Hisatake, Naoya Kuse, Tadao Nagatsuma, and Takeshi Yasui
DOI番号:10.1038/s44172-026-00659-8
【関連特許】
関連特許3件出願済






















