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地盤沈下と液状化のリアルタイム被害予測システムの開発

芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田純)工学部・稲積真哉教授(地盤工学研究室)らの研究チームは、土地の地盤強度を予測し、地震による地盤沈下と液状化のリアルタイム被害予測システムを開発しました。これにより、構造物の建設に適した地盤を持つエリアの特定が可能となり、地震発生時の構造物倒壊のリスク抑制に繋がります。
これまで地震の影響を受けやすい土地の調査については、特定の地域における限定的なサンプリングにとどまっていました。本研究では、東京都世田谷区内433地点の地盤データを収集し、緯経度や標高などの地理的データと統合することで、広範囲における支持層※1の分布を示す3次元マップの作成に成功しました。これにより、開発用地やインフラ、公共施設の設計・配置を最適化できるほか、リアルタイムで複数地点の土地の状態を予測できるため、潜在的な危険をいち早く特定する早期警報システムとしての機能も期待されます。
※この研究成果は、2024年5月6日付の「Smart Cities」誌に掲載されています。

■ポイント
従来は困難であった、広範囲における支持層の分布を示す3次元マップの作成に成功
土地の地盤強度を予測することで、構造物の建設に最適なエリアの特定が可能となり、地震発生時の構造物倒壊のリスクを抑制
リアルタイムで複数地点の土地の状態を予測でき、潜在的な危険を知らせる早期警報システムとしても期待

画像1:
図. 支持層の深度分布を示す3次元マップの作成例

■研究の背景
地震による地盤変動が生じると、土地の地盤は沈下や液状化によって弱体化していきます。そして、地盤が構造物の重量を支えきれなくなることで、倒壊を引き起こすリスクが発生します。このような地震の影響を受けやすい土地の調査は、これまで特定の地域における限定的なサンプリングにとどまっており、広範囲の場所で土壌の状態を評価することは困難とされてきました。

■研究の概要
標準貫入試験※2とミニラムサウンディング試験※3という、土の密度と基礎の必要条件を評価する2つの方法を用いて、東京都世田谷区内の433地点の地盤データを収集しました。これらのデータにクリギング法※4と呼ばれる統計手法を適用し、緯経度などの地理的座標に基づいて支持層の厚さと深度を予測しました。これにより、世田谷区の広範囲における支持層の分布を示す3次元マップを作成することに成功しました。さらに、予測精度を向上させるためバギング法※5を採用し、地盤データに加えて標高などの地理的データを含めました。
土層の支持力※6と厚さは、地盤が建物やその他の重量構造物を支える能力があるかを示す指標の一つとなります。今回作成した支持力特性を示す3次元マップは、構造物が安定した基礎の上に建設されているかどうかを判断でき、地盤変動が発生した際の倒壊リスクを最小限に抑えることができます。さらに、本モデルは地中の水分や地盤の動きなどのパラメーターを監視するセンサーから得られるリアルタイムデータと統合できます。これにより、土壌状態の変化を継続的に監視することが可能となり、土壌の不安定性など健全性を損なう潜在的リスクを特定し、開発用地やインフラ、公共施設の設計・配置を最適化できます。

■今後の展望
当システムは、都市計画における災害リスクの軽減を促進し、国際連合が提言する「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標11「住み続けられるまちづくりを」に貢献するものと言えます。目標11では、都市をより包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にすることが目指され、とりわけ日本のような地震多発地域においては、柔軟な都市計画の実行が求められます。本研究は、国や自治体が新たな都市計画を考える際や、建設業者が事前のリスク評価を行う際に役立てられ、将来的には、個人が携帯電話等でリアルタイムに地理データや警報を確認できるシステムへの活用にも期待されます。

■語句解説
※1 支持層
構造物が不均一に沈下する(不同沈下)などの有害な変形が起きず、構造物を支えることに適した地盤。
※2 標準貫入試験
地盤を打撃することで、その強度を調べる試験。ボーリング調査の一種で、地盤の硬さ・軟らかさのほか、試料の採取、地盤の締まり具合などが判断できる。所定の試験深度まで試験孔を掘削し、63.5kgのハンマー(打撃装置)を760mmの高さから自由落下させ、サンプラーを試験孔底から150mm貫入させる。予備打ち後、再度、ハンマーを760mmの高さから自由落下させ、サンプラーを貫入させ、300mmの貫入に必要な打撃回数から地盤の強さを表す値(N値)を求める。
※3 ミニラムサウンディング試験
土中に金属棒を差し込み、その抵抗力を測定する動的貫入試験。重さ30kgのハンマーを35cmの高さから自動落下させ、直径36.6mmのコーンを地中に打ち込み、20cm貫入した時の打撃回数(Nmd値)とロッドを回転させるために必要なトルク(Mv)からN値を求める。
※4 クリギング法
散在するデータポイントから、より正確な推定値を生成するために用いられる手法。データ間の空間的な相関を考慮することで、単なる平均値を超えた、現象の空間的な振る舞いをより詳細に捉えることが可能となる。特に、地質学や土壌学、環境 科学などの分野で広く利用される手法。
※5 バギング法
複数のモデルからの予測結果を組み合わせて、より精度の高い結果を得る「アンサンブル学習法」のうちの1つ。モデルを並列に組み合わせて、多数決をとる手法。
※6 支持力
地盤が支えることのできる力の大きさ。地盤のN値が大きいほど、大きな値となる。

■論文情報
著者 :芝浦工業大学大学院理工学研究科 博士後期課程 Yuxin Cong
芝浦工業大学大学院理工学研究科 教授 稲積 真哉
論文名:Safeguarding Urban Infrastructure from Subsidence and Liquefaction Risks
掲載誌:Smart Cities
DOI :10.3390/smartcities7030046

■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
理工系大学として日本屈指の学生海外派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の大学です。東京都(豊洲)と埼玉県(大宮)に2つのキャンパス、4学部1研究科を有し、約9,500人の学生と約300人の専任教員が所属。2024年には工学部が学科制から課程制に移行。2025年にデザイン工学部、2026年にはシステム理工学部で教育体制を再編し、新しい理工学教育のあり方を追求していきます。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。

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